ミーミー

正君

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「下見にしてはなかなかに楽しかったね」
「うん」
 そう言いながら、茶髪の男は黒髪の男の手を引いた。
「あ、いや、あんま外でくっつくのは、パンダが」
「大丈夫だよ、旅は道連れ!世は情け!」
「お前それ使いどころちょっとおかしくないか」
「おかしくない!!」

 微笑む茶髪。
 二人は将来の下見と称して有給を全て使い、一週間の旅行に宛てた。

「パンダ寝てたな」
「寝てたね」
 茶髪は、黒髪の腕の中にいるパンダのぬいぐるみを見て微笑んだ。
「本当かわいかったね」
「かわいかった!ふわふわ!」
 まるで自分の赤ちゃんを抱き上げるかのように、大切に抱き上げている黒髪。

「パンダの持ち方ってね、首根っこ掴めばいいらしいよ」
「ダメだ、この子今寝てるから抱き締めてとんとんしなきゃ」
「かわい、名前は?」
「名前…」
 黒髪はパンダの頭を右手で撫でながら考えた。
 茶髪はパンダを少し羨ましく思った。

「…パンダの名前ってなんか、繰り返すよな」
「繰り返すね、かわいい」
「なら…ミーミー!」
「あら、かわい!」
「マジでミーミーちゃんいたら困るから調べとこ…」
「…………あかんミーミーっておっぱいって意味になるらしいで」
「あかんわやめな」



─────



「飯食いに行く?」
「そだね、で、帰って、寝たら、明日飛行機乗って…帰って…その次の日仕事……」
「やめろ…現実に戻すな…」

 ホテルに帰った二人は、職場や家族へのお土産をスーツケースにしまいながら、またくだらない話をし始めた。
二人のベッドに寝そべるパンダのぬいぐるみを見た茶髪は、少し不機嫌そうに、パンダへ掛け布団をかけた。

「パンダはお留守番ね!」
「当たり前だろ、子供に夜道は危ない」
 真剣な黒髪の声。茶髪は可愛くて笑ってしまった。
「なんかやけに真剣だね」
「当たり前だろ、俺らの子なんだし」
「え?」
「俺とお前の子だよ…」
 ウインクする黒髪、茶髪は目を見開いてから嬉しそうに微笑んだ。
 がすぐ不機嫌な表情に。

「俺との子?いや、俺人間なんだけど」
「え」
「まさかパンダと浮気したの」
「ち、ちがう!」
「この浮気者!!」
「誤解なんだ!あれは一晩だけで!」
「浮気男ー!!!」


─────


「晩飯なに食べよ」
「魯肉飯」
「朝と昼にも食べたじゃん、流石にダメ」
「なら火鍋」
「四日連続だよ、ダメ、流石にお腹痛い」
「そっか…なら断食だな、今日はなにも食べないということで」
「魯肉飯と火鍋の二択しかないのは何」
「あ、なら俺市場の食べ歩きしたい、動画で見たやつ」
「あ、それならいいかも」

 またくだらない話をしながら、二人は観光客やその土地に住まう人達で賑わう街を歩いていた。
 もしここに住んだら。
 ここでもし何年も過ごしたら。
 言語での問題や、その土地特有のマナー、法律があったとしても、仕事だったり家族だったりの問題がぶつかったとしても、二人で支え合えば生きていけそうだと、お互いが思っていた。

「また来ようね」
「もちろん」
 どちらからともなく、二人はいつの間にか手を繋いでいた。


─────


「なあこれバカうまいねんけど、食うてみる?」
「お前甘いもんばっか食ってんな、飽きないの」
「食わんのならええねん!わ!みて!夕日だ!」
「ツッコんでくれよ、お前は辛いもんばっか食ってんなって」
「ごめん、でも見て!バカきれい!!」
「口悪」
 黒髪は、茶髪の横顔を見た。
 夕日で輝く彼の瞳。夕日で赤く染まった横顔。
「…確かにバカきれい、これもバカうま」
「ね!」

 空がオレンジから青に変わった。
 日が沈むまで見ていたのかと驚く茶髪。
 黒髪は手を強く掴んだ。

「ねえ」
「…うん?」

 どこか期待に満ちた茶髪の瞳。
 黒髪は回りの喧騒が遠くに聞こえた。
 子供がはしゃいで走ってて、その後ろを仲の良さそうな夫婦が歩いていて、親から結婚を急かされている事を思い出した。
 出会った頃、茶髪が「結婚願望がある」と言っていた事を思い出した。

 このまま、彼の手を引いて連れ去りたくなった。
 全てを投げ捨てて、二人だけで生きていきたくなった。
 何の準備もしていないのに、いまここで、跪いて、俺が今、指にはめてる指輪を、婚約指輪の代わりにと言って差し出してしまおうかと考えた。

「お兄さんどした」
「俺、お前と」
「うん、俺と?」
「魯肉飯食べたい」
「また!?」
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