リーゼロッテの王子さま -婚約者候補に奥さんがいたらいけませんか?ー

弥湖 夕來

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追章

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「ドレス? 」
 真っ白な生地とレースで仕立てられたそれは、リーゼロッテがアンシャルに滞在していた時に袖を通していたローブとほぼ同じだが、色味が全くない。
 いつかエルマーが話してくれた、アンシャルの結婚式で花嫁が着ていたというドレスにイメージが重なる。
「殿下からこれの仕立て上がりを待って受け取ってくるようにとのご指示でしたの。
 それから…… 」
 家庭教師は何時の間にか抱えていたもう一つの箱を差し出す。
「アンシャル王国、オズワルド国王陛下から、姫様への公式な贈り物です」
 言いながら手の塞がったリーゼロッテに代わり、家庭教師が蓋を開けると視界に入るように差し出してくれる。
 華奢な白金細工の蔦模様に無色でありながら虹色にきらめく石のはめ込まれた見事なティアラが輝いていた。
「アンシャルの王室には、『王子の花嫁にティアラを贈り、それをもって一族へ迎え入れた証とする』風習があるそうです。
 本来なら、これは国王陛下が手ずからお渡しになるものなのだそうですが、何分遠く隔たった地故、できない事を謝罪しておりました」
 視線を伏せ、家庭教師は淡々と事情を話した。
「さ、姫様。
 お時間がございませんから」
 促すように言うと、乳母が突然忙しそうに動き始めた。
「え? 何、ニオベ? 」
 最初からそのつもりだったのだろう。
 乳母はリーゼロッテの髪を結い上げると、ドレス以外にも整えられていた下着や靴を手早く身につけさせて行く。
 程なく、リーゼロッテはその真っ白なドレスを身に纏い、頭上にティアラを頂いた姿で鏡の前に立たされていた。
 先日被せられた物とは違う手織りの華麗なレースのヴェールが視界を被う。
「これでいいでしょう」
 その姿を眺め乳母は額に薄らと浮かんだ汗をぬぐいながら満足そうに呟いた。
「どうぞ、殿下がお待ちです」
 家庭教師に促され、その手をとられて部屋の外へと向かう。
「ね、何処へ? 」
「こちらです」
 神殿の正面扉の前でミス・スワンは引いてきたリーゼロッテの手を放すと変わりに、先ほどドレスの箱の上に置かれていたブーケを差し出す。
「室内の正面で殿下がお待ちになっていますから、真直ぐに歩いていってくださいね」
 そっと耳もとで囁くとミス・スワンはリーゼロッテから距離をとった。
「あの、これって? 」
 何がなんだかわからずに女を追いかけようとした瞬間、目の前のドアが開かれる。
 白い花とリボンで飾られた白い空間に色とりどりの光が乱反射している。
 そして…… 
 正面の祭壇の前に立つ、金色の巻き毛の大柄の男の姿。
 纏った純白の大礼服に色ガラスを有した窓から差し込んだとりどりの光が色を添える。
 男は開け放たれたドアの向こうに立つリーゼロッテの姿を認めると一歩前に進み出て、促すように手を差し出す。
「あ…… 」
 小さな声をあげたもののリーゼロッテの足はそこに止ってしまう。
「さ、姫様…… 」
 ミス・スワンがもう一度耳もとで囁いた。
 促されてリーゼロッテは中央に敷かれた赤い絨毯の上に歩を進めた。
 これって…… 
 装いだけじゃない、行われていること全てがいつかエルマーの話してくれたアンシャルの婚姻の儀式そのものだ。
 思いをよぎらせていると差し出されたヴェルナーの手が自分のそれに重なる。
 正面に立つ祭司に問われ言葉を返し、差し出された書類にサインを求められた。
 何がなんだかわからない未知数だらけのことに、促されるままに指示に従うとやがて婚姻の成立を宣言する祭司の声が神殿の天井に重々しく響き渡った。
 そこまで来てリーゼロッテはようやく自分の身に何が起こっているのか理解する。
 顔をあげ隣に立つ男の顔を見上げると、男は少し得意げに微笑んで見せる。
 次いで顔面を覆っていたリーゼロッテのヴェールをあげそっと唇が寄せられる。
 触れるだけの軽いキスの後ヴェルナーが顔をあげると鐘楼の鐘が荘厳に鳴り響いた。
「ヴェルナー様? 」
 呆然とその顔を見つめながらリーゼロッテは声をあげる。
「もしかして、こ、これって…… 」
「もしかしなくても婚姻の儀式だが? 」
 当たり前といいたそうに男は口にした。
「でも、だって、ヴェルナー様…… 改宗しないって」
 一月ほど前の会話が思い起こされた。
「改宗はしないとはいったが、正式に結婚しないと言った憶えはないぞ? 」
「だって、わたしの信仰は…… 」
 この国の皇女に生まれた以上、そしてこの国に居る以上はリーゼロッテに宗教の選択肢などない。
 そんなことをすれば国を裏切ったことになってしまう。
「幸いアンシャルの国教は君の国の物ほど頑なではないんだよ。
 多少は融通を利かせてくれる。
 これで正式に君は俺の正妃だ。
 しかもこちらの宗教では重婚を認めないから、妃は君だけだ」
「……もしかして、お父様も知って? 」
「皇帝陛下と話をしたと言っただろう? 」
 戸惑うリーゼロッテとは裏腹にヴェルナーは笑みを浮かべた。
「じゃ、知らなかったのってもしかしてわたしだけ? 」
 身支度の手際のよさを考えると乳母も知っていた節がある。
 それが悔しくてリーゼロッテは少しだけ非難を込めためで男を見つめる。
「教えたのは今朝だけどな。
 乳母殿の協力を仰がないと君の身支度はままならないし」
 悪戯っぽく目配せすると男の顔がリーゼロッテの耳もとに寄せられる。
「……実は、君のその姿、俺が見たかったんだ。
 良く似合っている」
 甘い声で囁かれてリーゼロッテは頬を赤らめた。
「ありがとう。
 大好きよ、ヴェルナー様」
 鳴り止まぬ鐘の音が響き渡る青い空に、放たれた白い鳩が翼を広げ舞い上がる。
 それを目に焼き付けながらリーゼロッテはもう一度与えられるヴェルナーの優しいキスを受け止めていた。

 
FIN◆ リーゼロッテの王子様



 
 と、言うわけで。
 ちょっと、甘くなった? 
 本編ではお話の筋上、あまりヴェルナー君とリーゼロテちゃんべたべたさせてあげられなかったので、でっち上げました。
 書いているうちに、またネタ湧いてきて「こりゃ本編並に伸びるな」とか思いましたが、何とかまとまったというか、何とか区切れました。
 この先またひと悶着ありそうですけど。
 とりあえずここまで。

 
 どうも弥湖の甘甘は正式な契約後と言うのが多く…… 
 それじゃ恋愛物じゃ既にない。
 だってね、時代背景を考えるとどうしても一線が踏み切れない。
 例えばリーゼロッテちゃんの後宮、入る前に別の関係があったりなんかしたらの喉元欠き切られそうだし。
 ヴェルナー君の方だって、男女で二人っきり同じ部屋に居ただけで責任とらなきゃならなくなるようなマナーが存在して。
 それでもお互い同意したからって言うのは単なる節操なし。
 そこは時代的に節度を持たなくちゃ。
 なんて頭の固いことを言ってますから。
 だったら現代物書け、って話ですが。
 弥湖に、んなもん書けません。
 あしからずです。
 
 
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