カルバート

角田智史

文字の大きさ
14 / 83

 正造

しおりを挟む
 契約を取るのが営業の仕事である、
 古今東西あれども、やはりそれはその通りで否定する事はできない。
 どんな手法であれ、契約を取ってこなければ役立たずのレッテルを貼られる。
 彼が延岡へ僕の後輩としてきた時、今まで誰も取れなかった企業をビギナーズラック的に決めてきた。
 そしてもう一件、他社競合の末、他社の対応が遅く契約に至った物件があった。
 1年間で、その2件である。
 働いてみると、もろもろある。支社長が話を決めてきた物件を彼に成績としてつけたり、僕が見つけてきて渡した物件があったり、そういった事でなんとかごまかし続けてきた。
 そんな中で、支社長も僕も大手企業の相手をして、彼の面倒を見きれていなかった事も否めない。しかしながら彼の成長をはっきりと感じる事なく、時間は過ぎていった。日々の聞き取り、指導としては、営業職としてではなく、人間として成長させたい、その思いの方が強かった。
 例えば
 「机の上を片付けなさい。」
 だとか
 「人の話は最後までちゃんと聞きなさい。」
 だとか、そういった、幼稚なものだった。

 5月から彼がこちらへ来て約1年、いよいよ本体の人間から目を付けられたのだった。
 そして、一向に成長していかない彼の姿を見て、とうとう支社長から課せられたのだった。
 「5月中に契約を取れなければ営業から外す。」と。

 彼は家を建てたばかりだった。こちらへ来たばかりの時は、よく銀行さんや工務店さんとの打ち合わせがある、と言って時間を作っていた。
 彼は4人の子供に恵まれ、4人目は生まれたばかりだった。
 4人目が生まれた時、僕はあるコンビニの駐車場で出産祝いを渡した。嫁さんも一緒にいた。
 後日正造が
 「角田さん、内祝い持ってきましたけど、どうすればいいですか?」
 と聞いてきた。僕は他の仕事に夢中で「ああ…」と生返事で返したが、いや、そんなん自分で考えろよ、と突っ込む事もしんどかった。それ以降、未だに内祝いは僕の手元に届いていない。
 
 僕が一度、MKに連れていって以降、彼はその内1人でも通うようになっていた。ほぼ毎日通っていた時期もあるようだった。

 僕は毎日のように彼に電話を入れていた。それは他愛のない、女の話だとか下らない話をするようにしていた。
 営業に携わる人間が、僕と支社長、そして彼。日々、支社長からの聞き取り、この状況で僕まで彼に追い打ちをかけるような事になれば、精神的にとてもやっていけない、と思っての事だった。

 僕は同僚であって、上司ではなかった。上司であればこうもいかなかったんだろうが、年齢が上の先輩という立ち位置でしかなかった。仕事で彼に聞かれる事があれば真摯に対応してきたつもりではあるが、僕の無駄な電話や、一緒に飲みに出る事は、常に精神と戦っている営業員への息抜きを提供しているつもりだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

吊るされた少年は惨めな絶頂を繰り返す

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

職場のパートのおばさん

Rollman
恋愛
職場のパートのおばさんと…

処理中です...