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あと3ヶ月
しおりを挟む飲み会なんて嫌いだ。
元々好きだった筈の飲み会は、彼氏と同棲し始めてからは苦痛になった。
夜更けに帰ると、黒髪の彼氏は拗ねたようにソファーに座り「遅くなるなら遅くなると言ってくれたらよかったのに」とため息をついているから。
遅くなると言っても「なら早く帰れるように努力しろ」と怒る始末。
そんな彼氏に抱きついて「なら埋め合わせするね」とイチャイチャするのがいつもの流れ。
彼氏も飲み会があったら「埋め合わせしたいなら上手いもんでも買って帰ってこい」と言いながらも、ベッドメイキングした上に、俺達二人が大好きなカモミールの香りのアロマまで焚いて待ってくれてて。
そんな彼氏が大好き。
だから、そんな彼氏を拗ねさせてしまう飲み会、そして、自分自身が嫌いになった。
「出雲さんって今彼女とか居るんですか?」
同僚からの5億回目の質問。
「同棲してる恋人がいるよ」
そして5億回目の返事。
ギャルゲーとか乙女ゲームをやり込んでた学生時代を思い出す。
どの選択肢を選んだら良いのか分かりきってるから、ずっとボタンを連打してたっけ。
あの頃なんであんなにハマってたんだっけ。
そんなことを考えながら、グラスに入った烏龍茶を一口飲む。
「え!なら早く帰らなきゃじゃないですか!」
これも5億回目。
手についた水滴をおしぼりで拭いて…これも5億回目だ。
「いや、でも飲み会に来てるってことは上手くいってないんじゃないですか?」
これは……1回目だ。珍しいこともあるもんだな。レア選択肢か?
……うん?
「……いや、待って、なんでそうなんの…」
自然と口調が荒くなる。息も荒くなるし、手も震える。
バレてしまうかもしれない、そうなったら俺の生活は終わりだ。
同棲しているのが男で、その上結婚したいだとか考えて、家族にすら言えてない今の状況がバレたら、きっと取引先にもアウティングされて…それで…。
「同棲してる彼女さん怒ったりしないんですか?」
「……あ…」
やばい、反応に遅れた。
「……」
なんて答えようか悩んだ。
勿論怒るよと返したらどうなる。なら早く帰らせて貰えるのか。
でも。
「…」
竜生を彼女だと偽りたくなかった。
でも、竜生を彼氏だと、今ここでカミングアウトしたら「多様性(笑)」と迷惑がられて、竜生にも嫌な思いをさせてしまうかもしれない。
お前さえいればいいなんて言葉、ただの綺麗事だし。
生きるためには嘘をつかなきゃいけない。逃避行なんて、夜逃げなんてもってのほか。
でも竜生を俺の人生に居ないことにはしたくない。
「…ごめん、今、その事については…話したくない…」
二次会には参加せずに帰ろうと、同僚に適当に「はーいじゃあ俺帰るわ、またあのー、あれで、アレでアレして、うーん、はいはーい」と好き勝手に伝えてから背を向けると、声をかけられた。
「出雲さん」
「はい」
「駅前まで一緒に行きませんか」
彼女は…確か、俺と同じ時期に入社した人だ。
黒髪で、肩くらいまでの髪を丁寧にポニーテールにしてる几帳面そうな優しい女性。
同棲してる彼氏がいるとかで、たまに話してくれる「同居あるある」みたいなのに「分かるわ…」って心の中で相槌うってたっけ。
「…出雲さん、彼女さんと上手くいってないんですよね」
「……」
やばい。なんか、嫌な予感がする。
「私も実は、彼氏と、うまくいってなくて」
予感が当たってた。やばい、空気を、感じる。
「…出雲さんみたいな、人が、彼氏だったら良いのにっ…て…」
あ、やばい、泣き始めちゃった。
ハンカチを渡してから、近くにあった自販機でミネラルウォーターを買って渡そう。
その後良い感じのとこまで送り届けてからすぐに帰…
宅……
「…出雲さん…私じゃ、ダメですか…」
大学時代を思い出した。
竜生と出会った頃。
あの頃、俺は自分の事をよく分かっていなくて、男とか女とか関係なく色んな人と関係を持っていて、荒れてて。
その時、関係を持ってた女の子の家から直で大学に行った時、大学の向かいにあるコンビニの前の、喫煙エリア?で号泣してる竜生と出会った。
ふんわり甘いレモンみたいな香りがして、気になったから話しかけてみたらめちゃくちゃ怖い目で睨まれたっけ。
でも優しい子なのか、救われたかったからなのか、コーヒー奢ってあげたら色々話してくれて。
「親にお見合いをセッティングされた。デート場所に、初夜の段取りまで勝手に考えられて、それから逃げて、ここにいる」
ちびちびブラックコーヒーを飲む横顔がやけに魅力的で倒錯的に見えて。
それから関係が始まった。
最初は体だけ。でもどんどん、全てが欲しくなって。
気付いたら竜生の外堀固めて同棲してた。
隣町の大学に通う竜生を自分の家に住ませて、毎日人が苦手な竜生に電車乗らせて。
なのに竜生ったら「お前といれたらそれで良い」なんて。
彼女の唇が俺の唇から離れた。
何も反応しない俺を不審に思ったんだろう。
首の後ろに手を回されて、優しく彼女の方に、引き寄せられて
この人の人生が乙女ゲームだとしたらここはなんのシーンだ
俺はこの人の攻略キャラのうち一人なのか
俺の人生が乙女ゲームだとしたら、この人は攻略キャラのうち一人なのか
俺の人生は乙女ゲームか、それともBLゲームか
竜生。
「何してるんですか」
彼の低い声。
現実に戻された。
なのに、夢かと、錯覚した。
黒髪の彼。スウェットのズボンに無地の黒T。
竜生は彼女を睨み付けてから、優しく彼女の肩を押して俺から離してくれた。
「俺の彼氏に近付かないで」
あの日の横顔と同じ横顔。
彼から香るのはレモンじゃなくてカモミール。
俺達二人の香り。
「帰るよ、出雲」
竜生。
腕を引いて逃がしてくれた。
「……迎えに、来てくれたの?」
「うん、遅かったから…毎回居酒屋の場所聞いてるんだから、いつも迎えに来ておけば良かったね」
困ったように眉を八の字にして笑う竜生。
その横顔を。
「……俺、なんで、あんなことしちゃったのかな…嫌がって、キス、しないでって…離れておけばよかった…」
竜生は、首を横に振った。
「大丈夫だよ。あれは不可抗力だった」
「で、も…」
「……帰ろう、ね?」
「……竜生…」
「帰ろ、出雲」
「……うん、竜生」
「出雲がナイーブになってるのは、きっとアレだからだよ」
「……あれか」
竜生の左手薬指の、指輪についたダイヤモンドがキラリと光った。
「そう、マリッジブルーだよ」
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