ズルい大人の責任

sakaki

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1:ズルい大人の言い分

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「だーっ、もう!どうすりゃ良いんだ!?」
連休を明後日からに控えた俺:天草浩介(あまくさ こうすけ)は天井に向かって吠えていた。
残業でひとりぼっち。手にはスマホ。仕事に区切りがついてそろそろ帰ろうかというところで、恋人である紙矢雫(かみや しずく)に連絡してみるかを悩み中。
いつもなら迷うことなく電話して、もう遅いからとかなんとか口実をつけて家に押しかけ泊めてもらうんだが・・・生憎喧嘩中で・・・いや、正確にいうと喧嘩じゃなく、単にここ一週間ほど、向こうからの音沙汰がないってだけだ。こっちから連絡してみても、ほぼスルー。時偶極々素っ気ないメールが返ってくる程度。っつーことは、雫のやつ怒ってんのかなぁ~ってな。
原因はまぁ、俺にある。
ゴールデンウィークは子供と動物園に行くって、バカ正直に伝えちまった。変に隠したり嘘を吐いたりするよりは良いだろうと思ったんだけど、甘かったんだなぁ。
思いがけず傷ついた顔をされて、まずったって気付いた時には遅かった。
子供に会ってくるのはたった一日だけで、残りの休みは雫と一緒に過ごすつもりだから!なんて付け足したのがまた言い訳染みてて良くなかったみたいで。
『そんな風に無理に気遣ってくれなくていいから』
泣きそうな顔で笑ってそう言って、雫は帰ってしまった。
そしてそれっきり・・・今に至る、と。
「そりゃ、別れた女房と子供に会ってくるって言われて平気な訳ないよなぁ・・・」
スマホの画面に表示させた雫の文字に語りかける。自分の浅はかさを悔やむしかない。
雫は理解してくれてるだろう、受け入れてくれてるんだろうって高をくくってた。一回りも年下の恋人にどこまで甘えてたんだよ、俺は。
「こーんなどうしようもないオジサンじゃ、もう雫ちゃんに愛想尽かされちまったかねぇ・・・」
通話ボタンを押さないままでいる所為で画面が暗転する。暗い画面に映った自分の顔を見て溜息をついた。
自分の言葉ながら、かなりのダメージ。凹む。“自然消滅”なんつー縁起でもない言葉すら浮かんでくる・・・。
「だぁーっ!! こんなジメジメ悩んでてたまるか、阿呆らしい!!」
バン、と力任せにノートパソコンを閉じて立ち上がる。それを鞄に押し込み、スマホはポケットにねじ込み、勢いよく駆け出した。
もう電話なんかしねぇぞ! 今から直接雫の家押しかける! んでもって、何がなんでも仲直りしてやる!!


「浩介さん・・・」
「し、しずく?」
営業部伝家の宝刀:土下座だって辞なさい所存だと意気込んで来た俺だったが、出迎えてくれた雫の顔を見て拍子抜けした。
夜とはいえ走ってきた俺は汗だくになってるほどの気候だってのに、雫は真冬並みの超厚着。おまけにデコには冷えピタまで貼ってある。こりゃ明らかに、発熱中・・・?
「風邪引いちゃって、熱出て・・・もう一週間くらいこんな感じ・・・」
予想通りの説明をしてくれた傍からゴッホゴッホと深い咳。
無理せず寝とけと、俺は慌てて雫を部屋の中へと促した。
いつもはきちんと整理整頓されてる雫の部屋なのに、珍しく俺の部屋並みに散らかってる。そりゃ片付けする元気もねぇよな。
「一週間もその調子ってことは、ここ最近連絡なかったり返事が素っ気なかったのってその所為かよ。俺はてっきり・・・」
怒ってるとばかり思ってたのに。真相に気付いて脱力した。
「へそ曲げてるからだとでも思ってた?」
「あ!? いや・・・えーっと」
雫に図星をつかれて慌てる。雫は力なくベッドに横たわりながら、思わずという風にふっと笑った。
「別に、怒ったり拗ねたりしないよ。浩介さんがお子さんのこと大切なの、ちゃんと分かってるし。平気。お父さんなんだからゴールデンウィークくらい遊んであげるべきだと思うし」
妙に理解のあることを言う。熱の所為かどこかボンヤリとした瞳で天井を見つめている。
「ただ・・・」
汗ばんだ前髪を摘まみながら、雫がぽつりと言った。
「浩介さんは・・・普通に女の人と結婚して、子供がいて・・・そういう、普通の男の人なんだなぁって思い出したんだ。僕とこうして一緒にいることの方が、浩介さんにとっては不自然なことだったって」
自嘲気味に微笑む。
そうか。あの時雫が傷付いた顔をしたのは、そういうわけなんだ。
やっぱり俺は考えが甘い。いい歳してなにやってんだ・・・。
「浩介さんは・・・この先、また家庭を持ちたいとか子供が欲しいとか・・・そういう気持ちになるかもしれないんだなぁって・・・」
段々と震える雫の声。
そうかと思えば、髪をいじっていた手で顔を覆って深々と溜息をついた。
「こんなこと言いたくなかったのに・・・気持ち弱ってる時に来ないでよ、馬鹿」
あぁ~もう!と苛立ったように俺に枕を投げつける。
雫が布団を引っ被って隠れてしまったので、俺はベッドに乗り上げて布団ごと抱き締めることにした。
「しーずーくー。ごめんな。お詫びに看病させて」
ギューッとしがみついたままゴロゴロと転がってやる。
「っつーか、熱出た時点で俺呼べばいいだろうに。なんで黙ってたんだよ?」
おかげで自然消滅なんて馬鹿げた考えが浮かんじまったじゃねぇか。
恨みがましく言いながら締め上げると、雫も流石にもがいて顔を出した。
「風邪移ったらどうするの!? 動物園行けなくなったら困るんだから、さっさと離れて! 近づかないで!!」
「なっ!?」
冷たく言い捨てられた挙げ句に押しのけられる。無理して怒鳴った雫はまたゲホゲホと咳をしてる。
「こちとら体が資本の営業マンだっての。絶っっっっ対に移んねぇから安心して甘えろって!」
負けじと布団に身体をねじ込ませて雫を抱き寄せる俺。
毛布より布団より人肌が一番だろって声高らかに語ってみせるが、雫は頑なに手を突っぱねて俺から離れようとする。
「浩介さんの加齢臭が僕に移るでしょ!」
「かっ!? 加齢臭なんかするわけねぇだろ! まだ36だっての!」
あんまりな言い分がグサリと刺さるが、それでも雫を抱き締める手は緩めない。
雫も熱でふらふらのくせに全く譲ろうとしねぇし。ったく、仕方ねぇなぁ・・・こうなりゃ奥の手だ。
「なぁ、雫?」
「っ・・・!?」
抱き寄せていた顔の角度を変えて、雫の耳に唇を寄せる。吐息を含ませて名前を呼んでやれば、雫はビクリと反応。そして固まる。雫は耳弱いんだよなぁ。
「だーれがオジサンの添い寝じゃ嫌だって?」
唇を耳殻に触れさせながら囁く。雫はすっかり力が抜けた様子でされるがままになってる。
雫の身体は普段とは比べものにならないほど熱い。まだかなり熱が高いんだろう。
「一週間も一人で寝込んで、心細かっただろ?」
ふわふわの髪を撫でると、雫は黙ったまま少しだけ頷いた。
ほんと可愛い奴。
「ちょっ、風邪移るってば!」
こっちを向かせるついでにキスしようとしたらまた押し戻される。
「ちょっとくらい平気だろ。一週間ぶりなんだぞ? キスの一つや二つにその他諸々・・・」
「浩介さん全然看病する気ないでしょ!?」
ブーイングする俺に、雫は熱の所為だけじゃなく赤い顔をして睨んだ。いつもは大人びてる分、こういう表情をを見せる時は特に可愛く見えて余計に抱き締めてやりたくなる。
「なぁ、雫」
雫の頬に触れて囁く。
お前みたいに可愛い奴を、俺が簡単に手放す訳ないだろ。こっちは、たった一週間連絡がないってだけで、見切り付けられたんじゃないかなんてハラハラしてたってのに。
ま、そんなかっこ悪いこと言わねぇけどさ。
「俺がこの先また家庭を持ちたいなんて思うことがあるとしたら、そりゃお前とに決まってんだろ」
だから信じろ。そう言って鼻先にキスをする。
雫は益々真っ赤になって、その顔を隠すように俺の胸に顔を埋めた。
「浩介さん・・・ずるい」
泣きそうな声で呟く。
「オジサンなんてそんなもんだ」
俺は悪戯めかして言った。


























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