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66話

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すると、横に誰かが座る気配で我に返り横を見ると、そこにはジユが少し困った顔をして私を見つめ座っていた。

私は慌ててさっきもらったばかりの赤ちゃんの写真と絵本をカバンの中に隠し涙を拭いた。

J「で?どうたったの?」

ジユは心配そうな声で私にそう問いかけるが、私は何故かまだ、ジユに言えるような精神状態ではなかった。

*「ごめん……家で話す。」

J「そっか……」

会計を呼ばれるまでの時間がこんなに長く感じたことはない。

正直、横に座るジユに少し息が詰まりそうだった。

すると、若い女の人の声がした。

「あれ?ジユ?」

ジユに対して親しげに呼びかけたのはジユと同い年ほどの女性だった。

J「おぅ、リン?こんなとこでどうした?」

R「うん。もうすぐマルタに行くじゃん?だから、それまでに人間ドックしておこうと思ってね?ジユの実家だって知ってここにお世話になってたの。」

J「そうだったんだ?なら、言ってくれたらよかったのに。マルタ楽しみだな?」

R「私、マルタ行くの初めてだから色々とジユが教えてね?ジユがいるからほんと安心だな~。」

私よりもはるかに若くて、透明感のある肌に艶のある髪。

スタイルが良くて誰が見ても可愛いと言うであろう容姿の彼女はジユに笑顔見せながらそう話した。

2人はまるで私の存在はないかのようにとても楽しそうに話していて…私はふと聞き逃しそうになった事に気づいた。

え?この女性も一緒にマルタに行くの?

私はてっきり男の人たちばかりなんだと勝手に思い込んでいた。

J「おう、向こうでは俺に頼ればいいよ?そういう時はお互いさまだからな?」

R「ありがとう…ジユがいるとほんと心強い。あ…えっとこちらの方は…ジユのお姉さん?」

その女性が私に気付き、視線を向けてジユに問いかける。

お姉さんだって…そりゃ世間からみたら普通はそう見えるよね… 

なんなのマジでムカつく。←

*「初めましてジユがいつもお世話になっております。」

私は特に否定することもなくそのまま軽く挨拶をした。

R「初めましてリンです。ジユとはカメラを通じで仲良くなって、一緒にマルタにも行くので色々と甘えてお世話になっちゃうと思います…お姉さん。」

そう言いながら笑う笑顔にはシワなんてひとつもなくて、羨ましくて憎らしい。

J「あぁ…この人はお姉さんじゃなくて…」

*「会計呼ばれたから行くね?ジユはごゆっくり…じゃ失礼します。」

私はジユの言葉を遮るようにして会計へと向かった。

つづく
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