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第二章 戦
面談(めんどうと読もう)
しおりを挟む「さて。」
本題に入る時は、神様も「さて」って言うんだな。
「何やら変なことを考えているようですね。」
あ、バレた。
僕の考えている事は、本当に皆んなに筒抜けになるんだなぁ。
「私は君に会って見たかったんです。だから昨夜は楽しみで眠れなかったです。」
「……お子様ですか?」
お出かけの前の晩でも何にも変わらず、すやすやと直ぐ寝ちゃう、うちの玉さんとはエラい違いだ。
あと神様って、夜寝てんだ。
「武甕槌の性根を叩き直してくれたと、キクヱが感謝していました。」
「はて?お会いした事はありますが、僕が何かしましたっけ?」
玉が馬にブラッシングしてて、そのブラッシングを馬が並んで待っていた覚えしかないなぁ。
「カグツチ様が鍛えた天之尾羽張を届けてもらいましたね。」
「あぁ。」
おっと危ない。
思わず両手をぱちんと、どこかのおばちゃんみたいな事をしそうになった。
これは、しずさんから玉へ受け継がれつつあるおばちゃん仕草だな。
「武甕槌は近年自信を喪失気味でした。戦神としては我が国を敗北に追い込み、地震神としても立て続けに起こる巨大地震に無力でしたから。」
「はぁ。」
そこら辺は少し武甕槌に加勢しよう。
「とは言え、第二次世界大戦は無能な政治家と国民、夜郎自大な軍部の暴走による自滅でしたし。」
浅葱の力を色々試していた頃、もしかしたらもう少しマトモな歴史になるのではないかと調べた事がある。
永田鉄山が殺されなかったら。
柳条湖事件が起きなかったら。
盧溝橋事件が起きなかったら。
結論。
無理。
歴史IFは思考的遊戯として面白いけど、高度に複合化した因縁は、たかだか浅葱の力程度じゃ解きほぐせない。
だから僕は、見物人でいる事を選んだのだから。
当然、地震なんか防げる訳がない。
プレートテクトニクス理論上、日本から巨大地震が無くなる事はありえない。
ついでに言うと、火山噴火もこれに関連するから、当然「神様程度」がどうこう出来る訳がない。
それに僕は荼枳尼天から散々教わったじゃないか。
神はそこにいるだけ。
救いを求めるのは勝手だが、人間を救うのは人間以自身外にあり得ない。
神様が責任を感じる必要がどこにある。
「彼はね。割と負の感情を抱きがちなんですよ。私に比べると武力に若干の差があるとはいえ、それははるか神話の世界での昔です。葦原中国平定に主将とされなかったことに、未だに駄々を捏ねているのです。」
「はぁ。」
僕は何を聞かされてるんだろう。
「天之尾羽張は武甕槌の母です。天之尾羽張は武甕槌の元にある事で、天之尾羽張も武甕槌も十全の力を振るう事が出来るのです。」
剣がお母さんですか。
そろそろ僕の理解の範疇を超えてきましたけど。
「武甕槌に代わり改めて礼を言わせて下さい。ありがとう。」
「あの。頭を下げられても始末に困りますよ。」
前にもこんな事あった気がする。
………
「そして今、あなたの大切な人が試練を受けています。」
「その為に今日は来ましたから。」
空飛ぶ戦艦の由来を聞かされたり、経津主神に頭を下げられたりは、予定に入れてなかったぞ。
「気になりませんか?」
「ません。」
「即答で言い切りましたね。」
「彼女達は強いですから。」
実際のところ、彼女達がこの試練で傷つく事はない。その為のフォローの態勢は、あらかじめ整えてある。
我が家総出でと、復讐を仄めかしてあるけど、実はあれは本気だ。
冗談には聞こえないと、キクヱさんが冷や汗をかいていた事を僕は知っている。
「信じているのですね。」
「覚悟という意味に於いてなら、ただ漫然と生きている僕なんかじゃ、足元にも及びませんよ。」
だって。
玉は母に再会する為に、僕の元に来るまでに1,200年という時を、あんな小さな女の子がたった1人で耐えた。
青木さんは、僕の嫁になる為に、4年という歳月を、僕だけに捧げてくれた。
大学も就職先も、一度しか逢っていない僕の為に決めてくれた。
なのに僕はというと。
先祖から遺伝?しているケッタイな力で毎日右往左往しているだけだ。
あまりにフラフラしているので、告白もプロポーズも全部女性からだ。
僕の主体性はどこ行った?
「本当にこのままで良いのですか?」
「はて?何故にそこまで僕達に食いつきますかね?」
「いや……何というか。……貴方が少し冷たく感じるのです。」
あぁ、そういう事が。
この神様は機敏だね。
「何というかと言われましてもね。これも僕なんですよ。玉については彼女を二度と泣かせたくない。青木さんについては素直に彼女の努力を褒め称えたい。それが優先されて、では彼女達を本当に愛しているかと言われるとクビを傾げます。好意を持っているところまでは、自覚していますが。」
「なのに結婚するとか。…ひょっとしてマリッジブルーとか?」
「あれって男もなるんですかねぇ。」
あ、神様もクビ捻ってる。
「私には人間の感情をそこまで奥深く覗けるわけではないよ。」
さっき感情に対して機敏だとした、僕の評価を返せ。
「…情に流されてるって部分はありますよ。毎朝、殿殿って懐かれて僕が着ていたパジャマを丁寧に嬉しそうに畳んでくれる姿見て、この子を幸せにしなくちゃと思うのは当たり前でしょう。」
「僕にとって、家族って重いんです。」
「誤解を覚悟で言いますけど、僕が一番そばにいて、安心出来る女性は妹なんです。」
「別に妹を抱きたい。妹と結婚したいってわけでは無いですよ。アイツは多分、旦那に全てを捧げて嫁入りしてますから。」
「でもですね。僕はアイツの考えを一から百まで言葉抜きで理解出来るし、アイツもアイツで僕の考えをいち早く飲み込んで、僕の手伝いをしてくれるわけです。」
「これは、血の繋がった家族として、2人きりで長年色々な事を乗り越えて出来た''きずな''です。」
「多分、玉とも青木さんとも、そこまでの''きずな''は築けないでしょうしね。」
妹は妹で肉親だけど。
妻は妻で他人だから。
「…だからこそ、貴方は彼女達には妹さんとは別方向からの繋がりを築いているのではありませんか?」
「んん?」
なんかやったっけ?
だから僕は流されっぱなしなだけなんだけど。
「縁(えにし)ですよ。」
あ、そっか。
「貴方の行動はいつも常に縁を大切にします。だから往古の娘も現代の娘も、神も動物も、皆貴方を慕うのです。」
「鹿島神宮から貴方の元に行った犬神が、たちまち貴方に懐いたのも。貴方が犬神を信じ、犬神の''場所''を作ってくれたからです。」
「貴方のお嫁さん達は、ただ貴方に相応しい人間になる為に努力を絶やしません。」
「はぁ。」
重たいなぁ。
何で神様が普通の人の2倍も荷物を背負わなきゃならない重さと、それを動かす原動力が貯金しかない僕にプレッシャーをかけるんだよぉ。
徳川家康ほど悟ってないぞ。
人の一生は重荷を負うて遠き道を行くがごとし。急ぐべからず。
ってさ。
「でも、本日はお会いできて嬉しかったです。貴方という人を知れました。」
「はぁ、あの?これ、面接か何かだったんですか?」
「ある意味で。」
一応再就職先は絞ったというのに、嫌だよ、ここで神様関係の、神社庁とか神主とか言い出したら。
「お刀を私にお預け下さい。」
あぁ、そっちか。
僕は左手を軽く握る。
その手から光が溢れ、刀の形になった。
「私の武力を分け与えます。」
布都御魂。
その4文字が強烈に頭に捻り込まれてくる。
「国譲りの際に、大国主を斬った剣です。」
「だからどうしてそんな物騒なものばかりをですね。」
「貴方なら大丈夫と確信しましたから。だから貴方とお話しをしたかったのです。」
なるほど。
確かにこりゃ面接だ。
面倒だなぁ。
僕の刀と布都御魂は、一度軽く刃を合わせると、そのまま消えて行った。
「荼枳尼天や一言主の願いを聞かれているとお聞きしております。」
「殆ど食べ物ですけどねぇ。」
「私からの願いは、貴方が持たれている最大の縁を救う事です。」
「僕が抱えている最大の縁?」
なんだろう。
お嫁さん以上に大きな縁てあるのかな。
「それはすぐ分かります。その為には、貴方の刀が役に立つでしょう。」
「はぁ。」
「あと。」
「あと?」
「私達も友達に加えて下さい。」
経津主神と、キクヱさんっぽい巫女さんに深々と頭を下げられた。
ふかぶか。
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