高橋 桃矢は知らずに不思議体験をしていました

Levi

文字の大きさ
2 / 2

非日常の日常

しおりを挟む
「……カランカラン」

  アタシは高橋という客が店を出た後カウンターを片付ける。会話もしたことのない彼の名前を何故知っているかというと。

「ちょっとアンタたちうるさいわよ!」

──だって高橋さん久しぶりだったんだもの──

──今日も面白かったわね~──

  高橋さんの座っていた場所以外は満席だったのよ。ただ普通の人には見えないだけ。
  この店「へぶん」は八百万の神々が集まるお店。人間界に遊びに来た神様たちが立ち寄り、人間っぽく飲んで騒ぐ場所。

──あそこまで鈍感というのもなかなか居らん──

──だからあんなにくつろげちゃうんだね──

  神気が漏れ出しているこの店はまず人に見つかることはない。見つけるのはよっぽど霊感があるか全くないか。高橋さんは後者だった。
  初めてこの店に来た時、おとなしくちょこんと座って飲む高橋さんにみんな興味を示していた。高橋さんが入って来たからか酔っ払い客が来てしまうハプニングが起こったけれど、高橋さんは静かに酒を飲んでいた。人工的な明かりを好まない神様も多く、店内はロウソクだけの暗い店なのによ。
  人には見えない酒を飲んで酔った神様たちは面白がって高橋さんの心を覗き見し、それをアタシに言うものだから名前を知ってるワケ。
  それにしても筋骨隆々の男ってヒドイわ。……確かにそうなんだけど、何か傷付くわ。

──まま、じゅうす──

  子どもの神様もいるからソフトドリンクも充実させているし、メニューも読めるようにひらがなにしている。

  元々場末のスナックの極みを目指してやった店だけど、たまたま入って来た神様に霊感があるのがバレたらどんどんと人間が来なくなり、代わりに神様たちが集まり始めた。「商売あがったりよ!」とブチまけたこともあるけど、そうしたら行く場所が無くなると困る神様の面々はギャンブル運をすこぶる上げてくれたおかげで、週末は競馬で稼いでいる。

──ねぇねぇ、高橋さんったら恋愛したいって言ってたよ──

──年頃の人間だし仕方ないけど……可哀想に──

  可哀想と言うわりにはみんな笑って、ある女神を見ている。

──どういう意味よ?──

──いやいや、言葉のあやだ──

  高橋さん自身も知らないだろうけど、ご先祖様は小さな神社の神主さんだったらしくて。高橋さんはその子孫らしい。そしてあの女神はそこに祀られていたそうだ。

──ようやく出会えたんだから私以外の女は許しません!──

  大層大事に祀られていたらしく、高橋さんのご先祖様に感謝している。そしてとにかく鈍感な高橋さんを気に入ってしまい、縁結びの神なのに自分自身と縁を結びことごとく人間の女との出会いを弾いているらしい。
  さらに厄除けの力も相当なもので、不幸で悩み多き高橋さんの厄を祓っている。それを知らない高橋さんはここに来ると運が良くなると思っているらしく、神様たちの酒の肴となっている。
  ちなみに高橋さんが飲んでる酒はアタシが選んでいるんじゃなくて、この神様が選んでるのよね。それを旨いと感じるものだから喜ばせちゃってるのよ。

  今日は彼女が欲しいと願かけしていたようだけど、それが叶うことはないわね。そしてまた悩みここに来て神様たちを楽しませてちょうだい。

「さあそろそろ店じまいよ!帰りなさいよ!」

──何を言っておる──

──夜明けまでは帰るつもりはない──

  自分たちしか飲めない酒を持ち込んで一円も払わずに毎日毎日朝まで飲んで……。本当は疫病神なんじゃないかしら?

──何か良からぬことを思っているね?──

──今週の当たり馬券を教えないぞ?──

  もう!みんなヒドイ!あ~ぁアタシも彼氏が欲しいわぁ……。

──絶対に無理だ──

  思考を読まれて神様全員にそんなこと言われてさすがに傷付いたわ……。アタシも朝までヤケ酒よ……。
しおりを挟む
感想 0

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

愛してやまなかった婚約者は俺に興味がない

了承
BL
卒業パーティー。 皇子は婚約者に破棄を告げ、左腕には新しい恋人を抱いていた。 青年はただ微笑み、一枚の紙を手渡す。 皇子が目を向けた、その瞬間——。 「この瞬間だと思った。」 すべてを愛で終わらせた、沈黙の恋の物語。   IFストーリーあり 誤字あれば報告お願いします!

むしゃくしゃしてやった、後悔はしていないがやばいとは思っている

F.conoe
ファンタジー
婚約者をないがしろにしていい気になってる王子の国とかまじ終わってるよねー

【完結】精霊に選ばれなかった私は…

まりぃべる
ファンタジー
ここダロックフェイ国では、5歳になると精霊の森へ行く。精霊に選んでもらえれば、将来有望だ。 しかし、キャロル=マフェソン辺境伯爵令嬢は、精霊に選んでもらえなかった。 選ばれた者は、王立学院で将来国の為になるべく通う。 選ばれなかった者は、教会の学校で一般教養を学ぶ。 貴族なら、より高い地位を狙うのがステータスであるが…? ☆世界観は、緩いですのでそこのところご理解のうえ、お読み下さるとありがたいです。

私のドレスを奪った異母妹に、もう大事なものは奪わせない

文野多咲
恋愛
優月(ゆづき)が自宅屋敷に帰ると、異母妹が優月のウェディングドレスを試着していた。その日縫い上がったばかりで、優月もまだ袖を通していなかった。 使用人たちが「まるで、異母妹のためにあつらえたドレスのよう」と褒め称えており、優月の婚約者まで「異母妹の方が似合う」と褒めている。 優月が異母妹に「どうして勝手に着たの?」と訊けば「ちょっと着てみただけよ」と言う。 婚約者は「異母妹なんだから、ちょっとくらいいじゃないか」と言う。 「ちょっとじゃないわ。私はドレスを盗られたも同じよ!」と言えば、父の後妻は「悪気があったわけじゃないのに、心が狭い」と優月の頬をぶった。 優月は父親に婚約解消を願い出た。婚約者は父親が決めた相手で、優月にはもう彼を信頼できない。 父親に事情を説明すると、「大げさだなあ」と取り合わず、「優月は異母妹に嫉妬しているだけだ、婚約者には異母妹を褒めないように言っておく」と言われる。 嫉妬じゃないのに、どうしてわかってくれないの? 優月は父親をも信頼できなくなる。 婚約者は優月を手に入れるために、優月を襲おうとした。絶体絶命の優月の前に現れたのは、叔父だった。

婚約者の番

ありがとうございました。さようなら
恋愛
私の婚約者は、獅子の獣人だ。 大切にされる日々を過ごして、私はある日1番恐れていた事が起こってしまった。 「彼を譲ってくれない?」 とうとう彼の番が現れてしまった。

処理中です...