376 / 700
第二十一章
リアルタイム解説
しおりを挟む
「トロールの基本戦術は『待ち』です。リーグにおいて、彼女らよりスタミナとコンタクトプレイに優れるチームは一つもない。守っては激しく当たり、攻めてはリスクの少ないパスを回して相手を動かし続け、相手の消耗を待つ。攻撃のスイッチを入れるのは前後半の20分以降、間を空けて40分以降、それと相手チームの誰かが痛んで倒れている時です」
書き慣れない炭で選手の並びを書くのには時間がかかる。俺は最初は選手名で書き出したが消して背番号に変え、更に場を繋ぐ為にトロール代表の分析済みのデータについて話した。
「驚くほど狡猾なプランですが、柔軟性は無い。さっき言った通りにしか動きません。ですからこちらも普段は無理に攻めずに体力を温存する。そして例のタイミングでしっかり守って、カウンターにかける」
コマンドバトルのRPGやアクションRPGのボスで、数ラウンドとか決まったモーションの後とかに大技を出してくるキャラっているじゃん? トロールチームはそんな相手だ。そして対策も同じ。その大ダメージ技が来る時はしっかり守る、その直後に全力で攻める。
「トロールはボールコントロールも巧みだし空中戦も強い。ですがシュートの精度が高い訳ではない。なので積極的にシュートを撃たせるべきです。DFはコースを限定するだけで身は投げ出さない事を徹底して」
シュートコースにDFがスライディングで滑り込んで何とか身体に当てて跳ね返す。非常に熱いシーンでDFの見せ場と言っても良い。
だがそれは続くピンチと表裏一体だ。至近距離で身体の何処かに衝突したボールは次にどう動くか読めず、側には倒れて死に体になったDFがいる。動きの上では邪魔だし単純に数の面では減ってしまう。
シュートブロック、という意識が染み着いた選手に『それをするな』と命じて徹底させるのは難しいモノがあるだろう。恐らくかなりのトレーニングがいる部分だ。
「攻撃はそのシュートをGKがキャッチした時、というのが最大のポイントになります。低いライナー性のパントキックで一気に裏返すのが理想ですが、安全に行くならサイドに渡して突破させても良い」
ここでようやくフォーメーションを書き終え、俺は左右の21番と8番――ツンカさんとエオンさんだ――を指さした。
「これ532なの?」
「13331と形容した方が良いかもしれません」
俺が示す図に影が差した。ふと見上げるとジャバさんが隣に立ち、画面とこちらを交互に見ている。長身の彼の顔は距離があって伺えないので気にせず続ける。
「守備はティアさんが真ん中にはいってガニアさんパリスさんのCBをコントロールします。両WBのツンカさんエオンさんも守備時はボランチのシノメさんに寄って自分たちもボランチ的に」
「ヨンとリーの若芽は……あっ!」
バートさんが言葉の途中でスクリーンの方へ見入る。トロール達が地響きを上げて攻撃に転じたからだ。画面右上の表示を見ると前半22分。思った通りだ。
「行けるから……辛抱強く……そう!」
トロール全体がパスを回しながらゆっくり上がる。恐らくジノリコーチが今日設定したゾーン、センターサークルとPAの間くらいでシノメさんとツンカさんがプレスをかけ、どちらとも言えないボールが後ろにこぼれた。
「って来てない!?」
しかし、そのボールを拾ったのはアローズではなくトロール3TOPのWGだった。本来であれば左SBがカバーしているエリアだ。だがガニアさんがコントロールするDFラインはいつもほど上がらず、ティアさんは慣れない左サイドをやっている。当然の帰結と言えた。
「せめてペナ外で競り合って……駄目か、くそ!」
遅ればせながら距離を詰めるティアさんの目の前で、そのトロールがクロスを上げる。そのターゲットとなったトロールのCFは、ガニアさんとパリスさんに挟み込まれるのをものともせずにボールを胸でコントロールし、落ち際を蹴り上げた。
「「ああっ!」」
デニス老公会の面々も一斉に悲鳴を上げる。トロールのシュートは延ばされたボナザさんの手をすり抜けてゴールネットの天井へ突き刺さった。 前半24分、0-1。
「どこまで言いましたっけ?」
「え? あ、ヨンの位置だけど……」
俺が声をかけるとバートさんは驚いた表情を見せ、思い出して言葉を紡いだ。
「ああ、『FWの位置が前後逆じゃないか?』て事ですよね? 確かにヨンさんが最前線でポストプレイをして、リーシャさんが前向きに進入していく形が理想ではあります。ですがトロール相手には……何ですか?」
バートさんが手元ではなく俺の顔を見ている事に気づき、俺は口を止めた。
