縫剣のセネカ

藤花スイ

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第18章:樹龍の愛し子編(2) 龍祀の儀

第259話:ぺっちゃん

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 ドルシーラ製の魔具の訓練が終わった後、セネカ達は昼食をとることになった。各々予定があったので、手の空いている者だけで食堂に来た。この辺りでは人気のお店らしい。

 同じ席にいるのはマイオル、ニーナ、ファビウス、ガイア、モフだ。いまは注文した料理を待っているところだけれど、突然マイオルがニーナを詰め出した。

「さて、それじゃあ、容疑者から話を聞きましょうか」

「……何の話?」

 ニーナはきょとんとした顔になった。マイオルはニヤついているので悪い空気ではない。

「ニーナ、あなた争陣の儀の勝負がついた後、プルケルと抱き合っていたわよね? あれはどういうことだったのよ」

 マイオルは立ち上がり、ビシッとニーナを指した。そういえばと思い、セネカもニーナをじっと見る。

 ファビウスは「あぁ……」と声を出したけれど、すぐにそっぽを向いた。同じ時にファビウスとプラウティアが抱き合っていたことも勿論覚えているけれど、そちらの事情はだいたい分かっている。

 ニーナはマイオルの話を聞いてからポンと手を叩いた。

「言ってなかったけれど恋人になった」

「えぇっ?」

 マイオルの声が店内に響いた。チラッとこちらを見た客もいたけれど、あまり気に留められなかった。大衆向けのお店なので大きな声が出ることもあるのかもしれない。

「プルケルってプラウティアが好きだったんじゃないの? というかいつの間に?」

「寝取った」

「ニーナ、違うでしょ。その言葉の意味を間違って覚えていたんだから」

 ニーナの言葉に被せるようにファビウスが言った。ニーナは慌てて口を塞いだ。

「私が聞いたところによればプルケルはプラウティアを諦めていたらしいぞ」

 今度はガイアが口を開いた。それをファビウスに言わせる訳にはいかないと判断したのだろう。話が続く。

「まぁ、みんなもわかっている通り、プラウティアはファビウスが好きなようだったからな。プラウティアは一時期『羅針盤』にいたし、色々と思うことも出てくるだろう」

「なるほどね。それで傷付いたプルケルをニーナが……ということだったのね!」

 マイオルが楽しそうにまとめた。ちなみにマイオルは人の恋愛の話を聞くのが大好きだが、自分の話をするのは苦手だ。すぐに照れて話を濁す。

「それなりに間が空いてからだったと思うけどね」

 ファビウスが補足した。当のニーナは、自分から話が逸れたと思ったのか注文した料理が来ないか店内を何度も見回している。

「でも意外だったわ。プラウティアのことはあったけれど、プルケルってあんまり恋愛に興味なさそうだし、ニーナとそこまで仲良くなっていたとは思わなかったから」

 話に戻ってきたニーナが答える。

「顔が良くて強くて将来有望そうな人を探していたらプルケルがいた」

「えっ?」

 マイオルが固まった。

「ニーナって真っ直ぐだよね」

「それほどでも」

 ニーナの正直な言葉に、黙って聞いていたセネカもつい口を出してしまった。

「ニーナがプルケルを押しに押したんだよ。僕も会ったことは無いんだけど、ニーナには仲の良い先輩冒険者が居てね。ニーナは『ぺっちゃん』って呼んでるんだけど、その人に『女から押されまくって嫌な気持ちになる男はいない』って助言を受けたらしいよ……」

 ファビウスはちょっと呆れた様子だ。確かに身も蓋もないというか、随分とざっくばらんだ。

「なかなか豪快な先輩のようね……。女性なのよね?」

 ニーナはまた店内を見回し始めている。

「お待たせいたしました! こちらひよこ豆と羊の煮込みと、羊肉の串焼きです」

「来た来た!」

 この店は羊肉が美味しいと聞いている。煮込みと言っているが、肉がたくさん入ったスープに見える。セネカは羊肉が好物なので嬉しい気持ちになった。

「この店もぺっちゃんが教えてくれたらしいよ。安くて美味しい店をよく知っていて間違いがないんだ」

「じゃあ、期待できるね」

「とりあえず食べようよ!」

 ニーナの号令にセネカは頷いた。汁は少し赤くて、香草の良い香りがする。底からすくうと肉だけではなく豆もたくさん入っていることが分かった。

「おいしーい!」

 ニーナの喜ぶ声が聞こえてくる。セネカは肉を取って口に運んだ。

 羊肉の旨みが口に広がる。味付けはあっさりだけれど、肉の香りは濃厚だ。ちょっと羊くさい方が好きなセネカにとってはたまらない。

 汁にはおそらくワインが入っていて、野菜の優しい甘味を引き立てている。少しだけ感じる酸味も食欲をそそる。この店は正解だと確信する。汁物が好みに合う店は間違いない。

 セネカは匙を置いて、串焼きに目を向けた。こんがりと焼けた肉が串に刺さり、多めにスパイスが振り掛けられている。

 ニーナやマイオルはすでに串を手に取っていて、夢中でかぶりついている。美味しいに違いない。そう思ってセネカが串に手を伸ばした時、意外な声が聞こえて来た。

「おっ、お前らも来ていたのか。この店の羊は最高だからなぁ!」

 何者だと思って見てみると、立っていたのはペリパトスだった。

「ペリパトス様?」

「おう! この前は良い勝負だったな。あれからまだ日が浅いが調子は戻って来たか?」

 セネカは頷き、何となく煮込みの器を遠ざけた。そんなことはしないだろうが何故か取られる気がしたのだ。

「そうか。まずはうまいもんを食って休むことだな。次の戦いがすぐにやってくる」

「はい。そうします」

 ペリパトスは串焼きをじっと眺めてから「今日は串焼きだな」と言った。取られる心配はなさそうだ。

「おい、ニーナ。飯が終わったら俺も合流する。稽古をつけてやるから覚悟しておけ」

 ニーナは夢中になって食べていた串を皿に置いた。

「いいの?」

「……大物と戦うつもりなんだろ?」

 ニーナは神妙な様子で「うん」と言った。

「だったら少しでも生き残る確率を上げておいた方が良いだろ? 拠点で待っていろ」

「分かった。ありがとうございます」

「そういうのは良い。まずはしっかり飯を食うんだな」

 ペリパトスは片手を上げて店の奥に行こうとした。

「またね、ぺっち……ペリパトス様」

「おい」

 ニーナを見ると目を逸らして口笛を吹いていた。誤魔化そうとしているのが分かりやすすぎる。

「まぁ、ここにいる奴らなら別に良いか。だが気をつけろよ。それじゃあな」

 今度こそペリパトスは立ち去っていった。

「あぁ! 肉が冷めちゃうよ。ほら、みんな食べて食べて!」

 ニーナが必死に取り繕おうとしている。まぁ追及は後でもできるのでセネカは串焼きを手に取った。

「……ぺっちゃんは男だったのね」

「見事に騙されたよ」

 マイオルとファビウスは堪えられなかったのか一言だけ発してから串焼きを手に取った。

「みんな、このパンは煮込みにすごく合うよ!」

「どうやら串焼きにはいくつか種類があるようだ。あっちにいる人が食べているのは違うように見える」

 モフとガイアは食事に話を戻そうとしている。

「……取られなくて良かった」

「ペリパトス様が大衆食堂の食事を取るわけないわよ!」

 マイオルには突っ込まれたけれど、セネカはとりあえず串焼きを追加注文した。

 そして、ニーナから色々と話を聞いた後でペリパトスが食事代を払ってくれたことを知り、深く感謝した。
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