ガールズ・ハートビート! ~相棒は魔王様!? 引っ張り回され冒険ライフ~

十六夜@肉球

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第一章 魔王様拾っちゃいました!

第四話 迷宮狂想曲#2

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 そもそもの話は数日前に遡る。
「ちょっと、お前さんらにやってもらいたい仕事があるんだが」
 いつも通り仕事を物色するべくギルドハウスを訪れたわたし達に、開口一番トーマスさんはそう言った。
「む? 余らを指名するのか? 見た所、暇にしている同業者は他にも大勢おるように見えるが」
 アイカさんの言葉にトーマスさんが表情を歪める。
 その言葉のとおり、酒場スペースには時間帯から考えれば珍しいほど大勢の顔ぶれがある。
 普段ならダンジョンに行くなり仕事を受けるなりで探索者の大部分が出払っているのに、今日は半分以上が埋まっている状況。
 あ。いや。よくよく思い出してみれば、数日前からその傾向はあったと思う。なんだか入り浸りになる人数が増えている気はしてたから。
 儲かってよいですね、とは言えないかも。
 しかもよく見れば、クエストボードの常連になっている採取系の仕事が、ほぼ無くなっていた。
 採取系の仕事って地味な割に実入りは良くないし、その上品質に関する注文も多いから本当に人気がない。初心者や、どうしてもお金が必要な探索者(つまりわたしみたいな)ぐらいしか受注者がいないので、ボードの肥やしとなっているのが普通なのに……珍しい。
「アイツらに任せられたら話は楽だったんだが……まぁ、それはいい」
 トーマスさんが苦虫を百匹ぐらい噛み潰したような表情で続ける。
「ダンジョン──『迷宮商店』の下層部まで潜って欲しい」
 『迷宮商店』とは、領都から半日ほど離れた場所にある洞窟系ダンジョンの名前。
 この地域には他にも多数のダンジョンが存在するけれど、特に名を付けずに『ダンジョン』といえばこの『迷宮商店』のことを指している。
 もともとは魔力結晶の採掘場で、最大消費地である領都までの距離も近く、危険と言えば落盤や野生動物ぐらいだったので、当時はそれはもう一大マイナー・ラッシュとして賑わったって話。
 でもある日、突然事情が変わってしまう。
 関係者が呼ぶところの第三層へと到達した時、それまで未発見だった謎の洞窟を掘り当ててしまったことにより奥から魔物たちが溢れ出してきたのだ。
 それほど強力な魔物は出てこなかったものの、探索者じゃない一般鉱夫にとっては充分な脅威なわけで、何度かの魔物討伐が無成果に終わった結果、見事採掘場からダンジョンへとランクチェンジしたのである。
 それ以降は浅い層でも比較的良質な魔力結晶が取れることから、多くの探索者がここを稼ぎ場にしている。
「『ダンジョン』下層部は『鉄』以上推奨の場所だったのでは?」
 単体で強力な魔物は殆どいないとはいえ、大量のザコ魔物がたむろしている下層部は、相応の実力者でなければ危険極まりない場所。初心者やそれに毛が生えた程度の腕前では、生きて帰るのすら難しい。
 ただでさえランクの低いわたしとしては、好んで行きたいなんて絶対に思わない場所である。
「お前さんらに、こういう頼み事は好きじゃないのだがな……事態が事態だからやむを得ん。正直、お前ら以上の適任者も思いつかんし」
 続くトーマスさんの話は、驚愕の一言につきる事態だった。

 最近、下層部に向かった探索者パーティーの未帰還事故が多発している。
 もちろんダンジョンは危険領域だから、そりゃ未帰還になるケースだって決して少なくはない。初心者が迂闊にも奥深くに迷い込み魔物の餌食になるなんてありふれた話の一つだ。
 ありふれていた筈の話が、そうではなくなったのは、とある一つの事実だった。

