ご飯を食べて異世界に行こう

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第一章 開店

朝の風景

翌朝。
まだ7時になる前に青木さんはやって来た。
って早いよ。早起きの玉はともかく(生真面目な玉は常に早寝早起きです)僕はまだ寝てたんだって。玉と打ち合わせして玄関を開ける時間を決めているらしいけど、家主が知らないのはどうなの?
あと、君は何時に家を出ているの?

「無職なんだから、せめて規則正しい生活をしなさい!」
「ビシ!」
ベッドでパジャマのまんま、寝起きでボケッとしている男を2人して指差さないの。客と同居人。

そのまま2人は大家さんの待つ庭仕事に向かい、僕は頭(とお腹)を掻き掻き洗面所に向かう。それにしてもよく毎日、狭い庭を弄る用事があるなぁ。
「植物は適切に手入れすると、きちんと応えてくれるのです。」
「ですよ。わかりましたかお父さん?」
とか、孫とお祖母さんな2人に叱られそうだから口に出さないけどね。

さて、今朝の朝ご飯はどうしよう。

玉特製ジャムは残りが少なくなってたな。4人分には、ちょっと足りないか。
別に浅葱の力で増やしてもいいけど、これは玉の担当なので、便利だからと勝手に出す訳にも行かない。玉に怒られちゃうからね。
後で聖域に行った時に、材料(柿・蜜柑・枇杷)を補充しておこう。

ならば、と。
食パンは8枚切りを沢山準備。
耳は落とさずに、取りやすい様に食卓に並べておこう。

パンだけだと飽きるので(ジャムが足りないので)、薄力粉と強力粉と無塩バターを冷水で練って、お手軽手抜きパイ生地の出来上がり。本来なら一晩必要な発酵の時間は、インチキ浅葱の力で省略出来ました。

食卓に並べる具材を準備。
聖域産のトマトを輪切りに揃えて。
冷蔵庫の野菜室から取り出したピーマンも輪切りに。
チルド室から取り出した厚切りベーコンを適当にざく切りにして。
サラミとチョリソーソーセージも輪切り。輪切り輪切り輪切り。何も工夫する事無く全部輪切り。トロけるチーズも並べて、好きな具材を選べる様にしておこう。

ピザソースは、ケチャップとマヨネーズ、胡椒を混ぜたお手製トマトソース。

以上、朝からピザバイキングです。
パイ生地は餃子の皮くらいにしたので、好きな具材で好きなだけ食べて貰える様に。

そしてもう一品。
大家さんは、何故か我が家のパンが好きなので。
井◯屋のあずき缶を開けて、細かく刻んだ栗の甘露煮と菜箸を使ってぐるぐる混ぜておく。小倉ホットサンドってのも、あんまんの亜種みたいで美味しそう(面白そう)だ。

電気式ホットサンドメーカー2機と、手焼き式ホットサンドメーカー2台用意しましたので、七輪で焼いてもらおうと。
ホットサンドはご自分で調理してもらいましょう。

ドリンクは、熱・冷緑茶に、熱・冷ミルク(砂糖、蜂蜜はご自由に)、聖域蜜柑のフレッシュジュース辺りを並べておこう。
あと、コーヒーは僕しか飲まないけど、一応コーヒーメーカーに淹れておきます。

「まぁまぁ、朝からピザですか?お父さんのご飯は、いつも面白いですねぇ。」
「うわぁ、この小倉トースト、小さな栗の歯応えが楽しくて美味しいですぅ。」
「だから、朝からこんなの簡単に作られたちゃうと、女の沽券3人分が跡形も無くなるじゃない…。」

大家さんも青木さんも、ホットサンドメーカーを使った事が無いそうで。
自分で作るホットサンドの出来上がりの良し悪しにキャアキャア騒ぎながら。
今日も賑やかな朝になりました。

あと、いつも朝からすみません。アパートの同居人さん。


★  ★  ★

さて、いつもの様に、2人と1頭が縦に行列を作って社にお勤めに行くのを見送って、僕は収穫作業に入ろう。

果物類は、たぬきちが勝手に集めて籠に盛っておいてくれるので(どんな狸だ)、野菜類のうち、僕ら用の根菜を掘る。
地上に成っているミニトマトやフルーツコーンはたぬきちのおやつ。
食べたくなったら自由に食へべなさい、と半分命令しているから、適当に減って、適当に増えている。

