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淫魔の保健教諭のいうことには③
「……フィオナさん。もし欲求不満になるようでしたら、私がお相手しますよ?」
驚いて固まっていると、口の中へ飴を押し込まれ、そのまま親指で唇をなぞられる。
(っ……)
甘くぞわりとした感覚が、唇から全身に広がっていく。
「キスも、それ以上のことも。したくなったらいつでも私に言ってください。初めてでしょうから、すべて手取り足取り教えて――」
そんな言葉ではっと我に返り、慌てて先生と距離を取る。
「じょ、じょーらんにしたってたちが悪いれすよ! 私は本気れ悩んれるんれすから……!」
真剣に抗議するものの、飴のせいで舌足らずになってしまい、あまり締まらない。
先生はやれやれと言わんばかりに手のひらを上に向け、わざとらしく肩をすくめた。
「……あながち冗談でもないのですがね」
「っ、なんれすか?」
「いいえ? 大したことでは」
小声で先生が呟いた言葉は聞き取れなかった。けれど、けろりとした表情からしてまた私をからかうようなことを言っただけだろうから、深追いするのはやめておく。
「それで、飴のお味はいかがですか?」
「味なんてしないですよ。またからかったんですか?」
飴を舌の上から頬に移してまともに話せるようにすると、先生が目を丸くした。
「おや。本当にキスすらしていないのですね」
「……え?」
「それは、ごくわずかしか店に並ばない《キオクキャンディ》という商品です。食べると、ある経験をした時に感じた記憶が味と共に蘇ってくる魔法がかけられています」
先生によるとあのお店の商品はほとんどが普通のお菓子だけれど、不定期に限定の商品が並ぶらしい。そのお菓子には店主が特別な魔法をかけているという。
「あなたに食べていただいたのは『はじめてのキス味』でして。経験がないのですから、味がしなくて当然です。ふふ……他の味をお渡しすればよかったですね」
先生は、私の口に入れたのと同じ色のキャンディを手に取ると、瓶に蓋をして言う。
「個人の思い出によって感じ方は様々ですが、私の場合、キスの味は――」
「っ、教えていただかなくて大丈夫です……!」
「はいはい」
先生は瓶を戸棚にしまうと振り返り、私をじっと見つめた。
「ですが、触れ合いのない――セックスのない愛なんてこの世に存在できませんよ。そんな歪なものは、いずれ壊れていきます」
「っ、そんなことありません。先生は淫魔だからそんな風に思うだけですよ」
「そうでしょうか。現にフィオナさんは不満を抱えているようですが?」
「……それは……」
その言葉に、何も言えなくなる。
「双方が触れ合うことに興味がないのなら、もしかすればそのような愛も成立するかもしれませんね。でもあなたがたは違う。不健全だと思いますよ、そのような若い肉体を持て余す愛は」
思い出してみれば、昔からリヒトくんはいつも私の世話を焼いてくれていた。彼にとって私は、“妹のような”幼馴染だったのかもしれない。
だから関係が変わった今も触れようとしないのかもなんて、さっき先生が挙げた可能性のひとつに気付いたりした。
(……私たちの“好き”は、違うのかな……)
自然と視線が地面に落ち、俯いてしまう。すると何かを考えていた様子のサディオ先生は、今度はキャビネットの引き出しから何かを取り出し、私の前に差し出した。
「もうひとつ、プレゼントです」
「……。これは……?」
一目見ただけで、何かの魔力を宿した石だとわかる。
なめらかに表面を磨かれたピンクの雫型の石は、先端がふたつに割れている。石の中央には稲妻のような文様が刻まれていた。
先ほどのキャンディのことがあるので、また何かされるのではと身構えて手に取らずにいると、先生はわずかに眉を下げて言う。
「《リズムストーン》という貴重な魔石です。お詫びの印に受け取っていただけませんか。……あなたを落ち込ませるつもりはなかったのですよ」
「……え?」
「少しムキになってしまいました。すみません」
先生は私の手を取ると、手のひらにそっと石をのせる。てっきりひんやりしていると思っていたそれは、まるで人肌のようにあたたかい。
私と視線を合わせたサディオ先生は、労わるように目を細める。
「リヒト君への気持ちが募り、寂しいと感じた時はこの石を思い出してください。きっと役に立ちますから」
「は、はい……」
見たことのない彼の表情と優しい声音に押されて、それを受け取る。
「お手伝い、ありがとうございました。後はこちらで行いますから、もう帰っていただいて結構ですよ」
「わかりました。……失礼します」
