奴隷落ちを免れた令嬢は生きるために奮闘する。~いつかまた、アネモネの咲く丘で会いましょう〜

珠音

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見覚えある女

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「あのっ、ニコライさまっ」 

 呼ばれたのはニコライだが、何処かで聞いたことのある声に「ん?」と、フィオラも声の主を振り返った。 
 そこには、やたらと体をくねくね、もじもじさせている女が、媚びる様な視線をニコライに向けて立っていた。 

「私……知らなかったんです!代替わりされてること……知ってたら、私がニコライさまに嫁ぎましたのにっ!」 

 突然やって来た女は謎の言葉を吐き、長い睫毛を無駄にばさばさと上下させながら上目遣いでニコライを見つめている。 

「知り合い?」 

「知らん」 

 当然ニコライの知り合いだと思ったが違うらしい。 
 ニコライも訝しげな視線を女に向けていた。 

 だけど、どっかで見たことある気がすんだよな……。 

 うーん……。と、天を仰いで記憶を巡らせる。 しかしその女はこちらが何か言う前に、ニコライの隣にいるフィオラを突き飛ばした。 

「痛っ」 

「おいっ!」 

 突然突き飛ばされたフィオラはふらつき、テーブルに手をぶつけた。 だというのに女はフィオラの存在をまるっと無視して、ちゃっかりニコライの腕に絡み付いた。ニコライに睨まれているにもかかわらず、うっとりとしなだれ掛かっている。 

「お可哀想なニコライさま。でも、大丈夫ですわ」 

「誰だか知らないが、いきなり失礼ではないか?」 

「へ?」 

 腕から引き剥がそうとニコライが手に触れた。それを何か勘違いしたのか、女は頬を染めてニコライを見上げる。 
 しかし次の瞬間。ニコライは女の手を突き飛ばす勢いで振り払った。 

「え?」 

 本当に突き飛ばしはしなかったが、まさか邪険に扱われるとは考えてもいなかったらしい。女は驚いたようにきょとんとしていた。 

「大丈夫か?」 

「う、うん。ちょっと手をぶつけただけ……」 

「見せてみろ」 

「いや、いいって……」 

 真剣な表情でフィオラの手を取ろうとするニコライにフィオラは気恥ずかしくて慌てた。
 手をぶつけたくらいで大袈裟な。と、フィオラが手を後ろに引っ込める。 

「そこのあなた、お役目ご苦労さま。もう行っていいわよ。わたくしが代わるから」 

 そして、この女は空気を読むことはしないらしい。邪険にされたにもかかわらず、再びニコライの腕を取ろうとした。 
『そこのあなた』とは、どうやらフィオラのことらしい。が、言っている意味が分からない。 
 流石に二度目となるとニコライも躱したが、女はそれも気にならないらしい。にっこりと微笑んだ。 

「そもそも、君は誰なんだ?」 

「まあ。わたくしったら、ごめんなさい。そうですわよね、ニコライさまはこういった会には出席されてませんでしたから、お目に掛かるのは初めてでしたわね。わたくし、ノートス辺境伯が娘、キオリですわ」

「あ」と、フィオラは小さく呟いた。 
 辺境伯領を出る前に一度しか会っていなかったから直ぐには思い出せなかったが、そういえば義妹は確かこんな顔の女であった。 
 正体は分かったが何をしに近付いて来たのかが分からない。ただの挨拶とは思えない様子に、ニコライは咄嗟にキオリからフィオラを隠すように前に出た。 
 相変わらず睨まれているというのにキオリは何故かニコライのその行動に頬を染めて目を輝かせた。 

「見つめたくなってしまう気持ちは分かりますが、そんなに見つめられると流石に照れてしまいますわ」 

 これにはニコライもその険しい表情をげんなりとさせ、フィオラと視線を交わした。 

 こいつは、頭がイカれてんのか?! 

 ニコライの視線は、そう語っていたという。


    


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