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83 呪い返し
しおりを挟む「話の区切りがついたところで…」
しばし薄ら寒い沈黙に包まれた部屋で、ロドニーがカップから手を放す。
「これ、もういいですか」
ぽん、と彼が叩いたのは自らの懐。
スタンはああ、と頷いた。
「そういえばまだ持っているんだったね」
「まだ返してなかったのか」
「ちょっと懸念があってね。今回、呪い返しはしないことにした」
「は? なんで」
「返す方が危険だからさ」
呪い返し。
発動した呪いを、対象から術者へと返す。
規格外だが、ロドニーの存在は一部で有名だ。呪いに携わるものならば、呪い返しの存在を知らぬ訳がない。
そう、対処していないわけがない。
「呪い返しを更に返されたら、メイジーが死んでしまう」
今回間に合ったのは、様々な偶然の紡いだ必然だ。
呪いを受けたのがエヴァではなく、福音の高いメイジーだった。
スタンが屋敷ではなく、外出中だった。
連絡を受けた際に「塔」の近くにいて、ロドニーが「塔」に滞在していた。
そしてスタンが有無を言わさずロドニーを連れ出せる立場だった。
少しでもどこかでタイムロスが発生していたら、メイジーの身体に後遺症が残ったかもしれない。気が狂っていたかもしれない。あまりの痛みにショック死したかもしれない。
運がよかった。
しかしここでロドニーが呪い返しを行い、呪った術者…つまり魔女に呪いが返れば。
魔女とて馬鹿ではない。対処しているはずだ。返された呪いは更に跳ね返され、最初の威力を上回って対象に襲いかかる。
そうなれば、助からない。
ロドニーの助力も間に合わず、対象はショック死してしまうだろう。
だからロドニーは、まだ呪いを返していない。スタンがそう指示を出した。
ロドニーが一人応接室で待機だったのも、呪いが確認出来るメイジーに呪いの存在を気取られないため。
呪い返しの効果を知っているようだったが、怒り故か術者に対して悲観的ではなかった。そもそも次を想定していたので、呪い返しが起きても相手が無事だと察知しているようだった。
あれはなんだろう。福音持ちだからこその勘か、女の勘か、野生の勘か。
彼女のことを考えるのは楽しい。
楽しいが、まずは処理をしなくては。
「うっかりロドニーから離れたら危険だし…もういいよ」
「では失礼して」
にたりとロドニーの口端が持ち上がる。美しいかんばせが醜悪に歪み、人外めいた印象が強くなった。
彼は懐に大事に仕舞っていた何かを取り出した。
モーリスにそれは見えない。ロドニーが大事そうに空気を包んでいるような、意味の分からない光景だ。スタンも明確に何か見えているわけではない。なんとなく、ぼんやりと半透明なものがその手に握られているように感じるだけだ。
きっとここにメイジーがいたら、何か感じ取っただろう。
それは先ほどロドニーが切り離した、呪い本体。
誰かの怨念が、彼の手中に収まっていた。
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