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第十二章
見せたくなかったもの
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「あ、まずい! ナリンさん、彼女を止めて下さい!」
「え!? あ、はい。ポリーン! ちょっと、あーナイスゴール……」
リーシャさんのゴールから10分後。ペナルティエリアすぐ外、ゴール真正面でポリンさんの右足から放たれたFKはドワーフの低い壁を軽く越え、GKの右手を弾き飛ばしてサイドネット内側に収まった。後半45分、1-7。
『ショーキチお兄ちゃん! やったよー!』
「あーよしよし……」
まっすぐベンチまで駆け寄り俺に抱きつくポリンさんを抱き止め、頭をなでる。ちょっと複雑な気持ちで。
何せこの前のリーシャさんのゴールで、試合はほぼ終わっていたのだ。ドワーフDFは前ハメとそれ以上の失点を恐れてかなりGK寄りに引き、しかしFWはせめて1点返そうと前に張り付き、中盤には広大なスペースができていた。
そうなるとこちらもこちらでそこまで引かれては前ハメはできず、無理もしたくないとあって中盤でボールキープをして時間を潰す気持ちになっていた。そして流石に色々と策を大放出したのが今更惜しくなり、せめてポリンさんのFKだけでも隠しておきたくなってもいた。
で、先ほどの俺とナリンさんの会話に戻る。FKを獲得しポリンさんがキッカーのポジションについたのを見て慌てて止めようとしたが、間に合わなかったのだ。
「ピピー!」
武士の情けかロスタイムはほぼとらず、審判さんが笛を吹いた。このままドワーフ側のキックオフさえ行わずに試合終了だ。
「はい、じゃあちゃんと整列して挨拶しておいで……と」
『ポリン、お疲れさま。最後までお行儀良くね』
『うん! 行ってくるよナリンちゃん!』
俺の言葉をナリンさんが伝え、選手達は中央に並んで頭を下げた。その後頭部――特にドワーフイレブンの方――に容赦ないブーイングが飛ぶのを聞きながら、俺はナリンさんジノリコーチを伴ってドワーフベンチ側へ歩む。
「お疲れさまでした。試合中はウチのGKがすみません。お身体は大丈夫ですか?」
俺はナリンさんジノリコーチを経由して労いと謝罪の言葉を述べ、ポビッチコーチと握手を交わす。
『大丈夫だ。アレはミスキックじゃろう? 選手のミスで苦しめられるのは監督の責務じゃ。まさか相手チームのミスで、とは思ったが』
ポビッチ監督がそう言いジノリコーチとナリンさんが通訳するのを聞いて、俺は思わず微笑んでしまった。このお爺さんやはり監督という人種らしい。
「そう言って頂けると助かります。では。リーグ戦での再戦を楽しみに待っています」
『うむ』
そう言って俺は再度手を握り、そこを去ろうとした。
『悔しいが……お主は達者でやっているようじゃな』
が、ふとポビッチ監督はジノリコーチに話しかけた。
『はい。あの、わしはけっして誑かされてエルフの元へ行ったのではなく……』
『分かっておる。わし悔しいのは、ヤツに引き抜かれたのが自分じゃなく、お主ということじゃ』
『は!? はぁ……』
互いに何言か言葉を交わしたドワーフ二名は、そこで泣き笑いのような表情を浮かべる。何だろう? まあプライベートな部分かもしれないし聞かなくて良いか。
『どうか今後とも、ジノリの事を宜しく頼む。良い所に嫁入りしたと思ってはおるが』
『なっ! 違うのじゃ!』
ポビッチ監督は続けて何か言ったが、ジノリコーチは顔を真っ赤にして通訳はしてくれない。だが次の言葉は伝えてくれた。
『あの怪我した勇敢なGKじゃが、彼女はちゃんと養生してから帰国させると良い。最高の治療士を紹介する。治療費も滞在費も我々が負担させて貰おう』
「それは……ありがとうございます!」
彼の申し出を聞いた俺とナリンさんは揃って頭を下げた。それを合図にポビッチ監督はその場を去り、俺達はエルフサポーターへ挨拶へ向かう選手達に合流すべく走り出した。
「あれ? レイさんは?」
最後までピッチに立っていた11名プラス交代で下がった選手達の中に彼女の姿は無かった。俺は周囲を見渡しながらナリンさんに尋ねる。
