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第三十五章
めっちゃホリディ中止
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「サッカー選手はSでありMでないといけない」
と語ったのはかつての中山選手だ。技術、身体のトレーニングにおいて、とことん自分を追い込むのが好きなサディストでありつつ、その責め苦を受けるのを喜ぶマゾヒストでもあれ! という意味だとか。
俺はそれに加えて
「サッカードウ選手は敏感であり鈍感でないといけない」
とも思う。相手の不安、チームの危機、ゲームの流れや風向きに素早く気づく敏感さが必要だが、ブーイングを聞き流しプレッシャーを感じない鈍感さも大事、みたいな。
その夜、俺が選手達に求めたのは鈍感さの方だった。俺がゲルにナリンさんやニャデムさんを呼んで何やら深刻そうな打ち合わせをしていても、気づかず水着を着たり脱いだりするような鈍感さを。
「なんかあやしくね?」
「だれか聞いてみるのだ?」
そんな話し声がゲルの出口――上から布をつり下げたテントなので究極のところ出入り口はどこにでもあるが便宜上――の外から聞こえた。不審な動きを察して何名かが近寄ってきたらしい。
「私がいきましょう」
「えっ!? 姫? あ、その水着、すてき!」
そのざわめきの中から、ダリオさんの毅然とした声が聞こえた。なんと! 彼女も試着をしているのか!? 見たい! ……じゃなくて!
「すみません、ちょっと道を開けて下さい!」
他のエルフなら大丈夫だが彼女は強敵だ。俺は外へ向かってそう声をかけると、さっと身を翻した。
「あら? どうしたのショウキチさん?」
「今からどっか行くのかよ?」
出口に現れた俺の姿を見てダリオさんとティアさんがそう声をかけた。いや、かけたのだと思う。
「……」
そのまま俺は無言で、いや俺の姿は無言で駆け出す。
「監督!? 何処へ行くのだ!?」
「ちょっと!? 裸の子もいますのよ!?」
当然、外は大騒ぎなのがまだテントの中にいる、エルフではない本物の俺でも分かる。
「(かかったみたいですね! じゃあ、俺はこちらから行ってきます!)」
「(了解であります!)」
「(監督、武運を!)」
エルフの耳の良さを考慮して、口パクでたぶんそんな言葉をナリンさんザックコーチと交わし、本物の俺は逆の出入り口から出て行く。
そう、お察しの通り表に現れた俺はニャデムさんの変身した姿で偽物だ。ありのまま――アリスさんのご両親対応の為、俺だけ今晩の間にエルフの王国へ帰ってしまうのでセンシャには立ち会わない――を告げてしまうとやっかいな事になってしまいそうなので、囮を使って選手を誘導し、その間に本体は塔から瞬間移動で本国へ……という策なのだ。
「しかしまあ、まんまとかかってくれたもんだな」
少し走って門まで辿り着き、俺は安堵と落胆の混ざったため息を吐いた。偽物を使って追っ手を撒く作戦、つい数時間前にスタジアムの出入りでも使ったところで彼女たちを目の当たりにしている。それなのに気づかないとは。
「自分たちが使う手段は相手だって使うかもしれない、って覚えておいてくれないと。あ、エルフ代表の監督です。先に一人、帰ります」
俺は独り言の最中、門に立つフェリダエ女性の守衛さんに気づき念の為に首から下げた身分証を見せる。彼女が警戒するのは侵入者であって出て行く者ではないが、一応だ。
「どうも、お疲れさまです。お一人で大丈夫ですか?」
