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第二十二章
過保護ごっこ
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以前、学校を訪れた際は何も考えず大勢で押し掛け騒ぎ、レイさんに気づかれて抱きつかれるという失態を犯した。その前は魔法学院の方へ視察へ行って、シャマーさんに気付かれ服を脱がされた。……まあ内通者もいたが。
だが俺はその内通者であるステフと違ってアホではないので、同じミスは繰り返さない。今度は見つかっても俺と思われないように変装して行く予定だったのだ。
「どちらかというと今のショーキチの方がアホみたいだぞ?」
心を読んだステフが鏡の前で付け耳を調整する俺の姿を見て言う。
「そういうステフだって。いつの時代の教育ママだよ」
俺は先に変装を終えたステフの姿――アップにした髪に三角の尖った眼鏡、真っ赤なスーツにシークレットブーツという出で立ちだ――を見て言い返す。彼女は吟遊詩人という仕事上、化粧や衣装換えに慣れていて先に終わってしまっていたのだ。
「いや、アータクシは完璧でございましてよ? ねえ、校長?」
ステフはさっそく口調を変え、俺たちを見ていた校長に訪ねる。
「ええ、ステフさんは素晴らしい出来です」
作戦にも変装を行う為の部屋の提供にも喜んで協力してくれた校長は、笑いを堪えながら言った。
「あ、ショーキチ殿も」
俺と目が合った校長、ナモリンという名の年輩のデイエルフ――例によって凄い年齢の筈だが20代の女性にしか見えない。デイエルフ恒例の黒く長い髪はつやつやしていて、鼻筋は尖り肌もきめ細やかだ――は慌ててそれを付け足した。
「いや実は駄目なんでしょ? でもまあ適当な所で妥協しなきゃ……」
俺は作戦基地として与えられた校長室の窓から外を見ながら言った。見下ろす校庭から、生徒達が校舎へ戻って行く。ちょうど昼休みが終わったのだ。
「ええ、要はショーキチ殿に見えなければ良い訳ですから」
ナモリン校長とは何度も面談した間柄だ。チーム関係者ほどではないが、そこそこ俺を知っていると言える。そんな彼女が変装後の俺を俺と思わなければ、最低限の合格ラインはクリアしたと言えるだろう。
「アナタ、髪をこうして……接着部を隠すザマス。ほらこれで!」
見かねたステフも手を貸し、なんとか心……もとい変装が整う。
「まあ、良いのではないでしょうか?」
「だな。であるザマス」
校長とステフが完成した俺を見て頷き遭った。いやこれはまったく安心できないな!
「設定を確認しておくぞ。ステフ?」
「ええ。アタクシどもはドラ息子スワ夫の転校先として見学へ来たエルフの夫婦ザマス。夫のボーンは会社社長、妻のリバーは専業主婦ザマス」
「会社の事業は?」
「貿易」
「兄弟は?」
「スワツグ。だた叔父さんの養子になって近くにはいないザマス」
うん、すらすらと出てきたな。なら大丈夫か?