「『ほないってくるわ』と言って出て行ったそうであります」
「また? 自由だな……」
お風呂ではないだろうし、なんだろう? あと地球だと抜き打ちのドーピング検査があるから勝手に帰れないだろうけど、その辺も緩いんだなこの世界。
『揃った? じゃあ!』
そんな話をしていた俺達が横に並んだのを確認して、シャマーさんが号令をかけた。アローズのみんなはそれを合図にゴール裏に頭を下げ、エルフサポーター、そしてドワーフの観客達からも拍手が送られる。
『スゴかったぞー! 歴史的勝利!』
『ありがとーみんなー!』
歓声に無邪気に応えるユイノさんを観ているとこちらも顔が綻ぶのを感じる。急な出番にも関わらず大仕事をしてくれたもんだ。とは言え俺の方はこの後、ロッカールームで総括して記者会見に出て……と仕事がまだまだ残っているし何を話すか考えないといけないし、気を緩められないんだけどな。
『監督? 記者会見は25分後です。あと出席する選手ですが……』
そこへジノリコーチの叔母さん、ドワーフさんが手配してくれたコーディネーターさんが声をかけてきた。
「ショーキチ殿、25分後に記者会見、とのこと。あとダリオ姫とレイさんを伴って欲しいそうであります!」
ナリンさんがそう通訳する。
「分かりました。あ、でもレイさんいないんだよなあ。すみません、不在なので他の選手じゃ駄目ですか?」
俺が応えるとナリンさんとジノリコーチの叔母さんはしばらく話し合っていたが、やがて笑顔で握手を交わして別れた。
「大丈夫そうでした? 誰か決まりました?」
「はい! ユイノで良いそうであります!」
「へっ!? ユイノさん!?」
意外な選択だ。レイさんと同じ2得点なら、リストさんやリーシャさんもそうなのに。
「ユイノのセービングを高く評価したのかもしれないであります!」
いやそれはどうだろう? と思ったがGKについてはナリンさんの方が俺よりも数段、理解がある。たぶん彼女の言う事の方が正しいのだろう。なんならドワーフさんがユイノさんの見せた新しいGKスタイルに興味を持った可能性だってある。
俺はそんな事を考えながら、ロッカールームへ向かった。
「え!? あ、はい。ポリーン! ちょっと、あーナイスゴール……」
リーシャさんのゴールから10分後。ペナルティエリアすぐ外、ゴール真正面でポリンさんの右足から放たれたFKはドワーフの低い壁を軽く越え、GKの右手を弾き飛ばしてサイドネット内側に収まった。後半45分、1-7。
『ショーキチお兄ちゃん! やったよー!』
「あーよしよし……」
まっすぐベンチまで駆け寄り俺に抱きつくポリンさんを抱き止め、頭をなでる。ちょっと複雑な気持ちで。
何せこの前のリーシャさんのゴールで、試合はほぼ終わっていたのだ。ドワーフDFは前ハメとそれ以上の失点を恐れてかなりGK寄りに引き、しかしFWはせめて1点返そうと前に張り付き、中盤には広大なスペースができていた。
そうなるとこちらもこちらでそこまで引かれては前ハメはできず、無理もしたくないとあって中盤でボールキープをして時間を潰す気持ちになっていた。そして流石に色々と策を大放出したのが今更惜しくなり、せめてポリンさんのFKだけでも隠しておきたくなってもいた。
で、先ほどの俺とナリンさんの会話に戻る。FKを獲得しポリンさんがキッカーのポジションについたのを見て慌てて止めようとしたが、間に合わなかったのだ。
「ピピー!」
武士の情けかロスタイムはほぼとらず、審判さんが笛を吹いた。このままドワーフ側のキックオフさえ行わずに試合終了だ。
「はい、じゃあちゃんと整列して挨拶しておいで……と」
『ポリン、お疲れさま。最後までお行儀良くね』
『うん! 行ってくるよナリンちゃん!』
俺の言葉をナリンさんが伝え、選手達は中央に並んで頭を下げた。その後頭部――特にドワーフイレブンの方――に容赦ないブーイングが飛ぶのを聞きながら、俺はナリンさんジノリコーチを伴ってドワーフベンチ側へ歩む。
「お疲れさまでした。試合中はウチのGKがすみません。お身体は大丈夫ですか?」
俺はナリンさんジノリコーチを経由して労いと謝罪の言葉を述べ、ポビッチコーチと握手を交わす。