「ずいぶん、ドライなんだね。失点したのに」
「ミスはありましたがそれは選手が一番、分かってますし。大げさに悔しがったり憤ったりするのも、その姿を見せる事がチームの役に立つなら見せますけど、ここでは無理ですからね」
あと現地にいれば自チームのどの選手が落ち込んでいて、相手チームのどの選手が調子に乗っているかなども見れるが、どちらにせよ中継頼みで現場を見渡せない現状ではどうしようもない。
「まあ、そうだけどさ」
俺の言葉に居心地の悪さを感じたのか、バートさんとジャバさんが少し身を捩った。
「いや、泣いて騒いで失点が取り消されるならしますけど、失ったモノは戻りませんから」
少しバートさんに申し訳なくなって、俺は泣きべそをかくフリをして彼女を笑わせにかかった。
「うん……」
しかし、その反応はかなり微妙なモノだった。
書き慣れない炭で選手の並びを書くのには時間がかかる。俺は最初は選手名で書き出したが消して背番号に変え、更に場を繋ぐ為にトロール代表の分析済みのデータについて話した。
「驚くほど狡猾なプランですが、柔軟性は無い。さっき言った通りにしか動きません。ですからこちらも普段は無理に攻めずに体力を温存する。そして例のタイミングでしっかり守って、カウンターにかける」
コマンドバトルのRPGやアクションRPGのボスで、数ラウンドとか決まったモーションの後とかに大技を出してくるキャラっているじゃん? トロールチームはそんな相手だ。そして対策も同じ。その大ダメージ技が来る時はしっかり守る、その直後に全力で攻める。
「トロールはボールコントロールも巧みだし空中戦も強い。ですがシュートの精度が高い訳ではない。なので積極的にシュートを撃たせるべきです。DFはコースを限定するだけで身は投げ出さない事を徹底して」
シュートコースにDFがスライディングで滑り込んで何とか身体に当てて跳ね返す。非常に熱いシーンでDFの見せ場と言っても良い。
だがそれは続くピンチと表裏一体だ。至近距離で身体の何処かに衝突したボールは次にどう動くか読めず、側には倒れて死に体になったDFがいる。動きの上では邪魔だし単純に数の面では減ってしまう。
シュートブロック、という意識が染み着いた選手に『それをするな』と命じて徹底させるのは難しいモノがあるだろう。恐らくかなりのトレーニングがいる部分だ。
「攻撃はそのシュートをGKがキャッチした時、というのが最大のポイントになります。低いライナー性のパントキックで一気に裏返すのが理想ですが、安全に行くならサイドに渡して突破させても良い」
ここでようやくフォーメーションを書き終え、俺は左右の21番と8番――ツンカさんとエオンさんだ――を指さした。
「これ532なの?」
「13331と形容した方が良いかもしれません」
俺が示す図に影が差した。ふと見上げるとジャバさんが隣に立ち、画面とこちらを交互に見ている。長身の彼の顔は距離があって伺えないので気にせず続ける。
「守備はティアさんが真ん中にはいってガニアさんパリスさんのCBをコントロールします。両WBのツンカさんエオンさんも守備時はボランチのシノメさんに寄って自分たちもボランチ的に」
「ヨンとリーの若芽は……あっ!」
バートさんが言葉の途中でスクリーンの方へ見入る。トロール達が地響きを上げて攻撃に転じたからだ。画面右上の表示を見ると前半22分。思った通りだ。
「行けるから……辛抱強く……そう!」
トロール全体がパスを回しながらゆっくり上がる。恐らくジノリコーチが今日設定したゾーン、センターサークルとPAの間くらいでシノメさんとツンカさんがプレスをかけ、どちらとも言えないボールが後ろにこぼれた。
「って来てない!?」
しかし、そのボールを拾ったのはアローズではなくトロール3TOPのWGだった。本来であれば左SBがカバーしているエリアだ。だがガニアさんがコントロールするDFラインはいつもほど上がらず、ティアさんは慣れない左サイドをやっている。当然の帰結と言えた。
「せめてペナ外で競り合って……駄目か、くそ!」
遅ればせながら距離を詰めるティアさんの目の前で、そのトロールがクロスを上げる。そのターゲットとなったトロールのCFは、ガニアさんとパリスさんに挟み込まれるのをものともせずにボールを胸でコントロールし、落ち際を蹴り上げた。
「「ああっ!」」
デニス老公会の面々も一斉に悲鳴を上げる。トロールのシュートは延ばされたボナザさんの手をすり抜けてゴールネットの天井へ突き刺さった。 前半24分、0-1。
「どこまで言いましたっけ?」
