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第一章 魔王様拾っちゃいました!
第四話 迷宮狂想曲#4
しおりを挟むそれは、とても綺麗な光景だった。
濁り一つない綺麗な赤色が、螺旋を描きながら空を舞う──時間が静止したように感じるその中で、その光景はある意味芸術的だとすら言えるかも知れない──その先にあるのが、人の腕だという点にさえ目を瞑れば。
「あ……う……」
なにかしなくては。
理屈ではそう思うのに、それ以上考えが進まない。
ツノウサギの突進を喰らい、お腹に穴をあけられて絶命する初心者探索者なんて珍しくもないし、一月に何度かはゴブリンやオークに殺される探索者パーティーがでてくる。
臨時パーティーを組んだ仕事の途中で、あるいは行方不明者捜索の結果として、なんどもそれらの『死』を見てきた。
運良く命を取り留めたとしても、受けた『傷』が元で探索者としての生き方を絶たれる者も珍しくはない。
そんな光景なんてそれこそ何度も見てきたハズなのに、それでも目の前の光景にわたしは強い衝撃を受けていた。
まさか、アイカさんが……。
「……っく……」
思考がまとまらないわたしの視線の先で、アイカさんが体勢を崩し左腕を押さえた格好で背中を壁にあずけている。刀は地面に落ちており、このまま追撃を受けてしまったら今度こそ致命傷を負わされるかもしれない。
でも、だからといって、一体なにをすれば……?!
「愚か者がっ! この程度で狼狽えるでない!」
頭の中が真っ白になったわたしの耳に、アイカさんの声が響いた。
「余は元とは言え魔王であるぞ! この程度でどうこうはならぬ!」
はっとしてアイカさんの方を改めて見る。一度に大量の血を失ったせいか顔色は悪いけれど、その目に浮かぶ意思の色までは失われていない。
「思考停止は、己が命でそのツケを払うことになるぞ。なんでも良いから身体を動かし、頭を働かせろ!」
あぁ、そうか。
なにかがストンと胸に落ちる。この程度のこと、アイカさんにとって『ピンチ』ではあっても『危機』ではないんだ。
「こ、の……ッ!」
次に湧いてきたのは激しい怒り。
アイカさんに手傷を負わせたホブドに対して? 違う。こんな事態を招いてしまったわたしの迂闊さにだ。
でも、それはそれとしてあのクソオーガに対する怒りももちろんある。
アイカさんに傷をつけるどころか、あんな重傷を負わせるなんて……絶対に許されることじゃない!
気持ちの方向性が定まれば、やるべきことは一つ。わたしの護剣術ではケーブ・オーガに傷一つ負わせることはできない。
「シャープ・シュート!」
だから、ここは弓一択。これだけは誰にも負けないから。
「グルアアアアアァァァァァァーーーーッ!!」
わたしの弓から放たれた矢は、わたしが狙ったとおりの軌跡を描き、斧を振り上げたホブドの左目に突き刺さった。
魔力の込められたその矢は、眼球を完全に砕いただろう。ホブドは激痛のあまり雄叫びを上げている。
ふん。ざまぁみろ。
とはいえ、状況はよくない。
一番は速やかなる退却なのだけど、確実な逃走路は落ちてきた吊り天井で塞がれている。
となれば、部屋の中に他の通路がある可能性に掛けるしかないのだけど、中は二大怪獣大決戦が展開中。
とてもじゃないけど、中に入ってのんきに通路を探している場合じゃない。
「煩いぞ、戯け者めが!」
そんなことを考えているとアイカさんの回し蹴りがホブドに炸裂し、反対側の壁まで吹き飛ばされていた。
「軽治癒!」
言葉と同時にアイカさんの右手が光り、左手の傷口がみるみる塞がれてゆく。
「あー、まったく……これほどの手傷。父上殿に稽古を付けられた時以来だぞ……」
なにかものすごく物騒な言葉が聞こえたような……魔族の稽古って、四肢欠損が当たり前のレベルなの?!
