雨時々曇り、そのうち晴れ

朱雀

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ピンクに染まった木々が、青空を彩る。

春風が吹くと、ピンク色はヒラヒラと宙を舞いながら、地面に落ちる。

綺麗。

そう言って立ち止まる。




いつもの私なら。

こんな綺麗な桜並木の下を全速力で駆け抜ける人なんて私くらいだろう。

桜には見向きもせずただ走る。

視界はどこまで行ってもピンク色で彩られて、

その人を捉えた。


ベンチに腰掛け、桜を見上げている。

制服の胸ポケットには紙で出来た花が咲いている。




走るスピードを落とし、

息を整えながら、その人に近づく。





「……先輩。」

見上げたまま。動かない。

「………卒業、おめでとう…ございます。」

「うん。」

まだ、上を見たまま。声だけ届いてる。

沈黙が続く。

言いたいことが沢山あるのに、

心から溢れるだけで、口が開けない。

苦しくなって下を向いた。

「……せん、ぱい……」

やっとでた言葉は、それだけで。

先輩が立ち上がる音が聞こえた。



せっかく会ってくれたのに。

もう、時間が無いのに。

想いを伝える事さえ、私は。



涙が心の中で行き場を失い、

溢れ出す。

一つ、また一つとピンク色の地面に落ちる。






「迎えに来るから」

不意に聞こえた大好きな声。

涙でぐしゃぐしゃの顔を上げると


先輩はいつもの優しい笑顔で、

「日本に帰ってきた時、真っ先に」

私の溢れ出す涙を拭って

「だから、待ってて。」









青い空に飛行機雲が一筋。

私はそれを、

桜舞う約束の場所から眺めていた。
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