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終章 そして
今日も今日とて
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「ん?どんなイメージ画が欲しいの?」
ザルにごっそり野菜を乗せた佳奈お姉さんが柿の木の下から顔を出したので、婿殿がすかさず呼び止めました。
チビちゃんも首に小さな籠をぶら下げてます。
中から芥子菜の葉っぱが覗いてますね。
チビちゃんは、私や佳奈お姉さんのお手伝いをする事が大好きなのです。
この籠は、私が麦わらで編んだ手作りの籠なんですが、私や佳奈お姉さんが畑にいると、自分から持ち手に首を突っ込んで私達の後を着いてくる様になりました。
なんでも良いから、軽い葉物を入れてあげると、とにかくご機嫌になります。
それを見たぽんちゃんも、お姉さんなので真似をしようと一度試してみましたが、狸の首では小さくてなで肩?で籠が落ちてしまうので諦めました。
以後は、「可愛い」事だけに専任するみたい。
まぁ、ぽんちゃんは実際に可愛いからそれ以外に要らないわね。
その代わりというわけでもないのだろうけど、モーちゃんが荷物を持ってくれるので、私は大体手ぶらで畑をうろうろしています。
というか、みんな私に持たせてくれません。
動物達に甘やかされる人間って言うのもどうなのかしら。
「この1×3メートルくらいのスペースに蚕棚を作るんだ。見ての通り土地の形にアールがあるし、裏の柊には椋鳥なんかがよく来るだろ。だから、食べられない様にガラス戸付きの、通気性は良いけど鳥が入れない細長い建物、それもお義母さんの背の高さに合わせた、まぁ自転車を止めるガレージみたいな建物とか野菜の無人販売所の様ににしようと思うんだけど、今ひとつイメージが固まらなくてさ。佳奈の発想で完成予想図を描いて欲しいんだ。」
「そっか、蚕棚かぁ。そう言えば荼枳尼天様に言われていたわね。お義母さんにお仕事させないとって。…私達の中で、1番働いていると思うんだけど。」
いえいえ。
チビちゃんやモーちゃんや、玉が毎日くるくる働いていますから、私には働いている感が全くないんですよ。
「おっしゃ。任された。なんでも1人でやっちゃう貴方に仕事を頼まれるってあまりないからね。画用紙と色鉛筆取ってくるから、これ、よろしく。」
佳奈お姉さんは、葉菜と玉ねぎ、人参が乗ったザルを婿殿に預けると、右手で指輪に触れて、消えて行きました。
浅葱の力で、元の世界に戻って行きました。
何しに帰ったんだろ。
「まったく、蚕をほったらかしにして野菜を預けて行かれてもなぁ。…とりあえず野菜を先に片付けるか。チビ、帰るよ、おいで。」
「わん!」
「あ、婿殿。私がお蚕様を持ちますよ。」
「もぅ。」
モーちゃんに、背中に乗せろと言われたみたいですよ。
「モーちゃん、このくらい私に持たせて。」
「やれやれ。」
うふふ。
本当にやれやれですね。私達。
★ ★ ★
「ふんふんふふん。」
いつの間にか玉が帰って来て、タラの芽の下拵えをしてました。
あら?
タラの芽だけじゃないわね。
「蕗の薹やわらびは食べた事あるけど、こごみとか独活とか、玉はよく知ってたなぁ。」
「殿?野の菜物は玉もお母さんも普通に摘んで食べてましたよ。…ちょっと苦いから玉は苦手だっただけです。殿にご馳走になったお野菜は甘くて美味しいけど、こういうお野菜も美味しく食べられる様になったのです。玉のべろもすっかり大人です。」
「そう言えばそうか。山菜に関しては、玉の方が詳しくて当たり前だな。」
「です。」
あ、そう言えば。
あの頃は、毎日摘んでいた炉端のお野菜、すっかり食べなくなってましたね。
お野菜は冷蔵庫の中にいつでも保管してあるので、みんなでお鍋とかする時くらいしか、わざわざ摘みにいかなくなってました。
それに、私が知らないお野菜が畑になってますものね。
玉は婿殿とスーパーに行っては、私達が初めて食べるお野菜を買って来てくれるんですよ。
ウチの畑で育てられる野菜や果物は種や苗木を持って来てくれますし、婿殿のお部屋の庭や聖域でも色々育てています。
「おぉいおぉいおおおおおぉ!」
「またけたたましいのが帰って来た。」
長屋門の方から、ぱからっぱからって、何故か蹄の音が響いて来ました。
ええと、神馬様?
