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第九章
教育的指導
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「……つんつん」
「うわぁ!」
考え込む俺の脇に柔らかい何かが当たり、強引に思考を中断させられた。振り返ると胸を突き出したレイさんがいる。
「ウチもおるで?」
「え? なんなんすか!?」
いやいるのは分かっていたが何の用だ? あと振り向かせるなら普通、指で肩や脇をつつくもんだが、今レイさんは何でツンツンした!?
「いやさびしそうな顔してたから。サービスも込めて」
何のどういうサービスだ!? と思ったが何でツンツンしたかも含めて追及すると不味い気がして俺は別の言葉を口にした。
「寂しいと言えばレイさんはどう? 家族との再会は久しぶりだろ?」
俺がそう訊ねるとレイさんは指を頬に当てて首を傾げる。
「そんなに久しぶりでもないし、学校もチームも賑やかやし特別な感慨はないかなあ? それに寂しいのは……」
と言って指を今度は自分の耳に当てる。
「ここ」
「ここ?」
「ウチもボナザさんみたいに、褒めて欲しいなー。得点取ったんやし」
レイさんはそう言いながら髪を掻き上げ、エルフの長い耳を完全に露出させる。
「気持ちとしては『取られてしまった』て感じなんだけど? 相手チームだったし。でもまあそうだね、ナイスゴールでした」
まだ映像では観てないんだけど、まあ方便として褒め言葉を送る。
「それだけ? なんかご褒美ないん?」
「いやいやたかだが練習試合の1点だろ?」
と返したものの、リーグ戦になっても彼女にはご褒美――出場給や得点、勝利ボーナスなど――は一切無い契約だ。この世界のリーグにそういう規約がある訳ではないが、身分がまだ学生の間は「強化指定選手」として報酬を与えない契約にしている。そのぶん学費や寮費、その他必要経費については払っている訳だしね。
「じゃあリーグ戦ならあるん?」
当然の用にレイさんはそう訊ねる。しまったな。
「いや、強化指定選手の間は無理だよ。そういう風にご両親も交えて説明したでしょ?」
側にいるフィーさんフェルさんをチラリと見ながら言う。
「そやっけ? じゃあさ、ショーキチ兄さんが自費で払ってよ?」
「え? 嫌だよ。ポケットマネーなんて。貧乏なんだし」
実際はドン引きするほどあるけど。
「別に、身体で払ってくれてもええねんで?」
予想通りと言うかなんと言うか、レイさんは怪しく微笑みながら身を寄せてくる。だが予想通りと言う以上、こっちには備えがあった。
「『補習の件をご両親に黙っておく』てのと取引では駄目かな?」
効いたようだ。レイさんは身体の動きを止めると、少し悪い顔になって呟く。
「……知ってたか。情報早いやん」
「細かい部分までは知らないけどね。ちょっと……」
俺はレイさんを少し離れた場所へ誘う。フィーさん達に聞かれないようにする為だ。
「まだ学校始まってそんなにだけど、大丈夫? 勉強難しいとか、地上での私生活が忙しいとか?」
と聞いておいて何だが、その辺のアドバイザーとして雇ったステフからは何の報告も無いな。
「え? 心配? ウチが夜の繁華街で男の子と遊んでへんか気になる?」
なんで嬉しそうな顔をするかなこの娘は! ……でもちょっと似合いそうとは思った。レイさん、夜の繁華街にいる女子高生っぽさはあるし。
「いや、学生の本分は『よく遊びよく学べ』だから遊ぶのは良いよ。むしろそういうのに免疫が無いままプロになる方が怖いし」
まあこの辺は指導者さんによって意見の異なる所ではあるけどね。地球でも本当にサッカー漬けにする監督もいれば、部員に彼女を作らせて「誰の彼女が一番可愛いか」を論評する先生までいる。
「へー。さすが一夫多妻制のショーキチ兄さん」
「違うわ!」
俺が一夫多妻制だ……というのは確かステフからの受け売りだ。あのエルフ、肝心な仕事はせず余計な事ばかり教えて!
