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第24話:布石
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フェランドレン帝国と神聖シオネル王国の戦争から半年、僕はピネン王国の国王に即位することが決まった。
戦争の終結を確認してから王都に帰ると、前国王陛下から打診を受けたのだ。エレノアの弟でもある第一王子も僕の即位に賛成しており、補佐官として支えたいと言っていた。
受け入れると僕が伝えた瞬間、あっという間に話が進み、あれよあれよという間に僕は次期国王になることが決まった。驚いたことに反対する人は全く居なかったのだと言う。
戦争への配慮と諸々の準備のために僕の戴冠式はさらに半年後に行われることになった。
実質的な権力はすでに僕に委譲されているけれど正式に王になるのは戴冠式を行なってからだ。
僕とエレノアの結婚も同時に決まった。
正式な公表は僕の戴冠式の時に行われるらしいが、すでに僕たちは夫婦となっている。
僕がエレノアに嫁ぐことで王となるのではなく、次期国王である僕に現王女のエレノアが嫁ぐことになるらしい。これは新しい王朝、スメラギ王朝の時代に入るということを意味するらしいが、僕は何にもわからないので現国王やエレノアの意向に従っている。
そして僕はソフィア、ペトロニーア、ルシアンヌを側室として迎えることにした。正直エレノアとソフィア以外と結婚するつもりはなかったけれど、途中で考えを大きく変えた。
その理由は遺伝だ。いまこの世界でカレー依存症に罹っていないのは転移者である僕とキョウヤだけの可能性がある。だが僕らの子供はどうだろうか。
もしかしたら僕の子供は依存症にならない体質の可能性がある。そうすれば僕が死んだ後にカレー耐性は広がってゆき、いずれ人類はカレーを克服することになる。
その検証と布石のために僕は四人の女性と契りを結ぶことに決めた。毎晩各人の寝床をまわっているので睡眠時間が減ってきている。
◆
帰国してからは流通させるカレーに中毒成分を混ぜることにしている。未処理の場合の十分の一ほどの含有量だが効果はあり、発作を起こす人の数が劇的に減った。
しかし問題は解決していない。
僕は目の前にいるエレノアをスキルで【鑑定】した。
-----------------------------------------------------
名 前:エレノア・ルイーズ・シュヴァルツブルク
称 号:ピネン王国第一王女、大陸一の才女
状 態:不調(倦怠感)、妊娠
・カレー依存症(重度 2,676)
スキル:叡智(Lv.7)、計略(Lv.7)、光魔法(Lv.4)
-----------------------------------------------------
カレーを再摂取することによって症状は一気に進行した。いまや世界中の人が重度の依存症になっている。
しかしそれに反して人々は幸せそうだ。「前よりもカレーが美味しい」、「美味しいご飯を食べられて嬉しい」という声が上がっている。
仮初の世界で仮初の喜びを感じていることに誰も違和感を持っていない。そのことに僕は気づいている。
だけどその構造は入れ子になっていて、神様みたいな存在の前では僕も仮初の世界に生きていることになっているのかもしれない。
「こんなことは考えても仕方がないね」
声に出すとエレノアが反応する。
「どうしたの? また考え事?」
「ううん。キョウヤと遊んだのは嬉しかったなぁと思ってさ」
何となくごまかしてしまったけれどこれは本心でもある。
「同じ転移者同士、引かれ合うものがあるのかしら?」
「そうだね。でも久しぶりに同郷の人に会えた喜びってよくあることだろ? それとあまり変わらないよ。場所が特殊なだけでさ」
「そういうもの? 私はずっと王都にいるからあまり分からないわね」
「他人なんだけど、他人の気がしないってことなのかなぁ。確かにむつかしい感覚だね」
「⋯⋯やっぱりユウトは元の世界に帰りたい?」
エレノアは突然切なそうな顔になった。
普段キリっとしている人がそういう顔をすると落差でドキドキしてしまう。