「どうも、ありがとうございます。ええ、一人で」
「そうですか? 瞬間移動の魔法に詳しくて、直接ご自宅へ飛べるように調整してくれるキュートでセクシーなお嬢さんは必要ありませんか?」
フェリダエの守衛さんは門を開けながらも、やけに具体的な質問をしてきた。その猫顔に浮かぶ表情……というよりも耳の動きに、俺は少しピンと来るモノがあった。
「いやキュートとセクシーは本来、相容れない形容詞でしてね。それが共存できればあややも悩まないで済んだんですよ」
「えっ!? あややって誰!? ショーちゃん、まだ他に女がいるの!?」
俺が腕を組みながら深刻そうな顔で言うと、フェリダエの守衛さんは声の偽装を忘れて叫んだ。
「やっぱりシャマーさんか……」
「あー!」
いとも簡単に、悪戯娘は馬脚を露わした。名を呼ばれて観念したか、彼女はさっと手を振って本来の自分の姿に戻る。
「ショーちゃん鋭い~! ねえねえ、なんで気づいたのー? やっぱり相思相愛!?」
いやどちらかと言うと桃色の片想いでしょうよ、と言いかけたが辞めにして俺は理由を説明する。
「耳の動きが喋りや感情と上手く同期してなかったんですよ。シャマーさんって変装の魔法はあまり得意じゃない感じです? あ、あと俺がそもそも変装した影武者を使った直後で、疑り深くなっていたタイミングでもありましたし」
フェリダエ族の耳の動きはやはり猫に近く、興味深いものがあればそちらを向くし、警戒すればイカ耳にもなる。だがフェリダエに偽装したシャマーさんの耳はそこまで動いていなかったのだ。
あと俺はエルフの皆さんと違って、自分が嘘を吐いた直後は周囲も嘘つきに見える人間だ。策士策に溺れる、というタイプでもある。そこがシャマーさんと似ている所でもあるが。ま、これも言わないでおこう。
「仕方ないでしょ、誰にでも得手不得手はあるんだからー。あ、そうそう誰と言えば『あやや』って誰? って待ちなさーい!」
それを説明すると長くなるな。俺は彼女の言葉の途中から塔へ向けて歩き出し、シャマーさんは慌てて後を追ってきた。
「ぐずぐずしていると気づかれてしまうから、歩きながらで良ければお教えしますよ」
「知りたーい!」
やれやれ、仕方ないな。要求したのはそっちだぞ? 俺は覚悟を決めて伝説のアイドルについて解説を始めた……。
と語ったのはかつての中山選手だ。技術、身体のトレーニングにおいて、とことん自分を追い込むのが好きなサディストでありつつ、その責め苦を受けるのを喜ぶマゾヒストでもあれ! という意味だとか。
俺はそれに加えて
「サッカードウ選手は敏感であり鈍感でないといけない」
とも思う。相手の不安、チームの危機、ゲームの流れや風向きに素早く気づく敏感さが必要だが、ブーイングを聞き流しプレッシャーを感じない鈍感さも大事、みたいな。
その夜、俺が選手達に求めたのは鈍感さの方だった。俺がゲルにナリンさんやニャデムさんを呼んで何やら深刻そうな打ち合わせをしていても、気づかず水着を着たり脱いだりするような鈍感さを。
「なんかあやしくね?」
「だれか聞いてみるのだ?」
そんな話し声がゲルの出口――上から布をつり下げたテントなので究極のところ出入り口はどこにでもあるが便宜上――の外から聞こえた。不審な動きを察して何名かが近寄ってきたらしい。
「私がいきましょう」
「えっ!? 姫? あ、その水着、すてき!」
そのざわめきの中から、ダリオさんの毅然とした声が聞こえた。なんと! 彼女も試着をしているのか!? 見たい! ……じゃなくて!
