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第十九章
闇で回されたもの
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考えれば簡単な事だった。選手達の湯上がり乱れ姿が目の毒なら、暗くして見えなくしてしまえば良い。俺にはエルフやドワーフやゴブリンの様な夜目も、ピット器官もない。暗かったら見えないのだ。
しかも『暗くしたのはスクリーンの映像を見え易くする為』という大義名分だってある。
「あいヨ!」
女将が指をパチンと鳴らすと、俺達の後方の壁に魔法の壁が現れ『ゴブリンチームの特色』というタイトルが流れた。同時に広間が一気に暗くなる。
「みんな、スクリーンも手元も見えるね? じゃあ食事しながらで良いから聞いてねー」
「「はーい!」」
ここにいる種族は、俺とザックコーチを除いて皆が暗闇でも見通す能力を持っている。ザックコーチだけやや不憫だが、彼のお膳の下も例の燃料が燃えており食べ物を口へ運ぶくらいは平気だろう。
俺は……どうせ説明が終わるまでは食べないつもりだったし。いやはや俺はなんと愚かだったのだ。暗かったら見ずに済む。その愚かさの代償として、多少の空腹は受け入れよう。
「では! 言うまでもなくゴブリンチーム攻略の鍵は『攻撃をどう止めるか?』にかかっています。今回は時間もないし、そこにポイントを置いて説明を……」
「……という方向で対処すれば問題ないでしょう。大丈夫、君たちならきっと勝てます」
20分後。プレゼンとしては実はあまり褒められた態度ではないのだが俺は極力スクリーンの方を向いて対策法を述べ、時折みえないまま選手達の方へ視線をやるフリをして口上をほぼ終えた。
「ただカーリー選手の攻め上がりだけは担当を決めておかないといけないので、ダリオさん!」
「はぁ~い!」
俺が呼びかけると暗闇の一角からやけに明るい返事が返ってきた。なんか軽いぞ本当にダリオさんか? 誰かがふざけて代返しているとかじゃないよな?
「あっ、動画は出さないしもう良いかな? 女将さん、灯りをつけて貰えますか?」
「ほいきタ!」
ここからは選手の顔をちゃんと見て話す方が良いだろう。俺がお願いすると女将さんの声がすぐ側で聞こえ、宴会場は再び明るくなった。
「ありがとうございます。えー、ゴブリン戦ではダリオさんにはFW、2TOPの片割れに入って貰いますが、カーリー選手が上がる場合はマンマークで……あれ? 聞いてます?」
俺はナリンさんと共に大きな作戦ボードをセットして当日のフォーメーションを示し、途中でダリオさんの方を向いた。そして、彼女がお膳の上に半ば倒れかかるような姿勢で話を聞いているのに気づいた。
「聞いてまふぅ~」
「え? どうしたのですか!? あ、良く見たら他の皆も!?」
一般的に言って、温泉に入って体が暖かさを保つのは良くて10分程度である。それは身体がエルフで温泉がゴブ院温泉でも変わりはない――そもそも効用は保湿や保温ではなく子宝と言うてたやんけ――筈だ。
ならば何故、選手達は湯上がり直後よりも今の方が肌が赤く火照っていて、ぐったりした様子で食卓に崩れたり寝転がったりしているのだ!?
「(もしかして食事に何か盛られた!?)」
俺はとてもそう思いたくなかったが、慌てて女将さんの姿を探す。
「いない!?」
「ん? どうしたんだショーキチ?」
俺がキョロキョロしているのを見て、瓢箪のようなモノから何かを飲んでいたステフが不思議そうに声をかけた。
「いや、女将さん何処へ行ったのかな? と」
「ああ、彼女には追加を取りに行って貰ってる。足らなくなったんでな」
ステフは瓢箪を完全に逆さにすると、片目でその中を覗き込みながら言った。
「取りにって……何を?」
そう言いながらも、俺はステフのその仕草に何となく察するものがあった。いや、ステフの仕草だけではない。選手達のこの状態や空気感を、俺は確かに知っている!
「あいヨ! 追加のゴブろくお待チ!」
そこへ女将が戻ってきた。彼女の両腕には抱えきれない程の瓢箪のようなモノが積み上げられている。
「あの、女将さん? ゴブろくって何ですか?」
見れば宴会場のあちらこちらにも空になったそれが転がっている。
「わーい! 追加来た~」
「おお、回せ回せ!」
何となく答えの想像がつく俺の横にユイノさんとティアさんがやってきて、女将さんの荷物の一部を奪って去る。
「ゴブろくはナ! ウォルス特産のにごり酒だゾ!」
女将はニコニコしながら他の選手たちにもゴブろくを渡していった。
「もしかして……俺が説明している間にみなさん呑んでた?」
「オウ! 晩酌には欠かせないからナ!」
「とっても美味しいのよ、ショウキチさーん」
いつの間にか近寄っていたダリオさんがそう言いながら俺に抱きつき、色っぽくしなだれかかりながらゴブろくを呑ませようとしてくる。
「ダメです! てかそもそも作戦会議中に飲酒なんて……」
「ええ~でもー」
目を際どい部分から、身体を正面から剃らそうとする俺をしっかりホールドし、ダリオさんは続けた。
「ちゃんと途中で許可を取ったわよね? 目、で」
ダリオさんはそう言って可愛らしくウインクをした。
「あっ!」
言われてみればしてたわ……。何となく当てずっぽうで、暗闇に向かって何度か頷いていた……。
「もう、ワガママなショウキチさん。口移しじゃないの呑まないなんて!」
言ってません! 誰か証明を……と助けを求めて見渡すが、他のコーチ陣もいつの間にか選手達に飲みハラを仕掛けられている!