『次々と実力あるパーティーの全員が未帰還となり、死体はおろか遺留品すら発見されない』

 もしかしたら、ダンジョンに強力な魔物が出現したのかもしれない。死体は魔物の餌になったのかもしれないし、遺留品は他の人が持ち去ったのかもしれない。
(ちなみにダンジョンで取得した死人の装備については、原則拾った人に所有権がある。義務があるわけではないけれど、後のトラブルを避けるためにギルドにその旨を届け出るのが習慣化しているけれど)
 ただ、全員未帰還というのは腑に落ちない。
 どれほど強敵であるにしても、一人も逃げることが出来ず殲滅されてしまうなんてケースが何度も起きるとは考えづらい。
「ならば高ランクパーティーでも使って調べてみれば良いであろう?」
 わたしの疑問を、アイカさんが先に口にする。
「それなりの報酬を提示すれば、引き受けてくれる連中もおるだろう?」
「とっくに試しているさ」
 トーマスさんによれば、高ランクパーティーによる調査は既に二度行われているって話。
 まずそれなりの熟練者パーティーに調査を依頼したところ、未帰還に終る。次に高ランクの上級者パーティーに調査を依頼するも、特に大きな脅威も見つからず、成果なく帰還。
 最後は中級者パーティーにギルド・ガードをこっそりと後をつけさせてみたら、何事もなく終わったり……。
 つまり、ダンジョンに潜む何かは『強敵の前には姿を現さず、勝てそうな相手だけを狙っている』ということになる。
「ギルマスも散々頭を悩ましたようだが、結局はお前さんらに頼むのが一番都合が良いって話になる」
 上級パーティーに依頼しても何も起きない可能性が高く、中級パーティーでは予想されるリスクに対して及び腰。
「本来、お前達のランクで下層部への立ち入りは推奨できないのだが……かと言って該当する連中は怖じ気ついてばかりだし、他に適任と思える者もおらんから仕方ない」
 わたしとアイカさんは『銅』ランク。傍から見れば駆け出し探索者以外の何者でもない――アイカさんの戦闘力を考慮しなければ。
 その意味で今回の仕事はわたし達にうってつけだ。
 ダンジョンの『何か』がどうやって相手の力量を計っているのかはわからないけれど、すくなくともわたし達二人を強敵と見ることはないだろうと思う。
「これだけの大人が雁首揃えて様子見に徹するとは、なんとも情けない話よの」
 やれやれと言わんばかりに肩を竦めて見せるアイカさん。
「まぁ、命とプライドを天秤にかければ、前者を選ぶ奴が大半なのも仕方ないだろうさ」
 それが賢い生き方って奴。探索者だって仕事なんだから。わたしも理解できる。
「ふん……まぁ、良い」
 多分、アイカさんにはわからないことだろう。それを押し通す力があるからこそ魔王なのだろうけれど。
「それで、余らは何をすれば良いのだ?」
「問題の『ダンジョン』下層部を調査し、異常があればそれを報告してくれればいい」
「もし、その正体が未確認の魔物だったとして、万が一遭遇してしまったら」
 楽な仕事だろ? とでもいいたげなトーマスさんに、当然のように言葉を続けるアイカさん。
「そのまま倒してしまっても構わんのだろう?」
 トーマスさんが頭を掻く。
「まぁ……アンタなら倒してしまいそうな気はしなくもないが……速やかに離脱しギルドへ報告してくれ」
 どこか諦めの表情を浮かべながら、言葉を続けるトーマスさん。
「敵の正体をはっきりさせる必要があるからな。どうしてもやむを得ない場合を除いて、戦闘は避けろ」
「つまらんのぉ」
 いやいや。トーマスさんの言ってること当然じゃないですか。調査ですよ、調査。
 見敵必殺しちゃったら、本当の危機がなんだったのかわからないままになって、対策の立てようがなくなってしまう!
「……報酬には特別ボーナスを付けておく。頼むから勝手な真似は謹んでくれよ」
「ゼンショしよう」
 うん。やる気満々だ。
 この心が全くこもっていない言葉は、間違いなくやる気だ。
 というか、そもそもアイカさんが強敵相手に大人しくしてくれるなんて、逆立ちした猫が走ってゆくのを見かけるぐらいの確率でしかないし。
「……頼むぞ、本当に……」
 わたしに向けられたトーマスさんの縋るような視線が、とても心に痛かった。


