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第三十一章
キックの鬼のパンツは赤
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『やるやん!』
『ケリーって誰っすか!?』
見事な残心――武道などにおいて攻撃を終え相手を倒した後も、警戒を解かず相手に向かって構え続ける事だ――をゴール内のボールへ向けるタッキさんへ、レイさんやクエンさんが駆け寄り祝福する。コーナー付近ではアシストを記録したリーシャさんが静かにガッツポーズをし、そこにはエルエルやポリンさんが近寄っていた。
「ほほう、沢村忠かー」
「はい! 見事な展開でありましたね! ところでその、忠さんというのはクライフの別名ですありますか?」
呟く俺に、他のコーチ陣とのハイタッチを終えたナリンさんが微笑みかけながら問う。
「いや違います! クライフはあんな風に飛んで蹴ったり……いや、飛びますが……」
どうやら彼女の知識にクライフ及びクライフターンはあるが、沢村忠はいない様だった。そりゃそうか。しかし説明が難しいぞ?
「えっと、確かにクライフのあだ名は『フライング・ダッチマン』でジャンピングボレーも見せましたが、それは『彷徨えるオランダ人』という幽霊船の逸話とかけたり、登録上はCFだけどポジションがあって無いような選手だったからです。リーシャさんがやったフェイントに名前が残っている、のはご存じですね?」
ここで一端、説明を止めてナリンさんに確認すると彼女は少し微笑みながら頷いた。やべえ、俺いまオタク特有の早口になっているな? ええい、気にせず進めるぞ!
「んで沢村忠というのは日本人のキックボクシングという格闘技の選手で、必殺技は飛び上がって膝蹴りを突き刺す『真空飛び膝蹴り』ってやつだったんですよ。それがタッキさんのアレに似ていたので……」
咄嗟に前に跳躍し膝でボールを突く、というのはあまりサッカーやサッカードウではない動きだ。そこは格闘家でもあるタッキさんだから出た発想及び動作なんだろう。
「因みに少しややこしい話ですが、『中村忠』というサッカー選手もいまして、彼はDFならどこでも出来る……あれ?」
いつものように説明が説明を呼ぶ展開に陥っていた俺の視線の先で、少し奇妙な事が起きた。結果として俺は舌を止め頭を痛める事となる。
それは特に特筆すべきプレイという訳でもなかった。というかプレイはとっくに再開されていた。そりゃあれだけ喋っていればね? ボールが蹴られ、シュートがゴールネットへ突き刺さるまでの数秒で、何人もが会話できるのは漫画の中だけだ。
兎も角、ノートリアスのキックオフで始まった一連のプレイの続きで、こちらの右サイドをドリブルで突破しようとしたガンス族のMFを、エルエルが腕をかけて倒してしまった。当然、笛が鳴って彼女のファウルとなる。
問題はそこからだった。決して際どい判定だとか、倒したガンス族と揉めたとかでもなかったのに、エルエルが不満げにボールをタッチライン外へ蹴り出したのだ。
「ああ、余計な事を……やはりであります!」
俺に続いてそちらを見ていたナリンさんが不安を口にし、即座に的中する。エルエルの行為を審判への抗議或いは遅延行為と取ったドラゴンさんが、彼女にイエローカードを提示したのである。
「ありゃりゃ。いやミニラさんみたいに上手くやれとは言わんが……」
俺は少し呆れつつも、不満を漏らす。
「ショーキチ殿、ミニラさんとは?」
当然、ナリンさんからは質問が飛んだ。
「さっき言いかけた中村忠選手の愛称です。失礼な話ですが顔がミニラという怪獣、モンスターに似ているからついたそうです。可愛い顔なんですけどね。こんな感じで」
俺は気持ちがあまりささくれ立たないよう、顔を手で圧縮してオドケた感じで答える。
「もう、ショーキチ殿ったら!」
良かった。ナリンさんも笑ってくれた。変顔は正直、自信があるんだよな!
「ちなみに同じ中村忠って名前で空手家……タッキさんみたいな職業の人もいまして。すごい人なので、さっきの沢村忠さんは彼にあやかってそういうリングネームで活躍したんですよ」
俺はそう言って説明を締めくくる。はい、かくして話が循環して最初の所へ戻ってくる事ができました、ばんざーい!
と、喜んでいる場合ではなかった。もともとそんな事を狙って話していた訳ではないし、それ以上に大変な事がピッチで起きていたからだ。
俺とナリンさんがそんな話をしていた間にも試合は続き、何度か攻防が入れ替わった。ノートリアスが攻めアローズが守ってカウンターを狙う、理想の展開と言えたかもしれない。
だが、守備の局面でエルエルが再びガンス族のMFを倒した。今回もそれほど危険だったり相手の決定を潰したりした訳ではない。強いて言えば、やや後ろから足をかけたかな? くらいだ。
だが、相手選手と共にグランドに倒れたエルエルは悔しそうに地面を叩いた。それが審判への抗議と取られたのだろうか? まあ事実は確実に後日、分かるだろう。一発レッドと違って規律委員会から発表はないが記録はされるだろうから。
そう、レッドカード。一連の流れでエルエルは二枚目のイエローカードを貰い、それからレッドカードを提示された。
アローズは前半早々に先制しながら、その直後に退場者を出して1名少ない状態となってしまったのだ……。
『ケリーって誰っすか!?』
見事な残心――武道などにおいて攻撃を終え相手を倒した後も、警戒を解かず相手に向かって構え続ける事だ――をゴール内のボールへ向けるタッキさんへ、レイさんやクエンさんが駆け寄り祝福する。コーナー付近ではアシストを記録したリーシャさんが静かにガッツポーズをし、そこにはエルエルやポリンさんが近寄っていた。
「ほほう、沢村忠かー」
「はい! 見事な展開でありましたね! ところでその、忠さんというのはクライフの別名ですありますか?」
呟く俺に、他のコーチ陣とのハイタッチを終えたナリンさんが微笑みかけながら問う。
「いや違います! クライフはあんな風に飛んで蹴ったり……いや、飛びますが……」
どうやら彼女の知識にクライフ及びクライフターンはあるが、沢村忠はいない様だった。そりゃそうか。しかし説明が難しいぞ?