ともかく傷が塞がったのなら失血死することはないし、そもそもわたしより遥かに強いアイカさんのことを心配していられる立場じゃない。
「ここ暫く雑魚ばかりだった故に、慢心しておったな」
右手で落とした刀を拾い、片手がなくなったというのにいつもと変わらぬ調子の言葉と一緒にその切っ先をホブドへと向ける。
「さて、それでは続きを始めようではないか。この程度、余にはかすり傷故にな!」
「グルゥ……」
威嚇のポーズを見せつつも、様子を覗うかのようにアイカさんとの距離を取るホブド。
アイカさんの強さに戸惑っているようにも見える。
「グググ……バ、馬鹿ナ……ソノ強サ、ハ一体……?」
「……一つ聞きたいのだが」
ホブドの言葉に、呆れ顔のアイカさん。
「お主、なにを基準に相手の強さを判断しているのだ?」
「オ、オ前達、ソノ首カラ下ゲテイル板、強サ、デ決マッテイル」
あぁ、なるほど。
探索者より得た知識の中にランクシステムの情報があって、それを元に相手を判断していたってことかしら。
まぁ、それは基本的に正しい。たとえばわたし達のような『銅』ランクならば、そこそこの強さなのが当たり前で、本来ならケイブ・オーガ相手に勝てるワケがない。アイカさんみたいな例外、そうそうあるわけもないし。
ついでに勝ち目が薄い『銀』ランク以上がやってきたら、手を出さずにやり過ごせば良いってこと。
「ふん!」
まったくもって不本意だ! と身体全体でアピールするアイカさん。
「人族ならまだしも、魔物までが見た目で人を判断しおるのか! 少しは恥を知れ! 恥を!!」
なんだか本気で怒っているみたい。その、怒るポイントが微妙にずれている気はするけれど。
「ガァッ!」
馬鹿にされたと感じたのか、怒りの咆哮を上げたホブドがアイカさんへと突き進む。
「まったく……」
ホブドの動きに、アイカさんがやれやれとでも言いたそうに首を振った。
「人が強いのは頭を使うが故だぞ。貴様のようにただ力のまま暴れるのは、単なる獣に過ぎぬ」
そう言いつつホブドの攻撃をヒラリと躱す。
「グガッ!」
「獣ならば狩りは出来ようが、敵を征することは出来ぬぞ!」
ますますムキになったかのようにホブドは斧を振り回すが、その全てをアイカさんはヒョイヒョイと右左に避け、攻撃は掠りもしない。
「折角の力も、知恵が伴わなければ宝の持ち腐れだな」
もはや哀れ見るような視線さえ向けるアイカさん。
ホブドの方は顔を真っ赤にして更に斧を振り回すものの、もはや駄々っ子が両手を振り回しているようにしか見えない。
それどころか大きく空振りしてしまった隙に、後頭部へアイカさんの回し蹴りを喰らい地面へと転がされてしまう有様。
なんというか、こう。ホブドが気の毒になってきたというか……。
「そう言えば、お主。斬られても簡単には死なぬようだな」
それまでホブドの攻撃を避けているばかりだったアイカさんが刀を握り直し、今までとはうってかわって猛然とホブドとの距離を詰める。
「ならばこれぐらい、どうということもなかろう!」
ほとんど体当たりも同然の勢いで近づくや否や、事態について行けず狼狽するホブドの心臓へと刀身を突き立てる。そしてそのまま強引に脇腹の方向まで力づくで切り裂いた。
「………?!」
最初の一撃で既に絶命に至っていたのか、断末魔の声は無い。
切り裂かれた傷から盛大に体液を撒き散らしながらホブドが地面に倒れる。そしてその瞬間、先程と同じように傷口が輝きはじめ、魔力が集まり始めた。
「エリザよ!」
その様子を面白そうに眺めつつアイカさんがわたしに叫ぶ。
「命あるものは、死すれば蘇ることなど無い。なにかカラクリがある筈だ」
それはそうだ。幻想種か死霊種でも無い限り不死身な生物なんていない――唯一の例外を除いて。
「――オリジン種!」
通常の魔物とは違い、普通の手段では絶対に殺し切ることの出来ない存在。
展開の速さに失念していたけど、この状況を説明できる唯一の答え。
