でんでんむしが好きな君

ひらどー

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誰だ?

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 新生児期から、オムツを替えるなどの育児を積極的に手伝ってくれた夫だが、子どもと遊ぶようになったのは最近になってからだ。物言わぬ赤子だった頃は、あまり関わろうとしていなかった。幼い子はそれほど得意ではないようだ、と認識していたが、そうではなかった。何も喋らない子どもに、どう対応したらいいのか分からなかったらしい。子どもが喋るようになってから、どんどんと関わるようになってきた。
 子どもと普段から一緒にいるのは、母である私だ。何かを新しくできるようになると、最初に発見することが多いのも私だ。時折、夫の方が先に気づくことがある。「意図的に誤った回答をすることがある」と気づいたのも夫だ。
 夫が、自分を指差しながら子どもに問いかけたらしい。
「誰だ?」
 この頃、子どもは父を「ぱぱ」と呼んでいたので、「ぱぱ」との返答が正しい。夫もその返答を期待して質問した。だが、彼の答えは違った。
「まま」
 初回のこの返事は、後で夫から聞いたものだ。にやにやしながら答えた、わざと言っていた、と夫は話してくれた。
このとき夫は、「パパだぞ」と正しい答えを教えた。だが、「まま」と答える子どもが面白かったらしい。夫は、事あるごとに子どもに「誰だ?」と問うようになった。
 それに対する子どもの返答はまちまちだ。正しく「ぱぱ」と答えることもあれば、やはりにやつきながら「まま」と答えることもある。機嫌が良いときに誤答する傾向があるようだ。自分の父が何を期待して質問しているのか、理解しているように見えた。
 あまりにも同じ質問をするので、最近では夫が「誰だ?」と問いかけても答えてくれない。「分かり切っていることを、どうして何度も訊くのだ」とでも言いたげな表情で一瞥して、視線をおもちゃに戻してしまう。
夫は質問を切り替えて、「誰と花火行ったんだ?」と訊くようになった。これも何度も繰り返して質問をしている。しかし、夏は終わった。近場の花火大会も終了して久しい。子どもは回答したところで再び花火を観られる訳ではない。期待させては申し訳ない。この質問も止めてもらいたいものだ。
この次は一体、どんな質問をするつもりなのだろう。二人のやり取りを見ている母としては少しだけ楽しみにしているところがある。子どもをからかっているつもりの父親と、父親をからかっているつもりの子どもの図は、傍から見ていて面白いものだ。父による質問攻撃はうっとうしそうにも見えるが、もう少しだけ付き合って欲しい。
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