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第二章 戦
優勝。優勝?
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決戦は金曜日(←古い)ならぬ日曜日。
単純に勤め人の青木さんの準備と、妹が送った熊本からのクール便の到着を待つ為、日を空けた。
「兄さんとこの材料で作り直してみて」
一晩経ってから届いたメールには、更に面倒くさい指令が追加されて来た。
プロが商品として開発・発売している、しかも検索したら地元ではかなり人気店のイチオシスイーツじゃないか。
当然、レシピも公開してない。する訳ない。
多分、王道な物だろうし、頓珍漢な一手間もかけてないだろうけど。
それを全部解析しろって事なんだろうなぁ。
浅葱の力って、そういう力だっけ?
………
「わふ?」
何してんの?
「お菓子の研究だよ。」
「わふ?」
ここで?
たぬきちに盛大に首を捻られてしまった。
仕方ないんだ。
玉に部屋の台所を占領されてしまったから。
玉はバナナ餡子の制作には成功したそうだ。
「殿?どうでしょう?売れますか?」
「評価の基準が売れるかどうかなの?」
「妹さんが教えてくれました。」
あの野郎。
(一応)純粋な玉に余計な知恵を付けさせるなっての。
という訳で、僕は聖域の茶店、あるところまで作ってそのまま放置しっぱなしの厨房に籠っている。
厨房って言っても、水道と茶釜しかない。なので、浅葱の力でカセットコンロを2台ばかり出してある。
「ほれ。妹からだ。みんなにも分けてやってくれ。」
「わふ!」
たぬきちは茶店の奥まで入って来ているけど、他の眷属達が外から覗いているので、手提げ籠に彼らの分のショコラタルトを入れて届けさせる。
なんだ?
いつもは社に中まで玉について自由に入っているじゃないか。
「わふ」
僕はお父さんのご縁でここに来た。
彼らは神様のご縁でここに来た。
だから、神様のお家に自由に入れるけど、お父さんのお家に入るには、お父さんの許可が居るの。
そうですか。
そうですか?
はい?
いつからそんな事決まったの?
「わふ」
昨日。
「昨日?」
みんな何やってんの?
「くにゃ」
…いつのまにか御狐様が居るけど。
茶店の中に、僕の隣に。
「わふ」
キツネさんは、神様の次にお父さんが好きだからなんでも良いって。
だからなんなのその変な序列。
「お菓子食べる?」
「くにゃ」
御狐様に断られた。
御供え物を断れたの初めてだ。
うわぁなんだろう。ちょっとショック。
「くにゃくにゃ」
僕の顔が少し曇ったのだろうか。
慌てて御狐様が弁解を始めた。
前脚であれこれ引っ掻き回す仕草が可愛くて、思わず吹いてしまった。
「わふ」
キツネさんは神様と一緒に審査員をするから、お父さんのお菓子を食べられないんだよ。
律儀な眷属ですね。
それも神様に対してではなく、僕の他の参加者に対して。
まぁ、それなら本人の意思を尊重しないと。
だったら、ここは思いっきり定番品の市販品で我慢して貰おうか。
と言う訳で、スイーツなんかにおおよそ縁が無い僕でも、年に1~2回は衝動買いするこれ。
薄いスポンジゲーキでバナナ1本とホイップクリームで巻いた奴。
つまり◯ごとバナナ(←伏せ字になってない)を御供えしますか。
「くにゃ!」
「わふ!」
あぁ、たぬきちはダメだよ。
「わふ!わふ!わふ!」
…たぬきちに体当たりされて、押し倒された。
そのまま何気なく頭を逆さまにしたまま店先に目を遣ると。
フクロウくんとテンの親子が盛大に涎を垂れ流していた。
やれやれ。
「神様の試食会が終わったらな。みんなにも出してあげるよ。」
きゃー!
…変な事が聞こえたぞ。
テン母以外は全員雄の筈だけど、何故女性っぽい歓声?
★ ★ ★
こう言うイベント事は大好きな家族さん達なので、土曜日はそれぞれがそれぞれの台所(玉は僕の部屋の台所)を占領して、あれこれやってます。
なので今日も僕は聖域に1人。
僕の方はあらかた片付いたので、山葵畑で収穫に精を出します。
特に料理を作ってないからか、たぬきち達はみんな小屋で昼寝。
さてと。
山葵は粉にして乾燥させる計画。
ふりかけや山葵ソースにすれば、調味料として新しい世界が広がる。
スイーツ?なにそれ?