「……心当たりはあるようだな」
ハッとしたわたしの表情に、アイカさんがニヤリと笑う。
「で、余はどれだけ此奴と踊っていれば良い?」
心当たりがあるなら、解決策も知っておろう? 言葉にはせずとも伝わってくる。
「五分……いえ、二分で良いです!」
オリジン種は『魔力壺』と呼ばれる魔力の溜まりから産まれ、そして『魔力壺』が存在する限り何度死んでも蘇る。非常に厄介な敵だ。
(正体さえわかってしまえば、あとは『魔力壺』を見つけるだけ)
魔力壺さえ見つけ破壊してしまえば、オリジン種はもう蘇ることはできない。もっともそのまま死んでくれるワケではないから、破壊した後に改めて倒す必要があるけど。
(見つけるだけ……なんだけど)
倒されたオリジン種が復活するのにかかる時間は、魔力壺との距離に比例する。
ホブドは死んでから蘇るまでほぼ一瞬。つまり魔力壺はすぐ近く、この部屋のどこかにある筈。
にも関わらず、ざっと見る限りあの目立って仕方ない――なにしろ純粋な魔力の溜まりだ。その存在感は凄い――魔力壺の姿が見えない。
「でも、相手が悪かったわね」
これが他の人だったら、探すのは相当手こずったかもしれない。でもわたしには『魔力感知』のスキルがある。
魔力が動けば、そこには必ず痕跡が残る。そしてわたしは、その痕跡を知覚することができるのだから。
(……見えた!)
目を見開き魔力の流れを見極める。つい最近大きな魔力の動きがあったことを示す一際輝いて見える帯。この状況で一番大きな魔力の動きといえば――オリジン種を蘇らせる為に使われた魔力しかない。
「………?」
目でその帯を追ったわたしの口から戸惑いのため息がもれてしまう。追いかけた帯のその先が、壁の中へと消えていたから。
魔力壺が壁や岩の中に出来ることは無い。にも関わらず帯の先は壁の所で消えている。これはつまり――。
「ウルガァッ!」
「……っ!」
ホブドの咆哮に驚き、思わず顔をそちらに向ける。わたしがやっていることが危険だと、本能的に悟ったのかもしれない。
今まではアイカさんにのみ向けていた視線が、いつの間にかこちらに向いていた。
あ、目があった。っていうか折角潰した目も一緒に復活している?!
「グァァァァァッ!」
そう思った瞬間、ホブドが全力でこちらに走り寄って来る。
え? ちょ、ちょっと待ってーーーーーっ!!
ややや無理。絶対に無理だから! あんな巨体。アイカさんなら上手く捌けるのかもしれないけれど、わたしじゃ無理。プチっとされてしまうってば!
「お主の相手は余であろうが!」
アイカさんの飛び蹴りがホブドの背中に炸裂し、そのまま巨体が地面を転がる。
「そろそろ二分立つが、追加時間は必要か?」
「いりません!」
悪戯っぽく尋ねてくるアイカさんに、わたしはべーっとしてみせる。
もう検討はついている。ホブドの予想外な行動がなければ、もう片付いていた筈だし……多分。
「少なくとも、運だけは良かったみたいだけど」
わたしにとっての切り札、爆裂矢――エクスプロージョンの魔道具を仕込んだ矢――をつがえる。
『空間把握』のスキルで答えはすぐにわかった。
元々岩壁だったこの部屋の壁には自然に出来た『うろ』がある。その中で一際大きい空間を持っていた場所に魔力壺が出現したのだ。つまり、オリジン種の弱点たる魔力壺が隠されることになったワケ。
なるほど、そりゃ一筋縄ではゆかなかったわけだ。
「本当に相手が悪かったわね!」
言葉と同時に矢を放つ。
弓から飛び出した矢はまっすぐに突き進み、轟音と同時に壁の一部を吹き飛ばした。
同時に割れた壁から大量の魔力が吹き出すのが感じられる。間違いない、魔力壺はこの場所だ。
「……ガ……ヤ、ヤメロ……ッ!」
起き上がったホブドが、右手を前に突き出しつつ叫ぶ。
「もう一本!」
もちろん、そんな言葉に耳を貸したりしない。相手は無害な動物じゃない。倒せる時に倒す。