今日はずっと人間の女性のお姿ですし、ぽっくりを履いてましたよね。
「主あるじご主人様キクチヒロシ!」
「真神の足音、それなに?」
「大急ぎで走って来たから、勝手に足だけ馬になった。」
「お前、狼の神様だろ?
「狼より馬の方が速く走れるぜ。」
「そうなの?」
「本人が言うんだから、間違いねぇ。」
くすくす。
何言ってるのかしら。
婿殿と神馬様は。
「それよりホラ!」
神馬様が出したザルには、これもまた見事な松茸ですね。
そもそも松茸も玉が婿殿のお世話になってから初めて食べたきのこです。
玉があの時代に遡った時に、たまたま初茸を見つけて来て婿殿に差し出したところ、婿殿ったら大喜びだったそうで。
私達が普通に食べていたきのこも、時代と共に無くなって行った物もあるのかしらね。
婿殿が言うには、初茸は幻のきのこだったらしいけど。
この家の裏側行けばいくらでも生えてるのよねぇ。
…松も生えてないのに。
「おう、モー助。乳出せ乳。バター作っから。」
「モ?」
「神馬様。さっき乳搾りは済んでいますから、今日はもう出ませんよ。」
あ、「もう」が交通事故駄洒落ですね。
「真神。今日は天ぷらなんだから焦るなっての。それにバターなら冷蔵庫に常備してるよ。うちにパン魔人がいる事を忘れたか?」
「うひひひ。ぱんを焼いたら菊地家1番は玉の事ですよ。ばたぁを使ったお菓子だって、最近では佳奈さんに勝てるようになりました。」
「玉、悪い顔してますよ。」
「殿に美味しいご飯を食べていただくためには、玉はいくらでも悪女になれるのです.うひひひひ。あ、人参をください。かき揚げなら細切りですね。」
うひひとか、わざわざ口で言いながらも玉は天ぷらの下拵えをしてますね。
なら私は、お茄子と枝豆と蓮根とオクラと、ええとええと。
………
「お待たせ。さつまいもも取って来たよ。…って、何してんの?」
佳奈お姉さんが帰って来ました。
何やら筆記用具とスケッチブックを持ってます。
佳奈お姉さんは時々、庭の椅子に腰掛けたり、婿殿が作った椅子を庭や畑のあちこちに持ち出して絵を描いてます。
チビちゃんが必ず側にいて、佳奈お姉さんのボディガードをしていますよ。
元々、狩りのお手伝いをする犬種だそうなので、佳奈お姉さんが座っている脇に必ず姿を見る事が出来ます。
時々、ワンちゃん用の乾燥肉(ジャーキーって言うんだって。佳奈お姉さんのカバンから取り出すと、何処にいてもぽんちゃんが走り寄って行くそうよ)をあげたりしながら、主従の語らいをしているんだって。
佳奈お姉さんはお仕事があるから、玉みたいに毎日はこの谷に来れないからね。
だから来れる時は、全力でチビちゃんを可愛がっているし、チビちゃんもその時を楽しみにしているんだって。
で、何故佳奈お姉さんが呆れているのかと言えば。
まぁ、十中八九は婿殿なんだけどね。
畑とは別に、婿殿がプランターで育てている小さな人参。
わざと間引きしないでおくと、うまく育たなくて大きくならないそうですが。
これだと皮剥きが要らないのと、お漬物に美味しい事、何よりうさぎ達のおやつとして柔らかくて美味しいらしいの。
だけど、ね。
「あのさ。」
「何?」
「うさちゃんってこんなに居たっけ?」
そう。
人参を持った婿殿がうさぎ達にうさぎ塗れになるのは、いつもの事だけど。
増えちゃった。
プランターから竹籠に移した人参を、私達が食べる分だけ選り分けて、婿殿が芝生に胡座をかいて
「おいで。おやつだよ。」
