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子守歌は夜明けまで続く1
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どこに仕舞ってあったのか、鍋3つとフライパン4つが台所に並んでいる。一頻り揃えて買ったはいいが、一度も使われたことのなかった代物だ。
当の持ち主である三倉一臣(みくら かずおみ)にようやく日の目を浴びたそれらに然程の興味は無い。リビングで煙草を吸いながら、その光景を視界の隅に捉えているだけだ。
品数多く作られた料理は全て耐熱の保存容器へと移されていく。
一臣の家事係兼恋人である八雲苑(やくも そのぐ)が、明日から三日間の一臣の食事を準備しているのだ。
里帰りをすることになったからと思い立ったように言い、黙々とこの大量の料理を作り始めた。
(三日分にしちゃ作り過ぎなんじゃねぇのか?)
一臣は眉を顰めて料理を盗み見る。
八雲はその食事が一臣一人の、しかも夕食分だけなのだということをきちんと理解しているのだろうか。
「面倒でも、食べる時はちゃんとレンジで温めて下さいね。この容器のままで大丈夫ですから」
一臣の視線に気付いていたのかいないのか、八雲が言い聞かせるように言った。
「あぁ・・・」
一臣は生返事をする。
一臣としては、八雲と出会う前は一人で食事も賄っていたのだから(無論外食だが)、そこまで心配される必要は無いつもりなのだが・・・八雲はなぜか子供に留守番を言いつけるような態度でいる。
「本当に大丈夫ですか? 三日ぶりに来たら部屋中めちゃくちゃ、なんて勘弁してくださいよ?」
先程からずっとこの調子だ。
「うるせぇな。里帰りくらい構わず行って来い」
いい加減うんざりして、一臣は盛大な溜息を漏らした。
“三日ぶりに来たら”と八雲は言う。
“帰って来たら”とは言わない。
そのことに、一臣は少しの苛立ちを覚えた。
八雲には別に暮らしているアパートがある。
束の間の同居生活は、シッターとしての雇用期間が終わると同時に幕を下ろしていた。
今後は雇用関係ではなく恋人として傍にいる・・・そんな話になったのだから、一臣はてっきりあのまま一緒に暮らしていくものと思い込んでいたのだが、八雲はあっさりと出て行った。あまりにも当然のように出て行くので呆気に取られたものだ。
同居は解消したが、無論恋人としての関係は続いている。順調だとも思う。
頼みもしないのに八雲は一臣の食事の支度や掃除洗濯をするためにほぼ毎日通って来るし、その殆どを泊まって行く。
シッターとして雇っていた時には常だった八雲の営業スマイルもなくなり(それでもデフォルトが笑顔ではあるのだが)、色んな顔を見せるようになったのは悪くない変化だ。
そんなわけで、半同棲どころか大半同棲という状況なのだが、八雲がアパートを引き払ってここに越してこようという気配はない。
まだ一臣からハッキリと一緒に暮らそうと意思表示したことはないが、何度かそういう話を匂わせてみたことはある。だがその度に何だかんだと交わされるので、おそらく八雲に同居の意思はないということなのだろう。
単純に考えれば毎日通って来る方が余程負担になるはずなのだが、如何せん八雲の考えることは分からない。
何か事情があるのか、それとも単に同居が嫌なのか。
(一体何が不満だってんだ・・・)
自分で行き着いた結論が腑に落ちず、一臣の眉間の皺が一段と深くなる。
煙草を咥えながら八雲を睨むと、鼻歌を歌いながら料理を冷蔵庫へ仕舞っているところだった。
(第九・・・)
八雲が口ずさんでいるのはベートーヴェン交響曲第九番『歓喜の歌』・・・不満があるようには見えないのだが。
当の持ち主である三倉一臣(みくら かずおみ)にようやく日の目を浴びたそれらに然程の興味は無い。リビングで煙草を吸いながら、その光景を視界の隅に捉えているだけだ。
品数多く作られた料理は全て耐熱の保存容器へと移されていく。
一臣の家事係兼恋人である八雲苑(やくも そのぐ)が、明日から三日間の一臣の食事を準備しているのだ。
里帰りをすることになったからと思い立ったように言い、黙々とこの大量の料理を作り始めた。
(三日分にしちゃ作り過ぎなんじゃねぇのか?)
一臣は眉を顰めて料理を盗み見る。
八雲はその食事が一臣一人の、しかも夕食分だけなのだということをきちんと理解しているのだろうか。
「面倒でも、食べる時はちゃんとレンジで温めて下さいね。この容器のままで大丈夫ですから」
一臣の視線に気付いていたのかいないのか、八雲が言い聞かせるように言った。
「あぁ・・・」
一臣は生返事をする。
一臣としては、八雲と出会う前は一人で食事も賄っていたのだから(無論外食だが)、そこまで心配される必要は無いつもりなのだが・・・八雲はなぜか子供に留守番を言いつけるような態度でいる。
「本当に大丈夫ですか? 三日ぶりに来たら部屋中めちゃくちゃ、なんて勘弁してくださいよ?」
先程からずっとこの調子だ。
「うるせぇな。里帰りくらい構わず行って来い」
いい加減うんざりして、一臣は盛大な溜息を漏らした。
“三日ぶりに来たら”と八雲は言う。
“帰って来たら”とは言わない。
そのことに、一臣は少しの苛立ちを覚えた。
八雲には別に暮らしているアパートがある。
束の間の同居生活は、シッターとしての雇用期間が終わると同時に幕を下ろしていた。
今後は雇用関係ではなく恋人として傍にいる・・・そんな話になったのだから、一臣はてっきりあのまま一緒に暮らしていくものと思い込んでいたのだが、八雲はあっさりと出て行った。あまりにも当然のように出て行くので呆気に取られたものだ。
同居は解消したが、無論恋人としての関係は続いている。順調だとも思う。
頼みもしないのに八雲は一臣の食事の支度や掃除洗濯をするためにほぼ毎日通って来るし、その殆どを泊まって行く。
シッターとして雇っていた時には常だった八雲の営業スマイルもなくなり(それでもデフォルトが笑顔ではあるのだが)、色んな顔を見せるようになったのは悪くない変化だ。
そんなわけで、半同棲どころか大半同棲という状況なのだが、八雲がアパートを引き払ってここに越してこようという気配はない。
まだ一臣からハッキリと一緒に暮らそうと意思表示したことはないが、何度かそういう話を匂わせてみたことはある。だがその度に何だかんだと交わされるので、おそらく八雲に同居の意思はないということなのだろう。
単純に考えれば毎日通って来る方が余程負担になるはずなのだが、如何せん八雲の考えることは分からない。
何か事情があるのか、それとも単に同居が嫌なのか。
(一体何が不満だってんだ・・・)
自分で行き着いた結論が腑に落ちず、一臣の眉間の皺が一段と深くなる。
煙草を咥えながら八雲を睨むと、鼻歌を歌いながら料理を冷蔵庫へ仕舞っているところだった。
(第九・・・)
八雲が口ずさんでいるのはベートーヴェン交響曲第九番『歓喜の歌』・・・不満があるようには見えないのだが。
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