なんだかなぁ。前に作ったトマトや胡瓜は収穫を終えたらきちんと枯れたのに、こいつらは枯れる素振りも見せず、葉は青々と、実ははちきれんばかりに丸々と太っている。

「うふふうふふうふふ。」
「わふふわふふわふふ」

たぬきちが訳の分からない声を上げてお腹を見せているのは、青木さんがブラッシングをしているから。
ブラシはこれ目当てで、青木さんが外から持ち込んだらしい。

「これ、持ち歩かないと駄目なんですか?」
巫女装束を着て玉串をかかえた玉は、僕の指示に戸惑っていた。祝詞呈げが終わった事を見計らって社に上がって行って、そう告げたんだ。
普段は神鏡と共に祭壇に捧げられている御神刀(懐刀)。荼枳尼天より僕が授かり、僕の手を一瞬にも触れず荼枳尼天の巫女に渡った荼枳尼天の御神刀。
今日は、その御神刀を携帯するようにと。

御神刀は玉の意思もしくは玉の危機に応じて、時間や空間が離れていても、玉の元に馳せ参じる事は確認しているけれど、今日行う事を考えると、荼枳尼天との繋がりを太くしておく事に越した事は無いだろう。

★  ★  ★  

さて出発。
いつもの様に、運転席は僕。玉と青木さんは後部席に陣取る。
玉に御神刀を持たせた様に、僕もあるものを鞄に詰めている。
何があるかわからないから。一応ね。

玉はすっかりお気に入りにしてくれた帆布の肩掛け鞄から地図と蛍光ペンを取り出して準備完了。
行動記録を地図上に記録出来るスマホアプリを見つけてダウンロードしてあげたのだけど、彼女は自分の手と頭を動かすアナログを好むので、お出かけの時は地図を見ながら風景を眺めて、ランドマークになりそうなものは素早く地図で確認してチェックする。たまに興味を引く店や看板、案内標識などを見かけたら、僕に質問して行くべきかどうか判断するという、ある意味運転手より忙しくしている。

そのモードに切り替わると、手持ち無沙汰になる青木さんの標的は、僕に変わる。

「それで、結局何処行くの?昨日は随分と随分な言い方だったけど。」
「聖なる高みって荼枳尼天は言ったんだけど、宗派の指定はしてないんだ。成田山だって、新勝寺に鳥居付きのお稲荷さんがあった訳だから、神様からすれば、そこら辺は気にしないのかもしれない。」
「神仏習合って奴ね。…何年ぶりに思い出しただろう。この言葉。」
「まぁ祈られる側の神様からすれば、深い事は気にしないのかもしれない。なんせ、日本人は信心とか薄いくせに、神様仏様が大好きだ。古代のアミニズムやシャーマニズムが割と濃厚に残っている、矛盾の塊の様な文化だから。」
「八百万の神って奴か。菅原道真を天神様にしちゃったり、トイレの神様を歌ってヒットしたりね。」

車は京葉道路から館山道に入った。
高速道路を走っている限り、地図のマーキングが要らないので、玉は車窓に齧り付いている。
丘陵地帯に入るまでは、長閑な田園風景か、東京湾沿いの煙突群が見えるだけなので、ICやSAを通過した時だけ、蛍光ペンを動かすだけだ。
それでも、曲がりなりにも神職の卵、現代日本の宗教状況には興味があるらしい。耳だけは傾けている。

「聖域で高い所と言われて、普通考えつくのは山岳信仰だね。有名ところだと、高尾山や筑波山、秩父の三峰山とかだ。富士山みたいに山一個丸々霊山になっている山も、日本には珍しくない。」
「三峰山って林間学校で行った事あります。」
…埼玉県民アルアルなのかなぁ。

「ところが、千葉県って高い山がないから山岳信仰ってものが見当たらない。そりゃきちんと調べれば見つかるんだろうけど、みんな標高数十メートルの里山だし。鎮守様が祀られているくらいでね。それでもなんとか見つけ出したのが、三石山と清澄山の二つ。でも山岳信仰的な性格は欠片も見当たらない。前者は巨石信仰、後者は日蓮宗の史跡的寺院で、変な言い方を敢えてすれば、本尊が力があり過ぎて個性的過ぎて邪魔。(個人の感想です)。そこで考えて思い付いたのが一つある。今日はこれからそこへ向かいます。」

「はぁ。」
「殿。おしっこ。」
「…次のパーキングに入ります。」

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