***
――フィオナが保健室を去った後、サディオはひとりほくそ笑む。
「あの魔石と講習で少し揺さぶれば……ふふ、しばらくは退屈せずに済みそうですね」
驚いて固まっていると、口の中へ飴を押し込まれ、そのまま親指で唇をなぞられる。
(っ……)
甘くぞわりとした感覚が、唇から全身に広がっていく。
「キスも、それ以上のことも。したくなったらいつでも私に言ってください。初めてでしょうから、すべて手取り足取り教えて――」
そんな言葉ではっと我に返り、慌てて先生と距離を取る。
「じょ、じょーらんにしたってたちが悪いれすよ! 私は本気れ悩んれるんれすから……!」
真剣に抗議するものの、飴のせいで舌足らずになってしまい、あまり締まらない。
先生はやれやれと言わんばかりに手のひらを上に向け、わざとらしく肩をすくめた。
「……あながち冗談でもないのですがね」
「っ、なんれすか?」
「いいえ? 大したことでは」
小声で先生が呟いた言葉は聞き取れなかった。けれど、けろりとした表情からしてまた私をからかうようなことを言っただけだろうから、深追いするのはやめておく。
「それで、飴のお味はいかがですか?」
「味なんてしないですよ。またからかったんですか?」
飴を舌の上から頬に移してまともに話せるようにすると、先生が目を丸くした。
「おや。本当にキスすらしていないのですね」
「……え?」
「それは、ごくわずかしか店に並ばない《キオクキャンディ》という商品です。食べると、ある経験をした時に感じた記憶が味と共に蘇ってくる魔法がかけられています」
先生によるとあのお店の商品はほとんどが普通のお菓子だけれど、不定期に限定の商品が並ぶらしい。そのお菓子には店主が特別な魔法をかけているという。
「あなたに食べていただいたのは『はじめてのキス味』でして。経験がないのですから、味がしなくて当然です。ふふ……他の味をお渡しすればよかったですね」
先生は、私の口に入れたのと同じ色のキャンディを手に取ると、瓶に蓋をして言う。
「個人の思い出によって感じ方は様々ですが、私の場合、キスの味は――」
「っ、教えていただかなくて大丈夫です……!」
「はいはい」
先生は瓶を戸棚にしまうと振り返り、私をじっと見つめた。
「ですが、触れ合いのない――セックスのない愛なんてこの世に存在できませんよ。そんな歪なものは、いずれ壊れていきます」
「っ、そんなことありません。先生は淫魔だからそんな風に思うだけですよ」
「そうでしょうか。現にフィオナさんは不満を抱えているようですが?」
「……それは……」
その言葉に、何も言えなくなる。
「双方が触れ合うことに興味がないのなら、もしかすればそのような愛も成立するかもしれませんね。でもあなたがたは違う。不健全だと思いますよ、そのような若い肉体を持て余す愛は」
思い出してみれば、昔からリヒトくんはいつも私の世話を焼いてくれていた。彼にとって私は、“妹のような”幼馴染だったのかもしれない。
だから関係が変わった今も触れようとしないのかもなんて、さっき先生が挙げた可能性のひとつに気付いたりした。
(……私たちの“好き”は、違うのかな……)
自然と視線が地面に落ち、俯いてしまう。すると何かを考えていた様子のサディオ先生は、今度はキャビネットの引き出しから何かを取り出し、私の前に差し出した。
「もうひとつ、プレゼントです」
「……。これは……?」
一目見ただけで、何かの魔力を宿した石だとわかる。
なめらかに表面を磨かれたピンクの雫型の石は、先端がふたつに割れている。石の中央には稲妻のような文様が刻まれていた。
先ほどのキャンディのことがあるので、また何かされるのではと身構えて手に取らずにいると、先生はわずかに眉を下げて言う。
「《リズムストーン》という貴重な魔石です。お詫びの印に受け取っていただけませんか。……あなたを落ち込ませるつもりはなかったのですよ」
「……え?」
「少しムキになってしまいました。すみません」
先生は私の手を取ると、手のひらにそっと石をのせる。てっきりひんやりしていると思っていたそれは、まるで人肌のようにあたたかい。
私と視線を合わせたサディオ先生は、労わるように目を細める。
「リヒト君への気持ちが募り、寂しいと感じた時はこの石を思い出してください。きっと役に立ちますから」
「は、はい……」
見たことのない彼の表情と優しい声音に押されて、それを受け取る。
「お手伝い、ありがとうございました。後はこちらで行いますから、もう帰っていただいて結構ですよ」
「わかりました。……失礼します」
***
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