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第三十七章
ドワーフの踏ん張り
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1名退場となったドワーフ代表はシステムを1441へ変更した。スタート時点では1532でDFラインの厚みと幅をもっていたが、その部分を諦めMF4名DF4名の4-4ブロックを敷く形になったのである。
守備においてはこの8名で作った網の中に入ったボールを奪い、跳ね返すやり方だ。攻撃においては……殆ど手が無い。いやこの場合は足と言った方が正確かな? いずれにせよ、単騎でアローズDFラインを突破できるようなFWはドワーフにはいないので、運良くクリアボールを拾ったらなんとか味方が上がる、或いはDF陣が一息でもつける時間を作るしかないだろう。
ポビッチ監督にとっては苦渋の判断ではあるが、同時に迅速な判断でもあった。恐らく5名のDFによる緻密な守備と、安全なパスでアローズのプレスを回避しながら陣地を回復していく――ラグビーやアメフトに近い言い方でちょっと説明がいる。ボールを動かすエリアと選手全員の位置を、なるべく相手側に近づけるという意味だ――戦術を仕込んできただろうに、それをあっさりと捨て現実的な手段を選んだのだから。
「やっぱり古狸は違うな~」
俺は相手の配置を見て相談するジノリコーチやナリンさんの横で、ボソッと呟いた。古狸というのは例えに過ぎないが、ポビッチ監督は老人標準装備のドワーフの中でも高齢だし背格好も信楽焼の狸に似ている。実態を捉えてもいるだろう。
そんな事を呑気に考えていた俺は、その後で彼の古狸っぷりを更に実感することとなる……。
『レイが下がりだしたな……』
「レイさんが中盤に降り過ぎですね、と」
控え選手のウォーミングアップを見ていたザックコーチが俺の元へ近づき耳打ちし、ナリンさんが翻訳してくれたのは前半36分くらいの事だった。
「そうですね……。脚は本当になんともなかったのですよね?」
俺はファンタジスタの脚の状態をフィジカルコーチに訊ねる。
『レイとGKの接触は?』
『触れた程度だったそうだ』
ナリンさんとミノタウロスの言葉は分からないが、その仕草で言いたい事は伝わった。
「我慢しきれなくなったかー」
そう言いながら時計を見上げると、なんともう前半39分だ。時間が経つのが早い。前半9分までに11名のドワーフ相手に2得点したのに、その後10名相手の30分間は無得点である。
それはポビッチ監督の取った手が上手く機能していることを表していた。
『レイ、危ないぞい!』
ジノリコーチのその叫びで俺は視線を地上へ戻した。見ると、レイさんがドワーフ側センターサークル付近で倒れ両チームの選手が入り乱れている。
「何がありました?」
「レイさんがスパイクで足を踏まれる形になって……」
俺が訊ねナリンさんが答える間にも、興奮したティアさんや控えメンバーとドワーフ達がもみ合いをしている。
「ピーッ! ピー!」
ドラゴンの審判さんが再び舞い降り、副審のリザードマンさんも押し合いを止めに入る。一方フィールドの外ではジノリコーチがドワーフベンチ近くまで行って直接の言い合いだ。まあ、ドワーフ同士で言葉が通じるからね。
「「ブーブー!」」
更に外、観客席からは特大のブーイング。スタジアムの喧噪は今まで俺が経験した事のないレベルとなった。
「ほっほう。エルドワクラシコらしくなってきたなー」
俺は感心しながらそう言った。宿敵同士の対戦だ、少し危険なプレイがあったらヒートアップして選手も観客も興奮してしまうものだろう。とは言えこちらは冷静に仕事をせねば。
「どーこーだ?」
歌うように言いながら、今の局面のキーウーマンを探す。お? ジノリ台が空いてんじゃん。乗ろう。
「あーいたいた」
