練習用短編1

シロクマ

文字の大きさ
上 下
4 / 11

桜の樹の下で

しおりを挟む
桜瓦小実《さくらがわらこのみ》
この子は他のこと一味、二味違う。
桜色の髪に桜色のつぶらな瞳。
そして桜色の艷やかな唇。
そして笑うと桜色に染まるその頬。
桜の神に愛されていると言われても過言では無いほど桜と縁がある少女だ。
高校に入学して学校生活を過ごす中、     友達と話をしながら頬を桜色に染めて笑う彼女に僕は見惚れた。
それが僕の生涯、最初で最後の恋をした瞬間だった。
自分が彼女に惚れたと自覚してから、学生生活を送る彼女を日々、目で追うようになった。
告白しようか思ったときもあったが、僕は彼女が笑っているのを見ていられれば、ただそれだけで幸せだった。
しかし、運命は残酷だった。
ある日、いつもどおり教室に入るといつもはもう席についているはずの彼女の姿が無いことに気づいた。
風邪でも引いたのかと、初めは体調の心配をするぐらいでそこまでを重く捉えることはなかった。
しかし、一日、二日、三日、何日立っても彼女が学校に来ることは無かった。
流石になにかあったのだと気づいた僕は彼女の友達に彼女に何かあったのかと聞いた。
最初は言うのを躊躇った友達だが、僕は真剣に頼み込んだ。
そして渋々話してくれた友達の話によると彼女は今、病院に居るらしい。
―それだけで僕は頭が真っ白になりそうだった。
しかし、まだ僕にはまだ聞かなければならない事がある。
彼女の状態だ。
彼女が病院にいる時点で無事では無いことがわかる。
しかし、僕の中で一番大事なことは彼女がまだ笑えるのか、だ。
彼女がつらい目に合っていないか。
彼女は大丈夫なのか?
彼女の友達に聞くと、彼女は顔を蒼くしながら言った。
―意識が無いんだって。
そこからの記憶が僕にはない。
気づいたら彼女の病室の前にいた。
病室の扉の横には名札があり、名札には彼女の名前、桜瓦小実と確りと書いてある。
しかし、僕はこの目で見るまで事実だとしてもそんな残酷なこと受けいられない。
意を決して扉を潜ると、そこには彼女が居た。
病室のベットにまるでただ眠っているように見える。
しかし、この一ヶ月意識が戻らないらしい。
彼女の側に行き、必死に呼びかけるが彼女が瞼を開けることはない。
僕は絶望した。
―もう、彼女の笑顔が見れない。
―もう、彼女の動く姿が見れない。

彼女は笑ってなくちゃいけないんだ。
彼女は幸せでなくちゃいけないんだ。

ああ、彼女の笑顔が見れない世界なんて生きてるのが辛いだけだ。

もう、いいや。 

そうして、僕は彼女の仲間入りをした。
しおりを挟む

処理中です...