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非日常の日常
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「……カランカラン」
アタシは高橋という客が店を出た後カウンターを片付ける。会話もしたことのない彼の名前を何故知っているかというと。
「ちょっとアンタたちうるさいわよ!」
──だって高橋さん久しぶりだったんだもの──
──今日も面白かったわね~──
高橋さんの座っていた場所以外は満席だったのよ。ただ普通の人には見えないだけ。
この店「へぶん」は八百万の神々が集まるお店。人間界に遊びに来た神様たちが立ち寄り、人間っぽく飲んで騒ぐ場所。
──あそこまで鈍感というのもなかなか居らん──
──だからあんなにくつろげちゃうんだね──
神気が漏れ出しているこの店はまず人に見つかることはない。見つけるのはよっぽど霊感があるか全くないか。高橋さんは後者だった。
初めてこの店に来た時、おとなしくちょこんと座って飲む高橋さんにみんな興味を示していた。高橋さんが入って来たからか酔っ払い客が来てしまうハプニングが起こったけれど、高橋さんは静かに酒を飲んでいた。人工的な明かりを好まない神様も多く、店内はロウソクだけの暗い店なのによ。
人には見えない酒を飲んで酔った神様たちは面白がって高橋さんの心を覗き見し、それをアタシに言うものだから名前を知ってるワケ。
それにしても筋骨隆々の男ってヒドイわ。……確かにそうなんだけど、何か傷付くわ。
──まま、じゅうす──
子どもの神様もいるからソフトドリンクも充実させているし、メニューも読めるようにひらがなにしている。
元々場末のスナックの極みを目指してやった店だけど、たまたま入って来た神様に霊感があるのがバレたらどんどんと人間が来なくなり、代わりに神様たちが集まり始めた。「商売あがったりよ!」とブチまけたこともあるけど、そうしたら行く場所が無くなると困る神様の面々はギャンブル運をすこぶる上げてくれたおかげで、週末は競馬で稼いでいる。
──ねぇねぇ、高橋さんったら恋愛したいって言ってたよ──
──年頃の人間だし仕方ないけど……可哀想に──
可哀想と言うわりにはみんな笑って、ある女神を見ている。
──どういう意味よ?──
──いやいや、言葉のあやだ──
高橋さん自身も知らないだろうけど、ご先祖様は小さな神社の神主さんだったらしくて。高橋さんはその子孫らしい。そしてあの女神はそこに祀られていたそうだ。
──ようやく出会えたんだから私以外の女は許しません!──
大層大事に祀られていたらしく、高橋さんのご先祖様に感謝している。そしてとにかく鈍感な高橋さんを気に入ってしまい、縁結びの神なのに自分自身と縁を結びことごとく人間の女との出会いを弾いているらしい。
さらに厄除けの力も相当なもので、不幸で悩み多き高橋さんの厄を祓っている。それを知らない高橋さんはここに来ると運が良くなると思っているらしく、神様たちの酒の肴となっている。
ちなみに高橋さんが飲んでる酒はアタシが選んでいるんじゃなくて、この神様が選んでるのよね。それを旨いと感じるものだから喜ばせちゃってるのよ。
今日は彼女が欲しいと願かけしていたようだけど、それが叶うことはないわね。そしてまた悩みここに来て神様たちを楽しませてちょうだい。
「さあそろそろ店じまいよ!帰りなさいよ!」
──何を言っておる──
──夜明けまでは帰るつもりはない──
自分たちしか飲めない酒を持ち込んで一円も払わずに毎日毎日朝まで飲んで……。本当は疫病神なんじゃないかしら?