高い所から探して見つけた彼女は、フィールドに伏せる親友の手を心配そうに握っていた。その行為を中断させるのは気が咎めるが、今はあのデイエルフと話す必要がある。俺は両手を口に添えて大声で言った。
「ポリンちゃーん! ちょっとおいで!」
現在の膠着状態には幾つか理由がある。ドワーフが割り切った守備を行いしかもそれの出来が良い、エルフが2点取ってやや慢心している、攻撃に数をかけている――両SBはほぼ上がりっぱなしだ――がそのぶん詰まっている、などなど。
だが一番の問題はアローズ最高のパッサーであるポリンさんからの良いパスがレイさんへ届いていない事だった。あのナイトエルフは素晴らしい才能の持ち主ではあるが、4-4ブロックの中で雑なパスを受けても決定的な仕事をするのは難しい。前後左右から挟まれボールをロストするシーンが何度もあった。
それを見るとポリンさん以外のパスの出し手、シャマーさんやマイラさんやダリオさんもレイさんをターゲットにし難い。単純にリストさんめがけて高いボールを入れたり、ブロックの外を周回してルーナさんやティアさんに渡したり……というシーンが多くなる。
そうなると不満がつのるのはレイさんだ。そもそもファンタジスタとはボールと戯れていたいと思う存在だ。それがボールに触れないとどうなるか? 安全にパスを受けられる位置まで移動してしまうのだ。
ザックコーチやナリンさんが指摘した『中盤に降り過ぎ』という状態である。レイさんは本来のポジションであるFWの位置を放棄し、センター付近まで移動してパスを受ける事が多くなっていた。そこであればドワーフの守備ブロックの外なので余裕でボールを持てるのである。
だが同時にその位置のレイさんはドワーフにとって怖くない。そこからドリブルをスタートされてもチャンスはそう作られないし、最悪ファウルで止めてしまっても良いのである。何ならファウルついでに削って痛めつけてセットプレイにし、休む時間を作っても良いのだ。
と言うかそれを実際にやられてしまった訳だが。まあ起きてしまった事は仕方がない。問題はこの先どうするか? だ。
俺はこの状況を打破するには、ポリンさんの活躍が必要だと考えた……。
守備においてはこの8名で作った網の中に入ったボールを奪い、跳ね返すやり方だ。攻撃においては……殆ど手が無い。いやこの場合は足と言った方が正確かな? いずれにせよ、単騎でアローズDFラインを突破できるようなFWはドワーフにはいないので、運良くクリアボールを拾ったらなんとか味方が上がる、或いはDF陣が一息でもつける時間を作るしかないだろう。
ポビッチ監督にとっては苦渋の判断ではあるが、同時に迅速な判断でもあった。恐らく5名のDFによる緻密な守備と、安全なパスでアローズのプレスを回避しながら陣地を回復していく――ラグビーやアメフトに近い言い方でちょっと説明がいる。ボールを動かすエリアと選手全員の位置を、なるべく相手側に近づけるという意味だ――戦術を仕込んできただろうに、それをあっさりと捨て現実的な手段を選んだのだから。
「やっぱり古狸は違うな~」
俺は相手の配置を見て相談するジノリコーチやナリンさんの横で、ボソッと呟いた。古狸というのは例えに過ぎないが、ポビッチ監督は老人標準装備のドワーフの中でも高齢だし背格好も信楽焼の狸に似ている。実態を捉えてもいるだろう。
そんな事を呑気に考えていた俺は、その後で彼の古狸っぷりを更に実感することとなる……。
『レイが下がりだしたな……』
「レイさんが中盤に降り過ぎですね、と」
控え選手のウォーミングアップを見ていたザックコーチが俺の元へ近づき耳打ちし、ナリンさんが翻訳してくれたのは前半36分くらいの事だった。
「そうですね……。脚は本当になんともなかったのですよね?」
俺はファンタジスタの脚の状態をフィジカルコーチに訊ねる。
『レイとGKの接触は?』
『触れた程度だったそうだ』
ナリンさんとミノタウロスの言葉は分からないが、その仕草で言いたい事は伝わった。
