されたのは、異世界召喚のはずなのに、なぜか猫になっちゃった!?

弥湖 夕來

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婚約破棄イベントってよくあることなんでしょうか?

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「と、いうことなんだけど? 」
 
「マリーがそう言っているの? 」
 
 シャンタルさんの言葉にジルさんが目を丸くした。
 
「いくら賢くても猫の言うことだから、全面的に信じろとは言わないわよ。
 でも、お手上げ状態なら乗ってみるのもいいんじゃない? 」
 
 とまで言ってくれる。
 
「ねぇ? 
 今の話、本当にマリーが言っていたの? 
 あなた、あたしをからかったんじゃないの? 
 その、猫の知能から考えるとあまりに高等すぎるんですけど」
 
「残念だけど、本当よ。
 まぁ、わたしの考えとして提案しても良かったんだけど。
 そしたら、あなた絶対次に何かややこしい案件抱えたら、わたしのところに相談に来るでしょう? 
 そんなの、面倒だもの」
 
 シャンタルさんはちろりと舌を出す。
 
「そういえば、訊くの忘れていたんだけど、どうしてあなたマリーがあたしの飼い猫だって解った訳? 」
 
「それは、本人…… この場合は猫自身が言ったのよ。
 クララックさんのお家に帰りたいって。
 最初は何の冗談かと思ったわよ。
 あなたたち王族と猫の相性って、最悪じゃない? 
 だけど、この子の首に下がっているチャーム見て確信したわ。
 あなたの守り石なんだもの」
 
「ぐっ! 」
 
 話をきいていたロイさんがその言葉に目を見開いた。
 
「ジル、君、猫と婚約してどうするんだい? 」
 
 はぁ? 
 
 どうしてそう言うことになるんだろう? 
 
「そ、なのか? 」
 
 タピーが冷ややかな視線をわたしに向けた。
 
「ない、ない、ない。
 第一、わたし猫だよ? 」
 
 大慌てで首を横に振った。
 
「ね? どうしてそう言うことになるわけ? 」
 
「そ、そりゃぁ…… 
 にゃぁぁご(おい、シャンタル? なんでだ? )
 
「王族には出生日に応じた守り石があるって言ったでしょ? 
 貴族が婚約の際にはその守り石をお互いに贈りあう慣わしがあるの。
 というか、自分の守り石は伴侶か将来伴侶になる人にしか贈らない物なのよ」
 
 タピーとの会話を耳に入れてシャンタルさんが説明してくれる。
 
 それで、この間エンゲージ・ジュエリーなる言葉が出てきたんだ。
 婚約者じゃなくなった人の守り石はもらえませんって言う意思表示だったってことだよね。

「本当に、この人はもう、何を考えているんだか」
 
 ロイさんが頭を抱え込む。
 
「いいでしょう。
 マリーはあたしの家族で恋人だし親友みたいなものでもあるし、奥さんみたいなものなんだから」
 
「それ聞いたら、なくご令嬢が多々出そうだね」
 
「あなたほどではないわよ。ロイ」
 
「コホン。
 話は戻るけどね。
 とにかく、もう考えられるところは全部探し尽くした訳だし、その子の提案に乗ってみてもいいんじゃないのかな? 」
 
 ばつの悪い方向に話が向いてきたのかロイさんが強引に話を引き戻す。
 
「そうね。
 じゃ、早速ギルドに問い合わせてみましょうか? 
 どんな町でも新規や経営者が変わった場合、宿泊業や飲食業をするには登録が必要だもの」
 
「なぅ? (登録しなくても商売ってできるんじゃないの? )」
 
「さすがに賢いマーサも知らないことあるのね。
 この国じゃね、ギルドに登録しないで商売はじめるとすぐにたたき出されるのよ。
 ギルド職員だけじゃなくてね、町じゅう皆から」
 