「まあまあ。とう!」
俺が背を向け怒りの声を上げると、レイさんは少し跳ねて俺の背中に飛びつき肩越しに顔を覗き込んできた。
「ちょっとレイさん!?」
「ホンマの話、面白そうな自由選択講義があったから補習の枠で受けてただけやねん。夜の遊びは……落ち着いたら二人でしよーね?」
いやせえへんけど! というか周囲に気づかれたらとか背中に当たる柔らかい感触とかちょっとマズい!
「レイさん降りて! あ、その、選択講義って何の、ですか? 何か将来就きたい職業でも見つかりましたか?」
俺は冷静さを保つ為に大学の単位とか就職活動の思い出とか、気持ちが萎えるような事を考えながらレイさんを背中から降ろそうとする。
「就きたい職業なんて一つしかないやん。ショーキチ兄さんのお・よ・め・さ・ん。講義の方は女の秘密やからちょっと教えられへんなー」
レイさんは俺の手を巧みにかわしながら耳元で色っぽく囁いた。
「その代わり胸のサイズ教えよーか? でもショーキチ兄さん情報早いから、最近ワンサイズ大きくなったんも知ってるかなあ?」
本当に自分が情けないけどそれは知ってた! というか今さっき俺の背中が教えてくれた!
「くっ、こっちか!」
もう一つ知っている事があった。このドアの向こうは誰もいない廊下で、予備の椅子や長テーブルが並んでいる筈だ。俺は誰かに見られる前に目の前のドアを開け、廊下へ逃げ込んだ。
「えい」
「おう!」
背負う様な形になっていたレイさんの臀部をテーブルの上に置き、俺自身は素早くしゃがみ込む。流石に抱きついたままの体勢は保てずに、レイさんはテーブルに座った姿勢で取り残される。
「む……やるやん」
「じゃあ俺、会場に戻るんで!」
俺はとてもレイさんの顔を見る事ができず、再びドアを開けて廊下を去った。その後の懇親会の模様は、後日殆ど思い出す事ができなかった……。
「うわぁ!」
考え込む俺の脇に柔らかい何かが当たり、強引に思考を中断させられた。振り返ると胸を突き出したレイさんがいる。
「ウチもおるで?」
「え? なんなんすか!?」
いやいるのは分かっていたが何の用だ? あと振り向かせるなら普通、指で肩や脇をつつくもんだが、今レイさんは何でツンツンした!?
「いやさびしそうな顔してたから。サービスも込めて」
何のどういうサービスだ!? と思ったが何でツンツンしたかも含めて追及すると不味い気がして俺は別の言葉を口にした。
「寂しいと言えばレイさんはどう? 家族との再会は久しぶりだろ?」
俺がそう訊ねるとレイさんは指を頬に当てて首を傾げる。
「そんなに久しぶりでもないし、学校もチームも賑やかやし特別な感慨はないかなあ? それに寂しいのは……」
と言って指を今度は自分の耳に当てる。
「ここ」
「ここ?」
「ウチもボナザさんみたいに、褒めて欲しいなー。得点取ったんやし」
レイさんはそう言いながら髪を掻き上げ、エルフの長い耳を完全に露出させる。
「気持ちとしては『取られてしまった』て感じなんだけど? 相手チームだったし。でもまあそうだね、ナイスゴールでした」
まだ映像では観てないんだけど、まあ方便として褒め言葉を送る。
「それだけ? なんかご褒美ないん?」
「いやいやたかだが練習試合の1点だろ?」
と返したものの、リーグ戦になっても彼女にはご褒美――出場給や得点、勝利ボーナスなど――は一切無い契約だ。この世界のリーグにそういう規約がある訳ではないが、身分がまだ学生の間は「強化指定選手」として報酬を与えない契約にしている。そのぶん学費や寮費、その他必要経費については払っている訳だしね。
「じゃあリーグ戦ならあるん?」
当然の用にレイさんはそう訊ねる。しまったな。
「いや、強化指定選手の間は無理だよ。そういう風にご両親も交えて説明したでしょ?」
側にいるフィーさんフェルさんをチラリと見ながら言う。
「そやっけ? じゃあさ、ショーキチ兄さんが自費で払ってよ?」
「え? 嫌だよ。ポケットマネーなんて。貧乏なんだし」
実際はドン引きするほどあるけど。
「別に、身体で払ってくれてもええねんで?」
予想通りと言うかなんと言うか、レイさんは怪しく微笑みながら身を寄せてくる。だが予想通りと言う以上、こっちには備えがあった。
「『補習の件をご両親に黙っておく』てのと取引では駄目かな?」
効いたようだ。レイさんは身体の動きを止めると、少し悪い顔になって呟く。
「……知ってたか。情報早いやん」
「細かい部分までは知らないけどね。ちょっと……」
俺はレイさんを少し離れた場所へ誘う。フィーさん達に聞かれないようにする為だ。
「まだ学校始まってそんなにだけど、大丈夫? 勉強難しいとか、地上での私生活が忙しいとか?」
と聞いておいて何だが、その辺のアドバイザーとして雇ったステフからは何の報告も無いな。
「え? 心配? ウチが夜の繁華街で男の子と遊んでへんか気になる?」
なんで嬉しそうな顔をするかなこの娘は! ……でもちょっと似合いそうとは思った。レイさん、夜の繁華街にいる女子高生っぽさはあるし。
「いや、学生の本分は『よく遊びよく学べ』だから遊ぶのは良いよ。むしろそういうのに免疫が無いままプロになる方が怖いし」
まあこの辺は指導者さんによって意見の異なる所ではあるけどね。地球でも本当にサッカー漬けにする監督もいれば、部員に彼女を作らせて「誰の彼女が一番可愛いか」を論評する先生までいる。
「へー。さすが一夫多妻制のショーキチ兄さん」
「違うわ!」
俺が一夫多妻制だ……というのは確かステフからの受け売りだ。あのエルフ、肝心な仕事はせず余計な事ばかり教えて!
「まあまあ。とう!」
俺が背を向け怒りの声を上げると、レイさんは少し跳ねて俺の背中に飛びつき肩越しに顔を覗き込んできた。
「ちょっとレイさん!?」
「ホンマの話、面白そうな自由選択講義があったから補習の枠で受けてただけやねん。夜の遊びは……落ち着いたら二人でしよーね?」
いやせえへんけど! というか周囲に気づかれたらとか背中に当たる柔らかい感触とかちょっとマズい!
「レイさん降りて! あ、その、選択講義って何の、ですか? 何か将来就きたい職業でも見つかりましたか?」
俺は冷静さを保つ為に大学の単位とか就職活動の思い出とか、気持ちが萎えるような事を考えながらレイさんを背中から降ろそうとする。
「就きたい職業なんて一つしかないやん。ショーキチ兄さんのお・よ・め・さ・ん。講義の方は女の秘密やからちょっと教えられへんなー」
レイさんは俺の手を巧みにかわしながら耳元で色っぽく囁いた。
「その代わり胸のサイズ教えよーか? でもショーキチ兄さん情報早いから、最近ワンサイズ大きくなったんも知ってるかなあ?」
本当に自分が情けないけどそれは知ってた! というか今さっき俺の背中が教えてくれた!
「くっ、こっちか!」
もう一つ知っている事があった。このドアの向こうは誰もいない廊下で、予備の椅子や長テーブルが並んでいる筈だ。俺は誰かに見られる前に目の前のドアを開け、廊下へ逃げ込んだ。
「えい」
「おう!」
背負う様な形になっていたレイさんの臀部をテーブルの上に置き、俺自身は素早くしゃがみ込む。流石に抱きついたままの体勢は保てずに、レイさんはテーブルに座った姿勢で取り残される。
「む……やるやん」
「じゃあ俺、会場に戻るんで!」
俺はとてもレイさんの顔を見る事ができず、再びドアを開けて廊下を去った。その後の懇親会の模様は、後日殆ど思い出す事ができなかった……。
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