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第2章 混乱 ― 過去と違う現在 ―
[23] イアン村へ――歪みの代償 ②
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フィリップが、沈黙を埋めるように口を開いた。
「ところで、ご家族は、アンナ嬢の帰宅を楽しみにしてらっしゃるのでしょうね」
「ええ、とても! そ、祖父も母も、ぴ、ピオニー様に来ていただけるのをとても楽しみにしております! あ! フィリップ様が、ご、ご一緒であることは、昨日、手紙を送りましたので……」
「いいのですよ。お気遣いは無用です」
フィリップは、アンナを見つめ、静かにそう言った。
私はつい、眉根を寄せた。アンナの頬が染まったから。
「あの……もしかして、アンナさんとフィリップ様は……私、恋愛感情には疎いものですから、ええと……お邪魔なのはフィリップ様ではなくて私なのでしょうか?」
私の発言でアンナは顔が赤くなり、フィリップは吹き出して大声で笑った。
「ピオニー嬢、アンナ嬢にはもう婚約者がいらっしゃいますよ」
「え?」
「は、はい……私にはジャン・イルという薬師見習の婚約者がおります」
「まあ。そうでしたの。それは失礼いたしました。村に着きましたら、ご挨拶できるのかしら」
「も、もちろんです。ぴ、ピオニー様からクィーン・ウシュの、ぶ、武勇談をお聞きたいと楽しみにしております」
私は心の中で苦笑いした。
「まあ! ご期待に応えられるかしら。漁夫の利をとったようなものですから」
「私も、ピオニー嬢からその話を聞きたいとずっと思っていたのですよ」
フィリップが身を乗り出した。
私は、どこまで真実を話せばよいのか、途端に困惑した。
「ぴ、ピオニー様の報告書には、に、2匹のクィーン・ウシュが戦い始め、互いが弱ったところでピオニー様が剣を振ったと書かれてました。で、でも、クィーン・ウシュが同じ場所に2匹も居るなんてあまりないことです」
「そうですよね? 私も商会の者からそう聞きまして……」
アンナもフィリップも目をキラキラさせて私を見た。
私は居たたまれなくなり、思わず視線を逸らした。
どうしようと思った矢先、馬車が、がたりと揺れ止まった。
窓から外を見ると辺りが急に暗くなっていた。
「何事だろう……」
フィリップの顔が引き締まった。
馬車の扉がノックされ、フィリップの侍従が顔を見せた。
「フィリップ様、嵐がくるようです」
フィリップは、馬車から出て、護衛の侍従たちと話し込んでいた。
天候の良し悪しは、何事にも重要だ。私も雲の色と流れが気になっていた。遠くで稲妻も光っている。
フィリップはうなずくと、馬車に戻り、私たちを見渡した。
「この先にデュラス伯爵家の空き家があります。そこに移動します」
私もアンナもうなずいた。
護衛も兼ねてもらっているわけだから、指揮者はフィリップに任せたほうがいい。
「デュ、デュラス領ということは、まだ、1/3の道のりですね。きょ、今日中には、む、無理ですね」
アンナは肩をすくめ、小さくため息を落とした。
フィリップは声を落として続けた。
「デュラス伯爵家も最近、当主が亡くなったばかりで、爵位が売りに出ているんです」
「跡継ぎがいなかったということですか」
私が尋ねるとフィリップが首を振った。
「いいえ、居たのですが、失踪したと聞いています」
私は、胸がざわついた。
誰かの死や失踪を耳にするたびに、私が誰かの人生を壊しているのではないか――そう思い、罪悪感に苛まれる。
それでも、私は引き返せない。
復讐を諦めるという選択肢がないからだ。
それにもかかわらず、私の胸の奥で、拭い切れぬ影が広がっていった。
「ところで、ご家族は、アンナ嬢の帰宅を楽しみにしてらっしゃるのでしょうね」
「ええ、とても! そ、祖父も母も、ぴ、ピオニー様に来ていただけるのをとても楽しみにしております! あ! フィリップ様が、ご、ご一緒であることは、昨日、手紙を送りましたので……」
「いいのですよ。お気遣いは無用です」
フィリップは、アンナを見つめ、静かにそう言った。
私はつい、眉根を寄せた。アンナの頬が染まったから。
「あの……もしかして、アンナさんとフィリップ様は……私、恋愛感情には疎いものですから、ええと……お邪魔なのはフィリップ様ではなくて私なのでしょうか?」
私の発言でアンナは顔が赤くなり、フィリップは吹き出して大声で笑った。
「ピオニー嬢、アンナ嬢にはもう婚約者がいらっしゃいますよ」
「え?」
「は、はい……私にはジャン・イルという薬師見習の婚約者がおります」
「まあ。そうでしたの。それは失礼いたしました。村に着きましたら、ご挨拶できるのかしら」
「も、もちろんです。ぴ、ピオニー様からクィーン・ウシュの、ぶ、武勇談をお聞きたいと楽しみにしております」
私は心の中で苦笑いした。
「まあ! ご期待に応えられるかしら。漁夫の利をとったようなものですから」
「私も、ピオニー嬢からその話を聞きたいとずっと思っていたのですよ」
フィリップが身を乗り出した。
私は、どこまで真実を話せばよいのか、途端に困惑した。
「ぴ、ピオニー様の報告書には、に、2匹のクィーン・ウシュが戦い始め、互いが弱ったところでピオニー様が剣を振ったと書かれてました。で、でも、クィーン・ウシュが同じ場所に2匹も居るなんてあまりないことです」
「そうですよね? 私も商会の者からそう聞きまして……」
アンナもフィリップも目をキラキラさせて私を見た。
私は居たたまれなくなり、思わず視線を逸らした。
どうしようと思った矢先、馬車が、がたりと揺れ止まった。
窓から外を見ると辺りが急に暗くなっていた。
「何事だろう……」
フィリップの顔が引き締まった。
馬車の扉がノックされ、フィリップの侍従が顔を見せた。
「フィリップ様、嵐がくるようです」
フィリップは、馬車から出て、護衛の侍従たちと話し込んでいた。
天候の良し悪しは、何事にも重要だ。私も雲の色と流れが気になっていた。遠くで稲妻も光っている。
フィリップはうなずくと、馬車に戻り、私たちを見渡した。
「この先にデュラス伯爵家の空き家があります。そこに移動します」
私もアンナもうなずいた。
護衛も兼ねてもらっているわけだから、指揮者はフィリップに任せたほうがいい。
「デュ、デュラス領ということは、まだ、1/3の道のりですね。きょ、今日中には、む、無理ですね」
アンナは肩をすくめ、小さくため息を落とした。
フィリップは声を落として続けた。
「デュラス伯爵家も最近、当主が亡くなったばかりで、爵位が売りに出ているんです」
「跡継ぎがいなかったということですか」
私が尋ねるとフィリップが首を振った。
「いいえ、居たのですが、失踪したと聞いています」
私は、胸がざわついた。
誰かの死や失踪を耳にするたびに、私が誰かの人生を壊しているのではないか――そう思い、罪悪感に苛まれる。
それでも、私は引き返せない。
復讐を諦めるという選択肢がないからだ。
それにもかかわらず、私の胸の奥で、拭い切れぬ影が広がっていった。
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