再び放たれた矢は、狙い違わず目標の中に飛び込み『うろ』の中で爆発を起こした。
魔力壺はとてもつもなく精密なバランスの上で産みだされる奇跡の産物であり、わずかな衝撃でも壊れてしまう脆弱なもの。小規模とは言えエクスプロージョンの爆発に、耐えられるはずもない。
魔力が周囲に撒き散らされ、急速に消滅してゆくのがわかる。
「アアアアアアッーーーーー!!」
ホブドが頭を抱えて叫び声にも似た咆哮を上げる。
「いつまで余所見をしておる!」
しかしアイカさんは容赦ない。
「今度は背中から心臓を貫かれたいのか?!」
言葉と同時に鋭く突き出された刃先を、ホブドは振り向きざまに左手の斧で弾き返す。
「む?」
アイカさんがホブドから飛び退き、距離を取る。
「ようやく本気を出す気になったか? まったく、最初からそうしておれば良いものを――」
「ガァァッッッ!」
ホブドはアイカさんの言葉を最後までのんきに聞いてはいない。全身の力をこめるかのように一声吠え、両手の斧をアイカさんへと叩きつけた。
「ぐっ……!」
アイカさんは咄嗟に刀でその一撃を受け止めるが、流石に片手では分が悪い。
ギギギっと数秒の迫り合いの後、パキンという澄んだ音と同時に刀の刃が折れる。
その瞬間アイカさんは刀を捨てて後ろに飛び、それ以上の追撃を避けた。
「グッグッグッグッグッ……」
まるで勝ち誇るような笑い声。完全に素手となったアイカさんに対して勝利を確信しているのかもしれない。
「ふむ、折れたか……まぁ、こんなものであろう」
一方のアイカさんは緊張する様子もなかった。
「うむ……余の意表を突いた者など久方振り故に、多少は期待しておったのだが……これだけのハンデを与えても、余に追加の傷一つ与えることもできぬとは、興醒めであるな」
緊張どころか余裕しゃくしゃくだ。
「カ、片手ヲ、失イ……ブ、武器スラ無クシタ……」
アイカさんの態度を強がりだと思ったのか、ホブドがあざ笑うように言う。
「オ、オ前ニ……カ、勝チ目ナド、ナ、ナイゾ」
「ふん」
ホブドに言われ、アイカさんは半分ほどの長さになっている自分の左腕を見る。
傷口は塞いでいるにしても、すごく痛々しい。
「これは慢心した余へのペナルティであると同時に、お主へのハンデでもあったのだが……多少の知恵を付けた所で、雑魚は雑魚であったな」
ホブドの言葉に、アイカさんが不機嫌そうに答えた。
「この程度の欠損、いつでも治せたわ……この戯けめが」
言葉と同時にアイカさんの左腕から光が溢れ、次の瞬間には何事もなかったかのように左腕が再生する。
同時に地面に落ちていた左腕が煙のように消滅し、腕輪だけが残された。
「だが、そなたが余の腕一つを奪ったのは事実」
唖然とするホブドを横目に、地面の腕輪を拾いながらアイカさんが言葉を続ける。
「その事実に免じて、本物の強者を教えてやろう」
言い終わると同時に、アイカさんの身体から薄い黒色のオーラが立ち上る。
「いでよ、我が真なる傍ら……魔王刀、『焔月・終』!」
右腕を掲げ上げたアイカさんの手に、真っ黒な鞘に収まった太刀が出現する。
「………っ」
見た目は間違いなく焔月でありながら、明らかに異なる刀。あれが魔王の力の象徴ということは、説明されるまでもない。
「誇るが良いぞ、ホブド」
怯えるかのように後ろに下がるホブドへ、アイカさんはにっこりと微笑みながら言葉を続ける。
「お主は余の切り札中の切り札を、使わせてみせたのだからな」
鞘から抜かれた太刀の全体から、黒い炎が吹き上がる。いや、あれは炎なのだろうか? 見た目は間違いなく炎なのに、酷く寒々しいオーラを周囲に放っている。
「……魔王の加護……」
物語の中だけで聞いたことがある。魔王が纏う漆黒の炎。それは全ての終焉を告げ、全てを終わらせるモノ。
魔王を魔王足らしめている最大の力。それに対抗できるのは『勇者』のみ、だと。
(……魔王の加護を自在に使えるなんて、やっぱり現役魔王じゃない!)
