回り道した1つの愛

樺純

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10話

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ジュンside

なぜこんな不器用にしか俺はテルキを愛せなかったのだろう。


高校からずっと同級生だったテルキ。

俺はテルキと離れたくなくて同じ大学に入学した。


そこでテルキはすぐにエマと仲良くなった。


あのふたりが仲良くなったきっかけなんて俺は知らない。


気付いたらテルキはエマを目で追いかけ、エマはテルキを目で追いかけていた。


それに気付いた俺は正直…焦った。


だから、俺はふたりの間に割って入ったんだ。


ふたりだけの思い出が増えないように…


ふたりの距離がこれ以上縮まらないように。


でも、ふたりが自然と惹かれあっていく姿を俺はそばにいればいるほど実感して死ぬほど苦しかった。


俺のテルキへの恋心は間違った感情なんだと…


持ってはいけない感情なんだと自分で自分を追い詰めていたのかもしれない。


Y「テルキ~!エマとばっかりじゃなくて私とも遊ぼうよ~!!」


同じ大学にいたエマの双子の妹のユマ。


俺はたまたま大学でユマとエマを間違えて声を掛けてから、ユマは慣れ慣れしく俺に話しかけてくるようになった。


J「慣れ慣れしいんだよ…」

Y「そっちが私とエマを間違えたくせに。」

J「双子だから間違えただけ。」

Y「双子でも私とエマは全く違うじゃん?服装も髪型も。間違えるのはジュンくらいだよ?」

J「うるせぇ」


それからユマは大学で俺が1人でいるといつも俺に声をかけては俺に甘えてくるようになった。


J「もう、あっち行けって…」

Y「なんで?私はジュンと一緒にいたいんだもん。」

J「そう言うの迷惑だから。」

Y「なんで…?エマのことが好きだから?」

J「そうだよ?だからこういうのやめろって…」


つい、俺は嘘をついた…


Y「でも…エマには好きな人がいるんだよ…ジュンだって知ってるんじゃない?」

J「テルキだろ?なぁ…ユマ?どうやったらエマはテルキから諦めるかな…?」


この時の俺は浅はかだった…


テルキが手に入らないのなら…


テルキが愛するエマをテルキから奪ってやろうと思った。


それほどテルキがエマに夢中なのを…


俺は知っていたから。


Y「ジュンは…はそんなにエマが好き?」

J「うん…」

Y「分かった。ジュンの為なら私なんでもするよ?」


そうして、ユマは簡単に俺の作戦に加担した。


俺の嘘を信じて。

そして、俺は傷ついたエマと付き合うことになったものの、ユマは何ら変わらずエマにバレないように俺に絡んできた。


J「お前さ?エマにバレたらどうするつもり?」

Y「だって…ジュン好きなんだもん…ねぇお願い…一度でいいから…抱いて。」


エマと全く同じ顔をして、いつの間にか服装も俺好みに変わったユマ。


俺の心の中にいるのはエマではなく、テルキという男なのにユマは何も知らずに健気に俺を誘う。


J「分かった。」


そうして、俺とユマのセフレ関係は始まった。


ユマはエマと違って経験豊富なのか体の相性は驚くほどに良く、俺はユマに声を出さないよう命令して頭の中でテルキを抱きながらユマを抱き続けた。

エマと俺が付き合うようになってから、テルキとエマには溝が出来たかのように疎遠になっていった。

それでもエマは遠くからテルキを見つめ、テルキもエマを遠くから見つめていた。

大学を卒業し社会人になり、エマから益々テルキの存在が消え安心したが、俺はそろそろエマと付き合って4ヶ月も経つのに何もしないのもな…と考えエマを誘った。

エマは分かりやすく動揺していたけど、俺は毎日のようにエマと同じ顔をしたユマを抱いていたので何も感じなかった。

が…しかし…

初めてエマを抱いた日…俺は気づいた。

エマが初めてじゃないことに…

無性に焦り、まさか…もしかして…

そう考えれば考えるほど、俺に抱かれ疲れて横で眠るエマの顔が憎く思えた。

風にでもあたろう…そう思ってエマを起こさないよつに起き上がり、リビングに行くとリビングの床の隅に何かが落ちていることに俺は気づいた。

薄暗いなか拾い上げてみると、それは大学の時にテルキの誕生日に俺がプレゼントとした限定品のジッポだった。

そして俺は気づいた。

テルキはここに出入りしている。

エマの初めてはきっとテルキだと。

それから俺はエマを抱く時にはテルキが残した形跡がないか隈なくエマの身体を調べ、テルキの残り香を探しながらエマを抱くようになった。


俺はそんな最低な男だ。


なのにユマは俺のそばを離れなかった。


ただ欲を満たすだけの行為なのに俺を存分に奉仕し満足させた。


J「こんな事して虚しくねぇのかよ…」

Y「ジュンが喜ぶなら私はなんでもする。」


ユマはそう言いながら俺の思い通りに動いた。


俺とエマ、そしてテルキの関係に限界が近づいて来てるのは薄々、勘付いていた。


エマと会うたびに増えていくテルキの影を見つける度、もうあのふたりはセフレでいる事すら無理なほど愛し合っていると俺も気付いていたから。


だから、もう…


ふたりを解放してあげようと本当は思ってたんだ。

バカすぎて俺が傷つけるのを躊躇ったエマと大好きで大好きで仕方なかったテルキ。

エマ越しに見えるテルキの存在が辛くて堪らなかったから。


J「今からさ…エマと別れてくる…」

Y「え?急になんで?」

J「うん…さっきユマとキスしてたとこエマに見られたから…」

Y「え…ウソ…どうしよう…ごめんなさい…私のせいだ…私が誕生日だから少しでも会いたいなんてジュンにわがまま言ったから…」


ユマは助手席で涙をポロポロと流しながら俺にそう謝った。


J「いや、もういいんだ。今からエマのマンション行って別れてくるけど…ユマ、車の中で待っててくれる?」


ユマは涙をハンカチで拭い首を縦に振った。


そして、俺はエマのマンションに向かいエマとテルキに本音を全てをぶちまけて最悪の別れ方をした。


そうしたのはどうせなら親友や友人ではなく嫌いになって欲しかったし…俺自身を傷つけてほしかったから。


なのにあのふたりは揃いも揃ってお人好しというか…バカというか…


最後の最後まで最低な事をした俺なのに嫌うなんてしなかった。 


こんな生き方しか出来ない自分に情けなくなりながら、俺は涙を拭いてユマの待つ車に戻った。


Y「ジュン…」

J「今日、泊まるか…?俺のマンションに…」

Y「え…いいの?」

J「こんな俺のこと好きなんていうモノ好きユマだけだし。」

Y「そんな事ない…ジュンはいつも優しいじゃん。」

J「俺はユマのこと双子の姉の代わりに抱いてた男だぞ?」


俺の本当の恋心の相手を知らないユマにそう言うと、ユマは俺の手をギュッと握る。


Y「ジュンは優しいよ…いつも私が眠ったあと寒くないように肩まで布団をかけてくれてるの知ってるんだから…」

J「ほんとバカな女…」

Y「それだけで私…充分幸せだったの…」

J「じゃもうそれ以上の幸せは…いらない?」

Y「え?」

J「俺の彼女になれば?これは命令…いや、誕生日プレゼントだな。」


そうして俺は驚く顔をしたユマを抱き寄せた。


ごめんな…ユマ。


でも、俺はまだしばらくテルキのことを忘れるなんて出来そうにないよ。


でも、ユマならテルキのこと忘れさせてくれるよな?


俺は心の中でそう思いながら甘く解けそうな優しいキスを初めてユマに落とした。



テルキside

夜が明け…


散々、愛し合った俺たちは産まれたままの姿で抱き合いベッドの上で戯れた。


T「俺たち…今日からが始まり…でいいよね?」

俺はエマを抱きしめながらそう問いかけた。

*「うん…ねぇひとつだけ聞いていい?」


エマは俺の胸元を指で弄りながらそう問いかけてくる。


T「ん?」

*「ユマは…ジュンが好きなの?」

T「ユマも俺と全く一緒だな。ジュンがエマといて幸せなら…もしエマと別れた時、ジュンがひとりで寂しくならないように、自分がそばにいてあげるんだってジュンの本当の気持ちを知らず、ずっとジュンをそばで支えてきたみたいだよ。」

*「なんで…テルキはそんな事知ってるの?」

T「たまたま行ったBARでユマが一人で酔い潰れててその時に言ってた。ジュンに惚れてるってエマが羨ましいってポロポロ泣いてさ。でもジュンが幸せならそれでいいって。ユマには口が裂けてもエマのセフレやってるなんて俺は言えなかったけど。」

*「ユマに申し訳ないことしちゃった…」

T「そんなのお互い様だろ?ユマだってあの時、俺とキスなんてしなかったらエマは傷つかなくて済んだだろ?」

*「そうだけど……」

T「そんな顔すんなよ…。あ……俺そういえば…大事なこと言うの忘れてた。」

*「え…なに…!?怖いんだけど…やめて…私が悲しむこと?」

T「悲しむかどうかは…分かんないけど…」

*「な…なに?」


少し不安で怯えるエマの頬にチュッとキスを落とし俺は目をみて伝えた。


T「僕と付き合ってくれますか?」


エマは俺のその言葉にふわっと微笑み…


*「もちろん…」


エマのその言葉により、回り道した俺たちの恋はようやく実った。


おわり
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