つい安心させたくなるけれど、こういう時は本心を伝えた方が良いだろう。
「そうだね。帰って家族や友達に会いたいかな。でもそれは一時的だったらだね」
「一時的?」
「うん。だって僕にはエレノア達がいるから。帰省みたいに一時的に故郷には帰りたいけれど、戻ってこれないなら必要ないよ。ここに新しい家族もいるわけだし」
僕はエレノアのお腹を触った。
鑑定によりそこに僕の子供がいることが分かっている。
何度も調べたけれど、カレーに耐性があるかどうかは産まれてからじゃないと分からなさそうだった。
「そんなに不思議かな?」
エレノアのお腹はまだほとんど大きくなっていない。それなのに僕が何度も触るのでエレノアは不思議がっている。
「自分の子供がそこにいるなんてね。神秘的というのか分からないけれど僕は嬉しいんだ」
エレノアはそれを聞いて少し機嫌が良くなった。
全体的に思考力や集中力は落ちているようだけれど、カレーを適度に食べるようになってからは以前よりは冷静な時間が増えている。
◆
元の世界の倫理観だと四人の女性と結婚するというのはおかしい。
強い中毒性のある食品を世界に蔓延させて大金を稼いでいるのもおかしい。
そしてそんな人間が『神の遣い』や『聖人』と崇拝されているのはもっとおかしい。
僕がしていることは元の世界で言えば、麻薬王と同じなのではないだろうか。
そう考えるとしっくりくる。
僕は『悪魔』であり、『悪の王』だ。
そんな僕も親になってしまう。
妻が何人もいて、彼女たちには家族がいる。
国王になれば多くの人々の上に立つことになる。
この世界はディストピアになってしまった。
世界中の人々はカレーに依存し、そのカレーを供給する悪の王を神の遣いだと崇拝している。
カレーを巡って戦争が起きてしまうこともあった。
依存症の症状で人々はカレーを疑うことができない。
思考力を奪われており、中毒成分を摂取しなければイライラするけれど、その現象に気が付くこともできなくなっている。
本当の幸せをこの世界の人々にもたらすことは僕にはできなかった。
けれど人々は仮初の幸福を味わい、日々を平穏に過ごしている。
僕はこの世界を守りたい。
みんなの幸せを守ってあげたい。
だからそれを脅かす者が現れたら——
「徹底的に潰す」
そう誓った。
戦争の終結を確認してから王都に帰ると、前国王陛下から打診を受けたのだ。エレノアの弟でもある第一王子も僕の即位に賛成しており、補佐官として支えたいと言っていた。
受け入れると僕が伝えた瞬間、あっという間に話が進み、あれよあれよという間に僕は次期国王になることが決まった。驚いたことに反対する人は全く居なかったのだと言う。
戦争への配慮と諸々の準備のために僕の戴冠式はさらに半年後に行われることになった。
実質的な権力はすでに僕に委譲されているけれど正式に王になるのは戴冠式を行なってからだ。
僕とエレノアの結婚も同時に決まった。
正式な公表は僕の戴冠式の時に行われるらしいが、すでに僕たちは夫婦となっている。
僕がエレノアに嫁ぐことで王となるのではなく、次期国王である僕に現王女のエレノアが嫁ぐことになるらしい。これは新しい王朝、スメラギ王朝の時代に入るということを意味するらしいが、僕は何にもわからないので現国王やエレノアの意向に従っている。
そして僕はソフィア、ペトロニーア、ルシアンヌを側室として迎えることにした。正直エレノアとソフィア以外と結婚するつもりはなかったけれど、途中で考えを大きく変えた。
その理由は遺伝だ。いまこの世界でカレー依存症に罹っていないのは転移者である僕とキョウヤだけの可能性がある。だが僕らの子供はどうだろうか。
もしかしたら僕の子供は依存症にならない体質の可能性がある。そうすれば僕が死んだ後にカレー耐性は広がってゆき、いずれ人類はカレーを克服することになる。
その検証と布石のために僕は四人の女性と契りを結ぶことに決めた。毎晩各人の寝床をまわっているので睡眠時間が減ってきている。
◆
帰国してからは流通させるカレーに中毒成分を混ぜることにしている。未処理の場合の十分の一ほどの含有量だが効果はあり、発作を起こす人の数が劇的に減った。
しかし問題は解決していない。
僕は目の前にいるエレノアをスキルで【鑑定】した。
