カルバート

角田智史

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 真理恵にくびったけ 13

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  本当はさきの事を、もう少し話したい。そんな気持ちもあった。さきの全てを受け止めて、それを誰とも共有できないのは、苦痛だった。僕はずっと誰かに暴露したかった。
 ただこの2人でこれ以上さきの事を話すと、どうしてもさきがこの2人に割って入れない、それが浮き彫りになりってしまう事は目に見えていた。ずっと「推し」と公言していた真理恵の前で他の女性の事を言えないわけではなかった。この2人がさきの事を話す、それは決して対等ではなく、まるでさきを子供扱いするような、そんな感覚にしかならない事は分かり切っていた。
 そうなればまた、真理恵と僕の関係として新たに進展してしまう事を恐れた僕は、話題を古賀さんへとシフトしていったのだった。

 
 「真理恵さんと同伴とか、ほんっとに嫌やかいね。」

 とうとう、さきはそれを言ってきた。
 それ以前から、MKの中での、真理恵への愚痴、更にはまきへの愚痴までを僕は聞いていて、その度に困惑していた。
 この頃にはもう、僕のやきもちを妬かせて楽しむという感覚は無くなっていた。それは少しずつ、さきがただ創り上げていた可愛いだけではない、さきを見せてきていたからだった。
 初めてのスナック、時間を経るごとにさきはみるみる変わっていった。
 変わっていったというよりは、無理して作り上げていた部分が崩壊していった。おそらくそれは、僕に対してだけであったが、ぼくはそんなさきも全て受け止めたいと思っていた。
 何度かさきに言われていた。
 「真理恵さんの方が好きやろ?」
 そう言われる度に僕は、言葉を詰まらせていた。 
 ママレードで出会ったあの日から、山之内との事、正造との事、1年ぶりの再会。真理恵が延岡で一番付き合いが長い女の子で、尚且つ、好意を寄せていて、そのこれまでのドラマ、それまで培ってきたとの絆のようなものは、出会って間もない、若干19歳の女の子が敵うはずはなかった。
 これは、男女間としてではなく、人と人としてのもので、如何様にも出来なかった。

 元々ママレードに勤めていた、真理恵の友達も、彼女の紹介でMKに勤めだしていた。MKのスタッフは総勢10人を数えた。金、土になれば、女の子の方が多いくらいだった。  
 そして、以前ママレードで顔をみた事がある客が次々と訪れていた。真理恵のスナック復帰、それは1年半ぶりくらいだろうか。それでも同じ顔ぶれが揃っていくのは「真理恵推し」その強さを窺わせるのには十二分だった。
 さきと真理恵の相乗効果で、今までにない程にMKは賑わいを見せた。そんな№1、2の2人と僕との関係を考えると、「僕は一体何をしているんだろう」と苛まれるような感覚にも陥っていた。

 当初真理恵が言っていた、
 「まきさんに拾ってもらったんで、もう迷惑なんてかけれないです。」
 その言葉とは裏腹に、店に慣れてきた真理恵は酒に飲まれるようになっていた。
 ここみからも、
 「あいつ最近潰れすぎ。」
 という言葉も聞くようになってきていた。

 真理恵からのLINEの返信はまた、以前のように時間がかかるようになってきていた。

 気が付けば、ある日から、全く顔を見せなくなったのであった。
 それはやはり、誰も連絡がつかない、というあの手口だった。

 それに慣れた僕、というとそれもおかしいが、今回は僕がMKに連れてきた事がスタートでもあり、前回のようなオーナーへの愚痴も通用するはずもなく、まきや僕の事を考えれば、そこはいい加減、大人の対応をして欲しかったのが本音である。

 それから、未だに真理恵とは誰一人連絡が取れない状態が続いている。
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