我ながらなんとも場違いな──いや、この場では正しいのかな?──感想が脳裏をよぎる。
(でも、あの人……どうも本気で魔王やめたつもりでいるみたいだし)
まさか──本当にまさかだけど、『魔王の加護』は魔王特有の力であることを知らないとか……?
そんな馬鹿なことがとは思いつつも、それ以外にしっくり来る答えはないのも確か。
だからと言って『アイカさん、実はまだ魔王のままなんですよ』とか言っちゃうのもなんか違う気がする。というか、そもそもわたしが気を揉むようなことでもないような……。
「グググ……ガァッ!」
魔王モード(わたし命名)を開放したアイカさんに、やけくそ気味な大声を上げながらホブドがアイカさんに再度斧を振り下ろす。
その刃先はまっすぐアイカさんへと向かい、焔月・終の刀身から吹き出ている黒い炎に触れた瞬間、蒸発でもしたかのように消滅した。
「ヌグググ……」
ある意味、ホブドは勇者だったかも知れない。この瞬間、斧も闘争心も捨てて逃げ出せば、那由他の彼方ぐらいには助かる可能性があったかもしれない。
だが、彼は立ち向かうことを選んだ──蛮勇ですらないヤケクソだけど。
ホブドの振り下ろした斧が、今度は直接アイカさんの身体を狙うが、さっきと同じように黒い炎に巻かれ消滅する。
「この状況でも逃げぬとは、見上げた心意気よな」
言葉と同時に焔月・終を正眼に構える。
「だが、もう休むが良い――」
焔月・終の刃がホブドの左腹に食い込み、そのまま右腹へと切り裂かれた。
「ア・ア・ア・アァ……」
それは悲鳴になっていなかった。絶望が濃縮された断末魔。
「――永久にな」
いつの間にか左手に鞘を持ったアイカさんが、顔の前で水平に構えて『焔月・終』を納刀する。
広間の中を、カチンという澄んだ音が響く。
その音を合図にするかのように、口をパクパクさせながらホブドの身体は二つにわかれ、やがて地面へと崩れ落ちた。
その傷口は黒い炎にまとわり付かれており、そこからホブドの身体全体を包み込み始める。
数分を待たずとしてホブドの死体は、綺麗サッパリ完全に消滅した。
「あー、疲れた!」
アイカさんがあぐらをかいて座り込む。
「魔王刀を使うと、余の力の半分は持ってゆかれる。『だいえっと』の役には立つが、奴程度の相手に披露したのはチト大人げなかったか」
『魔王の加護』ってダイエットに効果的なんだ……いや、そうじゃなくて。
「だったら使わなければ良かったのでは? アイカさんの実力なら、その、魔王刀? なんか持ち出さなくてもホブドぐらい倒せたでしょ?」
「む。まぁ、それはそうなのだが……」
アイカさんの右眉がピクリと動く。
「だが、ここいらで余の素晴らしさを『あぴーる』しておく必要があると思ってな」
「アピール? って、一体誰に対してですか?!」
わたしの質問に、アイカさんはさも当然のようにわたしを指差した。
「誰って、そりゃお主に決まっておろう?」
「………」
「どうもお主、余を『うっかり系美人ないすばでぃお姉さん』ぐらいに思っておるような節があるからな」
頭が痛くなってきた。
つまり、アレ? わたしに良い格好を見せたいから、必要以上に大暴れしてみせたってこと?
しかも自分で自分を美人とかいっちゃうかなー。いや、たしかに美人だけどさー。
「……たった今、アイカさんに対する評価が『残念系お姉さん』に変わりましたよ」
「なぜゆえ?!」
アイカさんが絶叫するけど、わたしはそれを放っておいて広間を見回した。
ホブドはオリジン種だった。そしてオリジン種は本当の意味で死んだ時、あるものを残す。
(あった……!)
