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21話

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軽く重ねた唇から温かい体温が伝わり全身が熱を帯びる。

いつの間にか私の後頭部には大きな彼の手が添えられていて唇よりも奥深くで彼の体温を感じた。

それはまさにマイナスの距離。

息が苦しくなり肩に力が入るとやっと後頭部に添えてある手の力が抜けて解放された。

J「ルリごめん…やっぱ俺…ルリのことが…好きだわ…」

その言葉がまた、私の心を女にしている事をこの男は知っているのだろうか。

*「体調悪いくせに……」

軽く彼の胸を叩きながら言うと彼は鼻で軽く笑って目を閉じた。

私はこの時…

このまま彼の元にいたいと心のどこかでそう願ってしまった。

J「おいで…」

私の考えている事を知ってか知らずか、彼は手を広げ大きな胸に私を誘い込み、私はその誘惑に迷うことなく潜り込み彼の胸に顔をうずめる。

ドク…ドク…

規則正しい彼の鼓動の音色がとても心地いい。

彼は私にとっていつの間にこんな大切な存在になってしまったのだろう…そんな事を考えながら私は彼の心臓の音に耳を傾ける。

J「…愛してるよ。」

この短期間で彼は一体、私のなにを愛したというのだろう。

しかし、彼に惹かれてしまっている私もそれは同じことで、私はなぜこんなにも彼に惹かれてしまったのだろう。

J「ねぇ…ひとつだけ聞いていい?」

*「なに?」

J「このいつも付けてるネックレスだけど…男からもらったとかじゃないよね?」

ジユはそう言いながら私の首元で揺れる白詰草のネックレスに触れる。

*「大切な人からもらった宝物なの…でも…」

そう言いかけるとジユは小さなため息をついて、私の言葉を遮るかのようにジユの大きな手が私の服の中に手を忍び込み…

そのまま私たちは身体を重ねた。

次の日

目を覚ますと私の横にはもうジユの姿はなく、不思議に思いリビングにおりるとそこには置き手紙があった。

ルリへ
少し出かけてきます。
夕方には戻るからね。
なので、今日は家政婦業はお休みです。
ルリも1日ゆっくり休んで
久しぶりの自由な時間を楽しんでね。
ルリのことが大好きなジユより


そう手紙に書かれてあった。

シャワーを浴びるため部屋に入りジユの部屋で借りたシャツを脱いで鏡をみると胸元に昨日、ジユが付けたのであろう…赤く滲むシルシがあった。

そのシルシにそっと触れると昨日の出来事を思い出してまた、顔が火照る。

初めてでもないくせに…ひとりでそう呟き、シャワーを浴びた。

そして、ジユがくれたドレッサーに向かい軽くメイクをして私は家を出た。


つづく
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