「えっと、確かにクライフのあだ名は『フライング・ダッチマン』でジャンピングボレーも見せましたが、それは『彷徨えるオランダ人』という幽霊船の逸話とかけたり、登録上はCFだけどポジションがあって無いような選手だったからです。リーシャさんがやったフェイントに名前が残っている、のはご存じですね?」
ここで一端、説明を止めてナリンさんに確認すると彼女は少し微笑みながら頷いた。やべえ、俺いまオタク特有の早口になっているな? ええい、気にせず進めるぞ!
「んで沢村忠というのは日本人のキックボクシングという格闘技の選手で、必殺技は飛び上がって膝蹴りを突き刺す『真空飛び膝蹴り』ってやつだったんですよ。それがタッキさんのアレに似ていたので……」
咄嗟に前に跳躍し膝でボールを突く、というのはあまりサッカーやサッカードウではない動きだ。そこは格闘家でもあるタッキさんだから出た発想及び動作なんだろう。
「因みに少しややこしい話ですが、『中村忠』というサッカー選手もいまして、彼はDFならどこでも出来る……あれ?」
いつものように説明が説明を呼ぶ展開に陥っていた俺の視線の先で、少し奇妙な事が起きた。結果として俺は舌を止め頭を痛める事となる。
それは特に特筆すべきプレイという訳でもなかった。というかプレイはとっくに再開されていた。そりゃあれだけ喋っていればね? ボールが蹴られ、シュートがゴールネットへ突き刺さるまでの数秒で、何人もが会話できるのは漫画の中だけだ。
兎も角、ノートリアスのキックオフで始まった一連のプレイの続きで、こちらの右サイドをドリブルで突破しようとしたガンス族のMFを、エルエルが腕をかけて倒してしまった。当然、笛が鳴って彼女のファウルとなる。
問題はそこからだった。決して際どい判定だとか、倒したガンス族と揉めたとかでもなかったのに、エルエルが不満げにボールをタッチライン外へ蹴り出したのだ。
「ああ、余計な事を……やはりであります!」
俺に続いてそちらを見ていたナリンさんが不安を口にし、即座に的中する。エルエルの行為を審判への抗議或いは遅延行為と取ったドラゴンさんが、彼女にイエローカードを提示したのである。
「ありゃりゃ。いやミニラさんみたいに上手くやれとは言わんが……」
俺は少し呆れつつも、不満を漏らす。
「ショーキチ殿、ミニラさんとは?」
当然、ナリンさんからは質問が飛んだ。
「さっき言いかけた中村忠選手の愛称です。失礼な話ですが顔がミニラという怪獣、モンスターに似ているからついたそうです。可愛い顔なんですけどね。こんな感じで」
俺は気持ちがあまりささくれ立たないよう、顔を手で圧縮してオドケた感じで答える。
「もう、ショーキチ殿ったら!」
良かった。ナリンさんも笑ってくれた。変顔は正直、自信があるんだよな!
「ちなみに同じ中村忠って名前で空手家……タッキさんみたいな職業の人もいまして。すごい人なので、さっきの沢村忠さんは彼にあやかってそういうリングネームで活躍したんですよ」
俺はそう言って説明を締めくくる。はい、かくして話が循環して最初の所へ戻ってくる事ができました、ばんざーい!
と、喜んでいる場合ではなかった。もともとそんな事を狙って話していた訳ではないし、それ以上に大変な事がピッチで起きていたからだ。
俺とナリンさんがそんな話をしていた間にも試合は続き、何度か攻防が入れ替わった。ノートリアスが攻めアローズが守ってカウンターを狙う、理想の展開と言えたかもしれない。
だが、守備の局面でエルエルが再びガンス族のMFを倒した。今回もそれほど危険だったり相手の決定を潰したりした訳ではない。強いて言えば、やや後ろから足をかけたかな? くらいだ。
だが、相手選手と共にグランドに倒れたエルエルは悔しそうに地面を叩いた。それが審判への抗議と取られたのだろうか? まあ事実は確実に後日、分かるだろう。一発レッドと違って規律委員会から発表はないが記録はされるだろうから。
そう、レッドカード。一連の流れでエルエルは二枚目のイエローカードを貰い、それからレッドカードを提示された。
アローズは前半早々に先制しながら、その直後に退場者を出して1名少ない状態となってしまったのだ……。
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