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遊園地を目指す道中で

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「おはようなのです、真人お兄ちゃん」

「ああ、柚希ちゃんおはよう」

 昨日の和人からの電話で楠家にまつわる悩みを知ってからの翌朝、柚希ちゃんと端島園はしまえんという遊園地でのデートに出かける。
 その待ち合わせが、いつぞやの和人と静香のデートの時と同じく俺の家の玄関なのだ。

「早速だが、車に乗ってくれ。 私の車で端島園はしまえんまで連れて行こう」

「お願いします」

 楠のおじさんに促され、俺は柚希ちゃんと共に今度は、赤の乗用車に乗る。
 運転手は、おじさんの側近の人が担当するようだ。
 助手席には護衛の人もいる。

「では、出発します」

 側近の人がそう言いながら、エンジンを掛けて車を走らせた。
 車を走らせている間に、おじさんは俺に話しかけて来た。

「真人君。 君も息子から聞いたと思うが、ここ最近になって和人と柚希にお見合いの要求がひっきりなしに来てるんだよ」

「ええ、和人からそれは聞きました。 柚希ちゃん宛の要求が和人よりも多いとか…」

「そうだ。 妻や私の父…君を助けた恩人でもある人も動いて、片っ端から断りの通達をしているのだがね…」

「俺と柚希ちゃんが付き合っている事に気に食わない連中からしつこく来るとかも聞きました」

「ああ。 我が楠家はお見合いは禁忌の扱いなのだ。 押し付けられた形での婚姻など幸せになどならないからな。 だが、相手側はそう考えてないのだ。 金持ちの家系は、別の金持ちの家系と結婚すべきという酷い考えが存在しているようでな」

「だから、無理やり柚希ちゃんとのお見合いを?」

「うむ、だが我々は娘の幸せの為にそのような事は一切許さない。 君と柚希の絆を守り通す所存だ」

 おじさんと話した内容は、和人が昨日電話で話した内容とほぼ同じだった。
 やはり、俺と付き合っているのが気に食わない家系もいるらしく、無理やりお見合いのスケジュールを突きつけようとする奴もいるようだ。
 おじさん達は、徹底的に抗戦して俺と柚希ちゃんの絆を守ると言ってくれたのは、安心できる。

「旦那様、速度超過で接近してくる車が…」

「早速来たか…。 護衛部隊に連絡し、即対応を」

「はっ!」

 助手席にいる護衛さんから、速度超過で近づいてくる車があるとのこと。
 おじさんが即座に命令して、対処に当たらせる。

「さて、こちらも少し荒い運転になりますぞ?」

「ああ、仕方がない。 酔い止めの薬も念のため用意をしよう」

「柚希ちゃんは大丈夫かい?」

「はいなのです。 でも、私と真人お兄ちゃんの仲を切り裂こうとしている輩は許さないのです。 おこなのです!」

 柚希ちゃんも内心、不満でいっぱいだ。
 相手側が無理やり別れさせようとして、強硬手段に出たからだ。 それがあの速度超過で接近してくる車なのだろう。

 折角の遊園地デートのはずが、まさかのカーチェイスになるとは思わなかったが、少しの間我慢するしかないだろう。

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