   *   *   *


「三層以降は魔物の脅威が高まるとは聞いていたが……確かにこれは油断ならぬな」
 先程のゴブリンの群れを撃退してから一時間ばかり後、四層へと降りた所でアイカさんはため息交じりに口を開いた。
「個の強さはほどほどだが、こう数が多いと面倒でかなわぬ」
 アイカさんの愚痴はごもっとも。
 先程からケイブ・ワームやケイブ・スパイダーといった昆虫系モンスターはもとよりマッド・ドールやゴブリン・スケルトンと言ったキワモノまで盛りだくさん。
 特にゴブリン・スケルトンは大盤振る舞いもいいところで、さすがのアイカさんも数に任せた大乱戦に辟易しているみたい。
 戦っても楽しくないって気持ちはよくわかる。なにせゴブリン・スケルトンってただただ真っ直ぐ迫ってくるだけなんだもん。
 ネクロマンサーにでも使役されていればもう少し危機度も上がるのだけど、野良スケルトンは脳みそを持たないから、なにか動くものがあればひたすらそれに襲いかかるだけ。
 極端な話、息を潜めてボールでも転がしてやれば、それを全力で追いかけてゆくぐらい。
 それをさておいても、戦闘方法はひたすら手にした武器をブンブン振り回すだけ。技巧を競うことも出来ないのだから、戦う相手としてこれほど退屈なのもいないだろう。
「……どうにもおかしいんです」
 更に十分程歩いてから、わたしは思い切って口を開いた。
「なにがだ?」
 刃についた魔物の体液を、布で拭いながらアイカさんが答える。
「どうにもちぐはぐな連中の行動か? それとも階層に似合わぬ先程の連中のことか?」
「………」
 本当にこの人は底が見えない。わたしの疑念など百も承知の上で素知らぬ顔をしていたのだ。
「まだ浅い層で、ゴブリンのソルジャーやナイトが出てきたことです」
 まず気を取り直して言葉を続ける。
「最初はこのダンジョンに新たなゴブリン族が住み着いて巣を作ったのではないかと思いました」
 ダンジョン深層のような人の手が入りにくい場所に、ゴブリンやオークといった魔物が集まり巨大なコミュニティーを作り上げることはままある。いわば暴走を伴わないスタンピードとでも言えばよいかな。
 そしてその中でもっとも強力な個体が『キング』と呼ばれる支配者になる。その下にナイト・シャーマン・ソルジャー・スカウトといった階級が生まれ、更にその下で大多数のゴブリンが使役される。
「なるほど……ゴブリンの大群に襲われれば、実力の足りぬ者は皆殺しにあっても不思議はない」
 刀を鞘に戻しながらアイカさんが頷く。
「あのずる賢い連中であれば、勝てぬと踏んだ相手には手出しはせぬだろうしな」
 それはそのとおり。生半可なパーティーではゴブリンの大群を相手にするのは難しいし、逆に大群を物ともしない腕利きが出てきたら隠れやり過ごすだろうし。
「だとしても、全ての例で一人も逃げられないってことは考え難いですし、遺体が部分的にさえ見つからないのも変です」
 遺留品については誰かが持ち去ったり、再利用されている可能性はある。例えば先程のゴブリン・ナイトが持っていた魔法の盾も、気の毒な探索者の持ち物を奪ったものだろうし。
 だけど遺体は別。
「ゴブリンは人を襲い、殺しはしますけど、食用にはしません」
 そう。ゴブリンは敵として殺し持ち物を奪いはするが余程飢えているとかでもない限り、人を食料にすることはない。
 もちろんケイブ・ウルフの餌にすることはあるし、ゴブリンとは関係ない所で魔物が餌にしてしまうことはあるだろうけど、それで跡形もなくなるってのはちょっと考え辛い。痕跡も残さず骨まで食べてしまうなんて、そうそうあることじゃないと思う。
「まぁ、言われてみればそのとおりだな」
 アイカさんが頷く。
「汚らわしい彼奴らだが、そこだけは褒めてもよいだろう」
「……それに複雑に掘られたトンネル。これもなんというか、大げさすぎるというか……」
 取り敢えずアイカさんの返事はおいといて、他に気になるのはダンジョンをくり抜いて張り巡らされた通路網。 探索者を不意打ちする為と言われば、一応納得はできる。戦闘力では探索者の方が上だし、この狭い空間で数の利を活かすにはそれが一番の方法だし。
 だけどその程度のことなら、探索者をダンジョン内の大広間にでもおびき寄せれば良いことだ。探索者が釣られれば数に任せて襲うことができるし、釣られないのであれば巣の脅威にはならないので放っておけば良い。
 ただ、わざわざ硬い岩盤をくり抜く手間を掛けるまでの理由としては弱く感じる。
「つまりお主は、ゴブリンの巣が今回の騒ぎの原因ではないと思うワケだな」
「………」
「単にダンジョン全体を本格的に自分たちの巣にしようとし、その邪魔になるものを片っ端から排除しているのではないかなぁ」
 多分アイカさんの考えが正解なのだろう……一番すっきりする説明だし。
「………」
 ただ、それでもわたしは引っかかりを消すことができなかった。
 錯覚かも知れない。だけど、わたしが彼らの行動から感じとったのは――『恐怖』だったから。


   *   *   *


 ちょくちょく襲ってくる魔物を蹴散らしながらどんどん先に進むアイカさん。
「む? なにか踏んだような……?」
 カチッという音と同時に、岩壁に空いた穴から複数の矢が飛び出してくる。
「小癪な!」
 アイカさんが刀を振り、飛んできた矢の全てを叩き落とした。

   ・ ・ ・

「ん? ここの壁、どうも他と違うような……?」
 そう呟きながらペチペチと壁を叩くアイカさん。ガコンという大きな程が響き、周囲に振動が走った。
 通路の先から巨大な岩玉が、こちら目掛けて転がって来ている。
「……そうきたかー」
 はぁーっと一つため息をついてから、アイカさんは転がってきた岩玉を正拳突きで打ち砕いた。

   ・ ・ ・

「おっ!? なんぞ切ったか?」
 アイカさんの足元で、蜘蛛のそれぐらい細い糸がプツリと切れる。
 次の瞬間、左右の岩壁に隠されていた仕掛けが爆発し、炎と破片がアイカさんに襲いかかった。
「ふむ。悪くない仕掛けではあるが、余を薙ぐには、些か火力が足らぬな」
 煙の中で悠然と佇むアイカさん。身体の周囲を覆う見えない壁によって爆炎も破片も阻まれていた。
 アイカさんを吹き飛ばすような爆発物を仕込んだら、多分ダンジョンが壊れてしまいそうな気がする。

   ・ ・ ・

「なんだ、この邪魔な大岩は。これでは通路の先へ進むことができんではないか」
 行く手を阻むよう通路のど真ん中に鎮座する巨大な岩。ちょっとやそっとの力で動かせるようには見えないけど、その足元には明らかに仕掛けで動かせそうな切れ目が見えている。
「整理整頓の重要さを教えられとらんのか」
 ブツブツ文句を言いながら、その大岩をアイカさんが蹴り飛ばす。
 バカンッとすごい音を立てて岩が砕かれ、その先の通路があらわになる。

   ・ ・ ・

「あの、わたし思ったんですけど」
 天井から振ってきた巨大な振り子式の刃を片手で受け止めているアイカさんに、わたしはため息まじりに言葉を掛けた。
「もしかして、アイカさん一人で良かったんじゃないでしょうか?」
 敵が出れば瞬く間に斬り伏せ、罠があっても気にせず踏み潰し、仕掛けを力づくで排除する。
 ぶっちゃけわたし、あまり役に立っている気がしない……。
「いや、そんなことはないぞ?」
 若干慌てた様子でアイカさんが手を振る。
「敵が近づけば警告して貰えるし、洞窟の構造を教えて貰えるからこうやってズンズン進むこともできる。エリザがおらなんだら、ここまで調子よく進むことは出来なかったぞ」
 とか言ってるけど、半分は本当だと思う。周囲の地形を調べるているのはわたしのスキルだし、その精度にも自信はある。
 だけど敵の気配に関しては、正直わたしがいなくても察しているよね。というか、あれだけの手練であるアイカさんが言われるまで気付かないとかあり得ないし。
「ともかくお主がいてくれないと、色々と困るのは確かなのだ。別に蔑ろにしているワケではないし……気分を害しておるなら謝るぞ」
 ちょっと勘違いしているのか、あわわと慌てたセリフを口にするアイカさん。
「その、お主がおらなんだら、寂しくてこんな場所にはおられぬ」
「あー、いえ。別に怒ってたり拗ねてたりしているワケじゃないんです」
 頭を掻きつつ言葉を続ける。
「わたし達パーティーなんですから、役に立ててなければ申し訳ないというか」
「えぇい、お主はもっと自分に自信を持つが良い……。このダンジョンだけでも、余人に代えがたい能力を持っていることは証明されているぞ」
「でも、戦闘では結局アイカさん頼みなワケで」
 励ましてくれるのは嬉しいけれど、結局一番重要な点――戦闘において、わたしにできることは多くない。
 自分の身を守るので精一杯だし、それさえも結局はアイカさんが他の敵を瞬殺してくれるからこそ辛うじて成り立っている。
 そしてなによりも。
 まさにアイカさんがやってきた行動こそが、わたしの限界を意味していた。
 アイカさんほど極端ではないにせよ、ある程度のレベルさえあれば『罠』なんて殆ど意味をなさない。
 多少の罠など踏み抜けば良い。レベルさえあるならば、それは無謀な行動だとも言えなかったりする。
 場合によっては怪我や毒・麻痺といったダメージを受けるかもしれないけど、そんなものポーションを使えばすぐ治るし、ちょっと奮発して回復用魔道具を用意していれば問題など殆ど起きないから。
 罠の為にレンジャーをパーティーに加えるぐらいなら、もっと応用の効く魔法職か回復職でも加えた方が遥かにマシってのが現状。
 得意な索敵能力に関しても、レベルの高い探索者なら直感や経験でなんとかできてしまうので、やはりレンジャーの優位性は低い。
 要するにレンジャーとは低レベル御用達の職業なのが現実で、既に探索が進んでいるダンジョンでは殆ど必要とされない。
 未探索のダンジョンならばまた話は違うけれど、そうそう新しいダンジョンは見つかったりしないワケで……。
「別に戦闘力ばかりが貢献でもあるまい……あぁ、そうか」
 そこまで言ってからアイカさんがため息をつく。
「魔物自身がお宝で収入源となれば、そういう考えになるのも已む無しか。なんとも無為な話よの」
「………」
「その思い込み、いずれ治してやるが、今はとりあえず仕事を片付けるとしよう」
 そう言うとアイカさんは再び通路を歩き始める。
 数メートル先には左右へと別れる分岐があったけど、わたしが何か考えるよりも早く、アイカさんは迷うこと無く右側の通路に曲がって行った。
「えっと、大したことじゃないんですけど」
 無言のまましばらく進んだ所で、ついに我慢出来なくなってわたしはアイカさんに尋ねる。
「こちらの道を選んだ理由を聞いても?」
 わたしもこのダンジョンの構造を完全に知っているわけじゃないから、そっちの通路が合ってるとも外れてるとも言い切れないのだけど。
「直感だ!」
 返ってきた答えは、涙が出るほど心強いものでした。
「む? どうやら言いたいことがありそうな顔だの」
 露骨に表情に出ていたのか、アイカさんが心外そうな表情を浮かべる。
「心配するな。余の直感を信じよ。これでも魔王であったりしたこともある故な」
 いえ、どこに心配が晴れる要素があるんでしょ?
 魔王様だから腕っぷしが強いってのはわかる。多少のことでは動じない技があるのもわかる。
 だけど、道に迷わない能力があるとは聞いたことがない。
 でも、これだけ自信ありそうなら、任せておいても大丈夫……なのかな?


 それから更に数十分後。
 わたしはアイカさんの判断を、深く考えずに信じたことを心底後悔していた。
「あの、どう見てもココ。この先になにかあるとは思えないんですけど?」
 さっきから代わり映えのしない岩肌の通路をひたすら進んでいる。結構歩いた筈なのに、この通路はどこかにたどり着く気配すらない。
「これ、ひょっとして道に迷ったのでは?」
 ジト目でみるわたしに、アイカさんは自信満々に胸をドンと叩いて答える。
「問題無い……余の進む先にこそ、道は生まれるのだ!」
「つまり、道に迷ったんですね?」
 被せるように続けたわたしの言葉に、アイカさんは無意味に元気よく頷いた。
「地方によってはそう表現する場合もあるな!」
「迷ったんですね? あれだけ自信満々に進んでいたのに」
 まるで答えを知っているかのようにズンズン進んじゃうから、思わずついて行っちゃった。
 確かに直感だとか言ってたけど、まさか本当になんの根拠も無いってのは予想外――でもないか。
「誠にすまぬな……穴があったら入りたい気持ちだ」
 しかも全く反省している様子もない。
「穴ならその辺に山程ありますので、好きなだけ入ってもらっていいですよ」
 わたしの言葉に、なぜかウキウキした笑顔で近くの穴にいそいそと潜り込むアイカさん。
「……って、冗談なので本当に入らないでください!」
「えー」
 えーって、なに? えーって。そんなに穴に入りたいの?? 穴に潜るのって、魔族的にはなにか重大な意味があったりするの??
「しかし、なんだ」
 穴から出てきて服の汚れをパンパンと手で払いながらアイカさんは言葉を続ける。
「このダンジョンは人の出入りもあったと思うのだが、此等の罠は一体何者が設置してまわっておるのだ?」
 それは探索者や研究者の間でも長年結論のでない議論になっている項目。いくらトラップを発動したり解除したりして無力化しても、いつの間にか新しいトラップが出現するという謎現象。
 完全に同じ場所・同じ仕組みのトラップが蘇るワケではないので、新しく設置されているのだろうと予測されてるけど、それはそれとして誰が? という問題は解決しない。
「……ゴブリンか誰かじゃないですかね?」
 結局の所、ダンジョンとはそういう場所なのだと納得するしかない。多分、創造神様の悪戯心かお戯れの結果なんだと思う。
「あ奴らがそこまで勤勉だとも思えんがなぁ……それはさておき、そろそろ新しい景色が見たいものだ」
 誰のせいでこうなっているのかな? そう言いたい衝動を、わたしは頑張って抑え込んだ。


   *   *   *


 意味もなく入り組んでいた通路から抜け出し、ダンジョン五層へと続く道を見つけたのは、ほんとうに偶然の産物だった。
 アイカさんの先導で適当に進んで完全に迷子となったわたし達は、出口を求めて洞窟内を彷徨った結果、なんと今まで未発見だったさらなる下層へと続く道を発見してしまったのだ。
 依頼で潜っている以上見なかったフリは出来ないし、報告のためにも探索を続けるしかない……トホホ。
「どうだ! やはり余の進む先にこそ道はあったであろう!!」
 ドヤ顔で胸を張るアイカさん。正直言って、何一つ有り難くないんですけど!?

(つ……疲れた……)
 こういう入り組んだ道を探るのに便利な『空間認識』スキルだけど、それだけに消耗も大きい。
 物理的に何かが減るワケじゃないんだけれど、精神というか集中力が著しく疲労するのだ。
 なにしろこの先はまったく未踏の地。どんな危険があるかわからない場所なのだから、用心し過ぎるってことは絶対にない。
「ふんふんふんふ~ん♪」
 一方アイカさんの方は鼻歌混じりにわたしの横を歩いている。
 あまりそうは見えないけど注意は怠ってなく、近づいてきた魔物は何をする暇も与えられずに両断されていた。
(う~ん……さっきの道は随分入り組んでいたけど、実際の構造は単純なものね)
 それなりに踏破されたダンジョンとはいえ、ここは未発見だったエリアだから事前情報もないし、臨機応変な対応が必要となってくる。
 とは言え、元は自然の洞窟。基本的な構造はそれほど複雑なものではない。逆に言えば複雑になっている部分は誰かの手が入っているということ。
「う~ん……」
 脳裏でマップを突き合わせながら、わたしは軽く首を傾げる。
 第五層に踏み込んでから数分後。わたしはどうにも拭えぬ違和感を感じ、立ち止まった。
 場所は細い通路のど真ん中。左右は岩壁のままだけど明らかに磨き上げられており、垂直な壁になっている。
 壁が自然に磨き上げられるなんてことがある筈もないから、間違いなく人工物。そしてこんな場所で岩肌を磨くなんて酔狂なことをするのは――。
「ここのゴブリン共は、なんとも勤勉だな」
 アイカさんがポツリと呟く。
 そう。ゴブリン。巣を作るにあたり、少しでも環境を良くする為にゴツゴツした岩肌を磨き上げている。
「勤勉になるだけの理由がある、ってことですね」
 その呟きにわたしが答えた。
 基本的にゴブリンは、実用性ならともかく住処の美観に拘ったりはしない。寝て飯が食えれば後はどうでも良いとでも言いたげな、ゴミとボロを積み上げた物なことが大半。
 そんなゴブリン達が敢えて美観に拘る――その理由は一つしかない。

 このエリアは、ゴブリン・キングの居室なのだ。

 今まで以上に注意を払いつつ、わたしとアイカさんはゆっくりと先に進む。
 しばらく進んだ先で、ついに両開きの扉に辿り着く。
 扉なんて気取ったものを取り付けられているのは、つまりそれだけ重要な存在がこの奥にいるということ。
 そして、このエリアで一番重要な存在と言えば──。
「壊されている……」
 ただ不思議なのは、その扉が蝶番から外れているところ。かなり強引に打ち破ったのか、木製の扉は真ん中から割れており、無残な姿で床に転がっていた。
「扉の補修もせんとは、所詮奴らに美的感覚を求めても無駄ということよな」
 忌々しそうに言いながら、アイカさんは扉の残骸を蹴飛ばす。
「余は堅苦しいしきたりなどに興味はないが、最低限の美というものは守られるべきだと思うぞ」
 ……ゴブリンにそんな大層なものを求めても仕方ない気はするけど、アイカさんにはアイカさんなりのこだわりがあるのだろう……多分。
 と、こんな所で話をしてても仕方がないので残骸を乗り越えて奥へと進む。
「………」
 アイカさんは油断なく刀の柄に手を掛けているけれど、わたしのスキルにはなんの反応もない。
 つまり、キングの居住場所だというのに護衛も警備も居ないのだ。いや、なにも反応が無いということはキング本人すらここには居ないということを意味している。
 他のゴブリンならともかく、キングが不在だというのは幾らなんでもおかしい。
 もしかしたら捜索系スキルを無効化する手段を持っていて、姿を隠しているんじゃないだろうか? 今、この瞬間にも襲いかかるべく息を潜めているとか……。
 わたしは自分のスキルにそれなりの自信を持っているけれど、何らかの手段で誤魔化されないと断言できるほど自惚れてもいない。
 極端な話、高度な魔法を使えば、わたしのスキルなんて簡単に妨害できるのだから──ゴブリンにそんな芸当ができるかどうかはさておいて。
 あ、まって。キングなら側にゴブリン・シャーマンだっていた筈。基本的には低レベル魔法しか使えないって話だけど、あるいは例外的な腕利きがいたのかもしれないし。
 カツン……カツン……と二人分の足音だけが響く。几帳面に磨き上げられていた岩の地面が、先に進むにつれてだんだん傷だらけなってゆく。それに壁や床には、元は液体だったと思われる茶色の汚れがあちこちにこびりついている。
「………」
 先程からどうにも嫌な予感が拭えず無言のわたしと、厳しい視線を前に向けたままやはり無言のままなアイカさん。
 永遠に続くかと思われた通路も、やがて終わりが見えてくる。
 実際には数分ほど歩いた通路の先、そこに広間が見えてきた。
 部屋の中央ぐらいにゴブリンの物にしては豪勢な椅子があり、誰か座っている影が見える。
 わたし達が近づいているということに気付かない筈もないのに、その影は身動き一つしない。
 理由はすぐに解った。

 椅子に座っているその影は、既に事切れミイラ化している大柄のゴブリンだった。

「鬼が出るか蛇が出るかと構えておったが」
 椅子の上のミイラに一瞥をくれながらアイカさんが言う。
「流石にこれはチト予想外であるな」
 他のゴブリンの三倍はありそうな上半身にグチャグチャに潰れた下半身。辛うじて原型を留めている頭部にはひしゃげた王冠が乗っている。
 間違いない。これはゴブリン・キング――だったものだ。完全にミイラ化してるところを見ると、昨日今日殺されたわけではないのだろう。
 そして部屋の奥側で散らばる萎びた肉片は、多分シャーマン。あの折れた杖は魔法用の物だから。
 ここでゴブリン達と何者かの争いがあったのは間違いなく、そしてゴブリン側が敗れたのだろう。
「……少なくとも根本的な原因は、ゴブリンじゃないですね」
 ゴブリン・キングが倒されたら、その配下のゴブリン達は統制を失い四散し逃走するのが普通。にも関わらず、生き残り連中は未だにダンジョン内で活動している。
 つまり、連中はキングを倒した『何か』に使役されていると考えて間違いない。
 ゴブリン・キングは決して弱い魔物ではない。万が一人里に出現することがあれば大惨事になるし、討伐には本格的に領軍を動員する必要があるぐらいには強力だ。
 それがこうも無残に殺されているというのは……。
 ごくり。
 それがわたしの喉が鳴った音だと気がつくのに、数十秒が必要だった。
 まだ浅い階層でナイトが出てきた違和感にもこれで説明がつく。
「最初は単なる様子見などつまらぬと思っていたが」
 刀の柄を人差し指でトントンと叩きながら、アイカさんは心底楽しそうな笑みを浮かべていた。
「……どうやら、予想以上に面白い展開になりそうだな」

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