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第二十五章
乱入の代償
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「ゴルルグ族代表5番、得点機会の阻止でイエローカード。ペナルティキックをエルフ代表に与えます。エルフ代表監督、許可を得ないピッチへの乱入と治療行為によりレッドカード。退場です」
呆然としている俺に、ベノワさんが優しい声で言った。いやそんな内容でドラゴンの話し方で、優しいとかどうとか分かるのか? という感じだが確かに優しさを受け取ったのだ。
「それはそれとして治療行為は認めます。スタッフをお呼びなさい。彼女の様子はどうです? やはり漏ら……」
「あ、いえ、大丈夫です。リーシャさん、あとちょっとだけ這ってピッチの外へ行こうか? 腰でこれを巻こうね?」
俺は審判さんに適当に返し、ジェスチャーでリーシャさんに問いかける。反則タックルを喰らった時の衝撃から復活した彼女は俺に目で返事し、片手で腰の布を抑え片手を地面に置きながらエンドラインの向こうまで四つん這い、いや三つん這いで進んで行った。
『監督、リーシャはどうだ?』
「ショーキチ殿! どういう状況ですか!?」
ベノワさんの身振りを受けてから駆けてきたザックコーチとナリンさんがその場へ到着してそれぞれに問う。
「プレイは続行不可能ですけど、大惨事ではないです」
引っ張っても仕方ないのですぐに正直に伝える。
「つまり漏らしてないです。でもオムツの吸水素材が破けて飛び散って、なんともグチャグチャで。引き上げるしかないですね」
俺がそう伝えるとナリンさんは素早くザックコーチに通訳しつつ、疑問の表情を浮かべた。あ、彼女たちには言ってなかったなかな?
「えっと、ルーナさんのアイデアで特殊なオムツを念のために穿いていたんですよ。でタックルを喰らった際に、それが破裂してパンツの中からそとから……」
俺は布を持ち上げた時に目にした様子を思い出しながら言った。排泄物にしてはやけに綺麗で臭いもない軟体物が、リーシャさんの太股あたりに垂れている風景を、だ。
『コレがクッションになったから痛みはそれほどなんだけど……気持ち悪くて無理……』
リーシャさんがその気の強そうな眉を顰めて何か言った。恐らくだが、珍しく弱音を吐いているのだろう。森の奥深くで獲物を追う時は垂れ流しながら狩りをするハンターも、スタジアムで下腹部に謎の素材を張り付けてサッカードウを続けるのは難しいようだ。
「それと、俺も退場です。指示は……出したらダメみたいです。すみません、後はお任せします」
続けるのが難しいと言えば、俺も退場を喰らって指揮をとり続けるのは無理だった。しかも審判さんが近くで目を光らせており、この場で何か助言を残すのも許されない様だ。
「そんな! 無体であります! 本来なら自分たちが……」
ナリンさんが悔しそうに呟く。彼女の言う通りフィールドの選手がそっち方面の意味で危険を迎えたら、ナリンさんかニャイアーコーチが飛び出す予定であった。しかしナリンさんはザックコーチを抑え、ニャイアーコーチはエルエルを呼びに行って帰ってきた所だった。俺が行くしかない状況だったのだ。
「はい、行きますよー」
ナリンさんには、審判さんへの抗議も俺とのやりとりもさせるわけにはいかない。俺は大袈裟に宣言しながら、リーシャさんと共にピッチの外周を回ってコンコースへ向かった。
恐らくPKで逆転だし、リーシャさんの代わりにエルエルが入る。そうすれば守備固めで逃げきれる筈だ。そう予想した俺は演技ではなく本気の笑顔でスタッフと別れの挨拶をかわしピッチを後にした。
控え選手用の別室で待っていたユイノさんは、普段のノンビリした性格からは考えられない程の暗い顔をしていた。
「大丈夫ですよ、リーシャさんはオムツが破れただけで」
そう言えば親友想いであるのも彼女の特徴の一つだったな、と思いながら俺は控えGKに声をかける。ここはもうピッチから遠いので、魔法のアミュレットが俺の言葉を通訳して伝えてくれた筈だ。
「監督、それがね……」
安心させるニュアンスが伝わってなかったのか、それに応えるユイノさんの表情は曇ったままだった。
「どうしたのユイノ?」
「PK、リストさんが失敗しちゃった」
リーシャさんの問いにユイノさんが簡潔に答える。
「えっ、嘘でしょ!? ああっ、せめて私が蹴ってから交代すれば良かった……!」
「リーシャさんそれは無理でしょ!? いやそれよりユイノさん、どういう状況で?」
悔しそうに壁を叩いてそう言うリーシャさんにツッコミつつ、俺はユイノさんに説明を求めた。因みに状況的に無理なのは当然だが、
「ファウルを受けた選手はそれで得たPKを蹴らない」
という取り決め――ファウルを受けた選手は冷静さを失いがちだし、身体の何処かを痛めている事もある。故に失敗する可能性があるので、できるだけ蹴らしたくない――もチームにはあるので、このFWはどのみちPKを蹴れなかったのだが。
「キッカーはすんなりリストさんに決まって、気合い十分って感じだったんだけど……。あ、あっちの部屋の魔法板がもいっかい、リプレイ流すかもしれない。一緒に見よ?」
ユイノさんは説明を始めたが、早々に放棄して俺たちに自分の目で確かめる事を求めた。なんだ? 何か言い難い事でもあったか?