って言ったら、いつもの仔達だけでなく、長屋門から、お社から、梅林から、蔵から、沢山のうさちゃんが駆け寄って来て、あっという間に婿殿が押し潰されたの。
………
「わぁ、みなさんこんにちは。」
玉が一言かけると、みんな一度婿殿から離れて玉の足元までぴょんぴょん跳ねて、頭を下げると直ぐにまた婿殿に群がっています。
「…玉ちゃん。この仔達、知ってるの?」
「はい、殿が動物園でお世話していたうさちゃん達です。お客様にはまだ人馴れしてないから裏で殿が面倒を見てらして、玉は殿の''すまほ''で映像だけ見せてもらってました。…飼育員さんには中に入っても良いよって言われましたけど、なんか特別扱いされる立場じゃないので。」
「そなの?」
芝生で横たわってうさぎさん達に身体中をくっ付けられている婿殿を、佳奈お姉さんがしゃがんで顔を突きます。
「だから佳奈。1度部屋に戻ったのになんで着替えて来ないんだよ。タイトスカートだとは言っても、スカートの中見えてるぞ。」
「あれま。」
「恥ずかしがれ。」
「何を今更。貴方はもう、スカート中の中まで見てるじゃないの。」
「そう言う問題じゃないだろ。あと、スカートが皺になるから。」
「…スカートの中より、スカートの皺を気にしやがりますか。貴方は。」
「まだ女を捨てる歳じゃ無かろうもん。とりあえず作業着に着替えて来なさい。」
「はいはい。」
佳奈お姉さんは、お芋さんを私に預けると浅葱屋敷に入って行きました。
「よっこらせ。あぁ、床が高くてタイトスカートだと登れ無いぃぃ。」
浅葱屋敷は縁の下が高くて床まで高さ半間くらいあります。
足の形は綺麗になりますが動きが制限されるスカートでは跨げないみたいで、結局頭から畳の上に転がって部屋に入って行きました。
…あれじゃ、脱ぐ前に皺になっちゃいますよ?
「残念な婚約者さんだ。」
「です。」
あらら。
「忘れたのかい?この屋敷にいる仔達で、動物園から来た仔は、全員玉が僕の浅葱の力を利用して連れてきたコピーだよ。…まぁ最初の頃は土地神も穢れを祓った謝礼に、玉に協力したみたいだけど。」
そうでしたね。
ぽんちゃんは、動物園で飼われていた狸。
モルモットやうさぎや豚は、動物園の触れ合いコーナーで玉が仲良くなった仔達です。
その他は婿殿が連れてきたハクセキレイやルリビタキや子牛や山羊や山鳥や馬や…。
婿殿の方が酷くない?これ。
「結局はさ。玉は僕と婚約して、浅葱の力を心身共に受け入れたから、浅葱一族のDNAを取り込んだとも言えるんだ。だから彼女は、僕らの生活に善かれと判断した事には浅葱の力が使える。このうさぎ達にしても、僕らで世話をし切れる、この谷が賑やかになる、お義母さん周りが賑やかになる。そう判断して呼んだんだと思うよ。多分、無意識に。」
「なるほど。」
「なるほど。」
「なるほど。」
「なるほど。」
いや、なるほどって玉、貴女ねぇ。
「で、佳奈。君はどうなんだい?」
ザルにごっそり野菜を乗せた佳奈お姉さんが柿の木の下から顔を出したので、婿殿がすかさず呼び止めました。
チビちゃんも首に小さな籠をぶら下げてます。
中から芥子菜の葉っぱが覗いてますね。
チビちゃんは、私や佳奈お姉さんのお手伝いをする事が大好きなのです。
この籠は、私が麦わらで編んだ手作りの籠なんですが、私や佳奈お姉さんが畑にいると、自分から持ち手に首を突っ込んで私達の後を着いてくる様になりました。
なんでも良いから、軽い葉物を入れてあげると、とにかくご機嫌になります。