「我慢しきれなくなったかー」
そう言いながら時計を見上げると、なんともう前半39分だ。時間が経つのが早い。前半9分までに11名のドワーフ相手に2得点したのに、その後10名相手の30分間は無得点である。
それはポビッチ監督の取った手が上手く機能していることを表していた。
『レイ、危ないぞい!』
ジノリコーチのその叫びで俺は視線を地上へ戻した。見ると、レイさんがドワーフ側センターサークル付近で倒れ両チームの選手が入り乱れている。
「何がありました?」
「レイさんがスパイクで足を踏まれる形になって……」
俺が訊ねナリンさんが答える間にも、興奮したティアさんや控えメンバーとドワーフ達がもみ合いをしている。
「ピーッ! ピー!」
ドラゴンの審判さんが再び舞い降り、副審のリザードマンさんも押し合いを止めに入る。一方フィールドの外ではジノリコーチがドワーフベンチ近くまで行って直接の言い合いだ。まあ、ドワーフ同士で言葉が通じるからね。
「「ブーブー!」」
更に外、観客席からは特大のブーイング。スタジアムの喧噪は今まで俺が経験した事のないレベルとなった。
「ほっほう。エルドワクラシコらしくなってきたなー」
俺は感心しながらそう言った。宿敵同士の対戦だ、少し危険なプレイがあったらヒートアップして選手も観客も興奮してしまうものだろう。とは言えこちらは冷静に仕事をせねば。
「どーこーだ?」
歌うように言いながら、今の局面のキーウーマンを探す。お? ジノリ台が空いてんじゃん。乗ろう。
「あーいたいた」
高い所から探して見つけた彼女は、フィールドに伏せる親友の手を心配そうに握っていた。その行為を中断させるのは気が咎めるが、今はあのデイエルフと話す必要がある。俺は両手を口に添えて大声で言った。
「ポリンちゃーん! ちょっとおいで!」
現在の膠着状態には幾つか理由がある。ドワーフが割り切った守備を行いしかもそれの出来が良い、エルフが2点取ってやや慢心している、攻撃に数をかけている――両SBはほぼ上がりっぱなしだ――がそのぶん詰まっている、などなど。
だが一番の問題はアローズ最高のパッサーであるポリンさんからの良いパスがレイさんへ届いていない事だった。あのナイトエルフは素晴らしい才能の持ち主ではあるが、4-4ブロックの中で雑なパスを受けても決定的な仕事をするのは難しい。前後左右から挟まれボールをロストするシーンが何度もあった。
それを見るとポリンさん以外のパスの出し手、シャマーさんやマイラさんやダリオさんもレイさんをターゲットにし難い。単純にリストさんめがけて高いボールを入れたり、ブロックの外を周回してルーナさんやティアさんに渡したり……というシーンが多くなる。
そうなると不満がつのるのはレイさんだ。そもそもファンタジスタとはボールと戯れていたいと思う存在だ。それがボールに触れないとどうなるか? 安全にパスを受けられる位置まで移動してしまうのだ。
ザックコーチやナリンさんが指摘した『中盤に降り過ぎ』という状態である。レイさんは本来のポジションであるFWの位置を放棄し、センター付近まで移動してパスを受ける事が多くなっていた。そこであればドワーフの守備ブロックの外なので余裕でボールを持てるのである。
だが同時にその位置のレイさんはドワーフにとって怖くない。そこからドリブルをスタートされてもチャンスはそう作られないし、最悪ファウルで止めてしまっても良いのである。何ならファウルついでに削って痛めつけてセットプレイにし、休む時間を作っても良いのだ。
と言うかそれを実際にやられてしまった訳だが。まあ起きてしまった事は仕方がない。問題はこの先どうするか? だ。
俺はこの状況を打破するには、ポリンさんの活躍が必要だと考えた……。
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