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名 前:エレノア・ルイーズ・シュヴァルツブルク
称 号:ピネン王国第一王女、大陸一の才女
状 態:不調(倦怠感)、妊娠
・カレー依存症(重度 2,676)
スキル:叡智(Lv.7)、計略(Lv.7)、光魔法(Lv.4)
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カレーを再摂取することによって症状は一気に進行した。いまや世界中の人が重度の依存症になっている。
しかしそれに反して人々は幸せそうだ。「前よりもカレーが美味しい」、「美味しいご飯を食べられて嬉しい」という声が上がっている。
仮初の世界で仮初の喜びを感じていることに誰も違和感を持っていない。そのことに僕は気づいている。
だけどその構造は入れ子になっていて、神様みたいな存在の前では僕も仮初の世界に生きていることになっているのかもしれない。
「こんなことは考えても仕方がないね」
声に出すとエレノアが反応する。
「どうしたの? また考え事?」
「ううん。キョウヤと遊んだのは嬉しかったなぁと思ってさ」
何となくごまかしてしまったけれどこれは本心でもある。
「同じ転移者同士、引かれ合うものがあるのかしら?」
「そうだね。でも久しぶりに同郷の人に会えた喜びってよくあることだろ? それとあまり変わらないよ。場所が特殊なだけでさ」
「そういうもの? 私はずっと王都にいるからあまり分からないわね」
「他人なんだけど、他人の気がしないってことなのかなぁ。確かにむつかしい感覚だね」
「⋯⋯やっぱりユウトは元の世界に帰りたい?」
エレノアは突然切なそうな顔になった。
普段キリっとしている人がそういう顔をすると落差でドキドキしてしまう。
つい安心させたくなるけれど、こういう時は本心を伝えた方が良いだろう。
「そうだね。帰って家族や友達に会いたいかな。でもそれは一時的だったらだね」
「一時的?」
「うん。だって僕にはエレノア達がいるから。帰省みたいに一時的に故郷には帰りたいけれど、戻ってこれないなら必要ないよ。ここに新しい家族もいるわけだし」
僕はエレノアのお腹を触った。
鑑定によりそこに僕の子供がいることが分かっている。
何度も調べたけれど、カレーに耐性があるかどうかは産まれてからじゃないと分からなさそうだった。
「そんなに不思議かな?」
エレノアのお腹はまだほとんど大きくなっていない。それなのに僕が何度も触るのでエレノアは不思議がっている。
「自分の子供がそこにいるなんてね。神秘的というのか分からないけれど僕は嬉しいんだ」
エレノアはそれを聞いて少し機嫌が良くなった。
全体的に思考力や集中力は落ちているようだけれど、カレーを適度に食べるようになってからは以前よりは冷静な時間が増えている。
◆
元の世界の倫理観だと四人の女性と結婚するというのはおかしい。
強い中毒性のある食品を世界に蔓延させて大金を稼いでいるのもおかしい。
そしてそんな人間が『神の遣い』や『聖人』と崇拝されているのはもっとおかしい。
僕がしていることは元の世界で言えば、麻薬王と同じなのではないだろうか。
そう考えるとしっくりくる。
僕は『悪魔』であり、『悪の王』だ。
そんな僕も親になってしまう。
妻が何人もいて、彼女たちには家族がいる。
国王になれば多くの人々の上に立つことになる。
この世界はディストピアになってしまった。
世界中の人々はカレーに依存し、そのカレーを供給する悪の王を神の遣いだと崇拝している。
カレーを巡って戦争が起きてしまうこともあった。
依存症の症状で人々はカレーを疑うことができない。
思考力を奪われており、中毒成分を摂取しなければイライラするけれど、その現象に気が付くこともできなくなっている。
本当の幸せをこの世界の人々にもたらすことは僕にはできなかった。
けれど人々は仮初の幸福を味わい、日々を平穏に過ごしている。
僕はこの世界を守りたい。
みんなの幸せを守ってあげたい。
だからそれを脅かす者が現れたら——
「徹底的に潰す」
そう誓った。
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