「お主はだな、余に対してもう少し頼り甲斐とかをだな――」
背中でアイカさんがなにやら言っているけど、放っておいて見つけた『それ』に近づき拾い上げる。
「――故にだ、今日の夕飯は豪勢にするべき……っと、何を拾っておる?」
わたしがなにか手にしたことに気づいたらしいアイカさんが、興味津々に尋ねてきた。
「ホブドの置き土産、『オリジン・コア』です」
キラキラと光る六角形の結晶をアイカさんに見せる。
『オリジン・コア』はオリジン種が死んだ時にのみ残す貴重なマテリアルで、強力な魔法具を使う材料として極めて高い希少価値を持っている。
特にケイブ・オーガのような大型魔物が残すコアの価値は計り知れない。
「あぁ、鬼もどきの核か」
アイカさんが納得したように頷く。
「魔族領でも相当な価値がある物だ。色々交渉のタネになるやもしれぬから、大事に持っておくが良いであろ」
「それとですね」
アイカさんの言葉に頷きつつも、もう一つの『お宝』を確認するべく爆裂矢で吹き飛ばした壁の方に近づく。
「『魔力壺』は属性を持たない完全な『無色の魔力』の塊なんです」
壊れた瓦礫の隙間から『うろ』の奥を覗き込む。期待していた通り、そこには光り輝く魔力結晶が散らばっていた。
「だから、このように高純度の魔力結晶が発生するんですよ」
「なるほど」
アイカさんが頷く。
「では後でそちらも回収するとしようぞ。ギルドに戻った時に役に立つ、のだろう?」
「ええ、まぁ」
アイカさんの言葉にわたしは頷く。この魔力結晶があれば――。
「であれば、ここでの用事はもう終わりだな」
そう言ってから、アイカさんは座った姿勢を崩し地面に寝転がった。
「エリザよ。余は膝枕を所望するぞ」
「膝枕って……」
突然の要求にわたしは思わずたじろぐ。
「こんな場所で何を言っているんですか……他の魔物とか出て来たら大変ですよ!」
「親分を失ったゴブリン共なら、今頃我先に逃げ出しておるだろう」
アイカさんは呑気に答える。
「あやつら、別に忠誠心があって従っていたわけではないからな」
確かに気配感知で調べる限り、ここらにはもう何者の気配も感じられない。
「だとしてもですね――」
「余は、それなりに活躍したのだと思うのだ」
ま、まぁ……確かにアイカさん大活躍だったのは確かだけど……。
「であれば、多少の褒美ぐらいあっても罰はあたるまい?」
「あぁ、もう……仕方ないですね」
アイカさんが一度口にしたことをそうそう諦めないのは、今までの付き合いで良く分かっている。
それにこの態度を崩さないということは、少なくとも周囲に危険となる要素は無いってことなのだろう。
「それでは、少しだけですよ」
思えば最初にあった森では、わたしの方が膝枕をしてもらっていた。そのお返しだと思えば、まぁ。
「あぁ、そうそう先程の件だが」
地面に正座する格好で座ったわたしのひざの上に、いそいそとアイカさんが這い寄ってくる。
「問い質したい気持ちは変わらぬが、お主にはお主の都合もあろう」
「………」
「話したくなるその時まで余は待つ故に、慌てる必要はないぞ」
「……はい」
まだわたしが、自分の秘密を打ち明ける決心が付いてないことを見透かしているのだろう。
ほんと、この人は。
アイカさんが魔王たるのは、決してその強さだけじゃない――。わたしはそう確信したのだった。
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目覚めてすぐに俺の目の前に現れたのは、金髪美少女の妹姫キャサリン。天使のような姿に反して、実はとんでもなく騒がしいS属性の妹だった。やがて脳筋女戦士のレイラ、エルフ、すけべなドワーフも登場。そんな連中とバカ騒ぎしつつも、俺は魔法を習得し、内政を立て直し、徐々に無双国家への道を突き進むのだった。
クラス転移したら種族が変化してたけどとりあえず生きる
あっとさん
ファンタジー
16歳になったばかりの高校2年の主人公。
でも、主人公は昔から体が弱くなかなか学校に通えなかった。
でも学校には、行っても俺に声をかけてくれる親友はいた。
その日も体の調子が良くなり、親友と久しぶりの学校に行きHRが終わり先生が出ていったとき、クラスが眩しい光に包まれた。
そして僕は一人、違う場所に飛ばされいた。
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