──何か良からぬことを思っているね?──
──今週の当たり馬券を教えないぞ?──
もう!みんなヒドイ!あ~ぁアタシも彼氏が欲しいわぁ……。
──絶対に無理だ──
思考を読まれて神様全員にそんなこと言われてさすがに傷付いたわ……。アタシも朝までヤケ酒よ……。
アタシは高橋という客が店を出た後カウンターを片付ける。会話もしたことのない彼の名前を何故知っているかというと。
「ちょっとアンタたちうるさいわよ!」
──だって高橋さん久しぶりだったんだもの──
──今日も面白かったわね~──
高橋さんの座っていた場所以外は満席だったのよ。ただ普通の人には見えないだけ。
この店「へぶん」は八百万の神々が集まるお店。人間界に遊びに来た神様たちが立ち寄り、人間っぽく飲んで騒ぐ場所。
──あそこまで鈍感というのもなかなか居らん──
──だからあんなにくつろげちゃうんだね──
神気が漏れ出しているこの店はまず人に見つかることはない。見つけるのはよっぽど霊感があるか全くないか。高橋さんは後者だった。
初めてこの店に来た時、おとなしくちょこんと座って飲む高橋さんにみんな興味を示していた。高橋さんが入って来たからか酔っ払い客が来てしまうハプニングが起こったけれど、高橋さんは静かに酒を飲んでいた。人工的な明かりを好まない神様も多く、店内はロウソクだけの暗い店なのによ。
人には見えない酒を飲んで酔った神様たちは面白がって高橋さんの心を覗き見し、それをアタシに言うものだから名前を知ってるワケ。
それにしても筋骨隆々の男ってヒドイわ。……確かにそうなんだけど、何か傷付くわ。
──まま、じゅうす──
子どもの神様もいるからソフトドリンクも充実させているし、メニューも読めるようにひらがなにしている。
元々場末のスナックの極みを目指してやった店だけど、たまたま入って来た神様に霊感があるのがバレたらどんどんと人間が来なくなり、代わりに神様たちが集まり始めた。「商売あがったりよ!」とブチまけたこともあるけど、そうしたら行く場所が無くなると困る神様の面々はギャンブル運をすこぶる上げてくれたおかげで、週末は競馬で稼いでいる。
──ねぇねぇ、高橋さんったら恋愛したいって言ってたよ──
──年頃の人間だし仕方ないけど……可哀想に──
可哀想と言うわりにはみんな笑って、ある女神を見ている。
──どういう意味よ?──
──いやいや、言葉のあやだ──
高橋さん自身も知らないだろうけど、ご先祖様は小さな神社の神主さんだったらしくて。高橋さんはその子孫らしい。そしてあの女神はそこに祀られていたそうだ。
──ようやく出会えたんだから私以外の女は許しません!──
大層大事に祀られていたらしく、高橋さんのご先祖様に感謝している。そしてとにかく鈍感な高橋さんを気に入ってしまい、縁結びの神なのに自分自身と縁を結びことごとく人間の女との出会いを弾いているらしい。
さらに厄除けの力も相当なもので、不幸で悩み多き高橋さんの厄を祓っている。それを知らない高橋さんはここに来ると運が良くなると思っているらしく、神様たちの酒の肴となっている。
ちなみに高橋さんが飲んでる酒はアタシが選んでいるんじゃなくて、この神様が選んでるのよね。それを旨いと感じるものだから喜ばせちゃってるのよ。
今日は彼女が欲しいと願かけしていたようだけど、それが叶うことはないわね。そしてまた悩みここに来て神様たちを楽しませてちょうだい。
「さあそろそろ店じまいよ!帰りなさいよ!」
──何を言っておる──
──夜明けまでは帰るつもりはない──
自分たちしか飲めない酒を持ち込んで一円も払わずに毎日毎日朝まで飲んで……。本当は疫病神なんじゃないかしら?
──何か良からぬことを思っているね?──
──今週の当たり馬券を教えないぞ?──
もう!みんなヒドイ!あ~ぁアタシも彼氏が欲しいわぁ……。
──絶対に無理だ──
思考を読まれて神様全員にそんなこと言われてさすがに傷付いたわ……。アタシも朝までヤケ酒よ……。
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