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帰り間際のエンカウント

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「よう、お疲れさん」

「あ、裕也。 そっちも終わったのか?」

「ようやくな。 人数が多くて時間が掛かったよ。 それより、楽しかったか?」

「ああ、楽しめたよ」

 駐車場へ通じる出入り口の近くに裕也が待っていた。 
 どうも、あの時のトイレで襲撃しようとした奴等が多かったらしく、時間が掛かったようだ。
 その間は、俺は柚希ちゃんと楽しめた事を伝えた。
 一方の柚希ちゃんは、縁と話している。
 やはり、俺と一緒に楽しんだという話だそうだ。 その時の笑顔はやはり可愛いよなぁ。

「おじさんは?」

「もう来てる。 出入り口の駐車場で待ってるさ」

「分かった。 柚希ちゃん、縁、行こうか」

「はいです!」

「ええ、行きましょう」

 色々話していた柚希ちゃんと縁と合流し、四人で端島園から出ようとした時だった。

「待ちなよ!」

「誰だ!」

 不快な男の声が背後から聞こえたので、振り返る。
 縁と裕也も身構えた。

「貴様、葛間の長男坊か…!」

 裕也が奴の顔に覚えがあるらしく、怒りを露にした。
 つまり、こいつが柚希ちゃんを俺から奪おうとしているってことか。

「一応、聞くけどあんたがここに来たのは?」

「そこの平民から柚希ちゃんを取り戻す為さ。 柚希ちゃんは僕と結婚する事こそ相応しいんだ!」

 聞いただけで、不快になる奴の理由。
 柚希ちゃんは、嫌な顔をしている辺り、やはり葛間の長男坊を嫌ってるみたいだが。

「悪いが、お嬢を貴様に渡すわけにはいかねぇな。 当主も貴様ら葛間家をブラックリスト入りしてるんでな」

「僕一人で来てるとは思わない事だね。 強力な護衛なんかも連れて来てるんだから」

「はっ、強力ねぇ」

 葛間の長男坊が、柚希ちゃんをこの手にするために強力な護衛を連れてきたと豪語するが、縁に鼻で笑われる。

「な、何がおかしいんだ!」

「その護衛は、あそこでされている奴らの事かしら?」

「な、なぁっ!?」

 縁が差した先にあったのは、別の護衛さん達が、葛間の護衛をコテンパンにしていた状態だった。
 楠家の護衛は、日本最強だとおじさんが言ってたっけなぁ。

「そんな訳で、貴様は詰んだな。 覚悟して貰おうか?」

「う、うわあぁぁぁぁぁぁっ!!」

「なっ!?」

「真人君!?」

「真人お兄ちゃん!!」

 葛間の長男坊が、俺に向かってきた。
 発狂しながら。
 徳山姉弟や柚希ちゃんは心配するが、俺は今までの会話を聞いて腹が立ってきた状態だった。

「せっかくの雰囲気に…、茶々入れんじゃねえぇぇぇっ!!」

「ゴバァァっ!?」

 俺は葛間の長男坊に勢いに任せたアッパーを繰り出した。
 まともに受けた奴は、いつの間にか仰向けに倒れて気絶していた。
 周囲を見てみると、徳山姉弟を始めとした護衛さん達は呆然としたまま突っ立っており、柚希ちゃんに至っては目を輝かせ、『真人お兄ちゃんすごいのです』と言いながらこっちを見ていた。

 俺、まさかとんでもない事をした?
 唖然とする俺をよそに、他の護衛さん達が葛間の長男坊を含んだ奴等を警察に引き渡す為の準備をしていた…。
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