17 / 18
16話
第16話:世界で一番いとおしい存在
しおりを挟む
「水、飲めそうか?」
バスタオル姿の湊をベッドに座らせ、キッチンから持ってきたミネラルウォーターを手渡す。
「ありがとう……ございます」
渡された水を飲んで大きく息を吐いた湊の顔は、先程よりも幾分か楽そうになっていた。隆司はそんな湊の頭をなで、額に唇を落とす。
「ありがとな。俺を、受け入れてくれて」
「そんな、僕のほうこそ……嬉しいです。隆司さんと一つになれて」
こちらを見上げて、ふわりと綺麗な笑顔で笑う。その笑顔が思わず目を細めたくなるほど眩しくて、余計に湊が自分の恋人になった嬉しさが強くなった。
今、とても爽やかな気分だ。
なのに――――どうしてだろう。湊を見つめていると、さっき放ったばかりの熱がまた、ジワリジワリと温度をあげた。
「隆司……さん?」
突然黙りこんだ隆司に、不安を抱いたのだろう。湊が眉をやや八の字に下げて、こちらを覗きこんでくる。
「ん、あ……いや……」
まさか、こんな甘い空気が漂う中で、卑猥なことを想像しているなど、誰が思うだろう。
しかし、申し訳ないと思っていても、暴走へむかって助走をはじめてしまった熱は冷めてくれない。それどころか、周囲で火でも焚かれているかと疑いたくなるほど、温度がどんどんあがっていく。
これでは、まるで自慰行為を覚えたばかりのガキだ。
だが逆に考えれば、心から愛してやまない恋人がバスタオル一枚羽織った状態でいるというのに、欲情しないほうが失礼ではないだろうか。
「どうしたんですか? あの……やっぱり、僕じゃ……ダメ、でしたか?」
「湊……」
「は、はい……」
「悪い」
そう、この感情は間違いなんかではない。頭が勝手に確信した時には既に、湊をシーツの上へと沈めていた。
「……え?」
「お前が怪我人だということも、心に傷を負っているということも、十二分に分かってるつもりだ。つもり……なんだが……、どうも抑えられそうにない」
タオルの合わさりを解き、湊を再び生まれたばかりの姿にする。
「も、もしかして、もう一回……とか?」
「ダメか?」
「ダメか、って……そんな、僕、もう……」
「疲れすぎて、その気になれないか? それとも……俺のセックスが下手すぎて、二度としたくない、とか?」
「そんなことはないですっ! 隆司さんとのセックスは凄く気持ちよかったから、またやりたいって思ってます!」
そこは是が非でも否定したかったのか、湊は疲れているにも関わらず全力で首を横に振った。
「なら、その気になればできる?」
「でも……無理……ですよぉ」
「分かった。これで無理だったら、俺も諦めるから」
俺は無理強いをするほど鬼畜じゃないと言いながら、隆司は手を伸ばして湊の分身を指で包みこむ。
完全に柔らかくなってしまった肉芯を数回指で揉むが、すぐには反応をかえさない。どうやら手での刺激では足りないらしい。隆司はおもむろに腰を屈め、手元に顔を近づける。
「隆司さん? 何を……」
「勿論、お前をその気にさせるつもりだけど」
当たり前に言ってのけると、隆司はそのまま握っていた湊の分身を口に含んだ。
「ちょっ……隆、っ……んっ……」
突然口淫されて驚いた湊が、隆司の髪に指を絡め、やんわりとだが押し返そうとする。
しかし、その抵抗は一分と保たなかった。
やらしく濡れる亀頭を口腔全体で包みこみ、舌先で器用に雁首や裏筋を舐めあげると、その舌遣いに湊はすぐに色を含んだ反応を見せた。
初めてのセックスは緊張したが、フェラチオなら同じ男だからどこを刺激すればいいか手にとるように分かる。主導権を握った隆司は得意げに角度を変えながら舐め回し、そして吸いあげていく。勿論、舌が届かない部分は両手の指を使って扱いてやることも忘れない。あとは舌を動かす時に、わざと水音を立ててやれば完璧だった。
「んっ、んんっ」
隆司の髪を混ぜる湊の指先から、どんどん力が抜けていく。だが反対に舌に当たる湊の肉はみるみる熱と芯を持ち、硬さを増していった。
「…………少しは、その気になったか?」
完全に勃ちあがったところで、一端舌を離して問いかける。するとこちらを見る湊は、困ったような、そして恨めしそうな感情が入り交ざった表情を浮かべた。
だが、そんな顔ですら今の隆司には性欲をそそる材料にしかならない。
「隆司さんのイジワル……」
「愛情が暴走した末の行為だと言ってくれ。お前のことが欲しくて欲しくて、たまらないんだ」
