祝福の魔導公 ―転生した天才は魔法で世界を導く―

branche_noir

文字の大きさ
21 / 33
第3章 顕現する力と揺れる都

第20話  軋む声、揺らぐ宮廷 (後編)

しおりを挟む
「干渉は、不要とする」

帝国皇帝、レオグランの言葉は、さながら封印の刻印のように重く、確かに場を縛った。

誰もが理解していた。
それは、アルヴィス・エルンストに対する“保護”でも“称賛”でもない。
ただ、“利用しない”という明確な一線だった。

皇帝は続けることなく、ただ静かに視線を落とす。

その一挙手一投足が、“帝国の意志”を映していた。

__________

クライド・グランゼルム侯は、小さく肩を落とす。

「……つまり、我らができるのは見守ることだけ、か」

「中立派の名は伊達ではないな。エルンスト家は、何もせずに帝都を黙らせた」

セリウス辺境伯も、剣呑な視線を収め、軽く頷いた。

「ならば、我ら貴族派としても同様だ。
 今後、“均衡”が崩れぬよう、あくまで警戒と情報収集にとどめる」

「皇帝派としても異論はない」

重鎮たちは次々と立ち上がり、皇帝に一礼し、静かに退出していく。

深銀の間には、再び静寂が戻った。

__________

だが、その沈黙は“安堵”ではなく、“畏れ”の余韻だった。

皇族を頂点とする体制のもとで、
絶対に帝位を望まず、政争にも関与しない――

それが、エルンスト家の“不文律”であり、
帝国全体が保ってきた精妙な“均衡の鍵”でもある。

その"鍵"が、ある日自らの意志で“歩き出す”とすれば。

――その可能性だけで、帝都はこれほどまでに揺れる。

__________

同刻。王宮の一角、緑の回廊。

第三皇女、リシェルティア・アグレイアは、
母である皇妃ルヴィアの付き添いのもと、ひとり静かに庭園を歩いていた。

手には、絹の刺繍で縁取られた魔導絵本。

だが、彼女の意識はそのページにはなかった。

「あのとき、あの子が……笑った」

それは、祝福の儀での記憶だった。

祝福の儀の場で、五歳の彼は言葉を発さずとも――
まるでその瞳で、自分に“返事”をしてくれたように感じた。

あれは魔素の共鳴だったのだろうか。
それとも、まだ自分にしか見えない“光”だったのか。

「アルヴィス……」

自分と同じく幼く見えるその少年が、
どこかとても遠くにいるように感じた。

言葉にできない感情が、胸の奥で小さく灯っている。

__________

風が揺らしたのは、王宮の庭園に咲いた白い百合の花。

リシェルティアは、小さな指先でその花弁をそっとなぞる。
花は何も語らない。けれど、そこに宿る光の粒が、なぜか彼女の魔素に呼応していた。

「……また、あの光に、会えるかな」

小さな声。
けれど、それは幼子の呟きではなく、はっきりとした“意志”だった。

侍女のリーネが、少し驚いたように目を見開く。

「殿下……」

「アルヴィス様、また来てくれるかな。今度は……ちゃんと、言葉でお話したいの」

「……はい。きっと、会えますとも」

リーネは静かに膝をつき、リシェルティアの手を握る。

__________

「帝国の宝石」と称される第三皇女。
その輝きは、今ようやく、真に“誰か”を想うことによって初めて生まれたものだった。

彼女の中に芽生えた小さな灯は、
いずれ大いなる想いへと姿を変えていくだろう。

__________

夕暮れが、王宮の高塔に黄金の帯を差し込む。

遠く、西の空には――
幼き祝福の子が眠るエルンスト領の方向に、ひとすじの雲が伸びていた。

リシェルティアは、その雲をまっすぐに見つめる。

「また、あの光に――」

誰に聞かせるでもなく、けれど確かに届くと信じて。
彼女は、幼き決意を空に放った。

__________

そして帝都は、再び静けさを取り戻していた。

だが、帝国を構成する者たちの胸中には、
確かに何かが芽吹いていた。

一人の幼子が起こした、ただの“儀式”のはずだった。

けれど、それはいつか――
世界を揺るがす前奏(プレリュード)であったのかもしれない。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

異世界転生特典『絶対安全領域(マイホーム)』~家の中にいれば神すら無効化、一歩も出ずに世界最強になりました~

夏見ナイ
ファンタジー
ブラック企業で過労死した俺が転生時に願ったのは、たった一つ。「誰にも邪魔されず、絶対に安全な家で引きこもりたい!」 その切実な願いを聞き入れた神は、ユニークスキル『絶対安全領域(マイホーム)』を授けてくれた。この家の中にいれば、神の干渉すら無効化する究極の無敵空間だ! 「これで理想の怠惰な生活が送れる!」と喜んだのも束の間、追われる王女様が俺の庭に逃げ込んできて……? 面倒だが仕方なく、庭いじりのついでに追手を撃退したら、なぜかここが「聖域」だと勘違いされ、獣人の娘やエルフの学者まで押しかけてきた! 俺は家から出ずに快適なスローライフを送りたいだけなのに! 知らぬ間に世界を救う、無自覚最強の引きこもりファンタジー、開幕!