「じゃあ先生、お願いします」
俺は最後にデニス老公会に着せられたようなゆったりしたローブを羽織り校長へ呼びかけた。ナモリンさんもステフも力強く頷く。
さあ、まずは授業中のレイさんの様子から確認だ。
「失礼します。ご子息の転校を検討されているご夫婦を案内しています。邪魔はしませんのでそのまま授業を続けて下さい」
俺たちを誘って教室へ入った校長は、スラスラとそう言ってのけた。って言ってのけたもなにも、実際にたまにある事らしく、そこそこ言い慣れているのだ。
「分かりました。みなさん、ご挨拶は~?」
「「こんにちは! ようこそ学院へ!」」
教壇に立っていた紫髪のドーンエルフさん――因みに担当は魔法理論初級で今まさにその授業を始めた所だ――がそう言って呼びかけると、生徒のみなさんは朗らかにそう挨拶してくれた。
エルフ、人間、ノームにガンス族と言った真面目に勉強しそうな種族に加え、ゴブリンもいる。みな昼食後の眠い時間というのに元気な声だ。
「ホッホッホ、どうも、こんにちは」
俺は意識して低い貫禄がありそうな声を作って挨拶を返した。コールセンター勤務の経験で養った自前ボイスチェンジャーだ。なかなか貫禄のある社長っぽい感じだろう。
「どうも! よい子ばかりのようザマスね」
ステフはニッコリと微笑み、俺に囁きかけたようにみせてみんなに聞こえる音量で言った。
「じゃあ授業を続けるね~。今の奥さんみたいな声で詠唱できたらもう初級じゃないんだけどね~」
教師のドーンエルフさんがそう言って一笑い誘い、授業が再開された。生徒さんたちの視線がみな教壇へ向いたので俺は安心してレイさんの方を見る。
「(おうふ!)」
ところが、俺とレイさんの視線はバッチリあった。それどころか満面の笑みで会釈を送ってくる。
因みに彼女の席は教室最後方の窓際、俺たちは後方入り口付近。まあまあ意図的に首を回さないとこっちを見れない筈である。
「(なぜこっちを見ているんだ? 真面目に授業を受けなくて良い理由でもあるのか!?)」
レイさんが不良になってしまった場合の懸念の一つがそれであった。もともと入学直後から男子にモテていたらしいが、最近はさらに男子を手玉に取る事が上手くなったと聞く。そうなると宿題やレポートを自分に惚れている男子にやらせたり、先生を籠絡したりして回避している可能性がある。
それでは何の為に学校へ行って貰っているのか分からないではないか!
「(ショーキチ、どうした?)」
「(それが……あ、いや……)」
心に直接語りかけてきたステフに返事しようとした途端、レイさんはさっと前を向いて真面目にノートに筆記を始めた。その後も数分、盗み見したがどうやら真剣に授業を受けているようだ。
「それではご夫妻、行きましょうか?」
もう少し見たい所だが一つの教室にヨドコウ、いや長居しては怪しまれる。俺は校長の薦めに従ってレイさんのクラスから退出した。
どうやら授業中はそこそこちゃんとしている様だ。あとは休み時間の確認だな……。
第二十二章:完
だが俺はその内通者であるステフと違ってアホではないので、同じミスは繰り返さない。今度は見つかっても俺と思われないように変装して行く予定だったのだ。
「どちらかというと今のショーキチの方がアホみたいだぞ?」
心を読んだステフが鏡の前で付け耳を調整する俺の姿を見て言う。
「そういうステフだって。いつの時代の教育ママだよ」
俺は先に変装を終えたステフの姿――アップにした髪に三角の尖った眼鏡、真っ赤なスーツにシークレットブーツという出で立ちだ――を見て言い返す。彼女は吟遊詩人という仕事上、化粧や衣装換えに慣れていて先に終わってしまっていたのだ。
「いや、アータクシは完璧でございましてよ? ねえ、校長?」
ステフはさっそく口調を変え、俺たちを見ていた校長に訪ねる。
「ええ、ステフさんは素晴らしい出来です」
作戦にも変装を行う為の部屋の提供にも喜んで協力してくれた校長は、笑いを堪えながら言った。
「あ、ショーキチ殿も」
俺と目が合った校長、ナモリンという名の年輩のデイエルフ――例によって凄い年齢の筈だが20代の女性にしか見えない。デイエルフ恒例の黒く長い髪はつやつやしていて、鼻筋は尖り肌もきめ細やかだ――は慌ててそれを付け足した。
「いや実は駄目なんでしょ? でもまあ適当な所で妥協しなきゃ……」
俺は作戦基地として与えられた校長室の窓から外を見ながら言った。見下ろす校庭から、生徒達が校舎へ戻って行く。ちょうど昼休みが終わったのだ。
「ええ、要はショーキチ殿に見えなければ良い訳ですから」
ナモリン校長とは何度も面談した間柄だ。チーム関係者ほどではないが、そこそこ俺を知っていると言える。そんな彼女が変装後の俺を俺と思わなければ、最低限の合格ラインはクリアしたと言えるだろう。
「アナタ、髪をこうして……接着部を隠すザマス。ほらこれで!」
見かねたステフも手を貸し、なんとか心……もとい変装が整う。
「まあ、良いのではないでしょうか?」
「だな。であるザマス」
校長とステフが完成した俺を見て頷き遭った。いやこれはまったく安心できないな!