「もう……惚れてる弱みを盾にとるなんて」
隆司のことを酷いと呟きながらも、頬を紅色に染めあげた湊は受け入れる体勢に入る。そんな健気さに心を擽られた隆司は、なるべく湊に負担をかけないようベッドの中央へと移動し、再び湊の足を開いた。
「……なぁ、湊」
「ん……っ、は、い……っ」
腰を進めながら、耳元に問いかける。
「克也のことだけどな……もしも、お前が嫌だと言うなら、もう……会わない」
「どうして……っ、あっ、んんっ……急に……?」
「俺はあまり恋愛とか、得意じゃないから……お前がどんなことで、傷つくのか……分からない。だから、嫌なことは……嫌だと、教えてほしいんだ」
耳朶に触れた唇を首筋、鎖骨と滑らせ、辿りついた胸の突起をやんわりと吸いあげながら、隆司は尋ねた。
それはずっと、湊に聞かなければと思いつつも、形にできなかった言葉だ。隆司にとって克也はかけがえのない無二の親友。大切なことに変わりはない。しかし克也の存在が、そして克也に恋心を抱いていたという過去が湊を苦しめるというのなら、自分は湊の恋人として決断しなければならない。
ただ、そうは思っていても中々言い出せなかった。だから、こんな行為の最中に突然、言葉にしてしまったのだろう。何となく目を合わせ辛い隆司は、舌で赤く熟れた胸の果実を執拗に転がしながら湊の答えを待った。
「……克也さんのこと、嫌なんかじゃ……っ、ありませんよ」
少しの沈黙の後、熱い吐息に混ぜながら湊が返す。
「事件の……後、克也さんが僕のところにきてくれて、『無事でよかった』って……っ……涙を流して喜んでくれた、んです。隆司さんの大切な人は、自分に……とっても大切な友達だって……言って、くれて」
事件の後、湊は少しの間だが克也と個人的に話をしたらしい。
「嬉しかったんです。僕のこと、そこまで心配してくれる友達……いなかったから。だから、これからも克也さんとは友達として付きあっていきたいです」
それと、と湊が話をつけ加える。
「僕……隆司さんのこと、信じてますから……」
「……そうか。そんなふうに言ってもらえると、俺としても嬉しいけど…………無理に俺に合わせようとだけはするなよ。俺とお前はもう恋人っていう対等の立場なんだからな」
「はい。…………ふふっ」
「何だ? 何かおかしなことでも言ったか?」
聞こえてきた笑いに、動きを止めて湊の顔を見上げる。
「いえ、何だか急に隆司さん……が、テレビの俳優さんが言うような……甘い言葉ばっかり……言うから、くすぐったくなっちゃって」
「お前……少しは場の空気を読めよな」
お互いの気持ちを繋げてから、初めて迎えた夜。しかも心も身体も言葉どおり繋がっているという場面で甘い言葉を吐かずして、一体どこで吐けというのだ。
クスクスと笑いを零す湊を見ているうちに、何だか盛り上がっているのが自分だけのような気がして面白くなくなった隆司は、止めていた腰の動きを一気に再開させた。
今度は直線的なピストンではなく、捻りを加えたグラインドでわざと感じる部分だけを狙う。さらに腰を深くまで突き入れながら、胸も同時に攻めた。
「ん、あぁっ、や、ソコっ……っ、強、すぎっ……」
「甘い言葉がいらないんなら、その分こっちに回させてもらうことにするな」
「ち、が……ぁっ、あっ、んんっ、そう……意味じゃ……ひ、ぁっ!」
もう完全に言葉を繋げる余裕がない湊の姿に愉悦を浮かべながら、耳殻を形沿いに舐めあげる。もう乾いている場所がなくなったと言うぐらい唾液で湊の耳を濡らすと、隆司は同じように濡れた唇で熱い吐息のような言葉を吹きかける。
「ちなみに俺な、ずっと、恋人ができた時にやりたいって思ってたことがあるんだが…………それ、今夜叶えてもらってもいいか?」
「ん、は……ぁ……なっ……に……?」
唐突に願いごとがあると言われ、湊が限界を間近に控えながらも耳を向ける。
そんな湊に告げた願いは――――。
「抜かずの三発」
「う、そ……」
湊にとっては耳を疑いたくなる言葉だったのだろう。目を合わせた途端にニヤリと笑った隆司に、湊は泣きそうな顔を見せた。
その後、腕の中から「隆司さんのオニ、アクマ」という可愛らしい抗議が聞こえてきたような気がしたが、隆司はわざと聞こえない振りに徹して、紅色の頬へのキスに勤しむのだった。
バスタオル姿の湊をベッドに座らせ、キッチンから持ってきたミネラルウォーターを手渡す。
