舌先三寸覚えあり 〜おヌル様は異界人。美味しいお菓子のプロ技キラめく甘々生活

蜂蜜ひみつ

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羽馬渓谷編

第161話 各所へ連絡(クレール視点)

******(クレール視点)


 こんなに速く、羽馬で飛んだことはない。
 自分史上最高速度記録を打ち出したと思う。
 エール、君の力は大したもんだ。

 通常なら恐怖心によって、大なり小なり無意識下で速度制限をかけるところ。
 僕の意識はコニーの安否が不明なことに全振りで、それどころではなかったのも要因だ。

 かなり高い上空から僕らは光の湖を見張っている。
 羽ばたくというより翼を広げ気流に乗って、疲れないよう風を読むエールに全てお任せだ。

 いつもと同じように見える静かな湖。
 西支局水辺の作業場から、職員はもう全員引き上げて中に入ってる。

 ポンポネット、オマエはコニーと一緒に先に光の湖に帰ったんじゃないのか?

 丘の家には灯りが付いていない。

 彼女をどこかに連れて行ったのか?

 クソ!! 
 どこかってどこだよ。

 後から後から恐ろしい考えが胸に浮かんでくる。

 落ち着け、今は待つしかできないんだ。
 考えるな、何か違うことを、思い浮かべ、あっ!

 ギャロ爺さんと、塔で待ち合わせをしてたんだ。
 爺さんはスマホを持っていないから、牧場にいるギャラハン親方に。

「もしもし、わたくし、光の森番クレール・アルコンスィエルと申し」

「クレール様、おれだ、ギャラハンだ。今日はおど親父が世話になってすまんかったなあ。なした? なにがあったが?」

「親方すまない。急遽、待ち合わせの更衣棟に行けなくなってしまって。大変申し訳ないのだが、ギャロ爺さんにその旨伝えていただけないだろうか?」

「あい、わがった。さっき素晴らしぇもん見せでもらったんだす。馬だぢに美しぇ翼ほんにどうもありがどございます。
おどどご親父のところへ迎えにぐども、おれがミギィタマ子の息子さ乗ってもえが?」

 もちろん今まで通りで構わないと伝え、秘密保持のため数日だけ、虹色四頭は外部仕事を控えてもらう協力を取り付けた。
 そして、ギャロ爺さんにはこのまま解散して、家でゆっくり休むこと、お礼とお詫びは改めて明日連絡する旨の伝言を頼んだ。
 親方は余計な詮索はせず、承った、と通信を切った。

 エタンはどうしているのだろう?
 もしもアイツが決死の飛行中だったら危険なので、向こうからスマホに連絡がくるのを待つか。

 ん?! あれは。

 羽馬渓谷のほうからキラキラ輝くビーダ魔石色に染まった翼を持った羽馬が現れ、僕らの前方を東へ、より高度を上げて飛びさっていった。

 今日一緒に過ごしたタマ子たち牧場羽馬とは異なる身体の色。
 あれはビーダ魔石を食べた野生馬か?
 恐らく、エタンロクム組が手配してくれたのだろう。

 光の湖はものすごく広い。
『もしもコニーの帰還場所が、僕の家の前の岸辺でなかったら』
 その不安が若干和らいだ。

 そうだ、それならば西支局に連絡をせねば。
 副支局長に話をつけ、通話を直接館内放送に切り替えてもらった。

「西支局職員に告ぐ。これは魔石作成本部・統括長代理ではなく、王家森番クレール・アルコンスィエルが発する下令かれいである。
このたび前任の王家森番と合同で、羽馬の極秘訓練を開始する運びと相成った。私はただいま上空で任務にあたっている。
これより本日中、光の湖側に出たり、上空を見上げることを禁ず。
また今後、上空及び光の湖ないし森にて。今までにない不可思議なものを目撃しても、全員黙秘せよ。噂にも上げるな。もしも目撃者で、心に秘めておくことが困難な性質の者は、私かエタンセル・ドゥボワが直に話を聞くので申し出よ。
秘密を死守できぬものは万死に値する。
『好奇心は蜘蛛の脚全てをもぎり殺す』これを念頭に相応の罰則を覚悟し行動せよ。
また、この案件が正式に世に開示される暁には。事前機密保持協力者として、西支局職員にのみ、他支局に先んじて伝える心算こころづもりが私にはある。それは人生のほまれとなるであろう。断じて他支局に情報を抜かれぬことなきよう心せよ。以上」

 ふう。
 一応釘は刺してみたが、ザンジバルア様に報告するまでの時間稼ぎになるかな。

 こうして彼女をただ上空で待っているしかできない今。
 封印して深く沈めていた恐怖が、這い出し、じわじわ僕の心をむしばみ始める。

『もしも帰還先が元の世界だったら』

「……帰ってこないなんて……絶対ないよな」

 ああ、気が狂いそうだ。

 そうだ。
 彼女が帰ってきたとき、故郷の食べ物を食べることができたら。
 地球の日本国へ帰らなくても、エド州に行かなくても、郷愁が紛れるかもしれない。
『ただいま』と、コニーが安心してホッと息がつけるような家にしたい。せめて彼女がそう思えるものを一つでも多く探して、僕の家に用意したい。

 協力してもらえないか頼んでみよう。

 なかなか出ないな……
 夕飯準備の追い込み真っ只中だもんな。

「誰じゃあいボケえ! こんっのクッソ忙しい時間にテレフォンなんぞ掛けくさりやがって! ああん? つまんねえ用事なら捻切ねじきんぞ」

「……すまない、ジェイ。僕だ、クレールだ」

「クレールくん?! ……あらやっだ~お待たっせ~。さっきの放送カッコよかったわよ~。
だけど今ってアナタ秘密の任務中なんぢゃないの? そんでワタシも夕飯の追い込みで超忙しんけど~?」

「本当に申し訳ない。適切時間でないことは重々承知だ。
手短に言おう。ジェイ。14年前、僕らが支援指導係だったあの頃。懐郷病ホームシックになった蛍様にキミがよく作ってあげてた手料理を用意してもらえないだろうか」

「はあああ?! なにそれ。まあ、あとで聞いたげるから、じゃ切」

「ダメだ今だ今すぐ作って欲しい!」

「あ゙あ゙ん?! 愛くるしいワタシを脱皮させて、荒ぶるジェイデンを召喚したいってわけっ?!」

「無理は承知だ。・ジェイ、キミしか頼れないんだ」

「命令しないってことは、王家森番でも西支局長でもなく、友人クレールくんのゴリ押し案件ってわけね。はあ~もうっ! 何のためか、にワケ聞かせなさいよっ」

「愛のために」

「は??」

 ……

「短すぎ! もうちょっと長くても許すわっ、言って」

「初恋の人が僕の前から突然消えた。それで僕は気づいたんだ。
恋だと思ってたら、もう愛だった。
もしももう一度会えるのなら。彼女が好きそうなものを手当たり次第に並べて、ここにいるのも悪くないって思わせたいんだ。僕は彼女を繋ぎ止めたい。今まさにジェイ、蛍様の涙を誘ったあの料理が必要なんだ。キミしかできない、キミの助けが必要なんだ!」

「……なにそれっ。やっだ~クレールくん……泣けるわ、推せるわっ。なんだか、すんご~く、ステキだわ~♡
協力したらそのロマンスの行方ゆくえ、私にも一等席で見せてくれるんでしょうね?」

「分かった。彼女にとっても有益な出会いだと思うから。キミが極秘事項が守れると約束してくれるなら、すぐにでも紹介するよ。
ロマンスと言っても、幾度も、僕がどんなに恋心を囁いても、彼女に全く伝わっていない一方的な現状だけど」

「歩く宝石クレールくんでも?! どんだけよお~。クレールくんがこんなに誰かに熱くなってんの初めてじゃないっ。ますます興味湧いたわ~。
任せてっ。クレールくんの健気な愛のために、このレディ・ジェイが一肌脱いであ・げ・る♪」

 僕とエタンと彼女の三人前、リンゼル島風ではなく、蛍様の感想も踏まえて当時完成させた、あの本物の日本の味付けに近いものを希望した。

 そして、本職の夕飯の遅れや品減少に関しては、僕のせいだと適当に言ってくれて構わない。
 僕の名で缶詰や酒の買取依頼書をトマスにでも書かせて、僕の私費から職員に振る舞い、場を保たせてくれてと伝えた。

「あんら~さすがクレールくん、気が利いてるじゃないっ。そうさせてもらうわ~。
生憎今夜の献立の主食はパンだったのよ。でも小麦アレルギー職員用に炊いといたご飯を横流しして作るから大丈夫。
時間は、ジャガイモのサラダは作んの止めて、茹でただけの芋を皮ごと出して短縮するわっ。そんでご飯を奪われた彼らには、クレールくんの愛のために、芋増し増しで我慢してもらいましょっ。
あとついでにエタンの分の白インゲンと豚の煮込みも付けておくから~」

 感謝延べ、スマホを切った。
 通話中も常に視線は湖に。

 コニー、早く早く、帰ってきて。
 僕に笑いかけて、お願い。




 ******(クレール視点・終)




【次回予告 第162話 浮上~】

𖤣𖥧𖥣𖡡𖥧𖤣
おさらい。
77話あたりの会話に出てきた人たち。
*ジェイ…副料理長。天丼弁当くれた。
*トマス…エタンの直属後輩。ボートの上で横たわる半裸クレールに遭遇。

次週はいつものコニー視点に戻ります。
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