今は甘味より塩味。…塩味じゃないな。辛味?まぁいいか。
揉み海苔や縮緬雑魚、白胡麻なんてのを色々調合する。
これをご飯に掛けて、掛けて…ご飯…。
ええい、やったれ。
さて、ご飯は炊くか、パックご飯を温めるか。
前者なら炊飯器、後者なら電子レンジ。
さてさて、どうしようかな。
★ ★ ★
「第一回ばななすいぃつ選手権、ここに開催です!です。」
わあああああ。
玉の開会宣言に、聖域に歓声が広がる。
参加者は。
僕。
玉。
青木さん。
しずさん。
熊本から通販で妹。
審査員は、荼枳尼天・一言主・御狐様。
観客(つまみ食い担当)に、たぬきち・フクロウくん・テンママ・てんいち・てんじ。
あ、テン母の名前が、さっきテンママに決まりました。
「くぅ」
「え?お母さんも名前欲しいですか?」
「くぅ」
てんいち・てんじに名前を呼んで撫でていた玉の姿を、テン母が羨ましがった。
多分、玉とテンはきちんと会話をしているのではないけど、意思は通じ合っているみたい。
で、即物的な名前を付けがちな玉は、やっぱりそのまんまの名前をつけました。
………
ちょっと戻って。
山葵ふりかけが完成。
結局選んだのは、土鍋炊く「あきたこまち」の特Aランク。
おかずに川で捕まえた(魚籠を漬けとくと勝手に入ってくる)鮎。
鮎は塩焼きにしないで、石板の上で山葵焼きにしてみた。
畑に行けば胡瓜が(いつでも)成っているので、軽く塩で揉んで味噌につけて食べよう。
これだけ料理とかしていると、大抵誰か来るものだけど、珍しく誰も来ない。
たぬきち達は小屋で大いびき書いてるし、荼枳尼天も御狐様も来ない。
なので、のんびりと山葵メニューをのんびりと食べるのんびりな1日を過ごした。
玉も、しずさんも、青木さんも、台所にこもっているんだろう。
何を作ってんだかな。
玉は、饅頭にするか餅にするか相談を受けたから、当初の予定通りバナナ饅頭かバナナ大福にするんだろう。
しずさんと青木さんは、何を作っているんだか。
………
「玉が作ったのは、こちらです!ばななお饅頭とばなな大福、ばななどら焼きです。お饅頭とどら焼きの生地にもばななを練り込んであります。」
おおっ。
ざわめきが周囲を包む。
ひたすらにバナナのペーストにこだわっていた玉の成果(ダブルミーニングで製菓)だ。
「こちらのばなな牛乳の蜂蜜割と一緒にお召し上がり下さい。」
ほぅ。
バナナペーストの作り方と称して、矢鱈とジューサーでバナナジュースを作っていたけど、あれちゃんと伏線だったんだ。
ふむ。バナナ餡がしつこくない。
これはいくらでも食べられる奴だ。
どら焼きの皮が何か歯応えがあるな。
口中でそのかけらを味わってみるとこれは……クラッシュバナナか。
乾燥バナナを細かく砕いたものだ。
…やるな!玉。
あぁえぇと。
審査員さんは、別に味の感想とか言わず、みんなワイワイと美味しそうに完食するだけだった。
………
「次は私!東武線沿線で女子高生時代を過ごし、今も東武線・京成線沿線の美味しいものを食べて廻る下町娘!青木佳奈が提供するスイーツはこれだ!」
ワイングラス(100円ショップで購入)にアイスクリームと果物が飾り付けられて、ステック状に切られたバナナがウエハースと同じ太さに揃えられていた。
あと何?