「ありがとう……ございます」
渡された水を飲んで大きく息を吐いた湊の顔は、先程よりも幾分か楽そうになっていた。隆司はそんな湊の頭をなで、額に唇を落とす。
「ありがとな。俺を、受け入れてくれて」
「そんな、僕のほうこそ……嬉しいです。隆司さんと一つになれて」
こちらを見上げて、ふわりと綺麗な笑顔で笑う。その笑顔が思わず目を細めたくなるほど眩しくて、余計に湊が自分の恋人になった嬉しさが強くなった。
今、とても爽やかな気分だ。
なのに――――どうしてだろう。湊を見つめていると、さっき放ったばかりの熱がまた、ジワリジワリと温度をあげた。
「隆司……さん?」
突然黙りこんだ隆司に、不安を抱いたのだろう。湊が眉をやや八の字に下げて、こちらを覗きこんでくる。
「ん、あ……いや……」
まさか、こんな甘い空気が漂う中で、卑猥なことを想像しているなど、誰が思うだろう。
しかし、申し訳ないと思っていても、暴走へむかって助走をはじめてしまった熱は冷めてくれない。それどころか、周囲で火でも焚かれているかと疑いたくなるほど、温度がどんどんあがっていく。
これでは、まるで自慰行為を覚えたばかりのガキだ。
だが逆に考えれば、心から愛してやまない恋人がバスタオル一枚羽織った状態でいるというのに、欲情しないほうが失礼ではないだろうか。
「どうしたんですか? あの……やっぱり、僕じゃ……ダメ、でしたか?」
「湊……」
「は、はい……」
「悪い」
そう、この感情は間違いなんかではない。頭が勝手に確信した時には既に、湊をシーツの上へと沈めていた。
「……え?」
「お前が怪我人だということも、心に傷を負っているということも、十二分に分かってるつもりだ。つもり……なんだが……、どうも抑えられそうにない」
タオルの合わさりを解き、湊を再び生まれたばかりの姿にする。
「も、もしかして、もう一回……とか?」
「ダメか?」
「ダメか、って……そんな、僕、もう……」
「疲れすぎて、その気になれないか? それとも……俺のセックスが下手すぎて、二度としたくない、とか?」
「そんなことはないですっ! 隆司さんとのセックスは凄く気持ちよかったから、またやりたいって思ってます!」
そこは是が非でも否定したかったのか、湊は疲れているにも関わらず全力で首を横に振った。
「なら、その気になればできる?」
「でも……無理……ですよぉ」
「分かった。これで無理だったら、俺も諦めるから」
俺は無理強いをするほど鬼畜じゃないと言いながら、隆司は手を伸ばして湊の分身を指で包みこむ。
完全に柔らかくなってしまった肉芯を数回指で揉むが、すぐには反応をかえさない。どうやら手での刺激では足りないらしい。隆司はおもむろに腰を屈め、手元に顔を近づける。
「隆司さん? 何を……」
「勿論、お前をその気にさせるつもりだけど」
当たり前に言ってのけると、隆司はそのまま握っていた湊の分身を口に含んだ。
「ちょっ……隆、っ……んっ……」
突然口淫されて驚いた湊が、隆司の髪に指を絡め、やんわりとだが押し返そうとする。
しかし、その抵抗は一分と保たなかった。
やらしく濡れる亀頭を口腔全体で包みこみ、舌先で器用に雁首や裏筋を舐めあげると、その舌遣いに湊はすぐに色を含んだ反応を見せた。
初めてのセックスは緊張したが、フェラチオなら同じ男だからどこを刺激すればいいか手にとるように分かる。主導権を握った隆司は得意げに角度を変えながら舐め回し、そして吸いあげていく。勿論、舌が届かない部分は両手の指を使って扱いてやることも忘れない。あとは舌を動かす時に、わざと水音を立ててやれば完璧だった。
「んっ、んんっ」
隆司の髪を混ぜる湊の指先から、どんどん力が抜けていく。だが反対に舌に当たる湊の肉はみるみる熱と芯を持ち、硬さを増していった。
「…………少しは、その気になったか?」
完全に勃ちあがったところで、一端舌を離して問いかける。するとこちらを見る湊は、困ったような、そして恨めしそうな感情が入り交ざった表情を浮かべた。
だが、そんな顔ですら今の隆司には性欲をそそる材料にしかならない。
「隆司さんのイジワル……」
「愛情が暴走した末の行為だと言ってくれ。お前のことが欲しくて欲しくて、たまらないんだ」
「もう……惚れてる弱みを盾にとるなんて」
