勘違い令嬢と3人の男

ringo69

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Story 3

緊急事態


「すまない、すっかり夢中になってしまった。」

ロバート様はなおも顔を赤くしたまま私にそう言って持っていた本を自分の後ろの本棚に戻した。
彼が戻していた本の背を見るとどうやら冒険ものの内容のようだった。

「今読まれていた本は?」

私は気になってつい尋ねてしまった。
彼は自分の後頭部をかきながら恥ずかしそうに答えてくれた。

「実は僕が小さい頃に夢中になって読んでいたもので小さい頃はよくこれを繰り返し読んでいた。
ふと見つけてつい手に取ってしまったら昔の記憶が甦ってきて引き込まれてしまった。」

小さく笑いながら彼は懐かしそうにその本を見ながら話してくれた。

「案外覚えているものなんだなと思って」
「そうですね、意外と人の記憶というものは残っているものですよね。私も、幼い頃の事はよく覚えています。」

私はその自分の言葉に昔のことを思い出していた。
それはだいぶ前にさかのぼる。ある日の貴族の令息や令嬢が集まるお茶会に参加した時のことだった。
当時私はわずか6歳。他の子達も大体そのぐらいの年齢の子達が集まっていた。そこにはいつもの幼馴染たちも参加していて、皆で6歳らしい交流をしていた時だった。私がお手洗いから戻ってくる時に木陰で1人泣いている男の子を見つけたのだ。
その時はただただ疑問に思い、すぐに駆け寄り声をかけた。
その子はとても見目麗しい子だった。子供ながらに綺麗だと思ったことを覚えている。
まさに皇太子殿下のような見た目だった。
話を聞くとその見た目から女の子たちに囲まれ、身動きが取れなくてどうしたら良いかわからなくなってしまい、ここに逃げて来てしまったという。
その話を聞いて美しいというのも大変なのだと幼いながらに思った。
一通り散歩をしながら話したが、どうやらこういったお茶会に参加したのは初めてだったようだ。
そういえば名前を聞いていなかったので尋ねようとしたが、そのタイミングで幼馴染たちが探しに来て別れた気がする。

そこまで思い出してロバート様に声をかけられる。
ハッとして彼の方を見ると彼は少し心配そうな表情でこちらをうかがっている。

「すみません、昔のことを思い出していました。」
「昔のこと?」
「はい、幼い頃にある貴族にお茶会で1人の男の子に声をかけたんです。泣いていたから。
でも、その子に名前を聞くのを忘れてしまって…」

そこまで言うと入り口の方から声がする。
サリーの声だ。
私はハッとして店の壁にかけてある時計に目を移すと、時間がだいぶ経ってしまっていた。
おそらく帰りが遅い私を心配して迎えに来たのだろう。使いを出すべきだった。

「ロバート様、もう帰りますので、ロバート様もご公務があるのでは?」

私はロバート様を振り返ってそう言うと、彼は切なそうな何ともいえない顔をしている。
何かあったのだろうか?

「ロバート様?」

もう一度呼びかけるとロバート様もハッとして「ああ」とだけ返事をしてくれる。
ロバート様らしくない。

「お嬢様ー?」

少し気になるがサリーに迷惑をかけるわけにはいかないので私は彼に会釈してその場を後にしようとした、その時だった。
ロバート様は私の腕を掴んだ。切なそうな顔で。

「ロバ」「その!…その少年の見た目は…」
「確かロバート様に似たような感じでしたわ」
「そ、そうか…」

少し残念そうにしょんぼりすると、またサリーの声がする。

「すみません、もう行かなくては。」
「あ、そうだよな。すまない。気をつけて帰ってくれ」
「ありがとうございます。ロバート様も!失礼いたします。」

私は今日購入した本を握りしめてサリーの方へと急いだ。

「おじさま、ありがとう!」

最後に店主に挨拶すると人のよい笑みを浮かべてまたいらっしゃいと言ってくれた。

「おかえりが遅いので邸の皆が心配しておりました。お迎えにあがりました」

サリーは眉を下げて心配そうな顔をしていた。
私はその顔を見て心が痛んだ。それに邸のみんなにも心配をかけさせてしまった。
みんなの慌てぶりが目に浮かぶ。

「ごめんなさい。急に書店に寄りたくなっちゃって…。今度からは気をつけるわ。」
「一報入れてくれると助かります。お一人だったのですか?」

ギクリとした。別にロバート様といたと言ってもそんなに不思議じゃないし、カフェとか洒落たところにいたわけではないのになぜか罪悪感というか、後ろめたさみたいなものが沸いてくる。しかも書店。学生なら男女で書店に行ったって何も思われないはずなのに。

「えっと、皇太子殿下といたの。たまたま帰りが一緒で、書店に行くと言ったら殿下も用事があったみたいで、ご一緒したの」

少し早口になってしまったし、なんだか言い訳みたいに聞こえただろうか。
内心私の心臓は早鐘を打っている。サリーにどんな反応をされるのかドキドキしている。
が、私の気持ちとは裏腹にサリーはパッと明るい顔をした。

「まあ!そうだったのですね!」

そういうとサリーはキョロキョロと辺りを見回した。
ロバート様を探しているのだろうか。

「皇太子殿下はどちらに?」
「まだ見たいものがあったみたい」

なるほどと納得しながらサリーは御者に合図を送った。
御者は私を馬車に乗せようと手を貸してくれた。その後サリーも乗り込んで馬車は出発した。
私は馬車の窓の流れる景色を見ながら先ほどのことを思い出していた。
ロバート様は私の昔話に妙に興味があるようだった。彼も同じような経験をしたことがあるのだろうか。
とても切ない顔をしていた。きっと彼なりの何かがあったのだろう、私の話の中に。

「ところでお嬢様、一体どんな本を購入なさったのですか?」

向かいに座るサリーは少しワクワクしたような表情で私に問うた。
そのサリーの表情を見て、彼女と昔、よく一緒に物語を読んではそれの感想を言い合っていたのを思い出した。
私もサリーも本が好きでお互い自分が読んだ本を交換したりしてはその感想を言い合ったりしていた。
サリーは私よりいくつか年上なので、小さい頃はよく遊んでもらっていた。彼女の持っている本を早く読めるようになりたくてたくさん勉強をした気がする。当時はまだアルベルトが生まれる前だったので、自分がこの公爵家を支えていくのだと意気込んでいた。大人に混じって、少しませている子供だったと思う。

「実は物語じゃないの」

私は手に持っている手触りのいい羊皮製の本を撫でた。
(この本を買ったことなんか忘れてしまうぐらい少し衝撃的な出来事だったわ)




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