 なんて話をしている内に、ジルさんは何かの書類を書いて、控えていた執事さん(正確には執行官補佐というらしい)に渡している。
 その書類を持って補佐官さんは、ロイさんと一緒に出て行った。
 
「ありがとう、マリー! 
 これで、あと三日、サインするまでの猶予ができたわぁ。
 イヴェット嬢が例え見つからなくても、お偉いさんが何か言ってきたら、まだ調査中だって言い訳が立つもの! 」
 
 ジルさんがわたしを抱き上げて頬擦りする。
 
「マーサのお手柄なのは認めるけど、本当に大丈夫? 
 国中のギルド幾つあると思っているのよ? 
 それに、相手だって身を隠すのに本気になっていたら、偽名とか使っているんじゃないの? 」
 
 ……確かに。
 場合によったら新しい戸籍なんかもちゃっかり用意しちゃっているかも知れない。
 何しろ相手は侯爵令嬢。金もコネもたぁくさんありそう。
 
「そこは大丈夫よ。
 ご令嬢が失踪してからの時間と侯爵令嬢に扱える資金と、細かく指定しておいたから。
 名前が違ってもそれらしい候補が挙がってきたら実際に調査に出向けばいいんですもの」
 
「それよりシャンタル。最果ての魔女が今日は何の用があって王都まで出てきたわけ? 」
 
「休暇よ。
 鳥の王の件も一段落ついたし、次の有事に向けての準備品を買出しついでにマーサの顔を見に来たの」
 
「だからって、あたしの執務室にこなくてもいいでしょう? 」
 
「いいじゃない。
 おかげで役に立てたでしょう? 
 わたしとタピーが居なければマーサの言葉はわかんないんだから」
 
「それは助かったわ。ありがとう。
 でも、いいわねぇ。
 猫と会話できるなんて。うらやましいわぁ。
 ね? あたしもマリーと話せるようにならないかしら? 」
 
「そんなの簡単じゃない。
 使い魔として契約すればいいだけだもの」
 
 シャンタルさんが睫を瞬かせた。
 
「確かに、あなたには簡単なことでしょうけど、あたしには一生無理よ。
 知っているでしょう? 
 あたし達王家の血を引く人間には魔力が欠片もないの」
 
「じゃ、わたしの使い魔にしてレンタルするって言うのはどう? 」
 
「いやぁよ。
 それじゃ、マリーと意思疎通できるのはあなただけじゃない」
 
「いい案だと思ったんだけどな。
 少なくともわたしはタピーに通訳してもらわなくても済むもの」
 
「最果ての魔女ともあろう者が何セコいこといってんのよ。
 あんたなら、猫が寄ってき放題じゃないの? 」
 
「そうなんだけどね。
 並みの猫じゃ使い物にならないもの。
 タピーだって手に入れるのに苦労したのよ。
 マーサはそれ以上の逸材なんだもの…… 」
 
「うにゃ?(あれ?)」
 
 会話を続ける二人の言葉に首を傾げた。
 
「どうかしたか? まだ、何か通訳することでも残ってるのか?」
 
 タピーがすかさず訊いてきてくれる。
 
「ううん、そうじゃないの。
 通訳のお話は、これで終わり。
 ありがとう、助かったわ。
 ただね、その。
 どうしてジルさんはシャンタルさんのことを「最果ての魔女」って呼ぶのかなって? 」
 
「最果て」って言ったら普通王都から一番離れた遠くのことを言うと思うんだけど。
 前に見せてもらった地図によると、王都は国土の中心じゃなくて、国土全体の南西よりだから、シャンタルさんの居る南西の国境付近て、王都からは割と近い国境になるんだよね。
 
「それか? 
 それはな。
 訊きたい? 」
 
 タピーがやけに勿体ぶってドヤ顔する。
 
「訊きたい! 」
 
 気になっちゃって、側に事情を知っている猫がいて、勿体ぶられたら余計知りたくなるのがにゃん情ってもん。
 
「やっぱ、やめとくか? 
 お前怖がらせちゃ可哀想だし」
 
「いや、だから、教えてってば! 」
 
 なんで怖がることになるんだろ? 
 
「シャンタルの居る南西の国境付近の森ってさ、一番瘴気が強いんだよ。
 そのせいで『鳥の王』の出現率が一番多いんだ。
 鳥の王ってのは、魔物に乗っ取られて巨大且つ凶暴化した鳥で人間でも襲う。
 襲われた人間は命があったら相当ラッキーってことになるんだよ。
 つまり、あの世に一番近い場所って意味」
 
「うへぇ…… 」
 
 訊かなきゃよかった。
 
「でも、つまりそれだけ危険で重要な場所ってことだよね。
 そこの警備を任されているって、シャンタルさんって、もしかしてすごい魔女ってこと? 」
 
「そうだよ。
 側に居ればわかるだろ? 
 シャンタルの魔力半端なくて、触られると髭がピリピリするから」
 
 タピーは誇らしそうに尻尾を立てる。
 
 なるほどね。
 それで、さっきシャンタルさん猫が使い物になるとかならないとか言っていたんだ。
 タピーが「髭がピリピリする」って言うことは並みの猫は近づけないってことになるのかな? 
 
「でも、わたしは平気よ? 
 シャンタルさんに触られても何ともないけど? 」
 
「お前、相当魔力に抵抗あるんじゃないのか? 
 だからシャンタルが欲しがっているんだよ。
 お前が並みの猫より賢いのにも興味がありそうだけど、大元はそこだと思う。
 でなければ、シャンタルがわざわざ王宮になんか出向くもんか」
 
 つんと、タピーは少し気に入らなそうに鼻を上に向け視線を反らす。
 
「さあ、タピー。
 用事も済んだし帰りましょうか? 」
 
 何時の間にか話を終えたシャンタルさんが向き直る。
 
「じゃ、またな」
 
 わたしに言って、タピーは帰りかけたシャンタルさんの足元を突かず離れずで歩き出す。
 
 そういえば、タピーがシャンタルさんに抱かれているのって見たことないな。
 
 
「あ、待って。
 はい、これ。
 黒猫ちゃんにお礼よ」
 
 出て行こうとするシャンタルさんを呼び止めるとジルさんが袋を渡す。
 
「マリーにと思って取り寄せたんだけど、口に合わなかったみたいで全然食べないのよ。
 良かったらどうぞ」
 
 あの袋、煮干だ。
 
 袋の周りから漂ってくる匂いでわかる。
 正直、お魚は苦手。
 それも、お味噌汁の出汁にでもしてくれればまだしも、干したまま調理していない煮干なんて食べたくないよぉ。
 ということで、拒否したヤツ。
 
 でもタピーは気に入ったみたいで、においだけで目を輝かせている。
 
「あら、ありがと。
 良かったわね、タピー。ご褒美いただいて」
 
「なぁなぁ(シャンタル、今食っていい? すぐに食いたい! )」
 
 やっぱり生粋の猫にとって煮干は魅力的なんだね。
 
 もう涎垂らしそうな勢いでシャンタルさんにおねだりしている。
 
「ダメよ、帰ってから。
 いい子にしていないと、これ返していくわよ」
 
 脅すように言われて、かわいそうなタピーは唾を飲み込んだ。
 
 
「それにしても、マリー。
 あなた、どういう子なの? 
 普通の猫じゃないのは確かよね? 
 あたしも、猫なんか飼うの初めてで詳しくはわからないけど。
 少なくとも猫は、家出娘の居場所まで推測できないハズだもの」
 
 言いながら書き物机に座ると山積みになっていた書類を手に取った。
 
 邪魔しちゃ悪いし、わたしも寝よ。
 本当、猫の身体ってよくできていて、いくらでも寝れる。
 
 用意してもらってある「お猫様専用お姫様ベッド」に上ると丸くなった。
 
 
 
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