舌先三寸覚えあり 〜おヌル様は異界人。美味しいお菓子のプロ技キラめく甘々生活

蜂蜜ひみつ

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羽馬渓谷編

第157話 それぞれの出立 (三人称視点)

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 一心不乱に水底を探索していたロクムの動きが止まり。
 その後、ヒヒンと小さく鳴いたのを耳にした彼の妻たちは、水から顔をあげ夫ロクムの元へ行き、三頭で頭を寄せ合わせた。

「おいっ! なぜ止めたんだ?! 頼む! 捜索を諦めないでくれ!!」
 青ざめた顔のクレールが、湖水の羽馬たちに叫ぶ。

「いや、探すのを諦めたとか、飽きちまったっていうより。まるで三頭で話し合いをしてるようだぜ」

 エタンセルとて、コニーを案ずる気持ちはクレールと変わりないが。
 ポンポネットとロクムの、コニーに対する愛情と忠誠を本物と信じた上で、理論的に状況を分析するタイプのエタンセルは、幾分いくぶんか冷静でいられた。

 ロクムは、湖の縁へ張り出した坂道にいる二人へ、パッと顔を向け。
 じゃぶじゃぶ水中を歩み行き、鼻息荒いままに男たちへ頭をグイッと押し付けた。

 そしてすぐに顔を背けて尻を向け、勢いよく翼を広げて湖から飛び立った。
 エールもその後を追って離水した。

 そしてハランだけが湖に残り、か細いような遠くに響くような長い声で、洞窟上部に向けていなないた。

 すぐに今度は下から響く力強いロクムのいななきに、男たちはハッとする。
 目が合うと、ガンガン収納箱を前搔きしながら、こっちへ来いと首を振って、まるで自分たちを呼んでいるようであった。

「ここで絶望して待つより、『ここにはいない』と判断した、コニーの白騎士に賭けてみようぜ」
 エタンセルの言葉に、低くかすれた声で、ああ、とだけ絞り出したクレール。

 そして立ち上がったクレールの瞳には、今までの悲壮感を燃やし尽くせんばかりの、『絶対に見つける』という気迫の炎が宿っていた。

 自分たちにまるで指示を出してるような、ロクムの行動の意味を汲み取りつつ、それに従って動いた。
 二人が収納箱を解除し、ロクムとエールに馬装を施し終えた頃。
 突如、数頭の馬の鳴き声が洞窟内に響いた。

 三頭の白い翼を持った野生の羽馬が、洞窟に現れたのだ。
 そして、洞窟湖に一頭残っていたハランに合流し、水中で何かを探すような行動をとり始めた。

 振り向き、驚きを持って眺めていたクレールの服が、グイッとエールに甘噛みされる。
 と同時に、ロクムが乗れと言わんばかりにクレールの尻をエールへと押しやった。

「コニーの白騎士ロクム。洞窟湖探索にハランを指名し、仲間を増員してくれたんだな。
出会ってから始終、ポンポネットと意思疎通を図っていたオマエが立てた捜索指針。エタンの言うように、僕も信じ従おう。って言っても伝わんないと思うが」

 エールに乗りながら、クレールはロクムへと声をかけた。
 すると、「ぶるるぶるる」まるで返事をしたかのような、ちょうどいいタイミングでロクムが音を出した。

「……オマエまさか? なあ、ロクム。僕だけを先に急がせるってことは、エールに乗って僕が行く先こそが本命ってわけか?」

「ぶるるるるる」

「ポンポネットは今日は羽馬湖から突然現れた。アイツはあのピアスからだけじゃなく、羽馬湖や洞窟湖からも光の湖へ出入りできるとしたら。しかもコニーを連れて……。
僕がこれから向かう先は、僕らの家付近の光の湖。違うか? ロクム、この考えに同意なら首を縦に振ってくれ」
 エールの馬上からクレールが問いただす。

 ロクムは首を縦に振ってうなづいた。

「そうか。ロクムは僕の言ってることが、理解できるんだな」

「マジか」

「じゃあエールはどうだ?」

 最初の問いにうなづいたあと、エールのことについては、ぶるるっと小刻みに顔を左右に揺らした。

「そうか分かった。それでは僕らは出立するが。本当に、エタンを任せて行ってもいいんだな?」

「おい、そこはロクムじゃなくて、俺に聞けよ。ああ。俺はコニーの役にも立たねえまま、こんなとこでくたばるかよ。
俺も負けねえって、コニーに誓ったから。それに最高の御守りが、俺にはある」

 エタンはそう言いながら瞳を閉じ、コニーが作ってくれたマガタ魔石を握り締め、口付けを落とした。

「ムカつく! 『エタン独りで飛べてすごい』とか褒めてもらおうって魂胆だな。
エタン。コニーと先に家で待ってる。あとでな。気合いでここから飛んで帰ってこい」

 クレールを乗せたエールは猛スピードで、まだクレールたちが未探索の湖の右、洞窟奥へと飛んでいった。

 

 洞窟に残ったエタンセルは。
 ロクムの鼻面や前脚を使った指示に対し、内容確認を取りつつそれに従った。

 洞窟湖捜索に加わった三頭のメス羽馬に、コニーのビーダ魔石を与え、羽の色替えを施した。
 コニーの魔素を感知させるためか、なるほど、とエタンは理解した。
 残りのビーダ魔石は促されるまま、落下防止服のズボンにしまった。

 準備が整い、いよいよ出発の段階で、ロクムがエタンの胸ポケットに頭を擦り付けてきた。

「あ? ああ、ここには高所撹乱メガネが入ってるが。まさか、これかけて自分に乗れってことか?」

 ロクムはヒヒンと返事をしたのち首を上げ、その美しい羽馬湖色の瞳で、エタンをじっと見据えた。
 一頭と一人。
 しばし見つめ合い。

「フッ、マジか! 『見えてなかろうが問題ない。全て自分に委ねてつかまっておけ』って言いてえのか? 俺がメス馬だったらマジ惚れちまうだろ、そんなの。
おう、白騎士様。そんじゃ、そうさせてもらうわ。すまない。任せたぞ」

 エタンの言葉を受け、乗れと言わんばかりに鞍を振り返る仕草ののち。
 ファサッと、煌めくアイボリーの立て髪を振って、前を向いた直立不動のロクムの立ち姿は、凛々しいことこの上ない。

「マジでカッケえ」
 笑いながら、瓶底メガネをかけたエタンは、ロクムの背に跨った。






【次回予告 第158話 ギャロと焚き火(三人称視点)】
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