「じゃあ、どうぞ……」
そう言うとダリオさんは一口ゴブろくを含み、俺に唇を合わせて一気に舌ごと突っ込んできた……。
しかも『暗くしたのはスクリーンの映像を見え易くする為』という大義名分だってある。
「あいヨ!」
女将が指をパチンと鳴らすと、俺達の後方の壁に魔法の壁が現れ『ゴブリンチームの特色』というタイトルが流れた。同時に広間が一気に暗くなる。
「みんな、スクリーンも手元も見えるね? じゃあ食事しながらで良いから聞いてねー」
「「はーい!」」
ここにいる種族は、俺とザックコーチを除いて皆が暗闇でも見通す能力を持っている。ザックコーチだけやや不憫だが、彼のお膳の下も例の燃料が燃えており食べ物を口へ運ぶくらいは平気だろう。
俺は……どうせ説明が終わるまでは食べないつもりだったし。いやはや俺はなんと愚かだったのだ。暗かったら見ずに済む。その愚かさの代償として、多少の空腹は受け入れよう。
「では! 言うまでもなくゴブリンチーム攻略の鍵は『攻撃をどう止めるか?』にかかっています。今回は時間もないし、そこにポイントを置いて説明を……」
「……という方向で対処すれば問題ないでしょう。大丈夫、君たちならきっと勝てます」
20分後。プレゼンとしては実はあまり褒められた態度ではないのだが俺は極力スクリーンの方を向いて対策法を述べ、時折みえないまま選手達の方へ視線をやるフリをして口上をほぼ終えた。
「ただカーリー選手の攻め上がりだけは担当を決めておかないといけないので、ダリオさん!」
「はぁ~い!」
俺が呼びかけると暗闇の一角からやけに明るい返事が返ってきた。なんか軽いぞ本当にダリオさんか? 誰かがふざけて代返しているとかじゃないよな?
「あっ、動画は出さないしもう良いかな? 女将さん、灯りをつけて貰えますか?」
「ほいきタ!」
ここからは選手の顔をちゃんと見て話す方が良いだろう。俺がお願いすると女将さんの声がすぐ側で聞こえ、宴会場は再び明るくなった。
「ありがとうございます。えー、ゴブリン戦ではダリオさんにはFW、2TOPの片割れに入って貰いますが、カーリー選手が上がる場合はマンマークで……あれ? 聞いてます?」
俺はナリンさんと共に大きな作戦ボードをセットして当日のフォーメーションを示し、途中でダリオさんの方を向いた。そして、彼女がお膳の上に半ば倒れかかるような姿勢で話を聞いているのに気づいた。
「聞いてまふぅ~」
「え? どうしたのですか!? あ、良く見たら他の皆も!?」
一般的に言って、温泉に入って体が暖かさを保つのは良くて10分程度である。それは身体がエルフで温泉がゴブ院温泉でも変わりはない――そもそも効用は保湿や保温ではなく子宝と言うてたやんけ――筈だ。
ならば何故、選手達は湯上がり直後よりも今の方が肌が赤く火照っていて、ぐったりした様子で食卓に崩れたり寝転がったりしているのだ!?
「(もしかして食事に何か盛られた!?)」
俺はとてもそう思いたくなかったが、慌てて女将さんの姿を探す。
「いない!?」
「ん? どうしたんだショーキチ?」
俺がキョロキョロしているのを見て、瓢箪のようなモノから何かを飲んでいたステフが不思議そうに声をかけた。
「いや、女将さん何処へ行ったのかな? と」
「ああ、彼女には追加を取りに行って貰ってる。足らなくなったんでな」
ステフは瓢箪を完全に逆さにすると、片目でその中を覗き込みながら言った。
「取りにって……何を?」
そう言いながらも、俺はステフのその仕草に何となく察するものがあった。いや、ステフの仕草だけではない。選手達のこの状態や空気感を、俺は確かに知っている!
「あいヨ! 追加のゴブろくお待チ!」
そこへ女将が戻ってきた。彼女の両腕には抱えきれない程の瓢箪のようなモノが積み上げられている。
「あの、女将さん? ゴブろくって何ですか?」
見れば宴会場のあちらこちらにも空になったそれが転がっている。
「わーい! 追加来た~」
「おお、回せ回せ!」
何となく答えの想像がつく俺の横にユイノさんとティアさんがやってきて、女将さんの荷物の一部を奪って去る。
「ゴブろくはナ! ウォルス特産のにごり酒だゾ!」
女将はニコニコしながら他の選手たちにもゴブろくを渡していった。
「もしかして……俺が説明している間にみなさん呑んでた?」
「オウ! 晩酌には欠かせないからナ!」
「とっても美味しいのよ、ショウキチさーん」
いつの間にか近寄っていたダリオさんがそう言いながら俺に抱きつき、色っぽくしなだれかかりながらゴブろくを呑ませようとしてくる。
「ダメです! てかそもそも作戦会議中に飲酒なんて……」
「ええ~でもー」
目を際どい部分から、身体を正面から剃らそうとする俺をしっかりホールドし、ダリオさんは続けた。
「ちゃんと途中で許可を取ったわよね? 目、で」
ダリオさんはそう言って可愛らしくウインクをした。
「あっ!」
言われてみればしてたわ……。何となく当てずっぽうで、暗闇に向かって何度か頷いていた……。
「もう、ワガママなショウキチさん。口移しじゃないの呑まないなんて!」
言ってません! 誰か証明を……と助けを求めて見渡すが、他のコーチ陣もいつの間にか選手達に飲みハラを仕掛けられている!
「じゃあ、どうぞ……」
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