ご飯を食べて異世界に行こう

compo

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終章 そして

という昼下がり

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「とぉのぉ。どちらにいらっしゃいますかぁ。」
「ん?あの人ならぽんちゃんと一緒に、裏で柚子をもいでたよ。」
「…柚子ですか。玉、あんまり好きじゃないなぁ。」
「あはは。玉ちゃん、苦いとか酸っぱいとか苦手だよね。」
「殿のお家に来て、甘いものをたくさん知りましたし、辛いけど美味しいものもたくさん食べました。''かれぇ''とかはうどんにすると美味しいです。…でも殿が大好きな春菊をぽん酢で食べるとかはまだ…。紫蘇の葉っぱは食べられるようになったんですけどね。とぉのぉ!」


ちっちゃな巫女さんは、殿・殿呼びながら、とてとてと家の裏、道沿いに生えている柚子の木を目指して歩いて行った。
そのあとを、沢山のモルモットがぷいぷい鳴きながら追いかけて行く。
モルモット達がついてくるのが分かっている玉ちゃんは走らない。
モルモット達を踏み付けないように、注意深く歩いてる。
主従ともに可愛い。

残された青木佳奈嬢は、飼い犬ちびと一緒に筵を敷いて椎茸を干している。
筵ねぇ。
うら若き女性が庭に筵を敷いて、包丁でまな板も使わずに石付きを切っているんだけど。
ジーンズを履いているとはい胡座かいてるし、その姿はどうなの?

ここはとある農家の庭。
南側には防風代わりの木が並び、その外には林檎や梨が1年中なっている。
その根本には川というか用水路が流れていて、ヤギやらウサギやら鶏やらが水を飲んだり、水遊びをしている。

そんな農家の庭に、何故かわたしは、わたし達はしずという中年女性にお茶とお茶菓子(柿と林檎を乾燥したものと、あんころ餅。臼と杵が土間に転がっているのし、土間に置かれた笊に小豆が干してあるから、多分ぜんぶ手作りだろう)をいただいていたりする。
…なんで?

真神は真神ですっかり菊地家に馴染んでいる、というか女体化というか、女性の姿になってそこで牛の乳搾りに精を出しているしさ。
あぁ、気持ち良さそうな汗をかいてるし、牛は時々真神の顔をペロペロ舐めている。

平和だ。

ここはどこかと言うと、あいつが言うところの聖域。
浅葱家の屋敷と、巫女親娘の住んでいた小屋と、一言主の社がある、浅い谷間に一軒だけある屋敷群。
普段はしずだけが住んでいるそうだけど、とにかく人懐っこい動物達と温暖な気候と季節を問わずなり続ける農産物。
暖かい温泉に美味しい井戸水。

はっきり言って、わたしらの住まいたる神宮よりよっぽど心地よい。
何しろ一言主が実際にいるもんなぁ。

というか、当の本人が屋敷の縁側で昼寝している。
神様が寝てる屋敷ってなんなのよ。
あいつの側にいると、神族のありがたみが薄れるよ。
白狐さんも一緒に寝てるしさぁ。
どんな極楽よ。

でも人間達はいつもいつでも働いている。
外では無職のあいつが、ここでは1番働いている。
だからあいつの周りにいる女達(一部の動物の雄以外は本当に女ばかりだな)もちょこまか動きっぱなし。


「気持ちの良い午後ですねぇ。お昼にいただいたお蕎麦も美味しかったですし。付け合わせの野菜天、あれ全部こちらで取れたお野菜だそうですよ。天ぷら粉の麦も片栗粉のおじゃがも全部手作りだそうです。」

わたしの向かいでお茶を啜るわたしは、とにかくなんでも作っちゃうこの家が気になって仕方ないみたい。
ずっとキョロキョロしたり、ヤギの案内で畑や川をウロチョロしたり。

え?
あの後、どうなったかって?
あの野郎だよ、あの野郎。
そこでひっくり返っている一言主と白狐様を操って、とんでもない事にしやがった。

最初はさ。
武甕槌様と禍津日神が鹿島神宮で。
経津主大神様と禍津日神が鹿取神宮で。
それぞれ怪獣映画みたいに取っ組み合っている中に、それぞれわたし達と真神が突っ込んで行ったのさ。
ついでに白鹿の大群も、鹿島に香取に現れた。
…何をしたのかと言うと、それぞれ武甕槌様と経津主大神様に吸い込まれて行った。
何故かって?
白鹿は春日大社の御使だから。
つまり武甕槌様の御使だから。
経津主大神様の御使でもある。
結局、それはどう言う事かと言うと。

