祝福の魔導公 ―転生した天才は魔法で世界を導く―

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第1章 祝福の子

第1話 祝福されし誕生

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この世界に産声を上げるその瞬間、帝都アウストリアの空は、光に満ちていた。
風は穏やかに流れ、千の鐘が同時に鳴ったかのような響きが帝国中に広がっていた。

アグレイア帝国第三皇女、リシェルティア=アグレイア。
その誕生は「帝国の宝石」と称えられ、国を挙げて祝福された。

しかし、その陰で。
同じ時刻、帝都から西方へと続く《碧天の道》を越えた地――エルンスト公爵領の奥、風と魔力の交わる丘で、もう一つの誕生があった。

私の、誕生だ。

__________

その瞬間、空が震えたという。

「……な、なんですか、今の……空気が……重い……?」

助産師は言葉を詰まらせ、産声が上がった瞬間に魔力の奔流が室内を満たした。
壁に設置された魔力計測盤は警告音を鳴らし、青の針が“天文級”の域に振り切れたまま止まった。

「赤子……なのに……これは……!」

それが私、アルヴィス・エルンスト。
この国最強の貴族、エルンスト公爵家の嫡子として生を受けた、世界にとっての“予兆”だった。

「……この子……アルヴィス、と名付けましょう」
母・セシリアが優しく抱きながら呟いた。

白銀の髪に、淡い紅玉の瞳――
その瞳が、産まれてすぐに空間を捉えていたことに、母はすぐ気づいた。

「この子……見えてるわ。世界を」

父・ジークフリートは口を閉じたまま、私を見下ろしていた。
無表情でありながら、眼差しには何か確信めいた光があった。

「……やはり、“始まった”のだな」

__________

父と母は当時まだ二十代前半。
私が二人にとっての初めての子であった。

が、彼らは既に帝国の中枢で名を馳せていた。

父ジークフリート・エルンストは、帝国最高評議会の一席を担う白銀の賢公。
母セシリアは、帝国魔法庁でもその理論と魔力制御の精度から“氷薔薇の魔女”と呼ばれた名家の才女。

だが、そんな才知の塊のような両親をしても、私の生誕には言葉を失うしかなかった。

__________

「おめでとうございます、坊ちゃま……」

執事長クラウス・リューケルトが静かに頭を垂れた。
彼は父よりも年上で、もともとは帝国諜報部の第二席にいたという人物。

彼のような老練な者すら、私の魔力には驚愕したという。

「……このような“均衡型適応”は、書にすら記録されておりません」

魔力とは、通常いずれかの属性へと傾くもの。
それが私の場合――

炎、水、風、地、光、闇、雷、氷。
すべてに適応していた。

しかも、その均衡率が完璧であった。

さらにその後、〈精神〉と〈空間〉という高位属性に対しても、幼児段階での“波動共振”が確認された。

これが後に、私が「祝福された十二の光」と呼ばれる所以となる。

生まれてからの数ヶ月。
周囲の反応は一様ではなかった。

使用人たちは私と目を合わせようとせず、魔力量を計る際には手が震えていた。

だが、私自身に恐れの感情はなかった。
というよりも――

わかっていたからだ。
前世の記憶が、ぼんやりとだが、はっきりと存在していたから。

この世界は、私にとって二度目の人生。
前の世界では、名ばかりの“天才”として称されながらも、孤独と不信にまみれて朽ちた。

努力を怠らなかったが、誰かと手を取り合うことを選べなかった。

そうして迎えた最期の瞬間、私は確かに願っていた。

「もう一度……やり直せるのなら……ただ“強い”だけの人生でなく……」

それが、アルヴィスとしての人生の始まりだった。

__________

ある朝。
母・セシリアが魔法の杖を手に、私の揺籠の前に立った。

「アルヴィス……この子の魔力を、少しだけ引き出してみましょうか」
「……魔法式は“語りかけ”るもの。心を伝える方法よ」

母の杖先が柔らかな光を放ち、術式の輪が私の周囲を優しく包んだ。

私はまだ話すこともままならぬ幼子だったが、母の言葉と魔力の流れに対して、無意識に“応じた”。

すると――光が二重螺旋を描いて部屋に溢れ、術式が母の術式を上書きして、構造そのものを再構築し始めた。

「なっ……!? 魔術式を、理解して……組み替えてる……!?」

母が目を見開いた瞬間、私の身体のまわりで形成された術式は完全に別種の理論構造へと変質していた。

“共鳴反応”。

魔法は言語だ。
理論と言語の融合――その構造を、私は本能で再編していた。

母は息を呑み、そして……微笑んだ。

「あなたはきっと……この世界で、誰よりも“魔法”を語る者になるわ」

__________

そして――

半年が経ち、私は“名”を持つ存在として、帝都に正式に報告された。

この頃、帝国では第三皇女リシェルティア=アグレイアの誕生が報じられ、貴族たちはこぞって祝福と縁談の機会を探っていた。

エルンスト家と皇族。
双方の未来の安定を図るべく、“同年同月同日に生まれた”奇跡をもって、私とリシェルティアの婚約が結ばれた。

もちろん形式的なものであり、私も彼女もまだ対面すらしていない。

だが――
それがこの国にとって、“二つの星の誕生”と語られる未来の礎となったのだ。

__________

私はまだ歩くことも、話すこともできない。
けれど、知っている。

この国は、思ったよりもずっと理不尽で、
魔法は、言葉よりも多くを語り、
力は、時に孤独を呼ぶ。

だからこそ、私は誓う。

今度こそ、ただの“最強”では終わらせない。
誰かと共に、歩く道を選ぶ。

その最初の一歩は、
この“祝福された誕生”から始まるのだ。


◆◆◆

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