東武線の女とか、下町娘とか。
その変な自称。
「アイスクリームは、ア◯ゾンで割とお高いアイスクリームメーカーを買って作りました。」
「…前々から思っていたけど、貴女僕らに無駄遣いし過ぎじゃないの?」
「あのね。朝晩ご飯をご馳走になってるでしょ。こないだふと思い立って昼抜きにしてみたら全然平気だったから、エンゲル係数がぐんぐん下がってるの。玉ちゃんは材料費を受け取ってくれないし。」
「殿から生活費をお預かりしてあれこれやってますけど、減らないんですよう。食材は大体ただで手に入りますから。余った生活費をお返ししようとしても受け取ってくれないし。」
「大した額でも無いし、そのくらい無駄遣いさせなさいよ。」
ん?
みんなして僕を見てるけど、僕が悪いの?
「まぁ殿だし。」
「まぁ、貴方のする事だし。」
「まぁ、婿殿だし。」
???
「アイスクリームのミルクはモーちゃんから貰いました。」
「ちょっと待て。」
まだせいぜい生後3ヶ月程度の仔牛だぞ。なのに、ちち?
あ、一言主がソッポを向いた。
お前のせいかよ。
そこら辺は後で追求するとして、さて試食。
アイスクリームがさっぱりしていて美味しい。
コンビニで300円くらいで売ってる、お高い小さなアイスとは別方向からのアプローチだ。
「私が伊香保で食べたソフトクリームに勝てないのよねぇ。思い出補正に勝てるほどの料理スキルが無いのが残念。」
でも、添えられている果物が飴でコーティングされていたり、クラッシュナッツがかかっていたり、ブランデーがかかっていたり(玉の分を除く)面白い。
こんな王道スイーツの存在は絶対だ。
………
「私は焼き物です。」
しずさんのスイーツは、マフィンだった。
あの時買った型(おぅ交通事故駄洒落)を使ってくれたんだろう。
星型や花形の形をしたマフィンが並べられた。
添えられたものは紅茶。
紅茶の横には玉に習ったのか、玉製そのものなのかジャムが並んでいる。
なるほど、ロシアンティーか。
中にはバナナの小さなブロックがあちこちに入っていて、食感が楽しい。
そして表面にかかっているこの粉は。
「シナモン?」
少しキツめの香りに気がついた青木さんが声を上げる。
けど、これは…。
「ニッキ?」
「婿殿、正解ですよ。」
「殿?どうしてわかったんですか?」
「ん?ほんの少し辛味があるだろう。シナモンだとこれが無いんだ。」
「ていうかニッキ?何処に売ってたの?」
「山にありました。」
「は?」
青木さんが目を丸くしている。
無理もない。
浅草の仲見世とか、あ、あと熊本城のお土産屋で見つけた事があるけど、商品としては絶滅危惧種だろう。
でも、山?
「果物を探しに、あと筍を取りに川に行ったんですよ。あの、滝のところにアケビがなっているでしょう。」
「あぁ、しばらく行ってないけどありましたねぇ。」
いくら収穫しても玉とぽん子に食べ尽くされるから。
「山側を少し歩いてみたら見覚えのある根っこが川に突き出してました。」
確かにニッキはニッケイと言う木の根の皮だけど
何その如何にも見つけてください的な…あ、一言主が後ろ向きやがった。
「ニッキかぁ。元の家では玉達のおやつだったねぇ。」
「玉ちゃん、何その悲しいの。私聞きたくないからもう辞めて!」
そうは言っても、終戦直後の日本人のおやつでもあったんだぞ。
「という事で婿殿、固い八つ橋が作れますよ。」
「どうでしょうネタは僕としずさんにしか通用しませんよ。」
………
結論。
勝者なし。
「ええええええ!」
玉が神様にブーイングを飛ばしている。
「儂が浅葱に頼んだのは、美味い甘い物を作ってくれ、だぞ。どれが1番美味いかなぞ決められんわ。」
実際、選手権とか言い出したの玉だし。
「そりゃ巫女っ子を贔屓してやるのもやぶさかでは無いが、何かと角が立つじゃろ。」
人間関係に気を遣ってくれる、優しい祟り神だった。
「あら、でしたら一言主様はどうですか?」
「うむ。儂か。」
話がややこしい方向に行きかけているのを察した一言主がこっそり帰ろうとした帯を、しずさんが素早く掴んだ。
うわぁ、満面の笑みだけど、目が笑ってないよう。
「儂もしずと言いたいとこじゃが、はっきり言うなら、ほれ、それじゃ。」
一言主が指差したのは、バナナを輪切りにしてチョコソースを掛け回しただけの、僕の超手抜きスイーツ?だった。
「ええええええええええええええええええええええええええええええ!」
はい、皆さまから大ブーイングを頂きました。
ていうか、たぬきちにまで言われるか、僕。
「一言主の巫女としてお尋ねします。…なんで?」
しずさん、言葉が乱れてますよ。
「なんでもなにも、縁故で言うなら、儂は浅葱家の氏神じゃし、菊地を守護する神じゃ。おっとその手を下ろしてくれ。」
「うわぁ、玉が小さい頃に散々叱られて泣いちゃった奴です。」
しずさんは平手を振り上げているだけなのに、一言主と玉が頭を抱えて小さくなってます。
仕方ない。仲裁に入るか。
巫女に叱られている神様を庇う構図。
相変わらず滅茶苦茶だ。
………
「うちは両親を早くに亡くしましたからね。極力お金を使わないで生活してたんですよ。妹にはお祝い事の時はショートケーキをご馳走していましたが、僕は1本5円の茶色いバナナを買って来て、輪切りにしたものをお皿に並べて食べてたんですよ。不思議と普通に皮を剥いて食べるバナナよりも、フォークで刺して食べるバナナの方が美味しかったからなぁ。」
「と言う記憶を儂は知っておるからの。浅葱がバナナほっておいて山葵料理に没頭していた気持ちもわかる。」
「ふむ。むしろ儂ら神が介入しなかった時の方が、浅葱の美味い菓子が食えたと?」
「むう、そうやもしれん。」
やや、神様ーズが何やら話し合いを始めてしまった。
いや、そんな大層な事考えてなく、山葵ふりかけご飯が美味くてバナナの事をすっかり忘れていただけなんだけど。
あぁもう。うちの女性陣と眷属達がしんみりし出してるよ。
この空気、どうすんだよ!
なお、外部審査員の大家さんと菅原さんは直ぐに妹のショコラタルトに軍配をあげてました。
いくら僕が手を加えたとはいえ、プロの作るお菓子つえぇぇ。
単純に勤め人の青木さんの準備と、妹が送った熊本からのクール便の到着を待つ為、日を空けた。
「兄さんとこの材料で作り直してみて」
一晩経ってから届いたメールには、更に面倒くさい指令が追加されて来た。
プロが商品として開発・発売している、しかも検索したら地元ではかなり人気店のイチオシスイーツじゃないか。
当然、レシピも公開してない。する訳ない。
多分、王道な物だろうし、頓珍漢な一手間もかけてないだろうけど。
それを全部解析しろって事なんだろうなぁ。
浅葱の力って、そういう力だっけ?
………
「わふ?」
何してんの?
「お菓子の研究だよ。」
「わふ?」
ここで?
たぬきちに盛大に首を捻られてしまった。
仕方ないんだ。
玉に部屋の台所を占領されてしまったから。
玉はバナナ餡子の制作には成功したそうだ。
「殿?どうでしょう?売れますか?」
「評価の基準が売れるかどうかなの?」
「妹さんが教えてくれました。」
あの野郎。
(一応)純粋な玉に余計な知恵を付けさせるなっての。
という訳で、僕は聖域の茶店、あるところまで作ってそのまま放置しっぱなしの厨房に籠っている。
厨房って言っても、水道と茶釜しかない。なので、浅葱の力でカセットコンロを2台ばかり出してある。
「ほれ。妹からだ。みんなにも分けてやってくれ。」
「わふ!」
たぬきちは茶店の奥まで入って来ているけど、他の眷属達が外から覗いているので、手提げ籠に彼らの分のショコラタルトを入れて届けさせる。
なんだ?
いつもは社に中まで玉について自由に入っているじゃないか。
「わふ」
僕はお父さんのご縁でここに来た。
彼らは神様のご縁でここに来た。
だから、神様のお家に自由に入れるけど、お父さんのお家に入るには、お父さんの許可が居るの。
そうですか。
そうですか?
はい?
いつからそんな事決まったの?
「わふ」
昨日。
「昨日?」
みんな何やってんの?
「くにゃ」
…いつのまにか御狐様が居るけど。
茶店の中に、僕の隣に。
「わふ」
キツネさんは、神様の次にお父さんが好きだからなんでも良いって。
だからなんなのその変な序列。
「お菓子食べる?」
「くにゃ」
御狐様に断られた。
御供え物を断れたの初めてだ。
うわぁなんだろう。ちょっとショック。
「くにゃくにゃ」
僕の顔が少し曇ったのだろうか。
慌てて御狐様が弁解を始めた。
前脚であれこれ引っ掻き回す仕草が可愛くて、思わず吹いてしまった。
「わふ」
キツネさんは神様と一緒に審査員をするから、お父さんのお菓子を食べられないんだよ。
律儀な眷属ですね。
それも神様に対してではなく、僕の他の参加者に対して。
まぁ、それなら本人の意思を尊重しないと。
だったら、ここは思いっきり定番品の市販品で我慢して貰おうか。
と言う訳で、スイーツなんかにおおよそ縁が無い僕でも、年に1~2回は衝動買いするこれ。
薄いスポンジゲーキでバナナ1本とホイップクリームで巻いた奴。
つまり◯ごとバナナ(←伏せ字になってない)を御供えしますか。
「くにゃ!」
「わふ!」
あぁ、たぬきちはダメだよ。
「わふ!わふ!わふ!」
…たぬきちに体当たりされて、押し倒された。
そのまま何気なく頭を逆さまにしたまま店先に目を遣ると。
フクロウくんとテンの親子が盛大に涎を垂れ流していた。
やれやれ。
「神様の試食会が終わったらな。みんなにも出してあげるよ。」
きゃー!
…変な事が聞こえたぞ。
テン母以外は全員雄の筈だけど、何故女性っぽい歓声?
★ ★ ★
こう言うイベント事は大好きな家族さん達なので、土曜日はそれぞれがそれぞれの台所(玉は僕の部屋の台所)を占領して、あれこれやってます。
なので今日も僕は聖域に1人。
僕の方はあらかた片付いたので、山葵畑で収穫に精を出します。
特に料理を作ってないからか、たぬきち達はみんな小屋で昼寝。
さてと。
山葵は粉にして乾燥させる計画。
ふりかけや山葵ソースにすれば、調味料として新しい世界が広がる。
スイーツ?なにそれ?
今は甘味より塩味。…塩味じゃないな。辛味?まぁいいか。
揉み海苔や縮緬雑魚、白胡麻なんてのを色々調合する。
これをご飯に掛けて、掛けて…ご飯…。
ええい、やったれ。
さて、ご飯は炊くか、パックご飯を温めるか。
前者なら炊飯器、後者なら電子レンジ。
さてさて、どうしようかな。
★ ★ ★
「第一回ばななすいぃつ選手権、ここに開催です!です。」
わあああああ。
玉の開会宣言に、聖域に歓声が広がる。
参加者は。
僕。
玉。
青木さん。
しずさん。
熊本から通販で妹。
審査員は、荼枳尼天・一言主・御狐様。
観客(つまみ食い担当)に、たぬきち・フクロウくん・テンママ・てんいち・てんじ。
あ、テン母の名前が、さっきテンママに決まりました。
「くぅ」
「え?お母さんも名前欲しいですか?」
「くぅ」
てんいち・てんじに名前を呼んで撫でていた玉の姿を、テン母が羨ましがった。
多分、玉とテンはきちんと会話をしているのではないけど、意思は通じ合っているみたい。
で、即物的な名前を付けがちな玉は、やっぱりそのまんまの名前をつけました。
………
ちょっと戻って。
山葵ふりかけが完成。
結局選んだのは、土鍋炊く「あきたこまち」の特Aランク。
おかずに川で捕まえた(魚籠を漬けとくと勝手に入ってくる)鮎。
鮎は塩焼きにしないで、石板の上で山葵焼きにしてみた。
畑に行けば胡瓜が(いつでも)成っているので、軽く塩で揉んで味噌につけて食べよう。
これだけ料理とかしていると、大抵誰か来るものだけど、珍しく誰も来ない。
たぬきち達は小屋で大いびき書いてるし、荼枳尼天も御狐様も来ない。
なので、のんびりと山葵メニューをのんびりと食べるのんびりな1日を過ごした。
玉も、しずさんも、青木さんも、台所にこもっているんだろう。
何を作ってんだかな。
玉は、饅頭にするか餅にするか相談を受けたから、当初の予定通りバナナ饅頭かバナナ大福にするんだろう。
しずさんと青木さんは、何を作っているんだか。
………
「玉が作ったのは、こちらです!ばななお饅頭とばなな大福、ばななどら焼きです。お饅頭とどら焼きの生地にもばななを練り込んであります。」
おおっ。
ざわめきが周囲を包む。
ひたすらにバナナのペーストにこだわっていた玉の成果(ダブルミーニングで製菓)だ。
「こちらのばなな牛乳の蜂蜜割と一緒にお召し上がり下さい。」
ほぅ。
バナナペーストの作り方と称して、矢鱈とジューサーでバナナジュースを作っていたけど、あれちゃんと伏線だったんだ。
ふむ。バナナ餡がしつこくない。
これはいくらでも食べられる奴だ。
どら焼きの皮が何か歯応えがあるな。
口中でそのかけらを味わってみるとこれは……クラッシュバナナか。
乾燥バナナを細かく砕いたものだ。
…やるな!玉。
あぁえぇと。
審査員さんは、別に味の感想とか言わず、みんなワイワイと美味しそうに完食するだけだった。
………
「次は私!東武線沿線で女子高生時代を過ごし、今も東武線・京成線沿線の美味しいものを食べて廻る下町娘!青木佳奈が提供するスイーツはこれだ!」
ワイングラス(100円ショップで購入)にアイスクリームと果物が飾り付けられて、ステック状に切られたバナナがウエハースと同じ太さに揃えられていた。
あと何?
東武線の女とか、下町娘とか。
その変な自称。
「アイスクリームは、ア◯ゾンで割とお高いアイスクリームメーカーを買って作りました。」
「…前々から思っていたけど、貴女僕らに無駄遣いし過ぎじゃないの?」
「あのね。朝晩ご飯をご馳走になってるでしょ。こないだふと思い立って昼抜きにしてみたら全然平気だったから、エンゲル係数がぐんぐん下がってるの。玉ちゃんは材料費を受け取ってくれないし。」
「殿から生活費をお預かりしてあれこれやってますけど、減らないんですよう。食材は大体ただで手に入りますから。余った生活費をお返ししようとしても受け取ってくれないし。」
「大した額でも無いし、そのくらい無駄遣いさせなさいよ。」
ん?
みんなして僕を見てるけど、僕が悪いの?
「まぁ殿だし。」
「まぁ、貴方のする事だし。」
「まぁ、婿殿だし。」
???
「アイスクリームのミルクはモーちゃんから貰いました。」
「ちょっと待て。」
まだせいぜい生後3ヶ月程度の仔牛だぞ。なのに、ちち?
あ、一言主がソッポを向いた。
お前のせいかよ。
そこら辺は後で追求するとして、さて試食。
アイスクリームがさっぱりしていて美味しい。
コンビニで300円くらいで売ってる、お高い小さなアイスとは別方向からのアプローチだ。
「私が伊香保で食べたソフトクリームに勝てないのよねぇ。思い出補正に勝てるほどの料理スキルが無いのが残念。」
でも、添えられている果物が飴でコーティングされていたり、クラッシュナッツがかかっていたり、ブランデーがかかっていたり(玉の分を除く)面白い。
こんな王道スイーツの存在は絶対だ。
………
「私は焼き物です。」
しずさんのスイーツは、マフィンだった。
あの時買った型(おぅ交通事故駄洒落)を使ってくれたんだろう。
星型や花形の形をしたマフィンが並べられた。
添えられたものは紅茶。
紅茶の横には玉に習ったのか、玉製そのものなのかジャムが並んでいる。
なるほど、ロシアンティーか。
中にはバナナの小さなブロックがあちこちに入っていて、食感が楽しい。
そして表面にかかっているこの粉は。
「シナモン?」
少しキツめの香りに気がついた青木さんが声を上げる。
けど、これは…。
「ニッキ?」
「婿殿、正解ですよ。」
「殿?どうしてわかったんですか?」
「ん?ほんの少し辛味があるだろう。シナモンだとこれが無いんだ。」
「ていうかニッキ?何処に売ってたの?」
「山にありました。」
「は?」
青木さんが目を丸くしている。
無理もない。
浅草の仲見世とか、あ、あと熊本城のお土産屋で見つけた事があるけど、商品としては絶滅危惧種だろう。
でも、山?