『大丈夫だ。アレはミスキックじゃろう? 選手のミスで苦しめられるのは監督の責務じゃ。まさか相手チームのミスで、とは思ったが』
ポビッチ監督がそう言いジノリコーチとナリンさんが通訳するのを聞いて、俺は思わず微笑んでしまった。このお爺さんやはり監督という人種らしい。
「そう言って頂けると助かります。では。リーグ戦での再戦を楽しみに待っています」
『うむ』
そう言って俺は再度手を握り、そこを去ろうとした。
『悔しいが……お主は達者でやっているようじゃな』
が、ふとポビッチ監督はジノリコーチに話しかけた。
『はい。あの、わしはけっして誑かされてエルフの元へ行ったのではなく……』
『分かっておる。わし悔しいのは、ヤツに引き抜かれたのが自分じゃなく、お主ということじゃ』
『は!? はぁ……』
互いに何言か言葉を交わしたドワーフ二名は、そこで泣き笑いのような表情を浮かべる。何だろう? まあプライベートな部分かもしれないし聞かなくて良いか。
『どうか今後とも、ジノリの事を宜しく頼む。良い所に嫁入りしたと思ってはおるが』
『なっ! 違うのじゃ!』
ポビッチ監督は続けて何か言ったが、ジノリコーチは顔を真っ赤にして通訳はしてくれない。だが次の言葉は伝えてくれた。
『あの怪我した勇敢なGKじゃが、彼女はちゃんと養生してから帰国させると良い。最高の治療士を紹介する。治療費も滞在費も我々が負担させて貰おう』
「それは……ありがとうございます!」
彼の申し出を聞いた俺とナリンさんは揃って頭を下げた。それを合図にポビッチ監督はその場を去り、俺達はエルフサポーターへ挨拶へ向かう選手達に合流すべく走り出した。
「あれ? レイさんは?」
最後までピッチに立っていた11名プラス交代で下がった選手達の中に彼女の姿は無かった。俺は周囲を見渡しながらナリンさんに尋ねる。
「『ほないってくるわ』と言って出て行ったそうであります」
「また? 自由だな……」
お風呂ではないだろうし、なんだろう? あと地球だと抜き打ちのドーピング検査があるから勝手に帰れないだろうけど、その辺も緩いんだなこの世界。
『揃った? じゃあ!』
そんな話をしていた俺達が横に並んだのを確認して、シャマーさんが号令をかけた。アローズのみんなはそれを合図にゴール裏に頭を下げ、エルフサポーター、そしてドワーフの観客達からも拍手が送られる。
『スゴかったぞー! 歴史的勝利!』
『ありがとーみんなー!』
歓声に無邪気に応えるユイノさんを観ているとこちらも顔が綻ぶのを感じる。急な出番にも関わらず大仕事をしてくれたもんだ。とは言え俺の方はこの後、ロッカールームで総括して記者会見に出て……と仕事がまだまだ残っているし何を話すか考えないといけないし、気を緩められないんだけどな。
『監督? 記者会見は25分後です。あと出席する選手ですが……』
そこへジノリコーチの叔母さん、ドワーフさんが手配してくれたコーディネーターさんが声をかけてきた。
「ショーキチ殿、25分後に記者会見、とのこと。あとダリオ姫とレイさんを伴って欲しいそうであります!」
ナリンさんがそう通訳する。
「分かりました。あ、でもレイさんいないんだよなあ。すみません、不在なので他の選手じゃ駄目ですか?」
俺が応えるとナリンさんとジノリコーチの叔母さんはしばらく話し合っていたが、やがて笑顔で握手を交わして別れた。
「大丈夫そうでした? 誰か決まりました?」
「はい! ユイノで良いそうであります!」
「へっ!? ユイノさん!?」
意外な選択だ。レイさんと同じ2得点なら、リストさんやリーシャさんもそうなのに。
「ユイノのセービングを高く評価したのかもしれないであります!」
いやそれはどうだろう? と思ったがGKについてはナリンさんの方が俺よりも数段、理解がある。たぶん彼女の言う事の方が正しいのだろう。なんならドワーフさんがユイノさんの見せた新しいGKスタイルに興味を持った可能性だってある。
俺はそんな事を考えながら、ロッカールームへ向かった。
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