それを見たぽんちゃんも、お姉さんなので真似をしようと一度試してみましたが、狸の首では小さくてなで肩?で籠が落ちてしまうので諦めました。
以後は、「可愛い」事だけに専任するみたい。
まぁ、ぽんちゃんは実際に可愛いからそれ以外に要らないわね。
その代わりというわけでもないのだろうけど、モーちゃんが荷物を持ってくれるので、私は大体手ぶらで畑をうろうろしています。
というか、みんな私に持たせてくれません。
動物達に甘やかされる人間って言うのもどうなのかしら。
「この1×3メートルくらいのスペースに蚕棚を作るんだ。見ての通り土地の形にアールがあるし、裏の柊には椋鳥なんかがよく来るだろ。だから、食べられない様にガラス戸付きの、通気性は良いけど鳥が入れない細長い建物、それもお義母さんの背の高さに合わせた、まぁ自転車を止めるガレージみたいな建物とか野菜の無人販売所の様ににしようと思うんだけど、今ひとつイメージが固まらなくてさ。佳奈の発想で完成予想図を描いて欲しいんだ。」
「そっか、蚕棚かぁ。そう言えば荼枳尼天様に言われていたわね。お義母さんにお仕事させないとって。…私達の中で、1番働いていると思うんだけど。」
いえいえ。
チビちゃんやモーちゃんや、玉が毎日くるくる働いていますから、私には働いている感が全くないんですよ。
「おっしゃ。任された。なんでも1人でやっちゃう貴方に仕事を頼まれるってあまりないからね。画用紙と色鉛筆取ってくるから、これ、よろしく。」
佳奈お姉さんは、葉菜と玉ねぎ、人参が乗ったザルを婿殿に預けると、右手で指輪に触れて、消えて行きました。
浅葱の力で、元の世界に戻って行きました。
何しに帰ったんだろ。
「まったく、蚕をほったらかしにして野菜を預けて行かれてもなぁ。…とりあえず野菜を先に片付けるか。チビ、帰るよ、おいで。」
「わん!」
「あ、婿殿。私がお蚕様を持ちますよ。」
「もぅ。」
モーちゃんに、背中に乗せろと言われたみたいですよ。
「モーちゃん、このくらい私に持たせて。」
「やれやれ。」
うふふ。
本当にやれやれですね。私達。
★ ★ ★
「ふんふんふふん。」
いつの間にか玉が帰って来て、タラの芽の下拵えをしてました。
あら?
タラの芽だけじゃないわね。
「蕗の薹やわらびは食べた事あるけど、こごみとか独活とか、玉はよく知ってたなぁ。」
「殿?野の菜物は玉もお母さんも普通に摘んで食べてましたよ。…ちょっと苦いから玉は苦手だっただけです。殿にご馳走になったお野菜は甘くて美味しいけど、こういうお野菜も美味しく食べられる様になったのです。玉のべろもすっかり大人です。」
「そう言えばそうか。山菜に関しては、玉の方が詳しくて当たり前だな。」
「です。」
あ、そう言えば。
あの頃は、毎日摘んでいた炉端のお野菜、すっかり食べなくなってましたね。
お野菜は冷蔵庫の中にいつでも保管してあるので、みんなでお鍋とかする時くらいしか、わざわざ摘みにいかなくなってました。
それに、私が知らないお野菜が畑になってますものね。
玉は婿殿とスーパーに行っては、私達が初めて食べるお野菜を買って来てくれるんですよ。
ウチの畑で育てられる野菜や果物は種や苗木を持って来てくれますし、婿殿のお部屋の庭や聖域でも色々育てています。
「おぉいおぉいおおおおおぉ!」
「またけたたましいのが帰って来た。」
長屋門の方から、ぱからっぱからって、何故か蹄の音が響いて来ました。
ええと、神馬様?
