1 / 1
応募用
しおりを挟む「下見にしてはなかなかに楽しかったね」
「うん」
そう言いながら、茶髪の男は黒髪の男の手を引いた。
「あ、いや、あんま外でくっつくのは、パンダが」
「大丈夫だよ、旅は道連れ!世は情け!」
「お前それ使いどころちょっとおかしくないか」
「おかしくない!!」
微笑む茶髪。
二人は将来の下見と称して有給を全て使い、一週間の旅行に宛てた。
「パンダ寝てたな」
「寝てたね」
茶髪は、黒髪の腕の中にいるパンダのぬいぐるみを見て微笑んだ。
「本当かわいかったね」
「かわいかった!ふわふわ!」
まるで自分の赤ちゃんを抱き上げるかのように、大切に抱き上げている黒髪。
「パンダの持ち方ってね、首根っこ掴めばいいらしいよ」
「ダメだ、この子今寝てるから抱き締めてとんとんしなきゃ」
「かわい、名前は?」
「名前…」
黒髪はパンダの頭を右手で撫でながら考えた。
茶髪はパンダを少し羨ましく思った。
「…パンダの名前ってなんか、繰り返すよな」
「繰り返すね、かわいい」
「なら…ミーミー!」
「あら、かわい!」
「マジでミーミーちゃんいたら困るから調べとこ…」
「…………あかんミーミーっておっぱいって意味になるらしいで」
「あかんわやめな」
─────
「飯食いに行く?」
「そだね、で、帰って、寝たら、明日飛行機乗って…帰って…その次の日仕事……」
「やめろ…現実に戻すな…」
ホテルに帰った二人は、職場や家族へのお土産をスーツケースにしまいながら、またくだらない話をし始めた。
二人のベッドに寝そべるパンダのぬいぐるみを見た茶髪は、少し不機嫌そうに、パンダへ掛け布団をかけた。
「パンダはお留守番ね!」
「当たり前だろ、子供に夜道は危ない」
真剣な黒髪の声。茶髪は可愛くて笑ってしまった。
「なんかやけに真剣だね」
「当たり前だろ、俺らの子なんだし」
「え?」
「俺とお前の子だよ…」
ウインクする黒髪、茶髪は目を見開いてから嬉しそうに微笑んだ。
がすぐ不機嫌な表情に。
「俺との子?いや、俺人間なんだけど」
「え」
「まさかパンダと浮気したの」
「ち、ちがう!」
「この浮気者!!」
「誤解なんだ!あれは一晩だけで!」
「浮気男ー!!!」
─────
「晩飯なに食べよ」
「魯肉飯」
「朝と昼にも食べたじゃん、流石にダメ」
「なら火鍋」
「四日連続だよ、ダメ、流石にお腹痛い」
「そっか…なら断食だな、今日はなにも食べないということで」
「魯肉飯と火鍋の二択しかないのは何」
「あ、なら俺市場の食べ歩きしたい、動画で見たやつ」
「あ、それならいいかも」
またくだらない話をしながら、二人は観光客やその土地に住まう人達で賑わう街を歩いていた。
もしここに住んだら。
ここでもし何年も過ごしたら。
言語での問題や、その土地特有のマナー、法律があったとしても、仕事だったり家族だったりの問題がぶつかったとしても、二人で支え合えば生きていけそうだと、お互いが思っていた。
「また来ようね」
「もちろん」
どちらからともなく、二人はいつの間にか手を繋いでいた。
─────
「なあこれバカうまいねんけど、食うてみる?」
「お前甘いもんばっか食ってんな、飽きないの」
「食わんのならええねん!わ!みて!夕日だ!」
「ツッコんでくれよ、お前は辛いもんばっか食ってんなって」
「ごめん、でも見て!バカきれい!!」
「口悪」
黒髪は、茶髪の横顔を見た。
夕日で輝く彼の瞳。夕日で赤く染まった横顔。
「…確かにバカきれい、これもバカうま」
「ね!」
空がオレンジから青に変わった。
日が沈むまで見ていたのかと驚く茶髪。
黒髪は手を強く掴んだ。