「すみません、ちょっと道を開けて下さい!」
他のエルフなら大丈夫だが彼女は強敵だ。俺は外へ向かってそう声をかけると、さっと身を翻した。
「あら? どうしたのショウキチさん?」
「今からどっか行くのかよ?」
出口に現れた俺の姿を見てダリオさんとティアさんがそう声をかけた。いや、かけたのだと思う。
「……」
そのまま俺は無言で、いや俺の姿は無言で駆け出す。
「監督!? 何処へ行くのだ!?」
「ちょっと!? 裸の子もいますのよ!?」
当然、外は大騒ぎなのがまだテントの中にいる、エルフではない本物の俺でも分かる。
「(かかったみたいですね! じゃあ、俺はこちらから行ってきます!)」
「(了解であります!)」
「(監督、武運を!)」
エルフの耳の良さを考慮して、口パクでたぶんそんな言葉をナリンさんザックコーチと交わし、本物の俺は逆の出入り口から出て行く。
そう、お察しの通り表に現れた俺はニャデムさんの変身した姿で偽物だ。ありのまま――アリスさんのご両親対応の為、俺だけ今晩の間にエルフの王国へ帰ってしまうのでセンシャには立ち会わない――を告げてしまうとやっかいな事になってしまいそうなので、囮を使って選手を誘導し、その間に本体は塔から瞬間移動で本国へ……という策なのだ。
「しかしまあ、まんまとかかってくれたもんだな」
少し走って門まで辿り着き、俺は安堵と落胆の混ざったため息を吐いた。偽物を使って追っ手を撒く作戦、つい数時間前にスタジアムの出入りでも使ったところで彼女たちを目の当たりにしている。それなのに気づかないとは。
「自分たちが使う手段は相手だって使うかもしれない、って覚えておいてくれないと。あ、エルフ代表の監督です。先に一人、帰ります」
俺は独り言の最中、門に立つフェリダエ女性の守衛さんに気づき念の為に首から下げた身分証を見せる。彼女が警戒するのは侵入者であって出て行く者ではないが、一応だ。
「どうも、お疲れさまです。お一人で大丈夫ですか?」
「どうも、ありがとうございます。ええ、一人で」
「そうですか? 瞬間移動の魔法に詳しくて、直接ご自宅へ飛べるように調整してくれるキュートでセクシーなお嬢さんは必要ありませんか?」
フェリダエの守衛さんは門を開けながらも、やけに具体的な質問をしてきた。その猫顔に浮かぶ表情……というよりも耳の動きに、俺は少しピンと来るモノがあった。
「いやキュートとセクシーは本来、相容れない形容詞でしてね。それが共存できればあややも悩まないで済んだんですよ」
「えっ!? あややって誰!? ショーちゃん、まだ他に女がいるの!?」
俺が腕を組みながら深刻そうな顔で言うと、フェリダエの守衛さんは声の偽装を忘れて叫んだ。
「やっぱりシャマーさんか……」
「あー!」
いとも簡単に、悪戯娘は馬脚を露わした。名を呼ばれて観念したか、彼女はさっと手を振って本来の自分の姿に戻る。
「ショーちゃん鋭い~! ねえねえ、なんで気づいたのー? やっぱり相思相愛!?」
いやどちらかと言うと桃色の片想いでしょうよ、と言いかけたが辞めにして俺は理由を説明する。
「耳の動きが喋りや感情と上手く同期してなかったんですよ。シャマーさんって変装の魔法はあまり得意じゃない感じです? あ、あと俺がそもそも変装した影武者を使った直後で、疑り深くなっていたタイミングでもありましたし」
フェリダエ族の耳の動きはやはり猫に近く、興味深いものがあればそちらを向くし、警戒すればイカ耳にもなる。だがフェリダエに偽装したシャマーさんの耳はそこまで動いていなかったのだ。
あと俺はエルフの皆さんと違って、自分が嘘を吐いた直後は周囲も嘘つきに見える人間だ。策士策に溺れる、というタイプでもある。そこがシャマーさんと似ている所でもあるが。ま、これも言わないでおこう。
「仕方ないでしょ、誰にでも得手不得手はあるんだからー。あ、そうそう誰と言えば『あやや』って誰? って待ちなさーい!」
それを説明すると長くなるな。俺は彼女の言葉の途中から塔へ向けて歩き出し、シャマーさんは慌てて後を追ってきた。
「ぐずぐずしていると気づかれてしまうから、歩きながらで良ければお教えしますよ」
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