「設定を確認しておくぞ。ステフ?」
「ええ。アタクシどもはドラ息子スワ夫の転校先として見学へ来たエルフの夫婦ザマス。夫のボーンは会社社長、妻のリバーは専業主婦ザマス」
「会社の事業は?」
「貿易」
「兄弟は?」
「スワツグ。だた叔父さんの養子になって近くにはいないザマス」
うん、すらすらと出てきたな。なら大丈夫か?
「じゃあ先生、お願いします」
俺は最後にデニス老公会に着せられたようなゆったりしたローブを羽織り校長へ呼びかけた。ナモリンさんもステフも力強く頷く。
さあ、まずは授業中のレイさんの様子から確認だ。
「失礼します。ご子息の転校を検討されているご夫婦を案内しています。邪魔はしませんのでそのまま授業を続けて下さい」
俺たちを誘って教室へ入った校長は、スラスラとそう言ってのけた。って言ってのけたもなにも、実際にたまにある事らしく、そこそこ言い慣れているのだ。
「分かりました。みなさん、ご挨拶は~?」
「「こんにちは! ようこそ学院へ!」」
教壇に立っていた紫髪のドーンエルフさん――因みに担当は魔法理論初級で今まさにその授業を始めた所だ――がそう言って呼びかけると、生徒のみなさんは朗らかにそう挨拶してくれた。
エルフ、人間、ノームにガンス族と言った真面目に勉強しそうな種族に加え、ゴブリンもいる。みな昼食後の眠い時間というのに元気な声だ。
「ホッホッホ、どうも、こんにちは」
俺は意識して低い貫禄がありそうな声を作って挨拶を返した。コールセンター勤務の経験で養った自前ボイスチェンジャーだ。なかなか貫禄のある社長っぽい感じだろう。
「どうも! よい子ばかりのようザマスね」
ステフはニッコリと微笑み、俺に囁きかけたようにみせてみんなに聞こえる音量で言った。
「じゃあ授業を続けるね~。今の奥さんみたいな声で詠唱できたらもう初級じゃないんだけどね~」
教師のドーンエルフさんがそう言って一笑い誘い、授業が再開された。生徒さんたちの視線がみな教壇へ向いたので俺は安心してレイさんの方を見る。
「(おうふ!)」
ところが、俺とレイさんの視線はバッチリあった。それどころか満面の笑みで会釈を送ってくる。
因みに彼女の席は教室最後方の窓際、俺たちは後方入り口付近。まあまあ意図的に首を回さないとこっちを見れない筈である。
「(なぜこっちを見ているんだ? 真面目に授業を受けなくて良い理由でもあるのか!?)」
レイさんが不良になってしまった場合の懸念の一つがそれであった。もともと入学直後から男子にモテていたらしいが、最近はさらに男子を手玉に取る事が上手くなったと聞く。そうなると宿題やレポートを自分に惚れている男子にやらせたり、先生を籠絡したりして回避している可能性がある。
それでは何の為に学校へ行って貰っているのか分からないではないか!
「(ショーキチ、どうした?)」
「(それが……あ、いや……)」
心に直接語りかけてきたステフに返事しようとした途端、レイさんはさっと前を向いて真面目にノートに筆記を始めた。その後も数分、盗み見したがどうやら真剣に授業を受けているようだ。
「それではご夫妻、行きましょうか?」
もう少し見たい所だが一つの教室にヨドコウ、いや長居しては怪しまれる。俺は校長の薦めに従ってレイさんのクラスから退出した。
どうやら授業中はそこそこちゃんとしている様だ。あとは休み時間の確認だな……。
第二十二章:完
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