「ねえ」
「…うん?」
どこか期待に満ちた茶髪の瞳。
黒髪は回りの喧騒が遠くに聞こえた。
子供がはしゃいで走ってて、その後ろを仲の良さそうな夫婦が歩いていて、親から結婚を急かされている事を思い出した。
出会った頃、茶髪が「結婚願望がある」と言っていた事を思い出した。
このまま、彼の手を引いて連れ去りたくなった。
全てを投げ捨てて、二人だけで生きていきたくなった。
何の準備もしていないのに、いまここで、跪いて、俺が今、指にはめてる指輪を、婚約指輪の代わりにと言って差し出してしまおうかと考えた。
「お兄さんどした」
「俺、お前と」
「うん、俺と?」
「魯肉飯食べたい」
「また!?」
0
この作品の感想を投稿する
あなたにおすすめの小説
番に見つからない街で、子供を育てている
はちも
BL
目を覚ますと、腕の中には赤ん坊がいた。
異世界の青年ロアンとして目覚めた「俺」は、希少な男性オメガであり、子を産んだ母親だった。
現世の記憶は失われているが、
この子を守らなければならない、という想いだけははっきりと残っている。
街の人々に助けられ、魔石への魔力注入で生計を立てながら、
ロアンと息子カイルは、番のいない街で慎ましく暮らしていく。
だが、行方不明の番を探す噂が、静かに近づいていた。
再会は望まない。
今はただ、この子との生活を守りたい。
これは、番から逃げたオメガが、
選び直すまでの物語。
*不定期連載です。
愛してやまなかった婚約者は俺に興味がない
了承
BL
卒業パーティー。
皇子は婚約者に破棄を告げ、左腕には新しい恋人を抱いていた。
青年はただ微笑み、一枚の紙を手渡す。
皇子が目を向けた、その瞬間——。
「この瞬間だと思った。」
すべてを愛で終わらせた、沈黙の恋の物語。
IFストーリーあり
誤字あれば報告お願いします!
happy dead end
瑞原唯子
BL
「それでも俺に一生を捧げる覚悟はあるか?」
シルヴィオは幼いころに第一王子の遊び相手として抜擢され、初めて会ったときから彼の美しさに心を奪われた。そして彼もシルヴィオだけに心を開いていた。しかし中等部に上がると、彼はとある女子生徒に興味を示すようになり——。
殿下に婚約終了と言われたので城を出ようとしたら、何かおかしいんですが!?
krm
BL
「俺達の婚約は今日で終わりにする」
突然の婚約終了宣言。心がぐしゃぐしゃになった僕は、荷物を抱えて城を出る決意をした。
なのに、何故か殿下が追いかけてきて――いやいやいや、どういうこと!?
全力すれ違いラブコメファンタジーBL!
支部の企画投稿用に書いたショートショートです。前後編二話完結です。
運命じゃない人
万里
BL
旭は、7年間連れ添った相手から突然別れを告げられる。「運命の番に出会ったんだ」と語る彼の言葉は、旭の心を深く傷つけた。積み重ねた日々も未来の約束も、その一言で崩れ去り、番を解消される。残された部屋には彼の痕跡はなく、孤独と喪失感だけが残った。
理解しようと努めるも、涙は止まらず、食事も眠りもままならない。やがて「番に捨てられたΩは死ぬ」という言葉が頭を支配し、旭は絶望の中で自らの手首を切る。意識が遠のき、次に目覚めたのは病院のベッドの上だった。
オメガの復讐
riiko
BL
幸せな結婚式、二人のこれからを祝福するかのように参列者からは祝いの声。
しかしこの結婚式にはとてつもない野望が隠されていた。
とっても短いお話ですが、物語お楽しみいただけたら幸いです☆
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる