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第十一章
顔面の代償
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その後、俺達はナリンさんへ付き添うグループ(ポリンさん、ニャイアーコーチ)、対策を練るグループ(俺、ジノリコーチ、アカサオ、シャマーさん)、引き続きセットプレーの確認を行うグループ(それ以外の全員)に分かれる事となった。
シャマーさんを対策グループへ呼んだのは魔法の手鏡の修理をお願いする為でもあったが、残念ながら修復もデータの取り出しも不可能……という事だった。
「まあ王城なりアーロンの私のラボなりに持ち帰れば直せるかもしれないけどねー。急ぐんでしょ?」
「ええ、まあ……」
ステフとアカサオに危険な潜入工作を行わせ――予想通り空調制御室があり、ドワーフのお偉いさんに化けたサオリさんが技術員を呼び出しステフが中に入って操作を行った――ナリンさんを負傷させ、練習を邪魔した割に成果は微々たるものだった。
「俺の判断ミスだ。こんな事なら追究しなければ良かったです」
対策グループが陣取ったスタジアム内会議室の椅子の上で、俺は頭を抱えて俯いた。
「そう落ち込むでない。ドワーフ代表の策が分かっただけでも、価値はあったではないか?」
俺の後頭部をポンポンと叩きながらジノリコーチが言う。
「それに落ち込みたいのはワシの方じゃ! 昔の仲間たちがこんな小細工に走っているとわな! よもやよもやじゃ。穴があったら入りたい!」
言ってる内容とは逆にジノリコーチは煉獄、いや至極明るい口調でそう続けて笑った。
「どういう事? 話が見えないんだけど?」
不思議がるシャマーさんにアカリさんが事情を話す。俺はその間にジノリコーチの手を握って小さく感謝の弁を述べた。
「ふうんー」
説明を聞いたシャマーさんが何時もの様に唇を摘んで考え込む。
「分かった事は送風装置が存在すること、風のだいたいの高さ、強弱の変化があること、作動時に音がすること? くらいっすねー」
アカリさんが鱗に包まれた指を折りながら数える。
「分からない事は風の正確な高さ、高さの変化の有無、連続稼働時間、自分たちが気づいてない利用法があるか? すね」
今度は逆の手の指を折る。……今は両手ともアカリさんの制御下なのか。いや今はというか普段はどうなんだ? ゴルルグ族の双頭の蛇、アカリさんサオリさんの神経はどうなっているのか気になってきた。
「連続稼働時間は分からんが使うタイミングは予想できるぞ? 序盤も序盤、キックオフ直後じゃ。前も言ったじゃろ? 『序盤から猛攻をしかけて、ショーキチが何か策を弄する前に決める』と」
ジノリコーチがアカリさんの一本の指を示して言う。
「高さの変化はたぶんですけど無いんじゃないっすかねー。ステフさん曰く、そこまで細かい操作は無かったそうっし、アレ以外の高さはそんなに意味も機会も無い」
今度はアカリさんが自ら指を動かして言う。なるほど、確かにアレより上にボールが行くことは本当に滅多にないし、それより低いと流石に選手も気づくだろう。
「ねえねえ、正確な高さって知っておく必要ある? だってどうせ蹴ってくる高さがそれなんだし、相手が教えてくれるよ。しかもドワーフは生真面目でやる事が几帳面だし分かり易い」
生真面目でも分かり易くもないシャマーさんが続けて言った。
「そうか。別に全てが判明してないといけない訳じゃなかった……。分かっている事から絞って、やれる対策をすれば良いんだ」
みんなの言葉を聞いて、思考と希望が戻ってきた。
「序盤に最警戒するのはもちろんですが、他のタイミングも知りたい。観客席に何名か配置しましょう。あの時、装置が動く音を聞きましたよね? 観客席の方がそれが聞き取りやすい。もし聞こえたら、何か合図を送って貰いましょう」
もともとスタジアム上部にはアカサオを配置するつもりではあった。地球でもベンチで無線を使う事が許可されて以降、そういうスタッフを大っぴらに――と言うからには密かにやってたチームもいたという事である――準備するチームもある。だがサッカードウはそこまで分析に力をおいてない上に、無線及び無線通信に準ずる魔法がスタジアム内で禁止されているのもあり導入が進んでいないようだ。
という事は先に動けば俺たちにアドバンテージがあるという事でもある。
「どうやって合図を送るのじゃ?」
「本来は魔法のかかってない黒板とチョークで文字を書いて貰って、それを魔法のかかっていない望遠鏡で読み取る予定でした。でも風についてならそこまで細かいものでなくて良い。何か派手な色の布でも振って貰いましょう」
そもそも黒板でやりとりするにしても、開始の合図については布を振るつもりだった。その合図に気づけるよう専門の人員を配置する必要はあるが、そこはベンチ外の選手たちに頼ろう。
「高さはとりあえず、ニャイアーコーチの肩に立ったナリンの顔くらいの位置、って事ね。あの付近のボールは予想外に伸びたり急加速したりする可能性がある……って特にDF陣で共有しておくね」
「セットプレーも要注意じゃの。守りはもちろんじゃが、攻める時も予想外の動きになってしまうかもじゃ。ショートコーナーやトリックプレイを主体にした方が良いじゃろうな」
シャマーさんジノリコーチがそう続けた。
「ですね! じゃあアカリさんサオリさんは情報チームの選抜と割り振りを、シャマーさんジノリコーチはすぐ練習に戻ってその辺の共有をお願いします。俺も医務室のナリンさんを見たらすぐ行きますので!」
「あいよー」
「うっす」
アカリさんがピースサインをし、たぶんサオリさんが俺に向かって指で引き金を引いた。
「了解じゃ」
「うふふ。騙すつもりがバレててドワーフ代表、かわいそうー」
ジノリコーチが力強く頷き、シャマーさんが楽しげに笑う。一斉に皆が出て行こうとしたので、俺は慌てて彼女らを引き留めた。
シャマーさんを対策グループへ呼んだのは魔法の手鏡の修理をお願いする為でもあったが、残念ながら修復もデータの取り出しも不可能……という事だった。
「まあ王城なりアーロンの私のラボなりに持ち帰れば直せるかもしれないけどねー。急ぐんでしょ?」
「ええ、まあ……」
ステフとアカサオに危険な潜入工作を行わせ――予想通り空調制御室があり、ドワーフのお偉いさんに化けたサオリさんが技術員を呼び出しステフが中に入って操作を行った――ナリンさんを負傷させ、練習を邪魔した割に成果は微々たるものだった。
「俺の判断ミスだ。こんな事なら追究しなければ良かったです」
対策グループが陣取ったスタジアム内会議室の椅子の上で、俺は頭を抱えて俯いた。
「そう落ち込むでない。ドワーフ代表の策が分かっただけでも、価値はあったではないか?」
俺の後頭部をポンポンと叩きながらジノリコーチが言う。
「それに落ち込みたいのはワシの方じゃ! 昔の仲間たちがこんな小細工に走っているとわな! よもやよもやじゃ。穴があったら入りたい!」
言ってる内容とは逆にジノリコーチは煉獄、いや至極明るい口調でそう続けて笑った。
「どういう事? 話が見えないんだけど?」
不思議がるシャマーさんにアカリさんが事情を話す。俺はその間にジノリコーチの手を握って小さく感謝の弁を述べた。
「ふうんー」
説明を聞いたシャマーさんが何時もの様に唇を摘んで考え込む。
「分かった事は送風装置が存在すること、風のだいたいの高さ、強弱の変化があること、作動時に音がすること? くらいっすねー」
アカリさんが鱗に包まれた指を折りながら数える。
「分からない事は風の正確な高さ、高さの変化の有無、連続稼働時間、自分たちが気づいてない利用法があるか? すね」
今度は逆の手の指を折る。……今は両手ともアカリさんの制御下なのか。いや今はというか普段はどうなんだ? ゴルルグ族の双頭の蛇、アカリさんサオリさんの神経はどうなっているのか気になってきた。
「連続稼働時間は分からんが使うタイミングは予想できるぞ? 序盤も序盤、キックオフ直後じゃ。前も言ったじゃろ? 『序盤から猛攻をしかけて、ショーキチが何か策を弄する前に決める』と」
ジノリコーチがアカリさんの一本の指を示して言う。
「高さの変化はたぶんですけど無いんじゃないっすかねー。ステフさん曰く、そこまで細かい操作は無かったそうっし、アレ以外の高さはそんなに意味も機会も無い」
今度はアカリさんが自ら指を動かして言う。なるほど、確かにアレより上にボールが行くことは本当に滅多にないし、それより低いと流石に選手も気づくだろう。
「ねえねえ、正確な高さって知っておく必要ある? だってどうせ蹴ってくる高さがそれなんだし、相手が教えてくれるよ。しかもドワーフは生真面目でやる事が几帳面だし分かり易い」
生真面目でも分かり易くもないシャマーさんが続けて言った。
「そうか。別に全てが判明してないといけない訳じゃなかった……。分かっている事から絞って、やれる対策をすれば良いんだ」
みんなの言葉を聞いて、思考と希望が戻ってきた。
「序盤に最警戒するのはもちろんですが、他のタイミングも知りたい。観客席に何名か配置しましょう。あの時、装置が動く音を聞きましたよね? 観客席の方がそれが聞き取りやすい。もし聞こえたら、何か合図を送って貰いましょう」
もともとスタジアム上部にはアカサオを配置するつもりではあった。地球でもベンチで無線を使う事が許可されて以降、そういうスタッフを大っぴらに――と言うからには密かにやってたチームもいたという事である――準備するチームもある。だがサッカードウはそこまで分析に力をおいてない上に、無線及び無線通信に準ずる魔法がスタジアム内で禁止されているのもあり導入が進んでいないようだ。
という事は先に動けば俺たちにアドバンテージがあるという事でもある。
「どうやって合図を送るのじゃ?」
「本来は魔法のかかってない黒板とチョークで文字を書いて貰って、それを魔法のかかっていない望遠鏡で読み取る予定でした。でも風についてならそこまで細かいものでなくて良い。何か派手な色の布でも振って貰いましょう」
そもそも黒板でやりとりするにしても、開始の合図については布を振るつもりだった。その合図に気づけるよう専門の人員を配置する必要はあるが、そこはベンチ外の選手たちに頼ろう。
「高さはとりあえず、ニャイアーコーチの肩に立ったナリンの顔くらいの位置、って事ね。あの付近のボールは予想外に伸びたり急加速したりする可能性がある……って特にDF陣で共有しておくね」
「セットプレーも要注意じゃの。守りはもちろんじゃが、攻める時も予想外の動きになってしまうかもじゃ。ショートコーナーやトリックプレイを主体にした方が良いじゃろうな」
シャマーさんジノリコーチがそう続けた。
「ですね! じゃあアカリさんサオリさんは情報チームの選抜と割り振りを、シャマーさんジノリコーチはすぐ練習に戻ってその辺の共有をお願いします。俺も医務室のナリンさんを見たらすぐ行きますので!」
「あいよー」
「うっす」
アカリさんがピースサインをし、たぶんサオリさんが俺に向かって指で引き金を引いた。
「了解じゃ」
「うふふ。騙すつもりがバレててドワーフ代表、かわいそうー」
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