鹿島神宮、香取神宮に春日大社を混ぜやがった。
要は武甕槌様、経津主大神様のパワーアップを図りやがった。

更には天児屋命様と家都美御子大神様まで呼び寄せやがった。

直毘神様と伊豆能売様は、今流行りの病に倒れていた筈が、伊弉諾様・伊奘冉様に呼び付けられて、菊地家特製・どんぶり飯にネギの輪切りと鰹節をたっぷり兼ねて海苔を散らして山葵を隅に置いた「ネギ丼」と、小松菜と舞茸の豆乳味噌汁なる謎味噌汁を食べたら、流行り病が治りやがった。

「我が家で昔から食べてるものだよ。おかげで僕も妹も玉も風邪一つ引かないんた。」

あと、山葵はこいつと荼枳尼天様が手塩にかけた聖域製だとかで、凄い辛いけど後に残らず刺身に丁度いいものだとか。

そりゃ荼枳尼天様が食べたくて育ててるなら、風味も神威もあらたかだよね。
って言うか、わたしにも食わせろ。

更に更に、神直日様と大直日様まで乱入して来たらもうあんた。

わたし達と八咫烏と武甕槌様と経津主大神様に縁(えにし)のある神様総動員で、禍津日神をタコ殴り。

「仮面ラ◯ダーは時々偽ライダ◯に囲まれたりしてたじゃん。」
「神宮常駐の巫女神が、なんで子供向けの特撮番組を知ってると思うんだ?」
「多分、キクヱさんてウン百年生きてますよね。神族だから。ついでに人間と距離感が随分低めにいてくれる神様だから、当時の子供達から聞いているんじゃないかなぁって。違った?」
「…違わないけど。」

「◯イダー1人で強いなら、5人いたらもっと強くね?って事で考えられたのが◯レンジャー。あのシリーズは1人の怪人に集団暴行を加えて正義を守ってたんだ。」
「そう言われると、どっちが正義の味方かわからないわね。」
「ついでに、仲間がどんどん集まって来るって展開は王道だぞ。」
「知らんがな。」

つまりはこの野郎。
禍津日神が終いには泣き出しちゃったほど、極悪非道な作戦を立てて、1対多は戦略として正しいんだぜ。とか抜かしやがった。
…まぁおかげで要石は守れたし、起こすと厄介な大鯰も起こさなかった。

被害者も結局は八咫烏くらいで済んだし、当の八咫烏は、主人で主神たる家都美御子大神様を放ったらかしてだ。
なんでそこで柿を突いているんだよ。

それで1番の問題は、と言うと。
…禍津日神がわたし達のそばの芝生に寝転がっているんだよ!
何してんだよお前。


「あたしだって別に好きで疫病神に生まれて来たわけじゃないもん。」
「もんじゃない、もんじゃ。」

いや、たしかに禍津日神って女性神だよ。
この屋敷の温泉に浸かって、着物をちゃんと着替えたら、見違えるほど綺麗な女性だったのはびっくりしたよ?

「別にまぁ、この空間はなんでもありだ。」
「くにゃ」
「一言主様、それでよろしいのですか?」
「ここの主人はそう言う人間だ。神が従う人間の前では、神だろうと仏だろうと疫病神だろうと変わりない。そもそも菊地が最初に餌付けたのは祟り神だぞ。なんなら荼枳尼天だけで片付く案件だぞ。今度のは。」
「…菊地様は一体何者ですか?」
「さぁ?」
「くにゃ」

……禍津日神も真神も牛も首を捻ってんだけど?
あと、香取のわたし。
もう理解を放棄してした方が良さそうだよ。

「婿殿はそんな方なんですよ。だから動物だって、生まれた時代の違う女だって懐くんです。」
そんな事をあっさり漏らしたしずは、のほほんと茶を啜っているけど、貴女はそんな男に娘を嫁がせるつもりなんだね。



てな訳で。
単なる(単なる?)人間に動員された神々が力尽くでなんとかしちゃいましたよ。
騒ぎの元凶まで手懐けちゃいましたよ。
まさかこんなオチになるとは。
こんなオチを考えているとは。

この屋敷の、この男の周りの「存在」がロクでもない事だけはハッキリわかった。
ウチの武甕槌様すら気を遣っているわけだよ。

まったく。(くす)
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