異世界転生したらたくさんスキルもらったけど今まで選ばれなかったものだった~魔王討伐は無理な気がする~

宝者来価
ファンタジー
俺は異世界転生者カドマツ。 転生理由は幼い少女を交通事故からかばったこと。 良いとこなしの日々を送っていたが女神様から異世界に転生すると説明された時にはアニメやゲームのような展開を期待したりもした。 例えばモンスターを倒して国を救いヒロインと結ばれるなど。 けれど与えられた【今まで選ばれなかったスキルが使える】 戦闘はおろか日常の役にも立つ気がしない余りものばかり。 同じ転生者でイケメン王子のレイニーに出迎えられ歓迎される。 彼は【スキル:水】を使う最強で理想的な異世界転生者に思えたのだが―――!? ※小説家になろう様にも掲載しています。

異世界に転生した俺は英雄の身体強化魔法を使って無双する。~無詠唱の身体強化魔法と無詠唱のマジックドレインは異世界最強~

北条氏成
ファンタジー
宮本 英二(みやもと えいじ)高校生3年生。 実家は江戸時代から続く剣道の道場をしている。そこの次男に生まれ、優秀な兄に道場の跡取りを任せて英二は剣術、槍術、柔道、空手など様々な武道をやってきた。 そんなある日、トラックに轢かれて死んだ英二は異世界へと転生させられる。 グランベルン王国のエイデル公爵の長男として生まれた英二はリオン・エイデルとして生きる事に・・・ しかし、リオンは貴族でありながらまさかの魔力が200しかなかった。貴族であれば魔力が1000はあるのが普通の世界でリオンは初期魔法すら使えないレベル。だが、リオンには神話で邪悪なドラゴンを倒した魔剣士リュウジと同じ身体強化魔法を持っていたのだ。 これは魔法が殆ど使えない代わりに、最強の英雄の魔法である身体強化魔法を使いながら無双する物語りである。

元公務員、辺境ギルドの受付になる 〜『受理』と『却下』スキルで無自覚に無双していたら、伝説の職員と勘違いされて俺の定時退勤が危うい件〜

☆ほしい
ファンタジー
市役所で働く安定志向の公務員、志摩恭平(しまきょうへい)は、ある日突然、勇者召喚に巻き込まれて異世界へ。 しかし、与えられたスキルは『受理』と『却下』という、戦闘には全く役立ちそうにない地味なものだった。 「使えない」と判断された恭平は、国から追放され、流れ着いた辺境の街で冒険者ギルドの受付職員という天職を見つける。 書類仕事と定時退勤。前世と変わらぬ平穏な日々が続くはずだった。 だが、彼のスキルはとんでもない隠れた効果を持っていた。 高難易度依頼の書類に『却下』の判を押せば依頼自体が消滅し、新米冒険者のパーティ登録を『受理』すれば一時的に能力が向上する。 本人は事務処理をしているだけのつもりが、いつしか「彼の受付を通った者は必ず成功する」「彼に睨まれたモンスターは消滅する」という噂が広まっていく。 その結果、静かだった辺境ギルドには腕利きの冒険者が集い始め、恭平の定時退勤は日々脅かされていくのだった。

最強無敗の少年は影を従え全てを制す

ユースケ
ファンタジー
不慮の事故により死んでしまった大学生のカズトは、異世界に転生した。 産まれ落ちた家は田舎に位置する辺境伯。 カズトもといリュートはその家系の長男として、日々貴族としての教養と常識を身に付けていく。 しかし彼の力は生まれながらにして最強。 そんな彼が巻き起こす騒動は、常識を越えたものばかりで……。

転生貴族の移動領地~家族から見捨てられた三子の俺、万能な【スライド】スキルで最強領地とともに旅をする~

名無し
ファンタジー
とある男爵の三子として転生した主人公スラン。美しい海辺の辺境で暮らしていたが、海賊やモンスターを寄せ付けなかった頼りの父が倒れ、意識不明に陥ってしまう。兄姉もまた、スランの得たスキル【スライド】が外れと見るや、彼を見捨ててライバル貴族に寝返る。だが、そこから【スライド】スキルの真価を知ったスランの逆襲が始まるのであった。

家族転生 ~父、勇者 母、大魔導師 兄、宰相 姉、公爵夫人 弟、S級暗殺者 妹、宮廷薬師 ……俺、門番~

北条新九郎
ファンタジー
 三好家は一家揃って全滅し、そして一家揃って異世界転生を果たしていた。  父は勇者として、母は大魔導師として異世界で名声を博し、現地人の期待に応えて魔王討伐に旅立つ。またその子供たちも兄は宰相、姉は公爵夫人、弟はS級暗殺者、妹は宮廷薬師として異世界を謳歌していた。  ただ、三好家第三子の神太郎だけは異世界において冴えない立場だった。  彼の職業は………………ただの門番である。  そして、そんな彼の目的はスローライフを送りつつ、異世界ハーレムを作ることだった。  ブックマーク・評価、宜しくお願いします。

才がないと伯爵家を追放された僕は、神様からのお詫びチートで、異世界のんびりスローライフ!!

にのまえ
ファンタジー
剣や魔法に才能がないカストール伯爵家の次男、ノエール・カストールは家族から追放され、辺境の別荘へ送られることになる。しかしノエールは追放を喜ぶ、それは彼に異世界の神様から、お詫びにとして貰ったチートスキルがあるから。 そう、ノエールは転生者だったのだ。 そのスキルを駆使して、彼の異世界のんびりスローライフが始まる。

処理中です...