隆司のことを酷いと呟きながらも、頬を紅色に染めあげた湊は受け入れる体勢に入る。そんな健気さに心を擽られた隆司は、なるべく湊に負担をかけないようベッドの中央へと移動し、再び湊の足を開いた。
「……なぁ、湊」
「ん……っ、は、い……っ」
腰を進めながら、耳元に問いかける。
「克也のことだけどな……もしも、お前が嫌だと言うなら、もう……会わない」
「どうして……っ、あっ、んんっ……急に……?」
「俺はあまり恋愛とか、得意じゃないから……お前がどんなことで、傷つくのか……分からない。だから、嫌なことは……嫌だと、教えてほしいんだ」
耳朶に触れた唇を首筋、鎖骨と滑らせ、辿りついた胸の突起をやんわりと吸いあげながら、隆司は尋ねた。
それはずっと、湊に聞かなければと思いつつも、形にできなかった言葉だ。隆司にとって克也はかけがえのない無二の親友。大切なことに変わりはない。しかし克也の存在が、そして克也に恋心を抱いていたという過去が湊を苦しめるというのなら、自分は湊の恋人として決断しなければならない。
ただ、そうは思っていても中々言い出せなかった。だから、こんな行為の最中に突然、言葉にしてしまったのだろう。何となく目を合わせ辛い隆司は、舌で赤く熟れた胸の果実を執拗に転がしながら湊の答えを待った。
「……克也さんのこと、嫌なんかじゃ……っ、ありませんよ」
少しの沈黙の後、熱い吐息に混ぜながら湊が返す。
「事件の……後、克也さんが僕のところにきてくれて、『無事でよかった』って……っ……涙を流して喜んでくれた、んです。隆司さんの大切な人は、自分に……とっても大切な友達だって……言って、くれて」
事件の後、湊は少しの間だが克也と個人的に話をしたらしい。
「嬉しかったんです。僕のこと、そこまで心配してくれる友達……いなかったから。だから、これからも克也さんとは友達として付きあっていきたいです」
それと、と湊が話をつけ加える。
「僕……隆司さんのこと、信じてますから……」
「……そうか。そんなふうに言ってもらえると、俺としても嬉しいけど…………無理に俺に合わせようとだけはするなよ。俺とお前はもう恋人っていう対等の立場なんだからな」
「はい。…………ふふっ」
「何だ? 何かおかしなことでも言ったか?」
聞こえてきた笑いに、動きを止めて湊の顔を見上げる。
「いえ、何だか急に隆司さん……が、テレビの俳優さんが言うような……甘い言葉ばっかり……言うから、くすぐったくなっちゃって」
「お前……少しは場の空気を読めよな」
お互いの気持ちを繋げてから、初めて迎えた夜。しかも心も身体も言葉どおり繋がっているという場面で甘い言葉を吐かずして、一体どこで吐けというのだ。
クスクスと笑いを零す湊を見ているうちに、何だか盛り上がっているのが自分だけのような気がして面白くなくなった隆司は、止めていた腰の動きを一気に再開させた。
今度は直線的なピストンではなく、捻りを加えたグラインドでわざと感じる部分だけを狙う。さらに腰を深くまで突き入れながら、胸も同時に攻めた。
「ん、あぁっ、や、ソコっ……っ、強、すぎっ……」
「甘い言葉がいらないんなら、その分こっちに回させてもらうことにするな」
「ち、が……ぁっ、あっ、んんっ、そう……意味じゃ……ひ、ぁっ!」
もう完全に言葉を繋げる余裕がない湊の姿に愉悦を浮かべながら、耳殻を形沿いに舐めあげる。もう乾いている場所がなくなったと言うぐらい唾液で湊の耳を濡らすと、隆司は同じように濡れた唇で熱い吐息のような言葉を吹きかける。
「ちなみに俺な、ずっと、恋人ができた時にやりたいって思ってたことがあるんだが…………それ、今夜叶えてもらってもいいか?」
「ん、は……ぁ……なっ……に……?」
唐突に願いごとがあると言われ、湊が限界を間近に控えながらも耳を向ける。
そんな湊に告げた願いは――――。
「抜かずの三発」
「う、そ……」
湊にとっては耳を疑いたくなる言葉だったのだろう。目を合わせた途端にニヤリと笑った隆司に、湊は泣きそうな顔を見せた。
その後、腕の中から「隆司さんのオニ、アクマ」という可愛らしい抗議が聞こえてきたような気がしたが、隆司はわざと聞こえない振りに徹して、紅色の頬へのキスに勤しむのだった。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
31
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる