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第四章 聖女が辺境にやってきた!
第二話 辺境に出会いを求めるのは、大いに間違っている?#3
しおりを挟む現実というのは得てして思っていたよりもとんでもないことになりがちだけど、アイカさんが関わるとその可能性は格段にアップしちゃう。
もう大分慣れたつもりだったけど、まだまだ甘かった。
「………」
わたしとレティシアさんの目が点になってしまうのも無理はない。
アイカさんが全力で木の枝に飛び乗ったと思ったら、どこからともなく猫耳娘が現れ、こちらに向かって全力で走ってくるなんてこと、もし予想できるなら占い師にでも転向した方が良いと思う。
「にゃー! カットに近づくなー!!」
どう反応したら良いのか考える間もなく猫娘さんがこっちに近づいてくる。
アイカさんから少しでも離れたいのか、それはもうもの凄いスピードで。
よく見れば以前のオーク騒動の時に見かけた顔だ。アイカさんが相手していたから詳しいことはわからないけど、一応は敵――なのかな?
「どけどけどけどけ~っ!」
こっちに向かって来るということは、当然ながら正面からかち合うことになるわけで。
「……えーっと?」
どけと言われたからにはどいたほうが良いのかな? いやでも、アイカさんと因縁ありそうだし一応止めた方が良いのかも。う~ん。
「ん?」
ほとんどぶつかる直前まで近づいた時、猫娘さん――自分でカットとか言ってた――がわたしの顔を見て急ブレーキをかける。
「お前ッ!」
え? わたし?!
えっと、話すどころかマトモに顔を合わせたことすら無かったと思うのですけどぉ!
多分、きっと、人違いじゃないですかっ!
「なんでこんな所にいるっ!」
でもカットさんから見ると人違いではないみたい。明確にわたしの方へと走り寄ってきて、ガシッと両肩を掴まれた。
「なにを……っ!」
レティシアさんが止めようと思ったのか魔法を使うべく錫杖の切っ先を向けたけど、すごく器用な後ろ蹴りでその錫杖を蹴り飛ばしてしまった。
「うそっ!」
レティシアさん、体術もそれなりにこなせるタイプだったけど、カットさんはそれよりも上手ってことか。
というか、仮にもアイカさんとやりあってたぐらいだから本職じゃないレティシアさんより上手なのは当然かも。
「お前……あの時!」
レティシアさんに気が向いた一瞬のうちに、カットさんにそのまま肩を掴まれたまま後ろへ強く押される。
「え! ちょ、ちょっと!!」
「うるさい!」
いきなり押し倒されたかと思ったら、じたばた暴れるわたしのシャツに手を掛け、力一杯捲られてしまった!
やばい! それ以上捲られたら色々とダメな物が見えちゃう!
わたし、露出狂のケはないから! 本当に! マジで!! ぎゃー!!!
「ちょ、ちょっと!」
もちろんというか当たり前にカットさんはわたしの様子など気にも掛けてくれない。
はっ? まさか、これって……もしかして貞操の危機ってやつなのでは?!
「無い……無いぞ!」
唐突な展開に軽くパニックを起こしているわたしに構うことなく、お腹をさわさわするカットさん。
なんだか微妙に気持ちいいのはアレだけど。意外とテクニシャン?!
「傷跡がない……『釘』を受けたはずなのに」
よくわからないけど、なんだかすごくショックを受けている様子。
確かにあんな物を受けてしまえば傷跡が残るのは当然だから、驚くのもわかる。
いやー、傷跡まできれいサッパリと消しちゃうエリクサーって凄いなぁ。
「まさか……」
今度は鼻を首元まで近づけてクンクンと匂いまで嗅ぎ始めちゃうカットさん。
いやその。なんか特殊な趣味でも持ってたりするんだろうか?
「お前……匂うな」
突然放たれるカットさんの失礼な一言。
「え? ちゃんと毎日お風呂に入っているから、臭いなんてしないと思うけど」
正確にはアイカさんに拉致されてだけど。
「えっと、猫科の人っぽいので、普通の人より鼻が良いとか?」
とりあえず時間稼ぎとばかりに当たり障りのなさそうな返事をしておく。レティシアさん一人ならともかくアイカさんも戻ってくれば、状況も好転するはず。
「ちっがーう! カットと同じ『匂い』がするって意味!」
うーん……要するに雰囲気とかそんな感じ? とりあえず危ない趣味とか性癖の話じゃなさそうで一安心。
「アンタ、カットの御同類?」
御同類? はて、わたしとカットさんに接点なんて無かったと思うんだけど。
というかこれだけ特徴のある人物なら、まず忘れることなんてないだろうし……一安心したところで謎が増えてしまった。
「えっと、それはどういう……?」
他に答えようもなく、我ながらなんともマヌケな返事をしてしまう。というか会話の主導権を取られっぱなしで割り込む隙もない。
「誤魔化すなッ!」
「おっと、余に断りもなくエリザを口説くのはそこまでにしておいてもらおうか」
カットさんが大声を上げた瞬間、その背後にズイッと現れるアイカさん。
木から降りて走ってくるかと思えば、なんと木の枝から大ジャンプで背後を取ったみたい。
「なっ!」
驚愕の表情を浮かべながら振り返るカットさん。
うん。近づく気配が全く無かったから、この驚きも当たり前。文字通り瞬間的に現れたみたいなものだし。
「そろそろ予のエリザを充分堪能したであろう?」
なんとも言えない良い笑顔でカットさんに言う。
いやその、わたしは別にアイカさんのモノではないですけど。一応。
別に、照れてませんよ? えぇ、本当に。本当だってば。
「であれば、それなりのお代を頂かなければなるまいよ」
わお。言い方ぁ。
「ぐぬぬぬ……」
「予は寛大であると自負しておるが、だからといって堪忍袋の体積が無限であると意味はせぬぞ」
何も言い返せないカットさんに、更に笑顔で圧力を強めるアイカさん。
「腕でも脚でも、なんなら首でも良いぞ? あるいはその身体ごと差し出すと言うのであれば、存分に愛でてやるぞ?」
「その嫌らしい手付きと視線でカットに近寄るな!」
カットさんがフーッと猫みたいに尻尾を立ててアイカさんを威嚇仕返しているけど、残念ながら全く効果はない。
でも、アイカさんにそんな態度を取らせてるってことは、結構お気に入りになっているみたいですよ?
それが幸か不幸かはちょっとわたしには……えーっと、ご愁傷さま?
「さぁ、余に差し出すものを早々に決めるがよい」
ズイと一歩を踏み出すアイカさん。そのまま後ずさるカットさん。
「むむむむッ」
だけど、このままでは分が悪くなる一方だと悟ったのか、今まで押されていた態度とは一転し、ビシっとアイカさんに指を突きつけた。
「もういい! お前と口論してても仕方ない!」
「ふむ。だったらどうするのだ?」
カットさんの言葉にアイカさんが軽く首を傾げる。
「実力行使に訴えるというのであれば、喜んで受けて立つぞ!」
「カットをお前みたいなウォーモンガーと一緒にするな! 元々の目的はなんだか変におっきいうり坊を捕まえることだったんだぞ!」
なんと。カットさんもあのギガント・うり坊が目的だったなんて。
どうやって知ったのかはわからないけど、あの子人気者だなぁ。まぁ、可愛いし。仕方ないよね!
「だけど、こうなったら仕方ない。代わりにこの変な女を『あのお方』へのお土産にする!」
変な女とは失礼な! ……って、お土産?
「というわけで、コイツはカットが貰ってゆくゾ!」
なにやら聞き捨てならないことを口にすると同時にカットさんはポケットから二つの球体を取り出し、その一つを地面に叩きつける。
地面に当たって破裂した球体は猛烈な勢いで灰色の煙を吹き出し、瞬く間に周囲を漂い視界を奪い去ってしまう。
「ぬ! 疾風!」
「風よ!」
煙の中でアイカさんとレティシアさんが魔法を発動させた……ようだったけど灰色の煙のなかで青白い閃光を放つだけで、効果はでない。
どうやらこの煙、魔力を撹乱して魔法の発動を難しくする効果があるみたい。それどころか妙に重たい感触があって、煙の中では動作も緩慢なものになっている。
「それとぉっ!」
残ったもう一つの球体を、今度はわたしの体に押し付けてきた。
その球体が体に触れた瞬間、わたしの周囲に薄い膜のようなものが生まれ全身を包み込む。
「うひゃっ!」
同時に足が地面から数センチほど浮き上がり、身体がフラフラと揺れる。
これは……生き物を捕獲するためのアイテム?!
「う、浮いてる! 浮いてる!」
倒れないようバランスをとろうとしても、なにしろ踏みしめる地面が無いのでうまくゆかない。例えるなら水中でもがいているようなもの。
「暴れると危ないからな!」
ヒョイッと横抱き──いわゆる『お姫様抱っこ』の形でわたしを持ち上げ、カットさんはそのまま猛然とダッシュする。
人一人抱えているというのにまるで重たさを感じないようなスピードで、煙の中で四苦八苦しているアイカさんとレティシアさんをあっという間に置き去りにした。
☆☆☆ ☆☆☆ ☆☆☆
「ふむ。余に油断があったとはいえ、見事に出し抜かれたものだな」
なんとか煙の効果範囲から抜け出しつつ、アイカが感心したように言う。
「力押しがメインの猪武者かと思うっておったが、存外損切りの判断の早い奴よの」
あっはっはっはと豪快に笑うアイカの後ろから、ケホケホと軽く咳き込みながらレティシアも姿を現す。
「笑っている場合ですか」
息を整えつつも、キッとアイカの方に鋭い視線を向ける。
「エリザさん、拐われちゃいましたよ」
「そうだな」
そんなレティシアの様子とは裏腹に、アイカはどこまでも呑気だった。
「エリザは小柄とはいえ、人一人をヒョイと抱えてな……彼奴、身体能力だけなら余よりも上ではないのか」
「あの……エリザさん、助けに行かなくても?」
流石に戸惑いを隠せず、なぜか疑問形になってしまうレティシア。
「そりゃ、もちろん助けにゆくぞ?」
「………」
お前は一体何を言っているんだ? とでも言いたげな表情で言うアイカに、レティシアは一瞬イラッとしたものを感じたものの、それを表情にだすこともなく言葉を続ける。
「ですがこの短時間で相当に距離を離されてしまいましたよ。マーキングが間に合わなかったので魔法的に探すのも難しいですし、早く追いかけないと──」
「まぁ、まて。余の国では『慌てる乞食は儲けが少ない』と言ってな」
急かすように言うレティシアに、アイカは鷹揚に答える。
「慌てなくとも、エリザは余の渡した『旅路の祝詞』を持っておる。お互いの安全を教えはしても位置までは教えてくれぬ偏屈物ではあるが」
つまりこのタイミングではなんの役に立たないってことなんじゃ? 思わずジト目になってしまうレティシア。
「とはいえ、ある程度の距離まで近づけば反応が強まるゆえ、最悪それをアテにすれば良い」
「それは良いとしても、完全に姿を見失っていますが……?」
流石になんの考えもなしではなかったことに安心しながらも、それでも不安は隠せない。
「どのみち開けた平野だ。虱潰しに走り回れば、反応する可能性は高かろうさ。なに、こう見えても体力には自信はあるからな!」
「………」
いや、そりゃアナタはそうでしょうけど、自他共に認める文化系の自分に体力を求められてもその……困る。
言いかけた言葉を、レティシアは飲み込んだ。
「ま、心配はあるまいよ」
なにか言いたげなレティシアの表情を読んだのか、やや安心させるように続けるアイカ。
「真っ向からの力勝負ではアレだが……エリザならカットの奴を出し抜き、なんらかの合図を出してくるであろうよ」
「……随分と自信があるんですね」
「当然であろう!」
ここぞとばかりに胸を張るアイカに、少しばかり恨めしそうな目を向けてしまうレティシア。
そういう状況じゃないとわかっていても、気になるものは気になるのだ。
「エリザは『ツキ』を持っておる。これは望んで得られる才能ではないが、あの者のそれは、群を抜いておるからな。悪い結果にはなるまいよ」
「はぁ」
「なに、見ているがよい。きっと思いもよらぬ方法で居場所を伝えてくるであろう」
アイカの言葉はわかるものの、そんな簡単に上手くゆくものだろうかという疑問がレティシアにはある。
『運も実力のうち』とはよく言われる言葉だが、それはあくまでも例外的におきる出来事だからこそ。
「言いたいことはわかりますが、世の中そんなに──」
突然レティシアの言葉を遮るように周囲を『魔力の波動』が走り抜け、一瞬遅れて緑色の柱が雲を切り裂きながら空高く立ち上る。
まるでそこに何かがあるかのように、煌々と輝く光の柱。
「ふむ」
唖然としているレティシアに、アイカがドヤ顔で言葉を続ける。
「ほれ、少々予想していたモノとは違うが、余の言った通りであろう?」
「………」
自信満々なアイカに、レティシアは今一つ納得できないと言いたげな表情を見せるのだった。
☆☆☆ ☆☆☆ ☆☆☆
ビュンビュン音を立てて通り過ぎる周囲の景色。
絶景といえば絶景なのだけど……。
「きゃー! きゃー!」
状況が状況だけに風景を楽しんでる場合じゃない。
なぜならわたしは、この猫娘さんことカット嬢に全力で拉致されている状況なのだ。
「わたしを誘拐しても身代金なんて取れませんよー!」
いやまぁ、身代金目当てじゃないのは最初からわかっているけど、とりあえずお約束で。
「別にカット達はお金に困ってなんかないぞ!」
とまぁ、一々律儀に反応してくれるカットさん。実は良い人なのかも?
「カットの敬愛してやまない『あのお方』に献上するために連れて行ってるんだからな!」
実際には単なる誘拐よりもタチが悪いので、絶対的に良い人ではないけど。うむ。
「あの、わたしはアイテムじゃないんで献上とか、そういのはちょっと……」
「心配するな!」
わたしの言葉に、なぜか無駄に良い笑顔で答えるカットさん。
「『あのお方』は無駄を嫌うからな! 解剖とか拷問とかそんな意味のない真似はしない! ちょっと観察したり計測されたりするだけだ!」
いや、えっと。そういう問題じゃないんだけどなぁ。
といっても、ここでいくら抗議したところで聞いちゃくれないだろうし、今は大人しくしておくしかないか。
逃げ出すにしても今はどうにもならないし、そもそも自由に動けない上に両手で抱き抱えられている状態なのだから逃げるもなにもあったものじゃない。
ともかく今は、少しでも状況が変化するのを待つしかないなぁ。
とか思ってたら、その時は案外早くやってきた。
「ここいらで転移しちゃいたいけど……あいつら準備している間に絶対に追いついてくるだろうしなぁ」
平原からだいぶ離れた所、『癒やしの園』の外周部にある山肌。そこに幾つかある洞窟の一つに入ったところでカットさんが速度を緩めた。
どうやらこの洞窟の中で、ここからどこか――多分、カットさん達の本拠地――まで転移して逃げ出そうということみたい。
詳しいことはわからないけど、多分レティシアさんのテレポテーションと同じようにどこか遠くを繋いでいるのだろう。
「転移術が発動するまで時間稼ぎがいるからなぁ……カットが相手するワケにもゆかないし、ボーン・ウォーリアでも呼んどくか」
そんなことを呟きながら、ポケットからじゃらじゃらと大量の『トゥース』を取り出しながら外の方に向かってゆく。
いいなぁ。ほんの一部でも分けてくれたら一財産で大儲けになるんだけど。
って、いやいや。
今はそれどころじゃない。このままではどことも知れない場所に完全にドナドナされてしまう。
そうなるとアイカさん達の助けも期待できないし、自力での脱出も難しくなる。
(とはいえ、どうしたものか)
逃げ出すならカットさんの姿が見えない今が絶好のチャンスなのだけど、この謎の膜に包まれている限りはどうにもならない。
少しばかり迂闊な点が見受けられるカット嬢だけど、勝手にミスしてくれると期待するのは流石に甘すぎる。
「あぁ、もう!」
せめて普通に立つことさえ出来ればスキルを試すこともできるのに。
スキルを使うのには充分な神経集中が必要。こんな足元も覚束ない状態で集中を欠いては、普段通りの結果を得ることさえ望み薄だ。
仕組みとしては単純極まる仕掛けなのに、効果は抜群だ!
「とにかく、なんとか姿勢を安定させないと」
先ほどから幾ら試してもまるで泳いでいるかのようにじたばたするだけ。むしろどうにかしようと足掻けば足掻くほど状況は悪化しているような気がする。
「わたしは諦めは悪いほうだからね!」
じたばた。じたばた。
うん。いくら力んだところでどーにもならないけどね。エリザ、知ってた。
「こなくそー!」
半ばやけ気味に今度は駄々っ子のように手足をばたつかせ、思いっきり暴れてみる。
おおぅ。思いのほかスッキリするなぁ。
すんごく恥ずかしいから人前ではできないけど、今は誰にも見られてないから問題なし!
などと馬鹿なことを考えながら暴れていたら、その弾みで上着のポケットから緑色に輝く水晶玉のような物が転がり落ちた。
「……ん?」
えーっと、コレ何だったけ? わたしの持ち物にこんな物あったかなぁ。
「あぁ」
ポンと手を叩く。そう言えば、領都で謎の女の子に貰った用途不明なアイテムだ。
受け取ったままポケットにしまい込んですっかり忘れていた。
「結局なんだろうなぁ、これ……」
あの少女は『そのうちわかる』なんて嘯いていたけど、こんなもの、説明もなしに使い道を当ててみろなんて無理にもほどがある。せめてヒントぐらいもらえないと手のつけようもないのだけど。
「あれ?」
もらった時には気が付かなかったけど、よく見たら水晶玉に竜頭のような部品がついている。試しにひねってみると、それまで薄い緑色に光っていた水晶が青や赤へと変化していった。
それに何の意味があるのかはよくわからないけど、無駄にきれいなのは確か。
それと、この感触からすると更に押し込むこともできるみたいだけど……。
「う~ん」
押してみようかな? でも、何が起きるかわからないしナァ……とは言っても、これ以上状況が悪くなるってこともないか。
いくらなんでも爆発したりはしないだろうし。
よし、女は度胸!
「……って、わっ!」
思い切って竜頭を押し込んだ瞬間、カチッという僅かな音と同時に水晶玉がまばゆい光を放つ。予想外の輝きに思わず水晶玉を手放してしまう。
地面の上を転がった水晶玉はわずかな距離を転がった後にくぼみで停止して、そのまま真上の空目掛けて一直線に緑色に光る柱を立ち昇らせた。
それと同時に柱を中心とした半径二メートルぐらいの円状に、これまた薄い緑色の『光の壁』が出現する。
「なにごと!」
あたり前だけど、空高くそびえ立つ光の柱は目立つことこの上ない。当然、外にいたカットさんも異変に気が付き慌てて戻ってきた。
「なにをしたのか知らないけど、余計な手間を!」
わたしの方へと走って近づいてくるカットさん。
「ふみゃ!」
そんな彼女が光の壁に触れた瞬間、もの凄い勢いで跳ね飛ばされていった。
「にゃ、にゃ、にゃに! にゃんなの?!」
よほど意外だったのか、見事に噛んでる。それでも思いっきりぶつけたらしい鼻の頭を擦りながら、改めてこちらに近づいてきた。
だけどやっぱり、光の壁がある辺りから前に進むことができないみたい。
光の壁に両手を当てて、あちこちを押したり叩いたりしている。
本人は至って大真面目なんだろうけど、見てる分にはパントマイムみたいで面白い。
「な、なんなのさ、コレ!」
ついにムキーと体全体で怒りポーズをアピールし始めるカットさん。
なんなのさ、と言われても『光の壁』ですとしか答えようがないのだけど……もしかして彼女にはこの壁が見えていないのかも。
「むー! なんだか知らないけど小癪な真似を!」
ここでバタバタしていても埒が明かないと思ったのか、今度は手持ちの棒で壁を叩き始める。
だけど、やっぱり効果があるようには見受けられない。
「ひーきょーもーのー!」
半分涙目になりながらわたしに向かって抗議の声を上げるカットさん。
「どんな手を使ったかしらないけど、正々堂々勝負しろっ!」
中に入れず半泣きになっている彼女を見つつ、わたしもこの水晶玉の正体が何となくわかってきた。
これはいざという時に、セーフエリアを作り出すマジック・アイテムだ。
相手には見えない光の壁を産み出すことで敵の侵入を防ぎ、目立って仕方ないこの光の柱は狼煙の役を果たすって寸法だと思う。
ついでに龍頭を回すことで色を変えることができるみたいだし、至れり尽くせり。
先ほどからカット嬢が攻撃を繰り返しているのに微動だにしないことから少なくとも物理防御力は相当なものだってことはわかる。魔法攻撃に対してはわからないけど、それなりに期待できると思う。
(うわ。これ、相当なお宝じゃない!)
これがアーティファクトなのかどうかはわからないけど、間違いなくそれに匹敵するレベルのアイテムであることは間違いない。
探索者なら誰だって欲しがる一品だ。
少なくともちょっとした食事とリーブラで手に入る(それも二つも!)じゃないよね、絶対。
だけど心配点がないわけじゃない。
このアイテムを動かしているのは当然『魔力』だろうけど、それがどれぐらい保つのかわからない。
目的からしてそんな短時間じゃないだろうとは予想がつくけど無限に続くとも思えないけれど、効果時間がわからないというのは心臓に良くない。
とはいえ、これだけ目立つもの。大した時間は――。
「こんなとこにおったか!」
もの凄い轟音と同時に、聞き慣れた言葉が耳へと届く。
「うまいごと隠されて難儀しておったが、これほど派手な狼煙を上げて貰えばな!」
どんぴしゃ! 期待した通りアイカさんとレティシアさんが洞窟内へと駆け込んで来る。狙い通り、ではないのがちょっと悲しい。
「デスペル!」
わたしの様子を見たレティシアさんが間髪入れずに解除魔法を唱えてくれ、ようやく身体の自由を取り戻す。
う~。大分揺られていたせいかちょっと気分が悪いかも。
「くそっ!」
ここまで来ると流石のカットさんも分が悪いと悟ったのか顔色が悪い。とはいえ両手でしっかり棍を握って降参する雰囲気はない。
「さて……色々とやらかしてくれたワケだが、どうしてくれようか?」
どこか楽しげなアイカさん。
「あの、エリザさん」
そんな様子を眺めていたら、レティシアさんがツンツンとわたしの横腹をつついてきた。
「この怪し──コホン。便利な水晶玉は、どうやって手に入れたのでしょう?」
いつの間にか壁も柱も消え単なる無色となった水晶玉を拾い上げ、わたしに尋ねる。
「私の知る限り、こんなアイテムをお持ちではなかったと記憶しているのですが……」
「え、えーっと……貰ったんです。謎の幼女から」
隠しても仕方ないから正直に話……したんだけど、うん。我ながらとんでもない話。
「えーっと、もしかしたらもしかするので、確認したいのですが」
だけど普通なら『何言ってんだコイツ』みたいな目で見られても仕方ない話に、レティシアさんは頭痛でもするかのように顔を顰めながら大きいため息を漏らした。
「ひょっとしてその幼女。髪は短い金髪で、身体に合わない紫色のローブを着てたりしませんでしたか?」
「えぇ、まぁ、そんな様子……だったような気がします?」
思わず疑問形になってしまった。身の丈に合わないローブはよく覚えているけど、髪の色はどうだっただろう? 特に記憶に残っていないから、多分見慣れた金髪だったと思う。長さについては──正直覚えてません!
「はぁ……」
えっと、なんだか謎幼女に心当たりがあるような反応だけど、そんな偶然が?
「その怪しい少女は、『レティシア』もしくは『レティーシア』と名乗りませんでしたか?」
「えぇっと……確かレティーシアって名前だったかと」
名前まで当てるとは、もしかしなくても本当に心当たりが?
「なんでも知人を探しに領都まで来てたけど、目当ての人が聞いてた住所にいなくて探していたとか」
「あぁ、そういう」
額に右手を当てて、なんだか力なくつぶやいている。
「ここ暫く音沙汰が無いと思えば……にしても、こんなモノをエリザさんに」
「あの、もしかして……レティシアさんの妹とか従姉妹の子だったり?」
「そうだったら、どれほど良かったことか」
わたしの言葉に、レティシアさんが力なく首をふる。
「アレは――」
レティシアさんの言葉は最後まで続けられなかった。
「な、なんだー!!」
「なにごとだ?!」
カットさんとアイカさんの大声が見事にハモり、同時に洞窟の奥からなにかすごい轟音が響いてきた。
心なしか洞窟全体まで揺れているように感じる。
「……奥からなにかくるぞ!」
もの凄い足音を立てながらこちらに向かってきたのは――例のうり坊! まるで何者かに追い立てられているように必至で走っている。
……って、ん? よく見るとなにかひっついているというか、しがみついているような?
「あははははははははは!」
ギガント・うり坊にしがみつき、ものすごく楽しそうな笑い声を上げているそれは、領都であった例の幼女だった。
なんでこんな所にいるのかはわからないけど。
「あ、あの子です! 領都で――」
うり坊はなにかパニックを起こして走っているし、しがみついた幼女は高笑いしているし、なにこのカオス。
「今度はなにをやらかしたんですか!」
水晶玉をくれたのは、と言葉を続けようとしたわたしの言葉は、レティシアさんの呆れたような言葉で遮られることになる。
それは、さらなるカオスを投下する一言。
「ここ暫く音沙汰が無かったと思えば――もう! ひいひいおばあ様!」
え? レティシアさん、今なんとおっしゃりました?
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ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
リーマンショックで社会の底辺に落ちたオレが、国王に転生した異世界で、経済の知識を活かして富国強兵する、冒険コメディ
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リーマンショックで会社が倒産し、コンビニのバイトでなんとか今まで生きながらえてきた俺。いつものように眠りについた俺が目覚めた場所は異世界だった。俺は中世時代の若き国王アルフレッドとして目が覚めたのだ。ここは斜陽国家のアルカナ王国。産業は衰退し、国家財政は火の車。国外では敵対国家による侵略の危機にさらされ、国内では政権転覆を企む貴族から命を狙われる。
目覚めてすぐに俺の目の前に現れたのは、金髪美少女の妹姫キャサリン。天使のような姿に反して、実はとんでもなく騒がしいS属性の妹だった。やがて脳筋女戦士のレイラ、エルフ、すけべなドワーフも登場。そんな連中とバカ騒ぎしつつも、俺は魔法を習得し、内政を立て直し、徐々に無双国家への道を突き進むのだった。
クラス最底辺の俺、ステータス成長で資産も身長も筋力も伸びて逆転無双
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クラスで最底辺――。
「笑いもの」として過ごしてきた佐久間陽斗の人生は、ただの屈辱の連続だった。
教室では見下され、存在するだけで嘲笑の対象。
友達もなく、未来への希望もない。
そんな彼が、ある日を境にすべてを変えていく。
突如として芽生えた“成長システム”。
努力を積み重ねるたびに、陽斗のステータスは確実に伸びていく。
筋力、耐久、知力、魅力――そして、普通ならあり得ない「資産」までも。
昨日まで最底辺だったはずの少年が、今日には同級生を超え、やがて街でさえ無視できない存在へと変貌していく。
「なんであいつが……?」
「昨日まで笑いものだったはずだろ!」
周囲の態度は一変し、軽蔑から驚愕へ、やがて羨望と畏怖へ。
陽斗は努力と成長で、己の居場所を切り拓き、誰も予想できなかった逆転劇を現実にしていく。
だが、これはただのサクセスストーリーではない。
嫉妬、裏切り、友情、そして恋愛――。
陽斗の成長は、同級生や教師たちの思惑をも巻き込み、やがて学校という小さな舞台を飛び越え、社会そのものに波紋を広げていく。
「笑われ続けた俺が、全てを変える番だ。」
かつて底辺だった少年が掴むのは、力か、富か、それとも――。
最底辺から始まる、資産も未来も手にする逆転無双ストーリー。
物語は、まだ始まったばかりだ。
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