「え? あ、ヨンの位置だけど……」
俺が声をかけるとバートさんは驚いた表情を見せ、思い出して言葉を紡いだ。
「ああ、『FWの位置が前後逆じゃないか?』て事ですよね? 確かにヨンさんが最前線でポストプレイをして、リーシャさんが前向きに進入していく形が理想ではあります。ですがトロール相手には……何ですか?」
バートさんが手元ではなく俺の顔を見ている事に気づき、俺は口を止めた。
「ずいぶん、ドライなんだね。失点したのに」
「ミスはありましたがそれは選手が一番、分かってますし。大げさに悔しがったり憤ったりするのも、その姿を見せる事がチームの役に立つなら見せますけど、ここでは無理ですからね」
あと現地にいれば自チームのどの選手が落ち込んでいて、相手チームのどの選手が調子に乗っているかなども見れるが、どちらにせよ中継頼みで現場を見渡せない現状ではどうしようもない。
「まあ、そうだけどさ」
俺の言葉に居心地の悪さを感じたのか、バートさんとジャバさんが少し身を捩った。
「いや、泣いて騒いで失点が取り消されるならしますけど、失ったモノは戻りませんから」
少しバートさんに申し訳なくなって、俺は泣きべそをかくフリをして彼女を笑わせにかかった。
「うん……」
しかし、その反応はかなり微妙なモノだった。
0
あなたにおすすめの小説
スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活
昼寝部
ファンタジー
この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。
しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。
そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。
しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。
そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。
これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。
異世界転生目立ちたく無いから冒険者を目指します
桂崇
ファンタジー
小さな町で酒場の手伝いをする母親と2人で住む少年イールスに転生覚醒する、チートする方法も無く、母親の死により、実の父親の家に引き取られる。イールスは、冒険者になろうと目指すが、周囲はその才能を惜しんでいる
俺の家に異世界ファンタジーガチャが来た結果→現実世界で最強に ~極大に増えていくスキルの数が膨大になったので現実世界で無双します~
仮実谷 望
ファンタジー
ガチャを廻したいからそんな理由で謎の異世界ガチャを買った主人公はガチャを廻して自分を鍛えて、最強に至る。現実世界で最強になった主人公は難事件やトラブルを解決する。敵の襲来から世界を守るたった一人の最強が誕生した。そしてガチャの真の仕組みに気付く主人公はさらに仲間と共に最強へと至る物語。ダンジョンに挑戦して仲間たちと共に最強へと至る道。
ガチャを廻しまくり次第に世界最強の人物になっていた。
ガチャ好きすぎて書いてしまった。
最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。
MP
ファンタジー
高校2年の夏。
高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。
地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。
しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
【超速爆速レベルアップ】~俺だけ入れるダンジョンはゴールドメタルスライムの狩り場でした~
シオヤマ琴@『最強最速』発売中
ファンタジー
ダンジョンが出現し20年。
木崎賢吾、22歳は子どもの頃からダンジョンに憧れていた。
しかし、ダンジョンは最初に足を踏み入れた者の所有物となるため、もうこの世界にはどこを探しても未発見のダンジョンなどないと思われていた。
そんな矢先、バイト帰りに彼が目にしたものは――。
【自分だけのダンジョンを夢見ていた青年のレベリング冒険譚が今幕を開ける!】
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる