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31話

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ユナside

私は女である前にゴナの母親で…

離婚してからも何度か男性に誘われる事はあったけど適当に笑って誤魔化していた。

ジロとは高校生の時から政略結婚が決まっていた。

私の父はある小さな会社の社長でその取り引き先の社長がジロのお父様。

そして、大学を卒業と共にジロと結婚した。

好きでもない相手との結婚…

結婚生活が幸せだと思った事なんて1度もない。

適当にジロに気を使って…適当にジロのご機嫌を取る。

元々、無口で大人しくてクールなジロに特別な感情が生まれた事なんてなかった。

でも、ゴナを授かってゴナを出産して…

初めてゴナを抱きしめた日はとても幸せで…

私にとってゴナが全てだった。

なのに…ゴナが3歳になってすぐの頃ウチの父の会社が倒産した。

それと同時にジロは家に帰って来るのが日増しに少なくなって行った。

始めは1日…それが気づけば1週間帰って来ないのが当たり前になっていた。

そんな生活が1年続いた。

そこで私がもっとちゃんとしていれば今でもゴナそばにいれたかもしれないのに…

ある日、ジロは離婚届と共に帰って来た。

ゴナはウチの会社の後継者として俺が引き取る。

お前の実家は倒産して大変な時期だろ?

ゴナをどっちが引き取った方が幸せになれるか…言わなくてもわかるよな?

月に一度は会えるようにする。

慰謝料は希望額があれば弁護士に言っといて…

じゃ…

その言葉だけで私たちの6年間の結婚生活は呆気なく終わった。

離婚が決まってすぐ、昔から妹のように仲の良かったアナに相談した。

そんなアナは自分のことのように一緒に泣いてくれた。

ライブに行ってストレス発散しようって…

本当…励まし方がアナらしい。

そんな時に私は出会ってしまった。

私の愛しい息子に似た笑顔でダンスを踊る名前も知らない彼に。

可愛いくて…男らしくて…色っぽい…

気づけば彼ばかりを目で追いかけていて…

アナの推しであるジョウキの次に名前を覚えたのはマハロだった。

あの笑顔をみればゴナがそばにいるようで心が温かくなりホッと落ち着いた。

そして今、私はそんな彼の腕の中で抱きしめられている。

彼は私とゴナを心配してとても苦しそうな顔をしてる。

どうして彼はこんなにも私を心穏やかにさせるんだろう。

どんどん私は欲張りになる…

私はこの時、初めて男性を愛するという事がどんなものなのかを知った気がした。

つづく
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