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正君

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VIVA

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 朝起きると、私は知らない場所に監禁されていた。
 見覚えのない色の壁。煙のような香り。私の動きに合わせて軋む、ボロボロだが何故か寝心地は良いベッド。その隣に並べるように置かれているまたもやボロボロの机。
 私は恐怖した。それは、幼い頃から読んでいた本で、こういう、薄暗く、怪しい場所に連れられた存在は必ず怖い目に遭うと知っているからだった。

「目を覚ましたかな?よかった…」
 私へそう問いかけるのは、突如その場に現れた、黒い外套に身を包む、恐らく、男と思わしき存在だった。黒ずくめの、恐らく彼は、食器の並んだトレーを手に持ち、私の隣へ腰掛けた。彼の動きに合わせ、大きく沈み、大きく軋むベッド。

「ここはどこですか」
 やっとの思いで絞り出した私の声は、男が机にトレーを置く音でかき消された。
「ここは、私の家だよ」
 よかった。私の声は彼に届いていたようだ。彼は私の言葉に、嬉しそうに、どこか悔しそうにそう答えた。
「良い、家ですね」
 私がそう言うと、彼は「お世辞はやめてくれ」と笑いながら、スプーンで、食器の中にある、恐らくスープをかき混ぜた。

「…それ」
「安心して、信用できないかもしれないけど、毒は入ってないから」
 彼の、低くも、暖かい声が胸の奥に染みる。
 彼の声は耳馴染みがよくて、どこか懐かしい声だな、と思った。
 だけど、依然として私の中にある猜疑心が消えることはなく、スプーンに掬われた黄金色のスープを拒絶してしまった。
 彼は一度頷き、私の目の前で黄金色のスープを口に含んだ。その姿をぼーっと見ていると、彼が私の手を掴み、自らの喉を触らせてきた。暖かく、力強く優しく、そして何故か少し震えている手だな、と呑気に思った。
 私よりも大きくて、骨張った男の人の手。その逞しい手が触れさせる固い喉仏、厚い皮膚。手と首の感触で彼が男性であるということに確信を持った次の瞬間、喉仏が大きく上下し、彼がスープをしっかりと嚥下したことを理解した。
 毒はない。しっかりと分かった。だけど、不安なのは不安だった。
「強く掴んでごめんね」
 そう私に謝りながら、ゆっくりと私の手から自らの手を離す彼。首を横に振り、平気であることを伝えると、彼は嬉しそうに微笑んだ。
 昔絵本で読んだ王子様みたいだ。私はそう思った。能天気に、そう思った。

「…飲む?」
 彼の問いかけに、私は頷いた。
 彼から手渡されたスプーンで、黄金色の暖かいスープを掬い口へ運ぶ。
 スープの芳醇な香りで、私が幼かった頃、冬の寒い日に、お母様が「今日は特別だよ」と言って、私に作ってくれたスープを思い出した。
 その後、お母様は二度とスープを作ってくれなくなった事も思い出した。
 喉が悪くなるからと、作ってくれなくなった事も思い出した。

 暖かい味。人の温もりを感じる味。胸の奥が熱くなった。それと同時に悲しくもなった。
「美味しい?」
 そう問いかけてくる彼に「美味しい」と答えると、彼は嬉しそうに微笑んでくれた。

「…久しぶりです」
「うん?」
「久しぶりに、味のあるものを、食べました」
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