かけがえのない君に告ぐ

春原しずく

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第三章 光は去らず

第十八話

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「他人じゃないから許せないって気持ちは……、わかる」巴が言った。
「私だってお母様にあんなことされたから、あんなひどいことをされたから、『許せない』って思ったんだもの。本当は、……私だって、私だって……」
ともえの目から、涙が一粒こぼれ落ちた。
美美子はなにも語らず、ただただ、相手の出方でかたを待った。
残念ながら、男たちが眠りについた現在においても、いじめ問題は存在する。美美子のかつての友人たち──野々花ののかや律子のように、「悪意なきいじめ」を行う者もいる。
──だけど。
「だからこそ、声を上げなくちゃいけないって思うの。どんなに潰されても圧殺あっさつされても嫌がらせを受けても、自分の心を他の誰かに委ねちゃいけないと思うのよ」
この世に悪は存在する。
いまこのときにも、悪は確かに生まれ来ている。
遠い異国に住む人の中に。
すぐそばを行き過ぎる人の中に。
それから──自分の中にも。
人類が「暴力」という病に冒されているように、人の心は「悪」という原罪げんざいに取りかれている。人は誰しも、生まれながらにして罪を負っている。
でも、と美美子は思う。
人間の心には──この世に生きる人々の魂には、優しさや思いやりといった善なる部分もあるのだ、と。
「人の優しさなんて気まぐれなものがほとんどだから、信じられないって思う気持ちもわからなくはないわ」
巴の瞳に、またしても動揺の色が浮かぶ。
美美子は少しも目をらさずに、彼に語りかける。
「自分の殻に閉じこもっている人に向かって、『助けを呼べばいいのに』と言う人もいるけれど、それってかなり難しいことなのよね。心に傷を負った人の中には、『これ以上傷つけられたくない』『もう裏切られたくない』って気持ちがいっぱいあふれているんだもの。一度手ひどい痛みを受けた人にとって、無条件に他人を信じたり頼ったりするのって、本当に難しいことなのよ。『期待してまた裏切られるぐらいならば、いっそ、自分の中に閉じこもればいいんだ』と思うもの」
「うん……」
巴は泣いている。泣きながら、しきりにうなずいている。
「私だってそうだった。たぶん、あなただってそうなんじゃないかな。どうしようもないぐらい心がいたんでいるから、だから──孤独を選んでしまうの。助けを呼ぶのをあきらめてしまうの。
だけど、私はあなたに諦めてほしくない。どうか声を上げてほしい。自分の心をさらけ出すのはとても辛い作業だけれど、それでも助けを求めてほしい。この世はものすごく残酷な場所だけれど、だけど、人は信頼するにあたいするのよ」
「……なにを根拠にそう言うの?」
なおも涙をこぼしながら、巴が問うてくる。

美美子は二呼吸ふたこきゅうほど間を置いてから、はっきりと答えた。
「ジュエルの存在よ」

【続く】
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