「じゃあ。リーシャさん、まだ大丈夫?」
「うん。見てから着替える」
俺はリーシャさんが気持ち悪さにまだ耐えられるか聞いたが、彼女は気丈にも俺の心配を一蹴した。それならば口下手なユイノさんから詳細を聞くより見る方が良かろう、と監督もFWも納得し、俺たち三人は隣の部屋へ移動する事となった……。
呆然としている俺に、ベノワさんが優しい声で言った。いやそんな内容でドラゴンの話し方で、優しいとかどうとか分かるのか? という感じだが確かに優しさを受け取ったのだ。
「それはそれとして治療行為は認めます。スタッフをお呼びなさい。彼女の様子はどうです? やはり漏ら……」
「あ、いえ、大丈夫です。リーシャさん、あとちょっとだけ這ってピッチの外へ行こうか? 腰でこれを巻こうね?」
俺は審判さんに適当に返し、ジェスチャーでリーシャさんに問いかける。反則タックルを喰らった時の衝撃から復活した彼女は俺に目で返事し、片手で腰の布を抑え片手を地面に置きながらエンドラインの向こうまで四つん這い、いや三つん這いで進んで行った。
『監督、リーシャはどうだ?』
「ショーキチ殿! どういう状況ですか!?」
ベノワさんの身振りを受けてから駆けてきたザックコーチとナリンさんがその場へ到着してそれぞれに問う。
「プレイは続行不可能ですけど、大惨事ではないです」
引っ張っても仕方ないのですぐに正直に伝える。
「つまり漏らしてないです。でもオムツの吸水素材が破けて飛び散って、なんともグチャグチャで。引き上げるしかないですね」
俺がそう伝えるとナリンさんは素早くザックコーチに通訳しつつ、疑問の表情を浮かべた。あ、彼女たちには言ってなかったなかな?
「えっと、ルーナさんのアイデアで特殊なオムツを念のために穿いていたんですよ。でタックルを喰らった際に、それが破裂してパンツの中からそとから……」
俺は布を持ち上げた時に目にした様子を思い出しながら言った。排泄物にしてはやけに綺麗で臭いもない軟体物が、リーシャさんの太股あたりに垂れている風景を、だ。
『コレがクッションになったから痛みはそれほどなんだけど……気持ち悪くて無理……』
リーシャさんがその気の強そうな眉を顰めて何か言った。恐らくだが、珍しく弱音を吐いているのだろう。森の奥深くで獲物を追う時は垂れ流しながら狩りをするハンターも、スタジアムで下腹部に謎の素材を張り付けてサッカードウを続けるのは難しいようだ。
「それと、俺も退場です。指示は……出したらダメみたいです。すみません、後はお任せします」
続けるのが難しいと言えば、俺も退場を喰らって指揮をとり続けるのは無理だった。しかも審判さんが近くで目を光らせており、この場で何か助言を残すのも許されない様だ。
「そんな! 無体であります! 本来なら自分たちが……」
ナリンさんが悔しそうに呟く。彼女の言う通りフィールドの選手がそっち方面の意味で危険を迎えたら、ナリンさんかニャイアーコーチが飛び出す予定であった。しかしナリンさんはザックコーチを抑え、ニャイアーコーチはエルエルを呼びに行って帰ってきた所だった。俺が行くしかない状況だったのだ。
「はい、行きますよー」
ナリンさんには、審判さんへの抗議も俺とのやりとりもさせるわけにはいかない。俺は大袈裟に宣言しながら、リーシャさんと共にピッチの外周を回ってコンコースへ向かった。
恐らくPKで逆転だし、リーシャさんの代わりにエルエルが入る。そうすれば守備固めで逃げきれる筈だ。そう予想した俺は演技ではなく本気の笑顔でスタッフと別れの挨拶をかわしピッチを後にした。
控え選手用の別室で待っていたユイノさんは、普段のノンビリした性格からは考えられない程の暗い顔をしていた。
「大丈夫ですよ、リーシャさんはオムツが破れただけで」
そう言えば親友想いであるのも彼女の特徴の一つだったな、と思いながら俺は控えGKに声をかける。ここはもうピッチから遠いので、魔法のアミュレットが俺の言葉を通訳して伝えてくれた筈だ。
「監督、それがね……」
安心させるニュアンスが伝わってなかったのか、それに応えるユイノさんの表情は曇ったままだった。
「どうしたのユイノ?」
「PK、リストさんが失敗しちゃった」
リーシャさんの問いにユイノさんが簡潔に答える。
「えっ、嘘でしょ!? ああっ、せめて私が蹴ってから交代すれば良かった……!」
「リーシャさんそれは無理でしょ!? いやそれよりユイノさん、どういう状況で?」
悔しそうに壁を叩いてそう言うリーシャさんにツッコミつつ、俺はユイノさんに説明を求めた。因みに状況的に無理なのは当然だが、
「ファウルを受けた選手はそれで得たPKを蹴らない」
という取り決め――ファウルを受けた選手は冷静さを失いがちだし、身体の何処かを痛めている事もある。故に失敗する可能性があるので、できるだけ蹴らしたくない――もチームにはあるので、このFWはどのみちPKを蹴れなかったのだが。
「キッカーはすんなりリストさんに決まって、気合い十分って感じだったんだけど……。あ、あっちの部屋の魔法板がもいっかい、リプレイ流すかもしれない。一緒に見よ?」
ユイノさんは説明を始めたが、早々に放棄して俺たちに自分の目で確かめる事を求めた。なんだ? 何か言い難い事でもあったか?
「じゃあ。リーシャさん、まだ大丈夫?」
「うん。見てから着替える」
俺はリーシャさんが気持ち悪さにまだ耐えられるか聞いたが、彼女は気丈にも俺の心配を一蹴した。それならば口下手なユイノさんから詳細を聞くより見る方が良かろう、と監督もFWも納得し、俺たち三人は隣の部屋へ移動する事となった……。
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