今日はずっと人間の女性のお姿ですし、ぽっくりを履いてましたよね。
「主あるじご主人様キクチヒロシ!」
「真神の足音、それなに?」
「大急ぎで走って来たから、勝手に足だけ馬になった。」
「お前、狼の神様だろ?
「狼より馬の方が速く走れるぜ。」
「そうなの?」
「本人が言うんだから、間違いねぇ。」
くすくす。
何言ってるのかしら。
婿殿と神馬様は。
「それよりホラ!」
神馬様が出したザルには、これもまた見事な松茸ですね。
そもそも松茸も玉が婿殿のお世話になってから初めて食べたきのこです。
玉があの時代に遡った時に、たまたま初茸を見つけて来て婿殿に差し出したところ、婿殿ったら大喜びだったそうで。
私達が普通に食べていたきのこも、時代と共に無くなって行った物もあるのかしらね。
婿殿が言うには、初茸は幻のきのこだったらしいけど。
この家の裏側行けばいくらでも生えてるのよねぇ。
…松も生えてないのに。
「おう、モー助。乳出せ乳。バター作っから。」
「モ?」
「神馬様。さっき乳搾りは済んでいますから、今日はもう出ませんよ。」
あ、「もう」が交通事故駄洒落ですね。
「真神。今日は天ぷらなんだから焦るなっての。それにバターなら冷蔵庫に常備してるよ。うちにパン魔人がいる事を忘れたか?」
「うひひひ。ぱんを焼いたら菊地家1番は玉の事ですよ。ばたぁを使ったお菓子だって、最近では佳奈さんに勝てるようになりました。」
「玉、悪い顔してますよ。」
「殿に美味しいご飯を食べていただくためには、玉はいくらでも悪女になれるのです.うひひひひ。あ、人参をください。かき揚げなら細切りですね。」
うひひとか、わざわざ口で言いながらも玉は天ぷらの下拵えをしてますね。
なら私は、お茄子と枝豆と蓮根とオクラと、ええとええと。
………
「お待たせ。さつまいもも取って来たよ。…って、何してんの?」
佳奈お姉さんが帰って来ました。
何やら筆記用具とスケッチブックを持ってます。
佳奈お姉さんは時々、庭の椅子に腰掛けたり、婿殿が作った椅子を庭や畑のあちこちに持ち出して絵を描いてます。
チビちゃんが必ず側にいて、佳奈お姉さんのボディガードをしていますよ。
元々、狩りのお手伝いをする犬種だそうなので、佳奈お姉さんが座っている脇に必ず姿を見る事が出来ます。
時々、ワンちゃん用の乾燥肉(ジャーキーって言うんだって。佳奈お姉さんのカバンから取り出すと、何処にいてもぽんちゃんが走り寄って行くそうよ)をあげたりしながら、主従の語らいをしているんだって。
佳奈お姉さんはお仕事があるから、玉みたいに毎日はこの谷に来れないからね。
だから来れる時は、全力でチビちゃんを可愛がっているし、チビちゃんもその時を楽しみにしているんだって。
で、何故佳奈お姉さんが呆れているのかと言えば。
まぁ、十中八九は婿殿なんだけどね。
畑とは別に、婿殿がプランターで育てている小さな人参。
わざと間引きしないでおくと、うまく育たなくて大きくならないそうですが。
これだと皮剥きが要らないのと、お漬物に美味しい事、何よりうさぎ達のおやつとして柔らかくて美味しいらしいの。
だけど、ね。
「あのさ。」
「何?」
「うさちゃんってこんなに居たっけ?」
そう。