「果物を探しに、あと筍を取りに川に行ったんですよ。あの、滝のところにアケビがなっているでしょう。」
「あぁ、しばらく行ってないけどありましたねぇ。」
いくら収穫しても玉とぽん子に食べ尽くされるから。
「山側を少し歩いてみたら見覚えのある根っこが川に突き出してました。」
確かにニッキはニッケイと言う木の根の皮だけど
何その如何にも見つけてください的な…あ、一言主が後ろ向きやがった。
「ニッキかぁ。元の家では玉達のおやつだったねぇ。」
「玉ちゃん、何その悲しいの。私聞きたくないからもう辞めて!」
そうは言っても、終戦直後の日本人のおやつでもあったんだぞ。
「という事で婿殿、固い八つ橋が作れますよ。」
「どうでしょうネタは僕としずさんにしか通用しませんよ。」
………
結論。
勝者なし。
「ええええええ!」
玉が神様にブーイングを飛ばしている。
「儂が浅葱に頼んだのは、美味い甘い物を作ってくれ、だぞ。どれが1番美味いかなぞ決められんわ。」
実際、選手権とか言い出したの玉だし。
「そりゃ巫女っ子を贔屓してやるのもやぶさかでは無いが、何かと角が立つじゃろ。」
人間関係に気を遣ってくれる、優しい祟り神だった。
「あら、でしたら一言主様はどうですか?」
「うむ。儂か。」
話がややこしい方向に行きかけているのを察した一言主がこっそり帰ろうとした帯を、しずさんが素早く掴んだ。
うわぁ、満面の笑みだけど、目が笑ってないよう。
「儂もしずと言いたいとこじゃが、はっきり言うなら、ほれ、それじゃ。」
一言主が指差したのは、バナナを輪切りにしてチョコソースを掛け回しただけの、僕の超手抜きスイーツ?だった。
「ええええええええええええええええええええええええええええええ!」
はい、皆さまから大ブーイングを頂きました。
ていうか、たぬきちにまで言われるか、僕。
「一言主の巫女としてお尋ねします。…なんで?」
しずさん、言葉が乱れてますよ。
「なんでもなにも、縁故で言うなら、儂は浅葱家の氏神じゃし、菊地を守護する神じゃ。おっとその手を下ろしてくれ。」
「うわぁ、玉が小さい頃に散々叱られて泣いちゃった奴です。」
しずさんは平手を振り上げているだけなのに、一言主と玉が頭を抱えて小さくなってます。
仕方ない。仲裁に入るか。
巫女に叱られている神様を庇う構図。
相変わらず滅茶苦茶だ。
………
「うちは両親を早くに亡くしましたからね。極力お金を使わないで生活してたんですよ。妹にはお祝い事の時はショートケーキをご馳走していましたが、僕は1本5円の茶色いバナナを買って来て、輪切りにしたものをお皿に並べて食べてたんですよ。不思議と普通に皮を剥いて食べるバナナよりも、フォークで刺して食べるバナナの方が美味しかったからなぁ。」
「と言う記憶を儂は知っておるからの。浅葱がバナナほっておいて山葵料理に没頭していた気持ちもわかる。」
「ふむ。むしろ儂ら神が介入しなかった時の方が、浅葱の美味い菓子が食えたと?」
「むう、そうやもしれん。」
やや、神様ーズが何やら話し合いを始めてしまった。
いや、そんな大層な事考えてなく、山葵ふりかけご飯が美味くてバナナの事をすっかり忘れていただけなんだけど。
あぁもう。うちの女性陣と眷属達がしんみりし出してるよ。
この空気、どうすんだよ!
なお、外部審査員の大家さんと菅原さんは直ぐに妹のショコラタルトに軍配をあげてました。
いくら僕が手を加えたとはいえ、プロの作るお菓子つえぇぇ。
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