人参を持った婿殿がうさぎ達にうさぎ塗れになるのは、いつもの事だけど。
増えちゃった。
プランターから竹籠に移した人参を、私達が食べる分だけ選り分けて、婿殿が芝生に胡座をかいて
「おいで。おやつだよ。」
って言ったら、いつもの仔達だけでなく、長屋門から、お社から、梅林から、蔵から、沢山のうさちゃんが駆け寄って来て、あっという間に婿殿が押し潰されたの。
………
「わぁ、みなさんこんにちは。」
玉が一言かけると、みんな一度婿殿から離れて玉の足元までぴょんぴょん跳ねて、頭を下げると直ぐにまた婿殿に群がっています。
「…玉ちゃん。この仔達、知ってるの?」
「はい、殿が動物園でお世話していたうさちゃん達です。お客様にはまだ人馴れしてないから裏で殿が面倒を見てらして、玉は殿の''すまほ''で映像だけ見せてもらってました。…飼育員さんには中に入っても良いよって言われましたけど、なんか特別扱いされる立場じゃないので。」
「そなの?」
芝生で横たわってうさぎさん達に身体中をくっ付けられている婿殿を、佳奈お姉さんがしゃがんで顔を突きます。
「だから佳奈。1度部屋に戻ったのになんで着替えて来ないんだよ。タイトスカートだとは言っても、スカートの中見えてるぞ。」
「あれま。」
「恥ずかしがれ。」
「何を今更。貴方はもう、スカート中の中まで見てるじゃないの。」
「そう言う問題じゃないだろ。あと、スカートが皺になるから。」
「…スカートの中より、スカートの皺を気にしやがりますか。貴方は。」
「まだ女を捨てる歳じゃ無かろうもん。とりあえず作業着に着替えて来なさい。」
「はいはい。」
佳奈お姉さんは、お芋さんを私に預けると浅葱屋敷に入って行きました。
「よっこらせ。あぁ、床が高くてタイトスカートだと登れ無いぃぃ。」
浅葱屋敷は縁の下が高くて床まで高さ半間くらいあります。
足の形は綺麗になりますが動きが制限されるスカートでは跨げないみたいで、結局頭から畳の上に転がって部屋に入って行きました。
…あれじゃ、脱ぐ前に皺になっちゃいますよ?
「残念な婚約者さんだ。」
「です。」
あらら。
「忘れたのかい?この屋敷にいる仔達で、動物園から来た仔は、全員玉が僕の浅葱の力を利用して連れてきたコピーだよ。…まぁ最初の頃は土地神も穢れを祓った謝礼に、玉に協力したみたいだけど。」
そうでしたね。
ぽんちゃんは、動物園で飼われていた狸。
モルモットやうさぎや豚は、動物園の触れ合いコーナーで玉が仲良くなった仔達です。
その他は婿殿が連れてきたハクセキレイやルリビタキや子牛や山羊や山鳥や馬や…。
婿殿の方が酷くない?これ。
「結局はさ。玉は僕と婚約して、浅葱の力を心身共に受け入れたから、浅葱一族のDNAを取り込んだとも言えるんだ。だから彼女は、僕らの生活に善かれと判断した事には浅葱の力が使える。このうさぎ達にしても、僕らで世話をし切れる、この谷が賑やかになる、お義母さん周りが賑やかになる。そう判断して呼んだんだと思うよ。多分、無意識に。」
「なるほど。」
「なるほど。」
「なるほど。」
「なるほど。」
いや、なるほどって玉、貴女ねぇ。
「で、佳奈。君はどうなんだい?」
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